ファン交 2010年:月例会のレポート

 ■1月例会レポート by 根本伸子

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■日時:1月23日(土)
■会場:本駒込交流館  会議室B
●テーマ:2010年SF回顧(国内編)
●ゲスト:森下一仁さん(SF作家、SF評論家)、日下三蔵氏さん(アンソロジスト)

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 1月例会では、森下一仁さん(SF作家、SF評論家)と日下三蔵さん(アンソロジスト)、大森望さん(書評家・翻訳家)を招きして、配布資料のリストを見ながら、お三方より「よかったSF」の簡単な作品の紹介とコメントを頂くといった流れで、2009年の日本SF小説を皆さんと振り返りました。

 前半は、森下さんを中心に、長編作品について振り返りました。
 一般文学系の作品では、平野啓一郎『ドーン』や東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』が家族の新しいあり方を提示したのに対して、村上春樹『1Q84』が家族崩壊後のコミュニティーを描いてる等、今年は「家族」をキーワードに新しい人間関係について書かれたものが目立ったそうです。
 ちょっと変わったところでは、児童書では、毛利衛『モマの火星探検記』が話題に上りました。また、森深紅『ラヴィン・ザ・キューブ』は、残念なことに最後の小松左京賞受賞作になってしまったとのことでした。
 ほかにも、『昭和少年SF大図鑑』など、沢山の本の話でとても盛り上がりました。

 後半は、日下さんを中心に大森さんにも加わっていただき、短篇集と短編作品について振り返りました。
 2009年は、短期間にたくさんの短篇が出た年で、特に11月から12月にかけて70作くらいの短篇が出たのではないかとのことでした。特に、牧野修、田中哲弥、田中啓文、円城塔の作品が多かったそうです。短篇集では、特に『喜劇綺劇』がよいとの話がありました。また、創元SF短編賞は、610作品集まったそうです。
 ◆「第1回創元SF短編賞」= http://www.tsogen.co.jp/sftanpensho/

 2月、3月に大森さん編集のテーマ別に日本SF再録のアンソロジー『不思議の扉 時をかける恋』『不思議の扉 時間がいっぱい』が出版されるそうですし、2010年度も短篇がたくさん読めそうで楽しみです。

 今回の例会でもたくさんの書名が挙がり、とてもまとめ切れませんでした。
 以下に森下さん、日下さん提供のリストを掲載させていただき紹介とさせて頂きたいと思います。
 2010年もまた、すばらしい作品に出会えることを願っています。

 最後に、2009年度発行書籍リストを提供してくださった星敬さんとゲストの皆様に、改めてお礼申し上げます。

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[資料1:森下一仁さん提供]

■2009年の主だった国内長篇SF
●一般文学系
 奥泉光『神器 軍艦「橿原」殺人事件』新潮社
 村上春樹『1Q84 book 1・2』新潮社
 平野啓一郎『ドーン』講談社
 東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』新潮社
※毛利衛『モマの火星探検記』講談社(ジュヴナイル)

●SF系
 森深紅『ラヴィン・ザ・キューブ』角川春樹事務所
 荻野目悠樹『黙星録』ハヤカワ文庫JA
   「(1)やがて世界が燃え尽きる」「(2)慟哭は世界の爪痕」「(3)世界が視るのは最期の夢」
 仁木稔『ミカイールの階梯〔上・下〕』ハヤカワSFシリーズJコレクション
 佐藤哲也『下りの船』早川書房〈想像力の文学〉
 長谷敏司『あなたのための物語』ハヤカワSFシリーズJコレクション
 神林長平『アンブロークン アロー 戦闘妖精・雪風』早川書房
 谷甲州『霊峰の門』早川書房
 津原泰水『バレエ・メカニック』早川書房〈想像力の文学〉
 小川一水『天冥の標㈵ メニー・メニー・シープ〔上・下〕』ハヤカワ文庫JA
 山本弘『地球移動作戦』ハヤカワSFシリーズJコレクション
 山田正紀『イリュミナシオン 君よ非情の河を下れ』早川書房
 林譲治『ファントマは哭く』ハヤカワSFシリーズJコレクション
 樺山三英『ハムレット・シンドローム』小学館ガガガ文庫
 天野邊『プシスファイラ』徳間書店
 杉山俊彦『競馬の終わり』徳間書店
 小林めぐみ『地球保護区』ハヤカワ文庫JA

●評論
 大橋博之責任編集『光瀬龍 SF作家の曳航』ラピュータ
 堀江あき子編『昭和少年SF大図鑑』河出書房新社
 長山靖生『日本SF精神史』河出ブックス

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[資料2:日下三蔵さん提供]

◇新作短篇集
●ぬばたま一休 朝松健 朝日新聞出版(文庫)(11/30刊・800円)*短篇集
●魚舟・獣舟 上田早夕里 光文社(文庫)(1/20刊・590円)*短篇集
●曲がれ!スプーン 上田誠 早川書房(10/25刊・1400円)*戯曲集
●煙突の上にハイヒール 小川一水 光文社(8/25刊・1500円)*短篇集
●六月の夜と昼のあわいに 恩田陸 朝日新聞出版(6/30刊・1500円)*短篇集
●エイリアン旋風譚《トレジャー・ハンター八頭大 別巻》菊地秀行 朝日新聞出版(新書)(11/30刊・1000円)*連作短篇集
●ポジティヴシンキングの末裔 木下古栗 早川書房(11/15刊・1800円)*短篇集
●臓物大展覧会 小林泰三 角川書店(文庫)(3/25刊・667円)*短篇集
●猿駅 / 初恋 田中哲弥 早川書房(3/25刊・1700円)*短篇集
●魂追い 田辺青蛙 角川書店(文庫)(12/25刊・552円)
●マリオネット・エンジン 西澤保彦 講談社(新書)(2/5刊・860円)*短篇集
●全世界のデボラ 平山瑞穂 早川書房(4/15刊・1800円)*短篇集
●廃墟建築士 三崎亜記 集英社(1/30刊・1300円)*短篇集

◇書下しアンソロジー
●幻想探偵《異形コレクションXLII》井上雅彦監修 光文社(文庫)(2/20)
●怪物團《異形コレクションXLIII》井上雅彦監修 光文社(文庫)(8/20)
●喜劇綺劇《異形コレクションXLIV》井上雅彦監修 光文社(文庫)(12/20)
●神林長平トリビュート 早川書房編集部編 早川書房(11/15刊・1700円)
●NOVA1 書き下ろし日本SFコレクション 大森望責任編集 河出書房新社(文庫)(12/20刊・950円)

◇アンソロジー、再刊、再編集本
●日本SF全集1 1957〜1971 日下三蔵編 出版芸術社(6/25刊)*アンソロジー
●超弦領域 年刊日本SF傑作選 大森望/日下三蔵編 東京創元社(文庫)(6/30)
●光瀬龍 SF作家の曳航 大橋博之責任編集 ラピュータ(7/7刊・2400円)
●ゑゐり庵綺譚 梶尾真治 扶桑社(文庫)(6/30刊・800円)*短篇集
●敵は海賊・短篇版 神林長平 早川書房(文庫)(8/25刊・600円)*連作短篇集
●明烏 落語小説傑作集 小松左京 集英社(文庫)(1/25刊・476円)*短篇集
●すぺるむ・さぴえんすの冒険 小松左京コレクション 小松左京 福音館(11/20)
●星の塔 高橋克彦 ランダムハウス講談社(文庫)(1/10刊・720円)*短篇集
●秒読み 筒井康隆コレクション 筒井康隆 福音館書店(2/25刊・1700円)*短篇集
●狂鬼降臨 友成純一 出版芸術社(2/25刊・1500円)*中篇集
●星新一時代小説集 天の巻 星新一 ポプラ社(文庫)(8/5刊・560円)*短篇集
●星新一時代小説集 地の巻 星新一 ポプラ社(文庫)(10/5刊・560円)*短篇集
●星新一時代小説集 人の巻 星新一 ポプラ社(文庫)(12/5刊・560円)*短篇集
●多聞寺討伐 光瀬龍 扶桑社(文庫)(4/30刊・848円)*短篇集

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■2月例会レポート by 根本伸子

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■日時:2月13日(土)
■会場:神宮前区民会館
●テーマ:2009年SF回顧(海外・メディア・コミック編)
●ゲスト:
 林哲矢さん(SFレビュアー)、添野知生さん(SF映画評論家)、
 yama-gatさん(SF/マンガファン)、酒井貞道さん(書評家)、
 香月祥宏さん(レビュアー)

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 2月の例会は、1月に引き続き、2009年に発表されたSFの翻訳作品や映像作品、コミックを振り返りました。

 はじめに、ゲストの林哲矢さん(SFレビュアー)、酒井貞道さん(書評家)にガイドをして頂き「海外SF」について振り返りました。
250冊を超える作品リストを眺めながら、刊行日順に昨年の海外SFについて感想を伺いました。なんと話題の約8割が6月までの刊行書籍に関するもので、前半の半年に話題作が集中していました。
 『ベガーズ・イン・ズペイン』『アッチェレランド』『ユダヤ警官同盟』『ペルディード・ストリート・ステーション』などの『SFが読みたい!2010年度版』の上位作品は話題がなかなか尽きずどれも好評でした。
 他にランク外の注目作として、『クリスタルレイン』『ノパルガース』『ザ・ストレイン』『バビロン・ベイビーズ』などが話題に上りました。
 また、会場からは、ローレル・K・ハミルトンの「アニタブレイクシリーズ」なども注目作として紹介されるなど様々な書名が次々と上がり大変盛り上がりました。
 本当に2009年は、バラエティーに富んだ作品が多い年だったようです。神々モノとして紹介された『アメリカン・ゴッズ』と『お行儀の悪い神々』がどちらも読みやすい作品とのことで読んでみたいと思いました。

 次に、メディア編ということで、昨年に引き続き添野知生さん(SF映画評論家)とご用意くださった劇場公開作、未公開作を厳選したリストを下に2009年の映像作品について振り返りました。
 公開作では、『ヘルボーイ』『ウォッチメン』『スタートレック』『エヴァンゲリヲン新劇場版:破』『サマーウォーズ』などの名前が挙がりました。他にも注目作としては、『30ディズナイト』『ドゥームズデイ』などが設定やテーマが個性的で面白そうです。未公開作では、エディーマーフィーが宇宙船になる『デイブは宇宙船』や『インクハート』などの作品名が挙がっていました。テレビシリーズでは、『プライミーバル』の第3シーズンの放送が決まっているそうです。

 今年の映画の傾向としては、年末に公開され大ヒットとなった『アバター』で注目されたようにこれからは3D作品が増えていくそうです。また、これに伴い以前の映画もどんどん3D化されていくようです。

 コミック部門は、yama-gatさん(SF/マンガファン)に加えて、林哲矢さんにも協力いただきました。
 まず、2009年は、『HELLSING』や『PLUTO』『ぼくらの』などの人気連載が相次いで完結を迎えとのお話がありました。完結した作品の中での注目作は『呪街』だそうです。
2009年初巻刊行作としては、時間をとめる能力を持つ一族の物語『刻刻』や古代ローマの風呂歴史を日本の風呂が変える『テルマエ・ロマエ』などが注目作としてあがりました。

 今回も大盛況で、ギッシリの内容であっという間の3時間でした。

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 ■3月例会レポート by鈴木力

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■日時:3月20日(土)
■会場:神宮前区民会館
●テーマ:古くて新しい未来〜明治・大正・昭和のSFをめぐって〜
●ゲスト:長山靖生さん(文芸評論家)

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 今回のファン交は、昨年暮れに河出書房新社より『日本SF精神史』を上梓された長山靖生さんをお招きし、幕末から昭和に至るSF的想像力の系譜をお伺いしました。

 イマジナリーな日本文学といえば、古きをたずねれば『古事記』まで遡ることが可能ですが、長山さんが日本SFの出発点としたのは、幕末にペリー来航を受けて儒学者が書いた、日本(がモデルの架空国家)とイギリスが戦う架空戦記『西征快心編』でした。なぜ? との問いに長山さんは「うちの学派ではそうなっているから」と冗談めかして答えましたが、そこにはSFと、それが書かれた時代との関係を重視する長山さんの見識がありました。

 明治に入るとヴェルヌの翻訳ブームを経て、国会開設後の未来を描くSF的政治小説が多く書かれるようになります。長山さんはこれらの作品の意義を認めつつも、本来描かなければならなかった民主主義獲得までのプロセスをすっ飛ばし、その後の結果だけを描いた作品が多く、それが政治小説の限界だったのではないかと指摘します。

 一方、エンタテインメントとしてのSFは、「写実こそ文学」と主張する坪内逍遙らの批判を受けながら、明治30年代には押川春浪の冒険小説としてひとつの結実をみます。バンカラを称揚した春浪でしたが、彼が編集した雑誌「冒険世界」はスマートかつモダンな誌面で、昭和40年代の少年週刊誌に似た趣があったといいます。

 時代が大正に下ると、「冒険世界」が編集方針を変えて「新青年」となります。SF史から特筆すべきなのは、昭和初期に海野十三が同誌を主な活躍場所としたことです。本格的な小説家デビューの前から、科学雑誌でSF特集の頁を組んだり、「アメージング・ストーリーズ」を読んでいた海野は、戦争へと向かう時代の気流の中にあって、科学的思考の大切さを訴えましたが、それが真に理解されたかは疑問の残るところです。

 戦後、少年誌に執筆していた海野は、同じメディアにいた手塚治虫の才能をいちはやく見抜きましたが、自身は昭和24年に病に倒れ、帰らぬ人となりました。しかし海野の志は、手塚を媒介として以降の作家へも受け継がれてゆくのでした。

 これまでの主な日本SF史は、英米の現代SFの影響下に成立した昭和30年代以降と、それ以前とを分ける傾向があったのですが、『日本SF精神史』は両者を一貫する流れとして記述した点に特色があります。この点に関する長山さんの考えは、SFに取り組んだ先人へリスペクトを表したかったとのこと。

 今後は、『日本SF精神史』では書ききれなかった心霊主義的なファンタジーの作品群や、SFを受容していった読者について論じてみたいという長山さん。長山さんの新たな著述による、さらなる日本SF史の深化が期待されます。

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 ■4月例会レポート by 根本伸子

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■日時:4月17日(土)
■会場:神宮前区民会館
●テーマ:この10年のスゴい! ヤバい! 世界文学
●ゲスト:牧眞司さん(SF研究家)

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 今月のファン交は「この10年のスゴい! ヤバい! 世界文学」と題し、SF研究家の牧眞司さんをお招きし、世界文学の世界に触れてみました。

 前半は、牧さんがおもしろい小説という視点で選んだ、選りすぐりの20作品についてご紹介していただきました。

 まず、ミルチャ・エリアーデと牧さんの出会いは、山野浩一さんが「NW-SF」で『ムントゥリャサ通りで』を紹介していたのがきっかけというお話を皮切りに、エリアーデが追求したかったのは、言葉や論理を超えたところにある真実(核)で、それはスタニスワフ・レムの作品からも共通の感覚を感じたという牧さん独自のSFと世界文学のつながりについてお話していただきました。

 ほかにもテッド・チャン並みの高打率のスティーブン・ミルハウザーは、本質的なところを書いている作家だけどあんまり売れてないといった話や、W・Gゼーバルトは、時間や記憶を扱った文学でイーガンやチャン、伊藤計劃につながるテーマの作品を書いているけどテーマの取り扱い方がSFと文学では違う、というように世界文学の作品についてSFの作家の例えを交えてSFと文学の構造の違いについてわかりやすく解説していただきました。

 ほかにも、なんとカフカについてニュートン力学と一般相対性理論の関係に例えた話で会場が沸くといた場面もあり、文学についての話なのにさすがSFの人たちだなぁと思ったりしました。

 おしまいには、SFと現代文学の似ているとことについてお話していただきました。
 これまで、文学の主流テーマである、リアリズムの追求とか自我の確立や開放とか呪いみたいなものから解き放たれ視点で書いてるところがSFと現代文学の距離の近さだそうです。他にも世界文学には、扱うテーマ性やその思考の斬新さなどすごく親近感をもって愛すべき要素がたくさんあるように感じました。

 今回は2000年から2009年までの10年ということでしたので、お話最後に2010年のSFについて、お聞きしましたところ、ジョルジュ・ペレックの「煙滅」がいちおしだそうです。
 原著はフランス語で最頻度の「E」を使わずに書かれており、日本語版では、い段が一切使われていないという本だそうです。ストーリーも「E」の不在を巡るミステリー仕立て的でおすすめだそうです。

 文学というと何となく敷居を高く感じてしまい、作品の背景についての薀蓄を理解して咀嚼しなければいけないものと勝手に思い勝ちでしたが、牧さんのただ純粋に作品を楽しめばいいんだというお話を伺って自分自身でハードルを上げてしまっていたんだなと思いました。
 SFだけではなく「なんじゃこりゃすごい!」と感じる作品が文学にもたくさんあることを知って読書熱が高まった例会でした。牧さんの流れる水ような語りについつい時間を忘れ、あっという間の3時間でした。


★☆★ 2000〜09年に翻訳された文学ベスト20(牧眞司選) ★☆★

 1 ミルチャ・エリアーデ『エリアーデ幻想小説全集』全3巻
   (住谷春也編、直野敦・住谷春也訳/作品社)
 2 レイナルド・アレナス『夜明け前のセレスティーノ』
   (安藤哲行訳/国書刊行会《文学の冒険》)
 3 スティーヴン・ミルハウザー『ナイフ投げ師』
   (柴田元幸訳/白水社)
 4 W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』
   (鈴木仁子訳/白水社)
 5 残雪『暗夜』
   (近藤直子訳/河出書房新社《世界文学全集》)
 6 ガブリエル・ガルシア=マルケス『コレラの時代の愛』
   (木村榮一訳/新潮社《ガルシア=マルケス全小説》)
 7 スティーヴ・エリクソン『エクスタシーの湖』
   (越川芳明訳/筑摩書房)
 8 ラン・ロブ=グリエ『反復』
   (平岡篤頼訳/白水社)
 9 アンジェラ・カーター『夜ごとのサーカス』
   (加藤光也訳/国書刊行会《文学の冒険》)
 10 マルセル・ブリヨン『砂の都』
   (村上光彦訳/未知谷)
 11 ピエール・ロチ『倦怠の華』
   (遠藤文彦訳/水声社)
 12 バリー・ユアグロー『たちの悪い話』
   (柴田元幸訳/新潮社)
 13 ダイ・シージエ『フロイトの弟子と旅する長椅子』
   (新島進訳/早川書房《ハヤカワepiブック・プラネット》)
 14 マシュー・ニール『英国紳士、エデンへ行く』
   (宮脇孝雄訳/早川書房《プラチナ・ファンタジイ》)
 15 ジョルジュ・ペレック『美術愛好家の陳列室』
   (塩塚秀一郎訳/水声社)
 16 ジョン・バンヴィル『海に帰る日』
   (村松潔訳/新潮社《CREST BOOKS》)
 17 ウラジミール・ナボコフ『透明な対象』
   (若島正・中田晶子訳/国書刊行会《文学の冒険》)
 18 チャールズ・シミック『コーネルの箱』
   (柴田元幸訳/文藝春秋)
 19 マリオ・バルガス=リョサ『楽園への道』
   (田村さと子訳/河出書房新社《世界文学全集》)
 20 フェルナンド・ペソア『不安の書』
   (高橋都彦訳/新思索社)


☆☆★☆★ 牧眞司さんの おまけコーナー ★☆★☆☆☆☆☆☆☆☆

 2010年に出版された世界文学で、ぼくが面白かったのは、

  ジョルジュ・ペレック『煙滅』(水声社)
  レーナ・クルーン『偽窓』(新評論)
  ライフ・ラーセン『T・S・スピヴェット君傑作集』(早川書房)
  リチャード・ブローティガン『エドナ・ウェブスターへの贈り物』(ホーム社)
  マーガニータ・ラスキ『ヴィクトリア朝の寝椅子』
    (新人物往来社《20世紀イギリス小説個性派セレクション》)

 なかでも『煙滅』が飛びぬけています。
  「オールタイム・ベスト20」に入るくらいです。

 あと、これは評論ですが、
   マリオ・バルガス・ジョサ『嘘から出たまこと』(現代企画室)
 も良い本です。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

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 ■5月例会レポート by 平林孝之

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■日時:5月1日(土)
■会場:ふたき旅館
●テーマ:SFいろいろ、ロマンチックSFもいろいろ
●ゲスト:
 中村融さん(翻訳家・アンソロジスト)、大森望さん(翻訳家・書評家)、山岸真さん(翻訳家・アンソロジスト)

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毎年恒例、SFセミナー合宿企画に今年も出張してまいりました。旅館の一室一杯の参加者の中には、見知った顔も大勢。最近は、ファン交をきっかけにSFセミナーなど他のSFコンベンション・イベントにも参加してみたという方も増えているようで、我々としても嬉しい限りです。

 今回の企画は、『時の娘 ロマンチック時間SF傑作選』に『不思議の扉 時を駆ける恋』と、最近なんだか流行っているような気がする時間SF×ロマンスもの。突然似たようなテーマ・アンソロジーが海外・国内で立て続けに出てきたわけですが、これは意図的にあわせたものなんでしょうか?
ゲストの方々に訊いてみたところ、完全に独立した企画がたまたま同時期に出ただけとのこと。そもそも、中村融さんは時間SFアンソロジーを、大森さんは恋愛SFアンソロジーを組もうとしていたのが、紆余曲折の末どちらも「ロマンチック時間SF」アンソロジーになったというのだから、偶然とは面白いものです。

 とにかく「インキーに詫びる」を入れた、古めの作品を集めた短篇集を一冊作りたかったという中村さん。時間SFで企画を出しても中々話が進まず、手を替え品を替えたどり着いたのが、ロマンチック時間SFだったとか。2年越しの執念でようやく収録された本作ですが、『時の娘』の最後に収録されていて、中村さんの作品紹介も群を抜いて力が入っていたのが印象的でした。
「ロマンチックってそもそもローマ人のって意味だったのに、いつの間にか恋愛のロマンスを指すようになってしまった!」と、中村さん自身は恋愛アンソロジーになってしまったことにはあまり満足されていないようでした。夢とか冒険、伝奇とか空想モノだって語源からすれば「ロマンチック」だと主張される中村さんの、「ロマンチック」SF短篇集も是非読んでみたいものです。

 一方、中高生の「朝読」(朝の短い時間に読書をしようという中高生向け運動)用の短篇集ということで企画を振られた大森さんは、中高生が入りやすいように恋愛小説にしてみたとか。恋愛小説といえば、『ロミオとジュリエット』のように障害がつきものですが、現代では大抵の壁は克服されていて話がマンネリ化している中、SFにすると障害が作りやすいんだそうです。
 角川書房の企画ということで、最初は人気のあるリセット・リプレイものにしようかと考えたけれど、どれもオチが同じになっちゃうので断念。やはり角川から出ている万城目学の「長持ちの恋」(『ホルモー六景』)を核にラブレターもので一冊というのも考えたけれど、先行作と比べられる形で並べてしまうのも可哀想だと断念。それで結局時間SF恋愛ものに落ち着いたんだとか。

 一見似たようなテーマを扱ったアンソロジーですが、誕生までの経緯が全然違うというのも面白いですね。
 ゲストの方々におすすめのロマンチック時間SF作品を紹介していただきましたが、衝撃的だったのは山岸真さんから紹介があった"Backward,Turn Backward"(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/未訳)。
 精神だけを未来の自分に飛ばせるというタイムトラベル機械をガジェットに、金持ちとオタクの大学生、セレブ女子大生の三角関係を描いた作品ですが、あまりに救いのない結末に、著者自身の最期を予言したともいわれているとか。あまりの壮絶さに、会場全体もぐっと静まりかえるほどでした。

 他にも何作も面白そうな作品が紹介されていて、また読みたい本が増えてしまいました。また、アンソロジーのできるまでの話も伺えて、これから短篇集を読むときには今までとは違った読み方もできそうです。

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 ■6月例会レポート by 鈴木力

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■日時:6月19日(土)
■会場:大向区民会館
●テーマ:翻訳家・浅倉久志を語る
●ゲスト:
 高橋良平さん(評論家)、白石朗さん(翻訳家)、中村融さん(翻訳家)、大森望さん(翻訳家)

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 フィリップ・K・ディック、カート・ヴォネガットなどを翻訳し、日本のSFのみならず文化全体にも影響を与えた浅倉久志さんが、さる2月14日にこの世を去りました。6月のファン交では中村融さんの提案により、中村さん・高橋良平さん・白石朗さん・大森望さんをお迎えして浅倉さんの追悼企画を行いました。

 印象的だったのは、浅倉さんの翻訳に取り組む姿勢は、誠実そのものだったとゲストの方々が口をそろえたことです。中村さんがハーネス「時の娘」をアンソロジーに収録するさい手直しを依頼したところ、なんと新訳が戻ってきたとのこと。また、訳稿に編集者が疑問を出すと怒る翻訳家も多い中、浅倉さんは丁寧に対応していたといいます。

 翻訳に対する浅倉さんのポリシーは、無色透明であることでした。擬古文を採用したことで有名なマッスン「二代之間男」については、「あまり凝ったことをすると後でイヤになる」とご本人の評価は高くなかったそうです。一方、ギブスン「クローム襲撃」については、短篇集収録にあたり文体や訳語を黒丸尚さんの訳した『ニューロマンサー』に合わせるなど柔軟なところもありました。ただし「自分が認められないものは頑として認めなかった」と高橋さん。

 その浅倉さんの生活は、飛び入り参加していただいた娘さんによればサラリーマンのように規則正しかったとのこと。編集者として浅倉さんを担当していた白石さんによれば、「スケジュール通りに原稿が上がるので、締め切りを設定した記憶がない」。会場では中村さんの訳稿(原稿用紙に手書き!)に浅倉さんが朱筆を加えたものや、『アジアの岸辺』のゲラなどか回覧されましたが、その読みやすい筆跡からも几帳面な人柄がしのばれました。

 ただ浅倉さんは真面目一辺倒というわけではなく、ユーモアを好む一面も。「ダジャレが好きで、いつも年賀状に書いてきた」とは大森さんの言。また中村さんは、ユーモア・スケッチの翻訳紹介は、浅倉さんの仕事の中でも大きな部分をなしていたと強調していました。
 

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 ■7月例会レポート by 冬蜂

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■日時:7月24日(土)
■会場: 神宮前区民会館
●テーマ:こんなライトノベルじゃだめですか?
●ゲスト:新城カズマさん (作家)、日日日さん(作家)、三村美衣さん(書評家)

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都条例の改正案「非実在青少年」問題で揺れる出版業界。ありえない世界を楽しめるフィクションの世界はこんなに楽しいのに! 今回は「こんなライトノベルじゃだめですか?」と題し、作家の新城カズマさん、日日日さん、書評家の三村美衣さんにお話を伺いました。 ーーという予定でしたが、新城さんが夏風邪のため急遽欠席に。ほかゲストお二人は「えっ! 新城さんに質問をして進行していく予定だったのに……」と大混乱の中、例会が始まりました。

 三村さんが大量の文庫を持参してくださり、現在刊行中のライトノベルレーベルを紹介。
 特に熱を入れて話してくださったのが、フランス書院の「ティアラ文庫」。
 女子向けのレーベルで、書店では普通に同種レーベルの棚に置いてある事が多いが、内容は性行為ありの過激なもの。こんなにキラキラして可愛らしい表紙なのに! 休憩時間にはHJ文庫の『AIKa R-16』が大人気でした。なんと業界初(?)のパンティ付録がついた本! 確かに内容には合ってますが、誰が欲しがるんでしょうこれ。業が深い。

 後半は、日日日さん原作の映画『私の優しくない先輩』について。
 お越しになられていたタニグチリウイチさんが、iPadで主演・川島海荷による主題歌「MajiでKoiする5秒前」のPVを流しながら、原作者である日日日さんに撮影の裏話や感想などをお伺いしました。

 映画化自体は前の版元から出版された時点で決定しており、版元が倒産した後も企画を潰したくない配給会社が脚本を寝かせていたそうです。そこに山本寛監督が新会社を立ち上げ、営業に行ったら脚本を渡されたそうな。また、撮影は冬だったそうで、半袖セーラー服の川島さんが非常に寒そうだったとのこと。日日日さんの映像化は『ちーちゃんは悠久の向こう』『狂乱家族日記』に次ぎ3度目で、基本的に口出しはしていないそうですが、概ね満足な出来であるとおっしゃられていました。

 そして今回の本題である、非実在青少年問題について。
 やはり、編集者はピリピリしているそうで、挿絵の肌露出の割合が細かく指定されたり、直接的な表現はなくとも性的な何かを想起させる文章はアウトになっているとか。とはいえ、やはり間口の狭い業界なので、「規制」というよりは「売り上げ」に関係することでチェックを受けることが多いようです。

 ライトノベル新人賞の審査員もなさっているおふたりのお話では、最近の傾向はとにかく、学園ラブコメ、欠損ヒロイン、一人語りが饒舌でナイーヴな男主人公が多くて辟易しているそうです。日日日さんが「今のライトノベルは偏った方向に進んでいて気持ち悪い」と述べ、誰がそうさせているのかという参加者からの質問に対して「読者、作者、編集者すべてが偏らせているのでしょう」と答えられていたのが、非常に印象に残りました。
 それはそれとして川島海荷はかわいい、本当にかわいいですよねッ!!

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 ■8月例会レポート by 鈴木力 

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■日時:8月21日(土)
■会場:代々木八幡区民会館
●テーマ:表紙で振り返る「SFマガジン」五〇年
●ゲスト:牧眞司さん(SF研究家)、岩郷重力さん(アートディレクター)、清水直樹さん(「SFマガジン」編集長)

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今年「SFマガジン」が創刊50周年を迎えました。「SFマガジン」の歴史はさまざまな観点から追うことができますが、SFファン交流会が着目したのは表紙。イラストレーションやデザインから、その時その時の編集部の意図などが読み解けないものか。今回は650号を超える「SFマガジン」の表紙をすべてスキャニングし、スライド上映しながらゲストのお話をうかがいました。

前半は牧眞司さんによる、創刊から70年代に至る表紙の変遷についてお話がありました。SFをハイブロウな文学として定着させるという初代編集長・福島正実の戦略から、60年代の表紙は抽象的・アート指向の高いものでした。それが一変するのは、編集長が森優に交代してから。福島とは裏腹に娯楽路線を推し進めた森は、斎藤和明やソコロフを起用するなどして、表紙のイメージを一気に具象的なものとします。

このあと70年代半ばには角田純男・佐治嘉隆がイラストを描き、文学路線とも娯楽路線ともまた違ったポップアート的なものとなります。牧さんは当時、誌面においてSFとサブカルチャーが接近していた点を指摘、「SFMを1冊読めば、ロックのことも現代文学のこともわかった」と言います。そして70年代後半には加藤直之が登場、それは日本社会にSFが浸透するのと軌を一にしていました。

後半は岩郷重力さんと清水直樹さんに、アートディレクションの専門家と「SFマガジン」編集長という立場から表紙について語っていただきました。

岩郷さんは長年クラシック雑誌の表紙を手がけてきた経験から、ここ10年で雑誌における表紙の役割が大きく変わったと述べます。また雑誌のデザインでは、売るときだけでなく本棚に並べられたときも考慮して背表紙にも気を配る必要がある、とも。

一方、雑誌という商品を作る立場である清水さんは、表紙には文字を乗せる必要があるので、よいイラストが即よい表紙になるとは限らないと言います。また「SFマガジン」はここ10年、一時的な例外を除いて毎月イラストレーターを変えて起用しているのですが、同じ人は二度使わないという原則なので、新しい描き手をさがす苦労もあるようです。

さらにお話は表紙作製の内幕や、乗せる文字の色遣いなどテクニカルな面にも及びました。「文字だけの表紙の方が内容は伝わりやすいけれど、魅力的なイラストがあれば使っていくのが編集部の方針」と言う清水さん。これからは「SFマガジン」の表紙を見る目がちょっと変わるような企画でした。

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 ■9月例会レポート by 根本伸子 

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■日程:9月11日(土)
■会場:駒込地域活動センター会議室
(南北線「本駒込」駅2番出口より徒歩5分)

●テーマ:もっと知りたい海外SF
●ゲスト:
 catalyさん(SFレビュアー)、鳴庭真人さん(海外SF紹介者)、林哲矢さん(SFレビュアー)

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 9月の例会は、「もっと知りたい! 海外SF」と題しまして、SFレビュアーの林哲矢さん、catalyさん、海外SF紹介者の鳴庭真人さんをゲストにお迎えして未邦訳の海外SFについてお話を伺いました。

 前半は、林さんにインタビュアーをお願いしまして、catalyさんより世界のSF情報についてお話をしていただきました。
 まず、各国のSF雑誌販売数(販売部数が公開されているものに限る)について、ご用意いただいたスライドのグラフ資料を見ながら解説していただきました。

 現在、1号あたりの販売数が世界第1位のSF雑誌は、断トツで中国の『科幻世界』というお話でした。
 『科幻世界』は、主な読者層はティーンで、現在は13万人くらいではないかとのお話がありました。なお、最盛期の2000年前後は30〜40万人の読者がいたもよう。中国でも購読を支えるファンの年齢が少しずつ上昇傾向にあるようです。
 第2位は、ロシアの『ミール・ファンタスティキ』が4万部弱とのことです。
 この雑誌もティーン向けのようで、DVDやCDがおまけでついてくるという特徴があるそうです。第3位は『アナログ』2.5万部とのお話でした。

 このように部数が多い順に世界のSF雑誌についてその特徴を辿っていくと、第4位のハンガリーの『ギャラクティカ』は2.2万部でした。ただし、人口約100万人の国であることを踏まえると、数字上は、100人に2人はこのSF雑誌を読んでいる計算になり、ハンガリーは、非常にSF密度の高い国だということになる……というお話が面白かったです。実際は、ハンガリー国内だけではなく東欧諸国の中で流通しており、かつてはほかにめぼしいSF専門誌がない東欧の諸国からの作品発表の場としての需要も多かったのではないかとのことでした。
 また、流れとしてはWeb雑誌が増えているとのことで、南米やイスラエルでは、web雑誌が主流とのお話も興味深かったです。
 ほかにもルーマニアもSFが人気の国のようで、雑誌も80〜90年代の最盛期は1号につき10万部の販売実績を持ち、ファンクラブも80を超える数があったそうです。「CPSF」というホームページ【 http://www.cpsf.info/ 】でルーマニアのSFの歴史を知ることができるようですので、興味のある方はこちらもチェックを。

 後半は、鳴庭さんより、最近読んで面白かった未邦訳の海外SFについてお話していただきました。
 奇しくも今月の例会は、2001年9月11日にあった同時多発テロから9年目でした。
 2001年以降の世界は、経済、国際情勢ともとても不安定な状況に置かれており、それが少なからずSFにも影響を与えている、そのひとつの流れとしてこれまでの欧米中心の世界観からアジアやアフリカを舞台としたSFやファンタジー、あるいはマンデーンSFが、より注目を集めているのではないでしょうか、とのお話がありました。

 今回ご紹介いただきました作品は、パオロ・バチガルピの『Ship Breaker』とイアン・マクドナルドの『The Dervish House』の2作品でした。
 『Ship Breaker』はヤングアダルト向けのボーイ・ミーツ・ガールな冒険小説。環境激変によって文明が衰退した未来のメキシコ湾岸沿いに住む少年ネイラーが、外の豊かな世界から来た少女ニータと出会い、何者かに追われる彼女を助けながら外の世界へ旅立つ冒険を描いた小説だそうです。この作者好みの環境破壊により文明が崩壊した未来という世界設定と、動物の遺伝子を持つ改造人間といったやや手垢のついたSFガジェットを用いているものの、リアリティ豊かな描写がすばらしいそうです。

 『The Dervish House』は、2027年のイスタンブールを舞台にした小説。連日政情の不安定な状況が続く夏のある日、犯人以外死傷者のいない奇妙な自爆テロが起きる。この事件の謎を中心に六人の登場人物が複雑に絡みあって物語が進んでゆく、ミステリー仕立ての小説だそうです。登場人物のひとりである心臓疾患のある少年が使う遠隔操作ロボットやテクノベンチャー企業など、細々としたSF的な道具や設定が見られるものの、物語の主軸にあるのはそれぞれの登場人物を通して未来のイスタンブールを多層的に描くことだということでした。

 貧困や不穏な情勢など世界を取り巻く不安をSF設定に落とし込んで、語っていく切り口がこのふたつの小説の共通点ではないかとのお話でした。
 世界のSFの多様さを知り驚いた一方で、SFファンはどこにでもいて、どこか共有する世界観を持って暮らしているのではないかという勝手ながら世界のSFファンとのつながりを感じることのできた会でした。

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 ■10月例会レポート by 冬蜂 

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■日程:10月09日(土)
■会場::旅館「さわや」本店
●テーマ:ゾンビの誕生から『WWZ』まで 〜ゾンビの魅力
●ゲスト:トレカ番長さん(同志社大SF研OB・自称ゾンビ研究家)、gernさん(名古屋大学SF研)

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 10月のSFファン交流会は、毎年恒例の「京都SFフェスティバル」の合宿企画にて、出張例会という形で開催されました。
 今回のテーマは、近頃様々なメディアで注目を集めることの多いゾンビ! ゲストにトレカ番長さん(同志社大SF研OB・自称ゾンビ研究家)、gernさん(名古屋大学SF研)のお二人をお呼びし、「ゾンビの誕生から『WWZ』まで 〜ゾンビの魅力」というテーマで語り倒していただきました。

 会場にはゾンビ業界(?)に疎い方もいらっしゃいますので、まずはトレカ番長さんが作成したレジュメに沿い、ゾンビの3類型(ブードゥー・ゾンビ、ロメロ・ゾンビ、ダッシュ・ゾンビ)についてご講説いただきました。

 皆さんが「ゾンビ」という物を思い浮かべたときに一番多いのが、両手を前に出し「あーうー」という唸り声を上げてゆったり動くロメロ・ゾンビではないでしょうか。ゾンビのひな形というものを作り出した、映画『ゾンビ』のジョージ・A・ロメロ監督は、ほんとうに偉大なお方です。
 また、ゾンビという存在の浸透と拡散を行ったのが、かのマイケル・ジャクソンの名曲「スリラー」のPVであるという意見には、会場からも感嘆の声が上がりました。

 次に映像作品から離れ、ゾンビを描いた小説の話となりました。
 これまでもスティーヴン・キング『死霊たちの宴』などいくつかの作品はありましたが、映像に比べるとやはり数は少ない。しかし、近年ではジェイン・オースティン&セス・グレアム=スミス『高慢と偏見とゾンビ』やマックス・ブルックス『World War Z』をはじめ、様々なメディアでゾンビブームが来ているとのこと。  ゾンビという空想設定を舞台装置にして、人間模様や未来を描いていくというのは、SF小説と構造は同じであり、ゾンビとSFの親和性が高いということもお話しされました。

 そして最後には、今まで話題にのぼった映像作品のいくつかを上映しながら、ツッコミを入れながら皆さんと鑑賞いたしました。
 ゾンビの波は確実に来ています。
 ZombieのZは「Zero年代」のZ!!

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 ■11月例会レポート by  

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■日時:11月06日(土)午後2時〜5時
■会場:千駄ヶ谷区民会館(JR「原宿駅」徒歩10分、千代田線「明治神宮前駅」徒歩8分)
●テーマ:「米澤嘉博に花束を 番外編」
●ゲスト:米澤英子さん(コミックマーケット代表補佐)、彩古さん(古本愛好家)

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長年にわたりコミックマーケット代表を務めた米澤嘉博さんが亡くなってはや4年になります。しかし昨年には母校・明治大学に米沢嘉博記念図書館が開館、また今年には手塚治虫文化賞特別賞が贈られるなど、その存在感は今なお薄れるものではありません。

世間ではマンガ文化の功労者というイメージが強い米澤さんですが、実は彼には少年時代から熱心なSFファンで、コンベンションにも参加していたという一面があります。今回のファン交では夫人の英子さんと、友人だった彩古さんに、米澤さんの人生についてうかがいました。

米澤さんは1953年、熊本市の米商の家に生まれました。熊本は江戸時代からの城下町で旧制高校もあり、映画館、書店、貸本屋などが立ち並ぶ文化の色濃い街でした。幼少時は病気がちで床で本を読むことが多かった米澤少年は、手塚治虫などのマンガ、映画などをきっかけにSFの道に入ります。

中学校に入学するとSFを探して本屋を回るようになりますが、なぜか欲しいと思った本が一足先に買われてしまうという場面にたびたび遭遇します。誰かと思って接触したところ、相手はなんと後にSF作家になる梶尾真治さん。その後梶尾さんとは親しくなり、中3のときには地元で開催されたSF大会にスタッフとして参加するまで発展しますが、後には大学受験に差し障るからと出入りを禁じられてしまったそうです。

高校では映画研究会に所属。時代は大学紛争の余韻さめやらぬ頃で、学生運動にも関係していたという意外な過去も。72年には明治大学に入学し上京しますが、ここではなぜかマンガ研究会ではなくSF研究会に入ります。ただしそこでも「SF漫画考」というファンジンを出すあたり、米澤さんの面目躍如といえましょうか。当時のプロフィール欄には、好きな作家はシルヴァーバーグとスタージョンと紹介されているそうです。

75年に批評集団「迷宮」発足、同年暮れには第1回コミックマーケット開催。翌年からはマンガ関係書籍の編集に携わるようになり、この頃から私たちの知る米澤さんのキャリアが始まりますが、SFへの関心が止むことはありませんでした。80年のTOKON7で、吾妻ひでおさんの作品に出てくる架空の本『へろ』を、彩古さんたちと共に本当に出してしまったのは今や語り草です。そして05年には長年の活動に対し柴野拓美賞が贈られました。

わずか700人で始まったコミックマーケットの参加者は、今や数十万人規模になりました。オタク文化に対する米澤さんの影響力はもはや一口で計れないレベルに達しています。「学生運動の挫折を目の当たりにしているので、マンガで世界を変えてみせると考えるようになったのでしょう。でもカウンターカルチャーだったものが主流になったことへの葛藤はあったと思います」という英子さんの言葉が印象に残った企画でした。

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 ■12月例会レポート by  

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■日時:12月11日(土)
■会場:大向区民会館(JR 渋谷駅 徒歩10分)
●テーマ:「SFと特撮の融合『仮面ライダーW』 これで決まりだ!」
●ゲスト:ガイガン山崎さん(特撮ライター)

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 12月のSFファン交流会は、 「SFと特撮の融合『仮面ライダーW』 これで決まりだ!」と題しまして特撮ライターのガイガン山崎さんをゲストにお迎えして、『仮面ライダーW』の魅力を徹底解剖しました!
 前半は、設定の面白さやガジェットに対するスタッフの熱い心意気などのお話を中心に『W』の魅力について正面から語っていただきました。
 本作は、『クウガ』から始まった平成仮面ライダーシリーズの11作目ということで、「次の“10年”に向けた、新たなるシリーズの第1作をコンセプトに新しい魅力を追及した作品であり様々な点で、今までの仮面ライダー像とは異なる点が多い独創的な作品だそうです。

 まず、シリーズ初となる「ふたりでひとりの仮面ライダー」という設定であるという点。
(なんと! 『W』は、左翔太郎とフィリップのふたりが同時に変身ベルトを装着することでひとりのライダーへと変身するんです。)
 他にも、地球の記憶を内蔵するというUSB型のガイアメモリを使って、敵とライダーが同じ技術で変身するという点も新しいとのお話でした。

 さらに、このガイアメモリーは地球にあるもの全てがモチーフになっているため、ドーパントと呼ばれる怪人の種類も様々で、ほかのシリーズに比べ怪人のモチーフや能力が非常に幅広く、かつその特殊能力を生かし個々の怪人のキャラが非常に立っているそうです。
 たとえば、「ゴキブリ」「ティーレックス」など〈生物〉のほかにも、「昨日」や「死神博士」など〈感情〉〈現象〉〈概念〉〈特定の人物〉など、実に様々なモチーフが登場しその形状も実に個性的だったそうです。

 ライダーのフォームチェンジもこのガイアメモリを使い行われ、体の中央にあるラインを境に左半身は身体能力や武器を決定する翔太郎のボディメモリ、右半身は属性や特殊能力を決定するフィリップのソウルメモリに対応した配色を持ち、全11パターンあるとのこと。そしてさらに、このフォームチェンジに合わせて11パターン以上の技があり、それぞれパターンの戦い方がきちんと扱われているのも『W』の魅力の一つだったそうです。

 そのほかにも、『ディケイド』までは派手な場面で合成カットが使われていたのに対し、『W』は、「ここで合成か!」といった、決して派手ではないが小技のある合成シーンが使われているところが毎回あり、それも観どころのひとつであるとのことでした。

 後半では、監督の坂本浩一さんは、熱いジャッキーファンといった話や、プロデューサーの塚田英明さんが、早稲田大学の特撮ファンサークル「怪獣同盟」に所属していた話など、スタッフの方々の個々のお話や、スタッフの『W』に対する、熱いマニアックなこだわりなど、作品の裏側、制作サイドのお話を中心にうかがいました。

 キャストの俳優陣も仮面ライダー好きが非常に多く、特に翔太郎役の桐山漣さんは、子供の頃の夢は「仮面ライダーになること」だったそうです。さらに、アクセル役の木ノ本嶺浩さんは、さわやかな容姿からは想像もつかないほど、本当にホラー映画とSFが好きな方だそうで、ゲストのガイガン山崎さんも大変絶賛されていました。特にブログのコメントが面白いとのことでした。

 今月の例会は、本当に熱い特撮愛に包まれた3時間で、ガイガン山崎さんの軽妙で楽しいお話で、『W』の世界に一気に引きずり込まれました。
 全くの特撮素人のわたしですが、例会が終わったあとは、なんだか仮面ライダー知識人!? 気分にさせて頂けたほど密度の濃い時間を過ごすことができました。

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◆『仮面ライダーW』関連HP ↓
http://www.tv-asahi.co.jp/double/
http://www.toei.co.jp/tv/w/

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