ファン交 2012年:月例会のレポート

 ■1月例会レポート by鈴木力

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■日時:1月21日(土)
■会場:笹塚区民会館(京王線(京王新線)「笹塚駅」徒歩8分)
●テーマ:2011年SF回顧(国内編)
●ゲスト:
 森下一仁さん(SF作家、SF評論家)、大森望さん(翻訳家、書評家)日下三蔵さん(アンソロジスト)、小浜徹也さん(編集者)

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 毎年恒例となった1月の国内SF回顧企画。今回はまず、前半で森下一仁さん、大森望さん、日下三蔵さんをお迎えし、2011年のSFの潮流をうかがいました。

 まず長編で名前が挙がったのが三島浩司さんの『ダイナミックフィギュア』。宇宙生命体の造った構造物が落下し人間が住めなくなった四国を舞台に、主人公が巨大ロボットに搭乗して戦う物語は、偶然ながら東日本大震災直後に刊行されたこともあり大きな反響を呼びました。おなじく震災後に刊行されて注目を集めたのが北野勇作さんの『きつねのつき』。森下さんによればイメージの強烈さは北野作品の中でも一、二を争うといいます。

 大森さんが国内SFのナンバーワンに挙げたのは、日本ホラー小説大賞を受賞した堀井拓馬さんの『なまづま』ですが、賛同者がいないとのこと。逆に大森さんが否定的だった田中啓文さんの『聖火大戦ジャン・ゴーレ』は日下さんが推すなど評価が分かれました。ほか長編の注目作としては高野和明さんの『ジェノサイド』、瀬尾つかささんの『約束の方舟』、小川一水さんの『天命の標』最新作などが挙がりました。

 また2011年の国内SFは短編集・アンソロジーの充実ぶりが際だっていました。真っ先に挙げられたのが津原泰水さんの『11 eleven』で、「収録作の『五色の舟』は日本の幻想小説史に残る」(森下さん)、「初出媒体はバラバラなのに、まとめられると一貫性がある」(日下さん)と高い評価を受けました。テーマ的にも技巧的にも難しいレベルに挑んだとされるのが瀬名秀明さんの『希望』。短編集としては上田早夕里さん『リリエンタールの末裔』、先日芥川賞を受賞した円城塔さんの『これはペンです』などのほか、東浩紀さんが編集した『小松左京コレクション』などが挙げられました。

 後半はお三方に小浜徹也さんが加わり、東京創元社の年間傑作選、創元SF短編賞の話題に。出版にまつわる裏話や、『原色の想像力』収録作家の紹介をまじえつつ語られたところによれば、短編の新人賞について東京創元社はミステリでの経験があり、応募作を1冊のアンソロジーにするのも創元推理短編賞で『推理短編六佳撰』があるとのこと。創元SF短編賞でデビューした新人を、アンソロジー、雑誌、ウェブマガジンなどさまざまな媒体で起用する戦略については、「短編なら長編と違い、何回にも分けてプロモートができる」(小浜さん)ということでした。日本SF新人賞、小松左京賞といった長編型の新人賞が休止したいま、新人発掘の場としての創元SF短編賞のポジションは、今後も重要になっていくようです。

 最後に、SFファン交流会1月例会の配布資料として、書籍リストを提供してくださった星敬さまとゲストの皆さまに、改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。

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■2月例会レポート by根本伸子  

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■日時:2月18日(土)
■会場:笹塚区民会館(京王線(京王新線)「笹塚駅」徒歩8分)
●テーマ:2011年SF回顧「海外」「コミック」「メディア」編
●ゲスト:牧眞司さん(SF研究家)、添野知生さん(SF映画評論家)、福井健太さん(書評系ライター)、yama-gatさん(SF/マンガファン)、橋本輝幸さん(SFレビュアー)、林哲矢さん(SFレビュアー)

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 2月の例会は、2011年SF回顧の第2弾ということで、「海外」「コミック」「メディア」編を三時間で回顧していただきました。

 最初は「海外」編として、牧眞司さんと当日ゲストとして橋本輝幸さん、中盤から飛び入り参加してくださった林哲矢さんに、いろいろお話いただきました。

 まず、昨年度の傑作として太鼓判を押されたのが、パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』。「現代問題を突き詰めているテーマ性もすごいけど世界感がすごい。象がねじ巻きを回して、カロリーをジュールに変換している。想像するだけでうれしくなっちゃうよね。」と牧さんが本当に嬉しそうにお話してくださいました。『ねじまき少女』と同年の賞争いなどで話題を集めた作品として、チャイナ・ミエヴィル『都市と都市』も話題にあがりました。

 短編の注目作では、人工知能に対する人間の責任を描いたテッド・チャン「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」(SFマガジン1月号掲載)、愛すべき犬SFとして、パオロ・バチガルピ「砂と灰の人々」(SFマガジン6月号掲載)、ハンヌ・ライアニエミヒ「懐かしき主人の声(ヒズ・マスターズ・ボイス)」(SFマガジン12月号掲載)が紹介されました。

 2011年注目の海外文学として牧さんに紹介していただいたのがジュルジュ・ペレック『家出の道筋』、ヴォリス・ヴィアン『うたかたの日々』、トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』(新訳/文庫化)、マルセル・ブリヨン『旅の冒険』はまず買い! とのこと。

 次に、添野知生さん、yama-gatさん、福井健太さんをお迎えしての「メディア」編です。
 2011年の「SF映画ベスト1」としてあがったのは『ミッション:8ミニッツ』。
 ある事件の捜査の為に、新テクノロジーを使って何回も死ぬ直前の8分間を繰り返し再生するというお話。ヒントは、最後の方で一瞬画面が静止するところがあるので、その後の展開をよく考えてねとのことです。ネタバレしないで話すのが難しいそう(笑)。
 ほかにも注目作として、『猿の惑星』『キャプテン・アメリカ』『宇宙人ポール』『SUPER8』『スカイライン征服』『少年マイロの火星冒険記』といった作品の名前があがりました。
 劇場未公開作品からyama-gatさんいち押しは、『メガマインド』(iTunes、Xボックスとかでダウンロード可能。)
 主人公メガマインドは、頭がでっかい青いおじさんヒーローの話で、インパクト大。メタヒーロー的なお話で、おもしろい作品なので、見られる環境にある人は是非観てほしい作品とのことでした。

 最後は、(いつも残念なことに)かけ足となった「コミック」編です。
 ベストとして紹介された『ストレンニュアス・ライフ』(丸山薫 )は、職業をテーマにした短編集でバリエーション広く、丁寧にうまく描けているとみなさん絶賛でした。『℃りけい。』(画:わだぺん。 作:青木潤太朗)は、決してSFマンガではないけど、私立女子高の物理部を舞台にしたあるネタが、原作者の原体験(理系男子)をもとにしていて、SFファンとは親和性が高い一作とのことでした。さらに、「ケンタウロス」マンガが今熱いということで、『竜の学校は山の上』と『セントールの悩み』は必読! とのことでした。

 海外コミックスからは、『キャプテンアメリカ:ウインターソルジャー』『D・Cスーパーヒーローズ』がお試し読みには最適な作品集とのことです。バンド・デシネ(BD)からは、「『闇の国々』がおすすめ、詳しくは来月のファン交で聞いてください」とのことでした。(どうぞよろしく!)

 今年もまだまだ書ききれないほどのぎゅーっと凝縮した、密度の濃い、あっというまの3時間でした。
 ゲストの皆さま、例会に参加くださった皆さまには今月も心より感謝します。おかげさまで、総勢五十名近い例会を開催することができました。

 最後に、改めてお礼を。
 SFファン交流会2月例会の配布資料として、書籍リストを提供してくださった星敬さまとゲストの皆さまに、改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。

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 ■3月例会レポート by鈴木力

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■日時:3月17日(土)
■会場:笹塚区民会館(京王線(京王新線)「笹塚駅」徒歩8分)
●テーマ: 「一からわかるバンド・デシネ入門」
●ゲスト:大森望さん(翻訳家)、澤田美里さん(小学館集英社プロダクション)、原正人さん(翻訳家・交渉中)、柳下毅一郎さん(特殊翻訳家

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 ここ最近、フランソワ・スクイテン『闇の国々』(小学館集英社プロダクション)、エンキ・ビラル『MONSTER[完全版]』(飛鳥新社)などSF的な作品が相次いで翻訳され、注目を集めているバンド・デシネ(以下BD)。今回のファン交では翻訳家の大森望さん、柳下毅一郎さん、『闇の国々』などの翻訳を手がける原正人さん、小学館集英社プロダクションで編集を担当する澤田美里さんをお迎えして、BDについて伺いました。

 まずBDとは何か。それはフランス語圏で発表されているマンガのことです。もちろんフランスが最大のマーケットですが、ベルギーやスイスなども含まれます。またフランス語圏ではないイタリアやスペインの作品も、マーケットを狙ってフランス語で刊行されることもあるそうです。

 BDの扱うテーマはSFやファンタジーにとどまるものではありません。マルク=アントワーヌ・マチュー『3秒』(河出書房新社)はサッカー界にまつわる不正を凝りに凝った画面構成で描いたもの。アルツハイマー症の老人をテーマにしたパコ・ロカ『皺』(小学館集英社プロダクション)は日本でもラジオ番組で紹介され、年輩の読者からも反響があったそうです。また翻訳こそされていないもののフランス本国では、日本でいえばコロコロコミックや『クレヨンしんちゃん』に相当するような子供向け作品も多く刊行され、一部はベストセラーになっているといいます。

 日本の新書版・B6版コミックスなどに比べ、厚くて高価というイメージをもたれがちなBDですが、本国では大判で1冊あたり50〜60頁といった体裁で刊行されるので、バラバラに訳して刊行するよりもまとめて1冊にしてしまったほうが実は割安になるのだそうです。また文字だけではなくとうぜん絵も入ってくるので、色味の調整など印刷にも細心の注意を払わなくてはなりません。スクイテンは『闇の国々』の日本語版刊行に際し、細部の描き込みの再現度や用紙にもこだわったといいます。

 会の後半は、大友克洋や宮崎駿にも影響を与え、先日物故したBDの巨匠・メビウスの話に。
 1938年生まれのメビウスが、世に名を知られるきっかけとなったのは60年代に発表した西部劇のBDでした。70年代初頭、のちに原作者としてタッグを組むアレハンドロ・ホドロフスキーと出会います。当時『デューン』の映画化を考えていたホドロフスキーはメビウスに絵コンテを依頼したそうです。結局映画の話は流れてしまうのですが、以来、SFの分野におけるメビウスの活躍が始まります。
 スクイテンもメビウスを「スーパースターのようだった」と評し、自宅に原画を大切に保管しているほどですが、その影響はフランス国内にとどまらず、『ブレードランナー』『フィフス・エレメント』などハリウッド映画にも及びます。もっとも本人はジブリのファンで、娘にナウシカと名付けたほどだとか。

 最近では国書刊行会が、現代海外文学の読者向けのBDの翻訳刊行を始めるなど、日本でもその多様性がようやく認識されはじめてきたと言えそうです。原さん、澤田さんにもまだまだ多くの企画案があるとのことで、ファンには今後の展開を期待させる企画でした。

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 ■4月例会レポート by鈴木力  

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■日時:4月21日(土)
■会場:千駄ヶ谷区民会館
(JR「原宿駅」徒歩10分、東京メトロ千代田線「明治神宮前駅」徒歩8分)
●テーマ:「都市とSF」
●ゲスト:牧眞司さん(SF研究家)、磯達雄さん(フリックスタジオ/桑沢デザイン研究所非常勤講師/武蔵野美術大学非常勤講師)

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 昨年暮れに刊行された、チャイナ・ミエヴィル『都市と都市』は、ひとつの場所に存在するふたつの都市というアイデアで話題を呼びました。今回のファン交ではSF研究家の牧眞司さんと、名古屋大学SF研究会OBで建築ジャーナリストとして『ぼくらが夢見た未来都市』(共著)などの著書がある磯達雄さんに、SFにおける都市・建築についてお話を伺いました。

 当日は三部構成で進行しました。
 まず第一部は『都市と都市』の評価をめぐって。牧さんがふたつの都市の境界をモザイク状に設定したミエヴィルの文学的修辞の凄さを認めつつも、彼のほかの作品と比べて都市の活気・猥雑さが足りないと述べたのに対し、磯さんは『都市と都市』には都市というものの本質が描かれていると言います。ひとつの場所には複数の物や人は存在できない、つまり誰が空間を占有するかという問題が都市では常に起こっていて、現代建築はこうした問題に意識的に取り組んでいる、と磯さんは実在する建築作品を挙げつつ『都市と都市』の設定との共通点を指摘しました。

 第二部は、牧さんがSFにおける都市の意味について語りました。牧さんによれば、一般的な近代都市の特徴とは直線的な街路と建築物で構成されていること。このような都市のありかたは、見る者に遠近法的なパースペクティブをもたらしますが、同時に建築物がクリアな視界を遮るという現象も起こします。SFではこれを克服するために、上から鳥瞰するパノラマ的な叙述で世界を把握しようとしますが、一方で、ストルガツキーの『ストーカー』やポール・オースターの『ガラスの街』のように、あえて視界のきかない叙述をとる作品もあるといいます。

 第三部は、1950年代から現代へかけて、SF作家と建築家が描いてきた都市像の変遷を、磯さんがスライドをまじえつつ紹介していきました。

 50年代から60年代にかけては、第2次世界大戦後の人口増加を背景に、超過密、あるいは地球全体を覆うようなメガストラクチャーとしての都市が描かれます。建築家によるドーム都市構想が発表されたのもこの時期です。それが転回点を迎えるのがローマクラブの報告などでバラ色の未来図に終止符がうたれた70年代のこと。SFでは超巨大都市が減り、荒廃した都市像が描かれるようになります。

 80年代に入りコンピュータの普及・ネットワーク化が進むとギブスンが『ニューロマンサー』などで電脳空間の都市というビジョンを現します。建築家もこうした動きに反応し、仮想空間内における建築などの試みを始めます。さらに時代が下りバイオテクノロジーやナノテクノロジーの成果が建築に取り込まれると、生物的な曲線を持つ建築が出てきました。SFの方でもレナルズ『カズムシティ』などが発表されます。総じてSF作家と建築家の想像力というのはパラレルに進化する傾向があるようです。

 紙幅の関係で詳しくは紹介できませんが、参加者からも、フィリップ・リーヴ作品のような移動する都市をどう捉えるか、都市を描くのにSFは不利ではないか、などの質疑が出され、活発な話し合いになった3時間でした。

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 ■5月例会レポート by平林孝之

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■日時:5月4日(金)夜 
■会場:鳳明館 森川別館
 (東京メトロ:丸の内線・都営地下鉄:大江戸線「本郷3丁目駅」徒歩12分)
●テーマ:「ブリオバトル・イン・鳳明館」
●ゲスト:
 司会 岡部晋典さん(近大姫路大学講師・図書館情報学)
 演者 u-kiさん、SFえんじさん、あらま草さん、伊東和彦さん、V林田さん
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 今年もSFセミナーの合宿に出張して参りました。
 今回のテーマは、ビブリオバトル。演者は主にファン交の常連参加者の方々、司会はファンダム初参加という企画でしたが、二間続きの広い和室には40人以上の観戦者にいらしていただきました。

 まずは、司会の岡部さんからビブリオバトルって何?
 というところを説明していただくと共に、今回合宿企画としてビブリオバトルを持ってきた経緯をお話していただきました。ビブリオバトルとは、「みんなで集まって5分で本を紹介。そして、読みたくなった本(=チャンプ本)を演者+観戦者の投票で決定する、スポーツのような書評会」です。

 予め決められたテーマに沿って、どんな本を紹介するか、5分間という限られた時間でどのように紹介するか、一見単純なようですが実際に触れてみると奥深く、紹介する方にも見る方にも面白いイベントです。が、図書館などで行われる通常のビブリオバトルではSF作品は苦戦、司会の岡部さんも、ファン交の平林も負けてしまい悔しい思いをしたので、いっそSFファンの前でやろうというのが本企画の目的でした。

 今回のテーマは「進化」、5人の参加者の方々に感想をお聞きしてみました。
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○伊東和彦さんより
 今回、自分が紹介しようと思ったのはアフターマンのドゥガール・ディクソンのSF小説『グリーンワールド』という本で紹介したポイントとしては余りSFファンに知られていないだろう事と現実に書店で購入出来る所(後、この本の主役であるグリーンワールドに元々住む原住生物達(調理法や駆除の仕方まで)が図解入りで詳しく載っている所)等々でした。
 で実際にビブリオバトルをやってみると、最初だったのである程度は気楽に時間内には紹介出来たんですが、思った程上手く説明出来なかったり(ほぼアフターマンの紹介に成ってたりで〈笑〉)で中々苦戦しました。
 その後、他にプレゼンされる方々を見ていると、こんなにやり方も有ったんだと参考になりました。
 また機会が有れば是非ビブリオバトル(今度は準備を万端に整えて〈笑〉)参加してみようと思います。

○V林田さんより
 ゾルゲ市蔵『謎のゲーム魔境』全4巻を紹介。
 「本を読んでどう思ったか」とか「その本との出会い」とかについては全く興味が無い人間なので、「本の中でどのような『異常進化したゲーム』を紹介しているか」の一点に絞り、中でも特に異常なものを紹介しようとだけ考えてやりました。
 漫画の紹介は今までよくやってきたものの、スライド等を一切使わず口頭のみで活字本を紹介したのは考えてみると初めてだったので、なかなか思い通りにいかないものでした。

○あらま草さんより
 海野十三『蝿男』を紹介。
 海野十三とアレステア・レナルズ、時代も作風も一見かけ離れて見える二人の「理系作家だけど猟奇趣味」という共通点に気づいて、レナルズの原点という形で海野十三の作品にスポットを当ててみたいと考えました。ここで「進化」を持ち出したのはちょっと無理があったと反省しています。
 個人的には反省点は多々あるんですがそれは置いといて。内容はもちろん、出演者の皆さんのキャラクターがはっきり出ていたのが面白かったですね。あそこまで変化球や反則スレスレのクセ球が飛び交うとは予想以上でしたが、まずウケを取りにいくのは、やっぱりSF者のサガだと思いました(笑)。

○u-kiさんより
 ポール・アンダースン『脳波』を紹介。
 この作品を選んだのは、「進化」テーマSFと云われて。なぜか真っ先に思いついたからでした。人間だけでなく動物たちの知能も一斉にアップするところが面白いと思ったのです。
 しかし、厳密には生物学的な進化ではなく、知能が一段階アップする=進歩のお話だったので核心には触れないように注意しました。というか、丁度お昼の「サはサイエンスのサ」の企画で進化の話をしてくれたのでいざとなったらそっちに話題を振ってしまおうと割り切り、なるべく導入付近の面白さを伝えようと心掛けました。
 参加してみて感じたことは、まず他の参加者の皆さんが自分も思いつかないような「飛び道具」を用意してきたことに驚きました。
 で、思ったのは別に「好きな作品」について愛を持って話さなくても観客に「面白そうだ」「読んでみたい」と思わせることが勝利の秘訣なのかな、ということです。正直に「魅力」を語るだけではダメなのではないか、と(笑)。

○えんじさんより
 アメコマー菅野「2001年から来た男」を紹介。
 ストーリー仕立てで話してみました。
 『2001年宇宙の旅』はアメコミになってました……、で始めて、「それだけ?」と観客に思わせておいて、実は、オリジナル かつ オフィシャルの続編があるのです……。
 と、見せましたが、さらに、実はここから登場したアメコミヒーローがいるのです。と畳みかけ、そこで、終わらせると思わせつつ、実は『2001年宇宙の旅』とマーヴルワールドはリンクしてましてね……。
 と、持っていきました。
 紹介したかったのは、アメコミでなくてその同人誌の方でした。


 ※ 次から次とアメコミが飛び出てくるえんじさんの
  発表は非常に楽しいものでしたが、
  「紹介する本以外は小道具など使わない」
  というルールからするとNGなようです。
  えんじさん方式で一般のビブリオバトルに
  出てみようという方は、お気をつけ下さい。
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 皆さんの趣味が出るチョイス、持ち味を活かした紹介に、会場からの質問もとぎれることなく、司会の岡部さんも驚くほどの盛り上がりでした。発表タイム終了後に、演者+参加者の皆さんに挙手で「一番読みたくなった本を選んで貰いました。チャンプ本は、u-kiさんが紹介された『脳波』でした。

 今まで何回かビブリオバトルを観戦し、発表側に立ったこともありましたが、会場全体の盛り上がりは今回がダントツでした。SFファン同士だからこその突っ込んだやりとりを皆さん堪能できたのではないでしょうか。

 また、個人的に嬉しかったのは、伊東さんを始め何人かの方から、「次も是非」と言われたことです。ファン交としてもう一回企画することはないと思いますが、ビブリオバトルは各地で開催されていますので、本企画で興味を持たれた方は、一度覗いてみて下さい。

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◆ビブリオバトルの開催情報はこちら↓
http://www.bibliobattle.jp/
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 ■6月例会レポート by鈴木力

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■日時:6月30日(土)
■会場:氷川区民会館
(JR「渋谷駅」「恵比寿駅」徒歩10分)

●テーマ:「近代日本奇想小説史 スペシャル篇」
●ゲスト:横田順彌さん(作家)、北原尚彦さん(作家、古書収集家)

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 今回のファン交では、これまでの古典SF研究の集大成ともいうべき『近代日本奇想小説史 明治篇』を上梓され、日本SF大賞特別賞、尾崎秀樹記念大衆文学研究賞、推理作家協会賞とジャンルを超えてその業績が高く評価された横田順彌さん、同書の編集を担当された川村伸秀さん、古典SF研究会会長の北原尚彦さん、SF研究家の牧眞司さんをお招きし、同書を中心に古典SFについてのお話をうかがいました。

 『近代日本奇想小説史』を「SFマガジン」に連載しはじめた動機について、横田さんは「誰かが書いてくれるだろうと思っていたが、誰も書いてくれないから自分で書くしかないと思った」と語ります。連載は足かけ7年、69回に及びますが、単行本化に際し活躍したのがフリー編集者の川村さんでした。
川村さんは、引用文については1行だけでも原典に当たって確認するという方針をつらぬき、横田さんの書庫だけでなく、国会図書館や大学の図書館にも足を運んでコピーをとったといいます。その徹底ぶりには、参加者だけでなくゲストの方々からも驚きの声があがっていました。

 横田さんの研究の原点は、高校時代に古書店で20円で買った押川春狼『海底軍艦』でした。春浪に惹かれたのは、小説の面白さもさることながら、体が弱いのにバンカラで、曲がったことが大嫌いという気質に共感するところがあったといいます。そのうちSFファンの集まりで読んだ古書の話をするとウケて、それが楽しくてまた集めるというふうになっていきます。
1971年、小説「友よ、明日よ……」と研究「日本SF英雄群像」が同時掲載され「SFマガジン」に初登場。後者に目をつけた当時の森優編集長からオファーがあって『日本SFこてん古典』の連載が始まり、横田さんの現在へと続くキャリアが築かれていくのでした。

 「古書収集は格闘技だ」というのが横田さんの持論。1行でもSF的な要素が入っていれば買うそうですが、はじめのうちは失敗もありました。山中峯太郎の『荒野に立つ火柱』という本を本郷義昭の出てくる軍事スパイ小説だと思って買ったら聖書の話だったり、江見水蔭の『二人女王』をライダー・ハガードの翻案だと思って買ったら双子の芸者の話だったり、『月宮殿』という本を月が舞台のファンタジイだと思って買ったら女性の生理の本だったり……。
しかしそのうちに勘が磨かれてきて、目録の書名を見ただけでSFか否かがわかるようになりました。『滑稽小説 羽根子夫人』というタイトルだけでピンとくるなど、一時は命中率が8割に達したそうです。ただ蔵書が4万〜5万になったいまは、必要な本がどこにあるのかわからないのが悩みの種なのだとか。

 横田さんに『日本奇想小説史』の続篇についてお尋ねしたところ、来年の春か夏頃には大正・昭和篇をはじめたいとファンには嬉しい回答が。さらに20年以上中断していた天狗倶楽部3部作の完結篇にもとりかかるのだそうです! 完成したあかつきには既刊『火星人類の逆襲』『人外魔境の秘密』とあわせ、さらに書き下ろしの短篇も付して全1冊で出版する構想もあるとのことで、今後の進展が待たれます。

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 ■7月例会レポート by鈴木力 

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■日時:7月28日(土)
■会場:笹塚区民会館
 (京王線・京王新線「笹塚駅」徒歩八分)
●テーマ:スチームパンクとネオ・スチームパンク
●ゲスト:中村融さん(翻訳家・アンソロジスト)、添野知生さん(SF映画評論家)、石亀航さん(編集者)

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 昨年から今年にかけて『英国パラソル奇譚』シリーズ、『リヴァイアサン』三部作、『ボーンシェイカー』などスチームパンク作品が続けて訳されています。しかしアメリカでは、スチームパンクはいまやSFのサブジャンルを越えて、音楽やファッションなどを含む一大サブカルチャーとなっているのだとか。そこで今回のファン交では、スチームパンクの来歴と現状とについてお話をうかがいました。

 まず中村融さんから、スチームパンクの発生と定着について。1987年、K・W・ジーターが『ローカス』誌上ではじめてスチームパンクの名称を提案しました。当時ジーターはカリフォルニアに住む若手作家で、ジェイムズ・P・ブレイロック、ティム・パワーズと親交がありました。彼らが共通して書いていたのが、19世紀イギリスを舞台とするファンタジー。ジーターは当時のサイバーパンク・ブームに引っかけて冗談のつもりで唱えたのですが、これが定着してしまい、実体のなかったものがサブジャンルとして成立したのだといいます。

 ではなぜ、80年代に19世紀を舞台とした物語が書かれたのでしょうか。中村さんは次の3点を指摘します。第一に、当時をリアルタイムで知る人がみんな鬼籍に入り、19世紀が現実世界ではなくファンタジーの空間になったこと。第二に、ヴィクトリア朝社会の研究が進んだこと。第三に、19世紀は産業革命によって現代文明の基礎が形作られた時代にあたりSF的に見ても興味深いこと。

 続いて添野知生さんは、現在のスチームパンク・コミュニティがSFファンと一線を画したがっていることに違和感を表明しつつ、60年代の海外テレビドラマでは、すでにスチームパンク的な発想があったと述べます。それが現代では映画『シャーロック・ホームズ』二部作や『三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』などにつながるわけですが、添野さんはこれらのスチームパンク的何でもアリ感が気に入っているにもかかわらず、そこが世間では評価されないのだとか。

 現在のスチームパンクのブームの背景について、添野さんは仮説と前置きしつつも、次のような話をしました。アメリカにはルネッサンス時代や南北戦争時代の人間になりきって定住せずに暮らす人たちがおり、そうしたコスプレ文化が影響を与えているかもしれないとのことでした。

 最後に石亀航さんから、現在のスチームパンクについてお話がありました。毎年シアトルではスチームパンクコンヴェンションが開催され、エアシップ・アワードという賞も制定されているそうです。しかしこうした盛り上がりの一方、彼らは19世紀に憧れているだけで、当時の社会のマイナス面を無視しているとの批判もあるといいます。

 ここ10年のスチームパンク小説は、実はそれなりの数が日本にも翻訳紹介されているのですが、時期的にハリー・ポッター人気を当て込んでYA向けファンタジーの体裁で出版されたものが多く、あまりスチームパンクと認知されなかったようです。しかし、今後は伊藤計劃『ハーモニー』とディック記念賞を争い受賞したマーク・ホダーのThe Strange Affair of Spling-Heeled Jackが東京創元社から刊行を予定されるなど、スチームパンクの翻訳はまだ続きそうです。

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 ■8月例会レポート by鈴木力  

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■日時:8月11日(土)
■会場:鳳明館森川別館
(南北線東大前駅・丸の内線本郷三丁目駅 から徒歩10分)
●テーマ:追悼 レイ・ブラッドベリ
●ゲスト:中村融さん(翻訳家)、大森望さん(翻訳家)、牧眞司さん(SF研究家)

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 さる6月5日、レイ・ブラッドベリが亡くなりました。今回のファン交では中村融さん、大森望さん、牧眞司さんにそれぞれのブラッドベリ体験と作品の魅力について語っていただきました。

 大森さんが最初に読んだブラッドベリは、ジュブナイルの怪奇小説アンソロジーに入っていた「壁の中のアフリカ」(「草原」)。ハヤカワ・SF・シリーズは図書館で借り、創元推理文庫は自分で買って読んでいたそうです。大森さんはのちに新潮文庫の編集者として『恐竜物語』など短篇集を手がけることになります。

 牧さんは『SFマガジン・ベスト』に収録された「対象」。伊藤典夫さんと川又千秋さんが大のブラッドベリファンだった影響もあって中学生のときには夢中になり、小鷹信光さん編集の作品リストに書き込みしながら読んでいたそうです。

 対照的だったのが中村さんで、昔はピンとこなかったとか。評価が変わったのは大人になってから読んだ『恐竜物語』で、その理由として子供の頃にはノスタルジアというものがわからなかったからだといいます。

 ブラッドベリは20代のころは10歳の話を書き、30代のころは15歳の話を書いた、子供時代の経験は万国共通なので日本の読者にも受け入れられたが、40代以降に書き始めた30歳以上の話になると、アメリカ人にしかわからない映画やヒット曲のタイトルが出てくるようになるので、それが日本でも評価に影響を与えているのではないか ---- というのが中村さんの指摘です。それに対して牧さんは、ブラッドベリのノスタルジアには甘さではなく、子供特有の残酷さや生々しさが現れていると述べます。

 ブラッドベリには未発表作品が数多くあり、それが近年でも次々と発掘され本になっていますが、これには裏があるのだそうです。たとえばディックのような貧乏な作家だと、どんなに稿料の安い雑誌にでも売り込みをかけるので、たいていの作品はなにがしかの形で活字になっているのですが、ブラッドベリの場合は、高級誌でボツにされるとそのままお蔵入りにしてしまうので、これが膨大なストックになっているのだとか。

 晩年は、日本の文化勲章にあたるメダル・オブ・アーツを受章するなどすっかり功成り名遂げたブラッドベリですが、12歳の作家志望の少年にも真摯にアドバイスを送るなど、偉ぶったところはすこしもなく、そうしたところが人々に慕われたゆえんでした。

 企画の後半は、『プレイボーイ』誌に連載されたときの『華氏451度』のイラストなど、SF雑誌とはひと味ちがうスリック雑誌のイラストや、ジョゼフ・ムニャーニほかさまざまなイラストレーターが手がけた『火星年代記』といったビジュアルが上映されました。ここで紹介できないのが残念ですが、イラスト集が刊行されたらぜひ欲しいと思える作品ばかりでした。

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 ■9月例会レポート by 根本伸子 

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■日時:9月15日(土)
■会場:氷川区民会館
(JR渋谷駅、恵比寿駅徒歩10分)
●テーマ:SF読書サロン 第一回[テーマ:「食」]
●案内 SFファン交流会

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 9月の例会は、SF読書会と題しまして、ブックトークの会を開催しました。
 特にゲストの方を迎えず、スタッフ(しかもそのスタッフも根本と茅野のふたりだけ!)の案内で、例会参加者の方からひとり一冊ずつ、「食」をテーマとしたおすすめの本をご紹介いただくという、無茶振り企画!
 いったい取れだけの方にご参加いただけるのか不安でしたが、最終的には参加者23名(スタッフ除く)という、予想以上の盛況となりました。

 わたしにとってははじめてづくしの例会開催。
 例会開始そうそうSFファン交流会初の試みとして、参加者全員で自己紹介と、今日紹介する本について簡単に予告(10秒で)をしていただきました。
 Twitterで情報を得て来てくだっさった初参加の方が3名いたとはいえ、多くの方が常連の参加で顔見知りだったにも関わらず、みょ〜に緊張感の漂うスタートとなりました(スタッフの緊張が伝わったのかもしれませんね)。その後は、順々に作品の紹介タイムとなり、紹介された作品についておしゃべりされたりなど、次第に場も和やかになになりました。

 全体の傾向としては、短篇作品を挙げる方が多く翻訳ものは少なかったです。
 妙な食べ物の話やシチュエーションがきわめて稀な話、食べる話だけでなく食べられる話など本当にいろいろな作品のお話が出ました。
 面白かったのは、同じ作品でも人によって感想や印象に残ったシーンが全く違うといったことでしょうか。「ここが忘れられない」といった場面が人によって違ったり、俺の記憶ではこういう話だったという印象が逆の視点だったりと、参加者同士わいわいと、作品を回想しながら、「食」というぼんやりとしたテーマを見事に読み解いていただき、バラエティーに富んだ作品が集まりました。
 おかげさまで、楽しい時間があっという間にすぎていきました。

 元々は、5月のセミナー出張版でおこなった「ビブリオバトル」企画で、いつもSFファン交流会にご参加いただいている常連の方々の、豊富な知識とSFへの情熱、お話の面白さなどに感動したスタッフ(主にわたし)が、「もっといろんな方からSFの話を聞きたい」という思いつきから始めた企画でしたが、作品タイトルがあがる度に「あ〜、あったねぇ。」という人たちの間にはなんだか一体感を感じ、SF読書歴の浅いわたしには、知らない作品ばかりだったこともあり、ちょっとさびしい思いもしました(皆さんは楽しそうで羨ましい限り……)。

 最後に、当日紹介本を持って例会に参加してくださった方々へ。さぞ先のみえない拙い司会に混乱されたと思いますが、みなさまの温かいフォローのおかげで、無事例会を終えることができました。
 また、投稿フォームを使って「食SF」を紹介してくださった方々も、短時間の告知のなかご協力ありがとうございました。
 SFファン交流会では、これからも今回のような、本を持ち寄ってSFを語り合う交流会を開いていきたたいと考えております。そのときもまた、変わらずご協力いただけると嬉しいです。そして、「こんな面白い本があるんだよ。紹介させてくれ!」という方、ファン交はいつでも待っています!


◆当日話題に上がった作品は下記の通りです。
 スタッフの記憶の都合上、書名のみ複数ご紹介いただいたものに関しては割愛させていただきました。
 お気づきになりましたことがありましたら、スタッフにお知らせいただけると幸いです。

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 小松左京『日本アパッチ族』
 菊地秀行『妖神グルメ』
 山本弘『時の果てのフェブラリー—赤方偏移世界』
 小泉陽一朗『ワニ』
 ジョージ・R・R・マーティン『フィーヴァードリーム』
 畑正憲『ゼロの怪物ヌル』
 北野勇作『かめくん』
 ダグラス・アダムズ『宇宙の果てのレストラン』
 水見稜『食卓に愛を』(短編集)
 小松左京『飢えた宇宙』(短編集)
 田中啓文「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け」
 デヴィッド・ウィーズナー「June.29.1999」
 梶尾真治「地球はプレイン・ヨーグルト」
 蒼柳晋「書樓飯店」
 深堀骨「闇鍋奉行」
 吉行淳之介「あいびき」
 小松左京「凶暴な口」
 小川一水『妙なる技の乙女たち』の第七話「The Lifestyles Of Human-beings At Space」
 オキシタケヒコ「プロメテウスの晩餐」
 ハリイ・ハリスン「人間がいっぱい」
 レイ・ヴクサヴィッチ「Fish Cakes」
 ロバート・シェクリイ「人間の手がまだ触れない」
 フィリップ・K・ディック「ウーブ身重く横たわる」
 Boich「全てはマグロのためだった」(マンガ)
 竹本泉『うさぎパラダイス』(連作短編マンガ)
 沙村広明『ハルシオン・ランチ』(マンガ)
 冨樫義博『レベルE』の「見えない胃袋編」(マンガ)
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 ■10月例会レポート by 平林孝之 

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■日時:10月6日(土)夜
■会場:京都・旅館さわや本店
●テーマ:アメコミ入門
●ゲスト:柳下毅一郎さん(特殊翻訳家)、縣丈弘さん(SFマガジンDVDレビュー欄担当)

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 今年も十月は京大脇のさわや旅館で行われた京都SFフェスティバル合宿企画に出張いたしました。
http://kyofes.kusfa.jp/cgi-bin/Kyo_fes/wiki.cgi

 〈ダークナイト〉三部作に、〈スパイダーマン〉、〈アイアンマン〉、果てはヒーロー大集合の〈アヴェンジャーズ〉と、アメコミ原作映画が快進撃を続けています。でも、そういえば昔みたバットマンと、〈ダークナイト〉三部作に出てくるバットマンは雰囲気が違うような気はするし、大集合と言ってもあの人は出てないような??? と、自分のようなアメコミ初心者にはよくわからないことも沢山ありました。
そこで、アメコミも訳されている柳下毅一郎さん、SFマガジンのDVDレビュー欄を担当されている縣さんのお二人から、アメコミ映画をもっと楽しめるように基礎講座をしていただきました。

 会場にいらしたのは、アメコミを結構読んでいるという方が三割程度、多くの方は映画やドラマでは知っていてもコミックでは読んでいないという方々でした。会場からも質問、フォローが絶えずに、終始賑やかな会となりました。

 まず懸さんから、最も基本的なこととして二大出版社とそれぞれが扱う作品について紹介がありました。
 まずは、アベンジャーズに登場するヒーローたちや、スパイダーマン、X-メンを擁するマーベル社、そしてスーパーマンやバットマンを代表とするDC社。同じ出版社からでているなら、スパイダーマンやX-メンもアベンジャーズに出てきてもよさそうなものですが、そこには出るに出られない大人の事情がありました。
一時期困窮していたマーベルは、スパイダーマンやX-メンの映画化権をコロンビア映画などに売ってしまったため、契約期間が終わるまでは自社の作品と言えども使えないのだとか。柳下さんいわく「所属事務所が違うようなもの」。

 そんなマーベルでしたが、ディズニーに買収されて資金力もついたところで、自グループでの映像化を強化。第一号の『アイアンマン』が大ヒットしたことで〈アベンジャーズ〉シリーズ(マーベル・シネマティック・ユニバース)が動き出したのだそう。オールスターものを成功させるには、それまでにヒーローたちの物語を掘り下げておくことが重要でしたが、監督選びが成功して、『マイティ・ソー』、『インクレディブル・ハルク』、『キャプテン・アメリカ』どれも結構面白かったというのが、お二人の共通見解でした。

 〈アベンジャーズ〉のコミック自体は50年年代からあるそうです。当時のマーベル・ヒーローたちがロキの陰謀で反目しあっていたのが、真相に気づいてロキに復讐(avenge)するために結成したのがアベンジャーズだというから、映画は結構頑張って原作をなぞっていたようです。
当時は、人気の落ち込んでいた作品の救済という面もあり、例えば戦中に絶大な人気となったけど戦争が終わった途端に時代遅れになってしまった〈キャプテン・アメリカ〉はまさにアベンジャーズのお陰で復活した作品だとか。後発のマーベルには、DCの抱えるスーパーマンやバットマンといった、アイコンとなれるようなヒーローが不在だったところ、戦中のキャプテンは正にそんな存在になっていたので、なんとか再生したかったという事情もあったとのこと。

 もう一方の雄、DCですが、〈ダークナイト〉三部作のヒット以降は苦戦しているようです。『グリーン・ランタン』と言われても、ピンと来る人は少ないのではないでしょうか。『アベンジャーズ』のヒットを見て、DC版オールスターの〈ジャスティス・リーグ〉映画計画が動いているようですが、お二人によれば〈ダークナイト〉シリーズのヒットがかえって足を引っ張りそうだとか。
ノーラン監督の描くバットマンはチームを組めるようなやつじゃないし、そもそもスーパーマンと戦ったら死ぬだろ、とツッコミが入りました。でも、『マン・オブ・スティール』の名前で映画化されるスーパーマンの脚本もノーランということで、全部ノーランの灰色トーンで〈ジャスティス・リーグ〉やるの? とみんな首をかしげていました。

 コミックとしてのアメコミの話も伺いました。10年毎くらいに、アベンジャーズのようにヒーローたちのクロスオーバーイベントがあって、そこで一旦設定をリセットをすることで、何十年もの長寿シリーズを実現しているのだそう。DCは最近になって大リセットを行なって、new 52というシリーズの整理を行ったということなんですが、整理後に52本のシリーズというのだから凄まじい。アース1、アース2というように、並行宇宙が公式設定になっていて、アース1のバットマンとアース2のバットマンで、別々にシリーズを組んでいたりするらしいです。

 翻訳本も沢山出ていますが、全部追いかけるには高すぎるし、設定が複雑で入りにくいので、交通整理してるムック本が欲しいと懸さんでも頭を抱えているほど、アメコミの世界は奥深いようです。

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 ■11月例会レポート by 茅野隼也 

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■日時:11月10日(土)午後2時〜5時
■会場:笹塚区民会館(京王線・京王新線「笹塚駅」徒歩8分)  
http://www.city.shibuya.tokyo.jp/est/kmkaikan/km_sasazuka.html  
●テーマ:国書刊行会 四十周年を祝う!
●ゲスト:大森望さん(翻訳家、書評家)、樽本周馬さん(国書刊行会)、藤原義也さん(藤原編集室)

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 〈未来の文学〉などでファン交でも再三登場してきた国書刊行会も、今年で四十周年を迎えました。
 11月の例会では、1971年に学術資料書籍の出版を目的として設立され、『名月記』『玉葉』の復刻版刊行によって産声を上げた国書刊行会が、いかようにしてオカルト・幻想文学の出版に傾倒していき、またそのような版元として認知されるに至ったか。その経緯を国書刊行会四十年の歴史とともに振り返っていきました。

 大森望さんの司会で、まずは国書刊行会の基本的な沿革からお聞きしていきました。
 国書刊行会は元々出版社ではなく印刷会社であり、当時請け負っていた復刻出版物を依頼を受けて作るのではなく、自分たちで作ってみたらどうだろうという思いつきから、出版を始めたのが最初だったそうです。
 どうやら国書刊行会は、なんだか他の出版社と比べて変な謎の会社と思われているようですが、その理由はそもそも復刻出版や学術出版など出版界でも理が違う分野から始まって、文芸出版とはまったくベースを異にしているのがその原因なのかも、とのこと。

 復刻出版や学術出版の分野の、安いものをたくさん売るのではなく、高くても良いものを確実に買ってくれる方々のところへ届けるために定価や部数を設定していくというノウハウが、現在の国書刊行会の、かゆいところに手が届く出版を支えているようです。

 基本的に国書刊行会では、かなり長期的視野で本を売っているので、在庫を断裁してしまうということは殆どないとのこと。千葉のにある倉庫には相当昔の出版物も在庫が残っていたりと、渾沌とした空間になっているようです。千葉の奥地に住む僕としては割と近所なので、倉庫番として雇ってもらえないものでしょうか。古本屋ではプレミア付きだけれど、目録では在庫がある本たちを見に行ってみたいものです。

 国書刊行会で単行本が少なく叢書がとても多いのは、強く受け継がれてきた復刻出版や学術出版の少なく高くというDNAの影響で、一冊2000〜3000円という海外文学も、元々あるノウハウで販売し、同様の利益を上げるために10冊などの叢書で出す必要があったとのこと。

 そんな国書刊行会が、いかにしてオカルトや幻想文学を初めとした文芸出版にシフトしていったか。そのきっかけになったのは、1976年から刊行が始まった世界幻想文学大系だったそうです。
 各社にこの壮大稀有な企画を持ち込んで断れ続けた紀田順一郎さんが、国書刊行会に持ち込み、社長の即断で刊行が決定されたという伝説的な逸話もあるそうです。そして、その企画が予想以上の成功を収めたことで、国書刊行会がカルト的な出版社として世間の書痴から認知されていくきっかけになったといえます。

 ところで、国書刊行会というと、懐にやさしくない値段の本が多いというイメージがありますが、文芸出版の最初の頃こそ確かに割高だったものの、現在では高いとまではいえない、たとえば新潮社などと、さほど変わらない値段で書店に並んでいます。海外文学読みが喉から手が出るほど読みたかった幻の傑作(それにしても世の中に幻の傑作は多いですね)を、むしろその程度の値段で買えるのはお得だと思えてきます。
 僕のような学生にとって国書刊行会は、睡眠時間(労働のために)や衣食(節約のために)を、魅力的な書籍群を餌に収奪する憎き出版社なのですが、今回のお話を聞いて、たったこれだけの値段で、こんなに良い本を出してくれる素晴らしい会社だと、発想の転換(洗脳?)させられました。
 そして、国書刊行会の膨大な叢書とその出版エピソードを聞いて、例会に参加した皆さんも、もっともっと国書の書籍の購入意欲が湧いてきたのではないでしょうか。
 僕など就活では第一志望を国書刊行会にしようと考えるようになるくらいでした。

 会場では、国書刊行会にご用意していただいた「40周年記念小冊子」と「2012年版図書目録」を、参加者の皆さんにお配りさせていただき、逐次参照しながら進行していきました。
 特に目録は各々方、偏愛する出版物の項を引きながら、在庫があるのないので盛り上がる方も多数いたご様子。かく言う僕もそのひとりでした。

 最後になりましたが。
 いろいろご用意くださった国書刊行会の樽本周馬さんはもちろんですが、当日貴重な資料を多々お持ちくださった藤原義也さん、そしてお忙しいなか聞き手を引き受けてくださった大森望さんにも、改めて感謝を。ありがとうございました。

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 ■12月例会レポート by 根本伸子

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■日時:12月22日(土)午後2時〜5時
■会場:笹塚区民会館(京王線・京王新線「笹塚駅」徒歩8分)
http://www.city.shibuya.tokyo.jp/est/kmkaikan/km_sasazuka.html
●テーマ:SFファンとSFファンダムの歴史
●ゲスト: 小浜徹也さん(編集者、京大SF研OB)、鈴木力さん(元SFセミナー事務局長、東洋大SF研OB)

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今月の例会は、SFファン交流会例会のなんと第八十八回目という大変おめでたい会でした。
ファンダム史に詳しい小浜徹也さん、若くからファン活動を始めた鈴木力さんのお二人をお招きして、SFファンダムの基礎用語やファンダムの史の流れをSF初心者ファンにもわかる範囲でお聞きしました。

 まず、「ファンダムってなんですか?」という基本の質問から始まり、1957年の「宇宙塵」創刊から現在までの、日本SF大会を目安としたざっくりとした年表をもとに、SFファンダムを振り返っていきました。
 「ファンダム」とは、簡単にいうとSFファン活動を支える人たちのつながりの事で、SFを読んでいる人が直接=ファンダムの人というわけではないこと、昔はファングループがたくさんあったので、わかりやすかったけれど、最近では、グループも減り個々で活動する人やネットでの活動など活動の幅も増え見えにくい状況なのではないかとのことでした。
 また、それぞれのイベントの傾向や違い、「サーコン」「ファニッシュ」等のファングルーブのジャンル分け用語など基本的な知識について伺いました。

 「宇宙塵」創設からSFファンダムを読み解いていたところ、参加者の高橋良平さんより、1960年付近の同人活動と出版活動は、プロ活動とファン活動が同時並行状にあり境界がない時代といえるため、明確にSFファン活動グループといえるのはSFM同好会(会誌「宇宙気流」)で、第一号とカウントできるのではないかとのお話がありました。

 そして「SFマガジン」紙面でグループ結成を呼び掛ける人が各地にいたり、「SFマガジン」の「てれぽーと欄」やそのほかの同人誌にも住所氏名が載っていたので、そういったところ通じて手紙等でファン同士の交流が広まっていったとのことでした。特に、同人誌を読んだ柴野拓美さんのコメントが掲載された「宇宙塵」が、当時のネットワークサーバー的な役割を果たしたとのことです。
 1966年開催のSF大会「MEICON」から、それまで社会人しかいなかったファンダムの構成員に、大学生が加わり始め、時を同じくして文芸界で社会派ミステリーが主流になったことで、親しみやすさからSFを読む小中学生が増え、社会人から学生ファンへ活動の中心が移っていったとのことです。

 70年代から80年代にかけて、SFファンの増加に伴いファングループが増え、日本SF大会に加え、SFショー、SFフェスティバル、SFセミナー、各地のローカルコンベンション等イベントが増えていったそうです。
 1981年開催のSF大会「DAICON3」のオープニングフィルムが話題となり大学生層が増加、「SF大会に行きたいけど、遠いしお金がなくて参加できない。それじゃぁ、自分たちでイベントを開いて楽しもう。」といった学生ならではの悩みがイベント開催の原動力になっていたとのことでした。
 以前はメインホールのみだった大会が「Hincon」では分科会形式を取り入れたことや、「ASHINOCON」の楽しいイベントのこと、「DAICON4」の大会内通貨など、例会参加者からの思い出も飛び出し、お話が盛り上がりました。

 そして、1985年から1986年にかけて、ニフティサーブを介したパソコン通信での交流が生まれ、その後MLや個人サイトが増えていくことで、インターネットを介した交流(読書系ネットのオフ会など)が盛んになり、交流のあり方は、現在のように様々なカタチをとるようになりました。

 ゲストの小浜さん、鈴木さん、そしてご参加いただいた参加者の皆様のお蔭で、とても12月らしいあたたかく素敵な会となりました。本当にどうもありがとうございました。
 また今例会は、ファン活動歴の長い方も多く、それぞれ過去の活動の楽しい思い出話や、ファン活動に対する見解などを皆さんからもいろいろと伺うことができました。さらに休憩中には、中村融さんより参加者のみなさんに、昔集められたSF同人誌のプレゼントのサプライズもあり、大変盛り上がりました(ありがとうございました!)。

 ファンダムについて知りたい! というわたしの要望をきっかけに立案された「ファンダム探究」企画(全第3回予定)の一回目は、入門編ということで、「SFファンダム」についていろいろ基礎的なことをお聞きすることができました。今までバラバラだった知識のピースが、つながった感じでとても有意義なひとときとなりました。
 次回は、ファンジンの作り方等、具体的なSFファン活動について詳しくお話をお聞きできたらと考えています。

 最後に。
 今回例会で感じたことはファン活動を通しての「一体感」です。
 特に、多くの参加者の皆さんのお話から、70年代80年代の学生時代の活動の熱気や共有感を強く感じることができました。一つのことをつうじて分かり合える仲間に出会えることが、長いファン活動支える原動力となっているのかととても感動しました。

◆日本SF大会については、「日本SFファングループ連合会議」HPをご覧ください。
http://www.sf-fan.gr.jp/index.html

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