狼男アメリカン
 ジョン・ランディス 映画
心の映画ベスト10なるものにジョン・ランディス作品を挙げる人は結構いるけど、その多くは『ブルース・ブラザース』であったり『アニマルハウス』であったりで、『狼男アメリカン』がその栄冠を手にすることはあまり無い。

まあ、自殺を強要される主人公のひっ迫したヤルセナサ以外、これといったストーリーもなく、登場人物同士のカラミがほとんど空まわりしているのだから無理もないんだけど、初見時から現在にいたるまでランク・インし続けている僕にとっては、もはや全てのマイナス要因がプラスに働いており、人間関係の希薄さも自然、主人公の孤独感を象徴するものとして映ってくるのだから、思い込みって奴はマッコト恐ろしい代物なんですよ、みなさん。
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当時はまだホラーブームの只中にあったように記憶している。

少年誌『サンデー』や『マガジン』なんかの特集記事にもホラーが取り上げられることがあったし、「この夏恐怖の・・・」なんて見出しとともに、きら星のような写真が散りばめられてた。

特殊メイクもエスカレートする一方で、次期総長争奪戦といった風体で強者供が「わしも、わしも」と各々の技量を競い合っていたような気がする。

アルジェン どうかのう、おまはんとこは・・・
ロメーロ ふっ、うちとこのライミは機関銃ぜよ。奴に血しぶきもんをやらせたらまず右に出る奴はおらんじゃろうて
クローネン その台詞はうちの『スキャナーズ』を見てからにしてもらおうか。血管の浮き上がり方がなんとも言えずこう・・・
若者 待ちな!
ロメーロ 誰でえ、てめえは!
若者 ふ・ふ・ふ・・・そういきり立ちなさんな。まずはこの『ハウリング』を見てくんな
クローネン こっ、これは!?人の口から狼の口へ変化する様を1カットで見せきっちょる・・・一体どうやって
アルジェン て、てめえの名は!?
若者 ボッティン!ロブ・ボッティンでさ。以後おみしりおき・・・
「ドン!」
一同 !!!!!

ドン! と置かれたのはドラム缶いっぱいの札束。置いたのはリック・ベイカー。
最早議論の余地はなかった。
誰も何も言えなかった。

そう、『狼男アメリカン』では口に留まらず、体の各パーツが狼へと変化していく様をたっぷりと、煌々と灯された照明の下であからさまに、ミッキーマウスフィギアのインサートカットもあしらえて、見せ切っていたのだ。

ボッティンにとって、この時の苦渋がどれほどトラウマであったのかは、後に公開される『遊星からの物体X』を観て頂ければ容易に察しがつくというもんです。
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しかし、だからといって図抜けた特撮ひとつで長年心のベストテンにランク・インし続けているわけではないんよ。やっぱりそれは、ここそこに散りばめられたセンスのエッセンスなんよ。

主人公の友人が朽ち果てていく体で度々自殺を勧めにやって来るという「虚構」と「現実」の混在のさせ方。

随所に見られる「ちらりズム」

「来るよ、来るよ、来たー!」といった「お化け屋敷」的手法を度外視した観客に予見させぬショックの演出。

やっぱり忘れちゃいなかった「笑い」へのコダワリ。
上にも挙げた「虚構」はおそらく「笑い」の一環としてやったと見受けられるけども、それは『トムとジェリー』的スラップスティック・コメディを追求した『死霊のはらわた2』とは対極の、「所在なさげな笑い」として機能していて、作品をより一層ユニークなものへと仕立て上げるのに役立っている。

そして、それらのいずれもに編集というもののアイデアが満ち満ちていて候。
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この作品を今見直してみるにつけ、とどのつまり、ランディス本人がなにをやりたかったのか未だにもってチンプンカンプンなんだけど、ラストの幕引きのアッケナサを見せられると、やっぱりスカッと爽やかコカ・コーラになってしまうのだから、バカボンのパパの台詞を借りるまでもなく「これでいいのだ」と言わざるを得ないんですよ、みなさん。
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99/09/25
 
 


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