帰っておいで
ジッタリン・ジン
ジッタリン・ジンが好きだ。シングルカットされた唄に限らず存在そのものが好きだ。いつまでたってもマイペースで、世のシガラミとかワズラワシサなんかどこ吹く風といった彼らのスタイルそのものが好きだ。それでいて誰にも迷惑をかけない(人に迷惑をかけるミュージシャンなんてめったにいないが)。そう、あたかも、いつの日も変わることなく、ただ照らしつづけるMoonlit Laneのように。

彼らは、破矢ジンタをリーダーとして冠する、春川玲子、浦田松蔵、入江美由紀の4人で編成されるチンドン屋、いや、バンドだ。当時、世を席捲していたバンドブームの「落とし子」と、世間一般に捉えられがちだった彼らは、事実、バンドブームの収束とともにメジャーから姿を消していった。

次々と現れては消えてゆく数々の楽曲の中で、どうゆうわけか彼らの唄だけが耳にこびり付いた。聴き始めはレゲエ体験の時に似ていた。どの曲も一緒のように聴こえるが、聴きつづけると1曲1曲の趣が伝わってくる、そんな感じだ。そして頭から離れない。なにかっつうと「らりるれり、らりるれり」鼻歌ってしまう。さらに「もうないか?次はもうないのか?」と、求めてしまう。ヤミツキッてヤツだ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
しかし、もっぱらマイペースであったがために、こちらがちょっとでも目を離すと、あっという間に音信不通になった。

タレ流しの情報には食指を動かされないが、小出しの情報であったがために、常にアンテナを張りつづけた。宇多田ヒカルの大ブレイクの裏には「情報小出し作戦」があった!とマスコミが囃し立てていたが、ジッタリン・ジンの場合は作為も戦略もない、正真正銘のマイペースであったから始末が悪かった。しかし、そのアンテナも、やっとこさ見つけた彼らの記事によってポッキリ折られてしまった。

「この数年間どうやって過ごしていたか」とインタビュアー。
ジンタいわく、「釣りしてた」

笑介ちゃん「ズッ!」となってしまったが、「あぁ、これもアリかな」とも思った。今となっては、遅筆家のミュージシャンが釣りに励むのはよくある光景だが、当時の僕にとっては、まるで画期的だった。そして、彼らにふさわしいコメントだった。

以来、こちらから動いて彼らの動向を検索することはしなくなったが、同じこの地球に住んでいるというその事実だけで、何故だか妙に心暖かくなれるのだ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
実家のある広島で1度、東京で1度、彼らのライブを見に行った。「ライブ」というものに対して、ことのほかキュウクツさを覚えて止まない僕であったが、広島においては「数少ない情報入手の一環として」、東京においては「懐かしさ」がそれぞれ僕を後押しした。

舞台での彼らはやっぱりマイペースで、僕の目にはどうゆうわけか彼らが沖縄の妖怪「キジムナー」に見えてしょうがなかった。広島でも東京でも「キジムナー」だった。時を経ても「キジムナー」だった。
99/06/13
 
 


TOP