ファン交 2020年:月例会のレポート

 ■1月例会レポート by

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■日時: 1月18日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)

●テーマ: 2019年SF回顧(国内編)&祝〈星界〉TVアニメ放送20周年!
●ゲスト:森下一仁さん(SF作家、SF評論家)、森岡浩之さん(SF作家)、牧眞司さん(SF研究家)、日下三蔵さん(アンソロジスト)、林哲矢さん(レビュア)


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2020年初のファン交は、3部構成という盛り沢山な内容となりました。
【2019年SF回顧(国内編)】
ここ数年の日本SFは空前の豊作で、特に2019年は短編集に収穫が多くあったという共通認識のもと話が始まりました。日下さんによれば、これは創元SF短編賞、ハヤカワSFコンテストといった新人賞が定着し、才能ある新人が次々と登場したのが大きいとのこと。
4人の出演者が揃って書名を挙げていたのが酉島伝法『宿借りの星』と伴名練『なめらかな世界と、その敵』でした。
前者は著者2冊目の単行本にして初長編。遠い惑星で異形の生命体2体が旅するうち世界の成り立ちが明かされていくロードノベルです。著者十八番の漢字による造語が大量に盛り込まれているのですが、「それでも読みやすく面白いしセンス・オブ・ワンダーがある」と森下さんは言います。
一方、後者も著者にとって2冊目の単行本ですが、SF短編集としては異例の売れ行きを示し、ジャンル外の読者からも注目を集めました。牧さんは伴名練こそテッド・チャンのライバルとした上で、「チャンはロジックでゴツゴツと押していくタイプだけれど、伴名は小説の面白さやキャラクターの現代性でテーマを追求するタイプ」と分析します。
このほか林さんが推薦していたのが、円城塔が文芸誌に発表した短編「わたしたちのてばなしたもの」。これは、文章にひそむ違和感の正体が、読み進むうちポリティカルコレクトネスによってある種の言葉が失われた世界だと判明するという小説だそうです。「ポリティカルコレクトネスを否定も肯定もせず、その行き着く先を淡々と描いている」と林さん。またライトノベルで日下さんのオススメは宇野朴人『七つの魔剣が支配する』。魔法学校に入学した主人公が復讐を遂げてゆくという〝ハリポタ+快傑ズバット〟みたいな話だそうです。

【祝〈星界〉TVアニメ放送20年!】
2019年、『星界』シリーズのアニメ化20周年を記念してBD-BOXが発売されました。そこでファン交では原作者の森岡さんとプロデューサーの大橋さんをお招きしました。
大橋さんはもともとアニメに先行して製作されたドラマCDのプロデューサーでした。当時を知る人間がみんな会社を移ったり現場から離れたりしたため、いまでもボランティアで窓口を務めているといいます。
DVD-BOXの発売時には原作への誘導を行わなかったから、今回は購入特典としてショップ別に短編を書いてもらったと大橋さん。一方森岡さんは「ああいうことをやってる漫画家さんは大変だなと思っていたが、まさか自分が同じ目に遭うとは」と苦笑します。
『星界』が放送された約20年前、アニメ業界は製作方法がアナログからデジタルへと移行する過渡期でした。そのためシリーズによってマスターもソフト化された媒体もバラバラで、一口にBD化と言ってもコストや画質の統一などの問題をクリアする必要があったそうです。
放送当時の裏話もいくつか出ました。森岡さんは台本にあるナレーションをアーヴ語に翻訳し、それだけでは声優さんが読めないのでスタジオで朗読も行いました。アフレコに立ち会う原作者は大勢いるが、朗読までする人は珍しいと大橋さん。
気になる今後の展開については、森岡さん、アニメ監督の長岡康史さん、現在『コミックメテオ』でコミカライズを担当している(【URL】 https://comic-meteor.jp/seikaino/ )米村孝一郎さんの3名で座談会を行い、内容については2020年1月現在、サンライズの公式サイト(【URL】 http://www.sunrise-inc.co.jp/seikai/special/?cat=116 )で読めるので、興味のある方はチェックしてみてください。
そして何より気になる原作の続きについては「書いています」と森岡さんから力強いお言葉をいただきました。
【2019年SF回顧(SFアニメ編)】
最後は日下さんと林さんによるテレビアニメ回顧企画です。
お二人が共通して挙げていたのが『彼方のアストラ』と『ケムリクサ』。前者は篠原健太のコミックスのアニメ化。少年少女が宇宙船に乗って故郷へ帰る過程で、立ち寄ったさまざまな星で起こる事件を描きます。全5巻を1クールで上手に映像化しただけでなく、原作にない箇所の補完が絶妙だそうです。
一方後者は『けものフレンズ』降板で話題となったたつき監督の作品。遠未来、三姉妹の少女が男の子と水を探す話で、タイトルのケムリクサとは燃やすとある力を発揮する植物を指し、物語全体のキーアイテムになります。「『けものフレンズ』はメディアミックスありきの作品だったが、『ケムリクサ』はたつき監督のオリジナル。物語の骨格がしっかりあり、たつき監督が真の力量を備えた作家だとわかった」と林さんは言います。

あとお二人がオススメしていたのが、『この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる』。最近ありがちな異世界転生ものなのですが、最終話まで見ると設定がよく練られているとのこと。あと豊崎愛生の演技が半分くらい持っていってるそう。言われて筆者も無料配信の1話(【URL】 https://www.nicovideo.jp/watch/so35769625 )を見てみましたが、確かにその通りでした。

というわけで毎年恒例の回顧企画は、途中に別の企画を挟みつつ前半が終了しました。2月は海外SF、メディア、コミックの予定です。

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■2月例会レポート by  

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■日時:2月15日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)

●テーマ:2019年SF回顧(海外、メディア編 できればコミック編も)
●ゲスト:中村融さん(翻訳家)、添野知生さん(映画評論家)、
懸丈弘さん(B級映画レビュアー)、橋本輝幸さん(レビュアー)、
冬木糸一さん(レビュアー)林哲矢さん(レビュアー)[調整中]

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2019年回顧企画の第2弾です。
【海外編】中村さん、冬木さん、橋本さん、林さん
中村さん、冬木さん、橋本さんが一致してオススメしていたのが『息吹』でした。変えられない過去といかに向き合うかというテーマは「あなたの人生の物語」でも語られていたが、『息吹』ではそれが繰り返し出てきている、と橋本さん。実は、チャンは昨年から専業作家になり、フランスのワークショップに招かれたりしているけど、本人はあまり自信がなさそうとのこと。
実は『SFが読みたい!』の海外部門では、上位5作のうち4作が短編集もしくはアンソロジー、さらにそのうち3作は日本オリジナルの編集でした。また2019年は英米作品だけでなく韓国、イスラエル、ドイツの作品が訳されるなど多様化が進んだ年でした。
長編では何といっても『三体』が話題をさらった年でした。「ネタは古くさいが、演出がキレキレで外連味で読ませてしまう」とは冬木さんの『三体』評。冬木さんは続編の邦訳を待っていられずとうとう英語版を読み始めてしまったのですが、これが『三体』を上回る面白さなのだそうです。
竹書房も話題作をいくつも刊行しました。『黒き微睡みの囚人』は政治的に失脚したヒトラーがロンドンで私立探偵をやるという改変歴史もの、『雪降る夏空にきみと眠る』は人間の99%が冬眠する世界を舞台にしたオフビートな長編、『パラドックス・メン』は元祖ワイドスクリーンバロックと呼ばれた幻の書、『茶匠と探偵』はベトナム人が支配する星間帝国でのスペースオペラです。
中村さんが特に熱を込めて紹介していたのが『蝶を飼う男 シャルル・バルバラ幻想作品集』。バルバラは19世紀フランスの作家でしたが、忘れられていたところを日本のフランス文学研究者が再発見したものだそうで、収録作「ウィティントン少佐」はホフマン「砂男」とリラダン『未来のイヴ』の間をつなぐロボットものの先駆的作品ということです。

【メディア編】添野さん、縣さん
まずは完結した『スター・ウォーズ』の話題から。前作『最後のジェダイ』がアメリカでは保守的なファンの猛反発を食らったため、『スカイウォーカーの夜明け』は最大公約数的なファンが喜ぶ内容になりました。完全に満足できるものではないが、何とか着地してくれてよかった、というのが添野さんの感想でした。現在、スピンオフドラマ『マンダロリアン』がネット配信されており、SWロスはこの作品で癒されるそうです。
2019年は劇場版アニメーションが豊作の年でした。お二人がオススメしていた『スパイダーマン:スパイダーバース』はマルチバースものと並行世テーマを結び付け、世界の違いを絵柄の違いで見せるという作品で、「アニメーション表現の究極」とは縣さんの評。
もうひとつ縣さんが絶賛していたのが中国製アニメーション『羅小黒戦記』。人間と妖精が共存する世界で、両者の軋轢を解決するエージェントが主人公。『ドラゴンボール』など少年ジャンプ的先行作品をリスペクトしつつうまく消化しており、これまで中国アニメにあった粗削りな点が解消されていると縣さんは言います。日本では小劇場での公開ながら客の入りは上々で、阿佐ヶ谷の映画館などは3月中旬まで席が埋まっているそうです。 ネット配信アニメではネットフリックスの『ラブ、デス&ロボット』が海外SFファン必見。9か国15社の競作というのも異例ですが特筆すべきは原作陣の豪華さ。ケン・リュウ「良い狩りを」のほか、スコルジー、レナルズ、それにスワンウィックなどが名を連ねています。
そして今年公開予定のヴィルヌーヴ監督『デューン』はどうなるのか……というところで幕となりました。

【コミック編】林さん
最後は林さんによるコミック編です。時間の都合でかなり駆け足になってしまいましたが、まずは2019年に完結した作品から。アニメ監督の谷口悟朗が原作を務めた『アートレイル‐ニセカヰ的日常と殲滅エレメント‐』は、万能の願望機を扱える少年たちの異能バトルもの。何でもありのガジェットを出すと大抵収拾がつかなくなるのに、本作は上手にまとめているとのこと。詩野うらの短編集『偽史山人伝』は林さんいわく「大傑作」。ヒトとロボットの運命を長大なスパンで描いた島田虎之介『ロボ・サピエンス前史』は今回紹介した中でSF度は一番高いそうです。

2019年にはじめて単行本が出た作品としては平沢ゆうな『鍵つきテラリウム』がポストアポカリプスもの。少女とロボットの弟が世界を経めぐる中で、やがて世界全体の背景が浮き出てきます。矢寺圭太『ぽんこつポン子』は年老いた男やもめの元へやって来たメイドロボのお話。驚きはないがよく出来ているそうです。変わった作品では忠見周『竜侍』。恐竜が侍をやっている時代劇なのですが、何せ恐竜なので知性がなく本能のまま動くだけ。それを周囲の人間は無口な侍として扱っているというオフビートな漫画です。

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 ■3月例会レポート by 

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■日時:3月21日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)

●テーマ: いまこそ中国SFを楽しもう!
●ゲスト: 中原尚哉さん(SF翻訳家)、大森望さん(SF翻訳家、アンソロジスト)、藤井太洋さん(作家)、橋本輝幸さん(SF書評家)、稲村文吾さん(翻訳家)、梅田麻莉絵さん(早川書房編集者)
ー)


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〈お知らせ〉
今週末開催を予定しておりました、3月例会につきまして、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されるため、「中止」とさせていただきます。
楽しみにしてくださっている皆さまには、誠に申し訳ございません。
ご理解いただけますと幸いに存じます。



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 ■4月例会レポート by  

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【お休み】
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【お休み】

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 ■5月例会レポート by

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【お休み】
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【お休み】



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 ■6月例会レポート by

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■日時:6 月 20日(土)14:00-16:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員500名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:いまこそ中国SFを楽しもう!
●ゲスト:大森望さん(SF翻訳家)、中原尚哉さん(SF翻訳家)、藤井太洋さん(作家)、橋本輝幸さん(SF書評家)、稲村文吾さん(翻訳家)、梅田麻莉絵さん(早川書房編集者)


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6月のSFファン交流会は、Zoomを使用した初のオンラインのみの開催となりました。
テーマを「今こそ中国SFを楽しもう」と題して、ゲストに大森望さん(SF翻訳家)、中原尚哉さん(SF翻訳家)、稲村文吾さん(翻訳家)、藤井太洋さん(SF作家)、橋本輝幸さん、(SF書評家)、梅田麻利絵さん(早川書房編集者)をお迎えして中国SFについてたっぷりお話をお聞きしました。

今回の例会は、事前にHPにて参加受付を開始したところ登録数が160人を超え、急遽Zoomの参加人数枠を拡大したりと初のZoom例会準備に慣れないことも多く、事前の打ち合わせと称したZoom練習に付き合ってくださったゲストの皆さまをはじめ、たくさんの方の協力を頂きながらなんとか開催にこぎつけることができました。改めてお礼申し上げます。

例会では先ず、6月18日(木)に発売したばかりの、劉慈欣の小説『三体II 黒暗森林』について、橋本さんに聞き手をお願いし、大森さんや梅田さんからお話をお聞きしました。
まず第一部が好調で書店での品切れがあったことから、今回は初版部数を第一部の5倍用意したそうで、「今回はたくさん刷りました!」と担当編集者の梅田さんからも元気よくご紹介いただきました。梅田さんは、Twitterで『三体II』についてのコメントをなるべくたくさんフォローとしようと頑張ているそうですが、「三体」で検索するとガチャの結果が出て来たりご苦労もあるそう。ある書店で『6体』表現したところ、中国のWeiboでウケているそうです。大森さんもWeiboに初めて書き込みをしたそう。

原題は『The Dark Forest』の本作を日本でどう題をつけるか悩んだそうですが、早川書房の塩澤さんの「中国SFは原題のままがいいんですよ」というアドバイスから、中国の表記と同じ「黒暗森林」にしたそう。
「暗黒森林」と間違えることを心配したけど、結果として多くの人が「三体II(さんたいに)」とよんでいるので問題なかったし、「暗黒? 黒暗? みたいな」話題にもなってよかったな、と大森さん。また、「黒暗森林」って何なのか? というタイトル回収が、「三体」の読みどころのひとつになっているとか。
『三体II』では、人工冬眠技術が導入され、時間がどんどん進むと同時に科学技術もどんどんスケールアップし、上手に物語が加速的にスケールアップしていく物語の展開のスピード観がポイントとのことでした。
読みどころは、面壁者と破壁者の戦いが、第一部に輪をかけて漫画っぽい展開が待っているそう。劉慈欣の筆の上手さにより上手く描かれているところも読みどころなんだとか。そのほか翻訳について。第三部は、一部と二部の両チーム総力戦で翻訳するそうで、未だかつてない、三体世界のような総力戦の戦いが翻訳チームにもあるのだそうです。

次に中国SFを日本語に翻訳するご苦労について伺いました。まず、『三体』は、中国語版からの翻訳契約の為中国語から日本語への翻訳となっていること、『月の光』『折りたたみ北京』『荒潮』は、英語版から日本語への翻訳契約を行っている旨を梅田さんから説明いただきました。特にケン・リュウ エッセンスを意識して、ケン・リュウものについては、英訳から日本語に翻訳する契約を行っているそうです。

中原さんによると、『折りたたみ北京』は、ほぼ中国語版を読まずにすべて英訳からの翻訳になったとのことでした。『荒潮』は、英文テキストの他に、中国語版も手に入れて翻訳していったそうですが、原文を確認したい時はGoogle翻訳に一文字づつ中国語を打って確認したそうで大変苦労したそうです。
そのほか2013年の旧版では、主人公の電子ごみを拾う女の子の名前が「小米」だったけれど、携帯電話の会社と同じ名前だったため2019年の新版では、「米米」と改名されていたり、年齢が変わっていて当初16歳設定だったものが18歳になったりするところを確認したり、版の違いもチェックするなどご苦労があったようです。

大森さんもgoogle翻訳など3種類の機械翻訳を使いながら、意味の分からないところや誤訳かな、と思うような場所を確認しているとのお話でした。(中原さんも大森さんも、機械翻訳はあくまで確認するためのツールとして使っているということです。)そのほかに中原さんは、『月の光』を翻訳する際、短編の中国語テキストがネットでわりと簡単に見つかることにとても驚いたそうで、作品的に難しいんじゃないかと思うものでも、アメリカのサイトに掲載されていることもあって、日本からは電子データを、割と手に入れやすいのだとか。(もしかしたら中国からは見られないかもとのこと。)
稲村さんからは、中国語からの日本語翻訳についてお話をお聞きしました。英訳にしづらいニュアンスも、中国語から直接日本語にするときは同じ漢字を使えるので伝わりやすい部分もあるとのお話でした。中国語から日本語に翻訳する翻訳者は多いけれど、中国語の文芸翻訳を教えている方も少ないなどの影響もあるようで、中国SF翻訳家はまだまだ少ない状況のようですが、ゲームなどではたくさん翻訳者がいるのでエンターテイメント系の文芸翻訳も増えたらいいと思う、とのお話でした。

最後に中国におけるSFの様子と中国SF作品の魅力についてお話をお聞きしました。

まず、中国のコンベンション等について藤井さんと梅田さん伺いました。藤井さんは中国国際科幻大会などに複数回いかれています。中国の大会はお金のかけ方が違うそうで、授賞式もスクリーンがかなり大きくコンサート規模で行われていたり、パネルディスカッションでは、4言語の同時通訳が行われたりすることもあるのだとか。未来事務管理局が開催するコンベンションでは、リアルタイム翻訳にAIを使った機械翻訳を使っていたりもするのだそうです。市の教育委員会や開催都市そのものも強く関わっているので、共産党の偉い方が李白の詩を引用するような立派なオープニングスピーチをしっかり話されたりするようなこともあるとか。
中国SFに興味がある方は、未来管理事務局にアクセスしてみてはと橋本さんからご紹介いただけました。未来管理事務局は、1984年生まれの女性の元記者の方が始めたベンチャー企業で、SNSで毎日無料で読める中国SFの記事を紹介しているのだとか。
中国語が読めれば、中国だけでなく世界のSFにアクセスできるので、逆に無料で短編作品などを読めるアクセスのしやすさが、中国に限らず欧米圏でも問題になってきているそうです。その結果紙の雑誌がどんどん減ったりと、日本以外では、専業作家になりづらいようです。
最後に立原透耶さんが飛び入りでご参加くださり、『時のきざはし 現代中華SF傑作選』についてご紹介いただきました。(ありがとうございます!)目配りの広さに特徴のあるバランスの良いアンソロジーだそうで、掲載されている17編の中には日本初紹介の作家の方も入っているとのことで、とても楽しみです。

 初めてのZoom例会は、お陰様で非常に密度の濃い2時間となりました。たくさんの方々にご参加いただき、普段の例会とは形は違いますが、非常に盛り上がって開催することができました。ご参加、ご協力いただいた皆様ありがとうございました。

例会終了後、いつもなら新宿の味王での二次会を開いて交流できるのですが困難なため、例会終了後1時間交流タイムを設けました。 しかしながら100人を超える参加者の方々でZoomで交流を・・・、さてどうしよう? と内心困り果てているスタッフの雰囲気を察して、ありがたいことに急遽大森さんが司会をしてくださり、たくさんの参加者の方々から、お話をお聞きすることができました。

7月例会も交流会を例会終了後設ける予定です。皆さま人と発言が被ることに躊躇せずに、遠慮なく発言していただけると、いつものファン交の雰囲気が味わえるのかな?笑 と思います。スタッフを助けると思って、ぜひ奮ってご参加ください。スタッフ一同お待ちしています。

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 ■7月例会レポート by 

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■日時:2020年7月18日(土)14:00-16:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:ファン交流、もう「オンライン」だけでいいんじゃない?
●ゲスト:小浜徹也さん(ファンダム研究家)、山本浩之さん(日本SFファングループ連合会議 事務局長)、神北恵太さん(元 NIFTY-Serve SFファンタジー・フォーラム〈FSF〉シスオペ)  ほか交渉中


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7月例会は、「ファン交流、もうオンライン」だけでいいんじゃない?」と題して。ゲストに 小浜徹也さん、山本浩之さん、神北恵太さんをお招きして、ご一緒に、これからのファン交流のカタチについて模索しました。
まず、例年秋に「京都SFフェスティバル」を主催する京都大学SF研究会の学生平井さんと北村さんに、今年の大学SF研の様子や京フェスのリモート開催についてお聞きしました。そもそも、今年の開催をどうするかについて、部内で葛藤もあったそうです。「京フェス」開催ノウハウ等を次世代に繋ぐために、オンラインの開催に踏み切ったのだとか。

大学自体が休校からリモートでの授業再開、実習系の授業の中止という状況で、集団で集まることが難しい環境で新入生勧誘もままならないなか、「オンライン読書会」などを少しずつ活動しているそうですが、個人でのおしゃべりがしにくいなど、普段の部活動とはかなり雰囲気が変化しているようです。現在は、Discordを使った開催を予定しており、普段の合宿に合わせた時間帯で何個か部屋を分けた開催を検討しているそうです。とにかく困難な状況下の初めてのオンライン開催、学生のみなさんの健闘を応援しています。

次に、pc通信からNiftyを中心としたオンライン交流の拡張の経緯を、神北さんを中心にお話をお伺いしました。80年代から90年代に通信技術が発達して、毎晩オンラインで全国から集まれるようになったことで、第28回日本SF大会「DAINA☆CON EX」では、ラリー・ニーブンとチャットを通じて話をしたり、技術の進歩と共に交流の規模もどんどん広がっていったのだとか。懐かしのNiftyチャットの話の際には、Zoomのチャットでも、Niftyの解説をしてくださる人がいたり、当時の思い出を語ってくださる方が現れたりして、大いに盛り上がりました。
その後2ちゃんねる、日記文化からブログ、mixiから、Twitter、Facebook等に移動し、今に移動していく経緯等を伺いました。参加規模が増えていくと求める交流の形式が変化していくこと、その流れの中でSFの今につながる人材の輩出先として、ネットの存在が大きかったことがわかりました。

最後に、2年前の日本SF大会でZoomをいち早く使った活動を行った山本さんを中心に、今後のどう繋がっていくかについて一緒に考えました。遠隔地との繋がりと双方向性の交流の形を模索するなかで、Zoomの活用を思いついたという山本さんとはいえ、お三人とも「やっぱり、雑談が中心のリアルの交流が一番の理想」と語ります。一方向の交流が大きくなってしまうYouTubeやニコ動より、よりリアルに近い交流するためには、どういう活動について考察しました。
コロナ禍でZoomの敷居が低くなったことで、今後「リアル例会」に、Zoom参加を組み込むなど、交流の形の幅が広がって行くであろうという、前向きな意見だけでなく、Zoomとリアルでは、どうしても会話のテンポが合わないということから、オンライン参加の不完全燃焼感を、「リアル例会」の集客意欲に繋がれば、ファン交流も発展していくのではないかという前向きな意見がたくさん出ました。
今回、改めてファン交流の過去の流れを通信技術の進歩と共に振り返っていきましたが、京フェスやSF大会等活動が続いている原動力として、そこで出会った人との出会いが「また来年!(会いたいね)」という言葉を生み、人と人とを繋いで行くことが分かりました。
また、チャットの盛り上がりや例会だけでなく後の交流会(二次会)にも多くの方にお付き合いいただけたことでやっぱりファン活動の意欲の火種はまだまだ消えていないことが分かりちょっと感動してしまいました。 お互い制限が続く生活が続きますが、リアルで再開できる日の為に「また来年!」という気持ちを沢山ストックしておきたいです。

今回例会にご協力いただいたゲストの皆さま、参加者の皆さまありがとうございました。また会える日を楽しみにしています。

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 ■8月例会レポート by  

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■日時:2020年8月22日(土)14:00-16:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:酉島伝法 イマジネーションの世界
●ゲスト:酉島伝法さん(作家、イラストレーター)牧眞司さん(SF評論家)、星野勝之さん(イラストレーター)

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3回目となったファン交オンライン例会。今回はオンラインの強みを生かし、普段なら地理的事情でなかなかお越しいただけない酉島伝法さんにお話をうかがうことができました。

今回は2部構成。第1部は牧眞司さんを聞き手に小説家としての酉島さん、第2部は星野勝之さんを聞き手にイラストレーターとしての酉島さんに迫りました。
デビューするまで10年以上の投稿歴があった酉島さんですが、意外にもSFは書いたことがなかったそうです。「皆勤の徒」も「怒られそうなのでおそるおそる書いた」とのことですが、「SFを取り入れることで、はじめて自分の長所が出たのではないか」と語ります。これを受けて「SFが酉島伝法を見つけたのが偉いのではなく、酉島伝法がSFを選んでくれたことを喜ばなくてはいけない」と牧さん。
作中に自分の体験が反映されているのではないか、という指摘に対しては、その通りと認めます。特に刷版工場に勤務していたころは、過酷な労働に精神が変容して、異星人に働かされているような感覚に陥ったそうです。作者としては実体験を軸にした方がリアリティをもって書けると言います。
酉島さんはもともと小説内の注釈が好きでした。しかし、やたら注釈を入れると話の流れを壊してしまいます。そこで考えたのがあの特徴的な造語群でした。「これだ!」という造語が決まるまでは試行錯誤があるそうで、仮の造語を当てはめて書く場合もありますが、そういう時は筆が進まなくて困るといいます。ゲラのギリギリの段階でやっと決まることも。ちなみに、翻訳不能と言われていた造語ですが、自爆播種→suiseedingのように英語の方が決まっているケースもあるそうです。

さて第2部です。最初はリアル系イラストの事務所でデザイナーとして働いていた酉島さん。その後フリーになったものの、当時は自分の描きたいものが何なのかわかっていなかったそうです。
そのとき大きな衝撃を受けたのがSF映画の古典『メトロポリス』で、以後はモノクロのイラストを描くようになりました。もうひとつ影響を受けたのがロシアのブロツキーとウトキンという建築家の描いた架空の建築物のイラスト。このエッチングの感触を出したくて辿り着いたのが、細い芯の製図用シャープペンシルで描いてデジタル加工を施すという現在の手法でした。
創元SF短編賞に応募した「皆勤の徒」は、文章とイラストがセットになっていました。一般論として、こういう応募の仕方がいけないことは重々承知していたが、大森望さんが応募作すべてを読むことと、広義のSF短編を募集しているということで、アートブックのつもりで投稿した、と酉島さん。受賞後に編集者からは、小説家・酉島伝法がイラストレーター・酉島伝法に負けてはいけないとアドバイスされたそうです。
酉島さんにとって小説とイラストは相互補完的な関係にあって、どちらが必ず先ということはないようです。両者の間で新しいディテールを思いついて、描き込みのフィードバック現象が起こることも。『皆勤の徒』に出てくる百々似などはあえて文章での描写を抑えてイラストで見せるということもしています。
現在SFMで連載中の『幻視百景』は、編集部から連載小説のオファーがあったところへ、小説は無理だがスケッチと文章の組み合わせならできるかも、と酉島さんが逆提案して始まりました。雑誌の印刷だとイラストのコントラストがきれいに出ないため色校を送ってもらっているそうです。また『宿借りの星』での文章とイラストのレイアウトについても、酉島さんの意を叶えるべく編集者が文字数の調整に手間をかけたといいます。ひとつの作品を世に送り出すに当たっての、作者と編集者の共同作業が図らずも見えた気がしました。
ところで気になる酉島さんの新作ですが、何と恋愛もの(ただし人間のソレではない)!で、来年初頭ごろには公表とのことです。

今回も、例会にご協力いただいたゲストの皆さま、参加者の皆さまありがとうございました。

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 ■9月例会レポート by  

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■日程:2020年9月19日(土)14:00-16:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:少し不思議でとっても素敵! 羽根子ワールドへようこそ
●ゲスト:高山羽根子さん(作家)、小浜徹也さん(東京創元社)、笠原沙耶香さん(東京創元社)、大森望さん(翻訳家)


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このたび「首里の馬」で第163回芥川賞を受賞した高山羽根子さん。今回はその高山さんをゲストに迎え、(たぶん)ファン交史上初の芥川賞作家企画となりました。
前半は芥川賞受賞後第一作にして初の長編となる『暗闇にレンズ』(東京創元社)について。
高山さん初の単行本『うどん キツネつきの』が刊行されたのが2014年。担当だった小浜さんは、創元SF短編賞受賞者全員に「次は長編を書きましょう」と声をかけているそうで、『暗闇にレンズ』の初稿が上がったのは2016年のこと。当初は完成稿よりも短く、構成も違っていて、文芸誌などに中短編を書くかたわら推敲が重ねられました。
さて『暗闇にレンズ』の内容ですが、至る所に監視カメラが設置された近未来を舞台に、二人の女子高生がネットに投稿した動画が反響を呼ぶSide Aと、日本に活動写真が輸入された明治以来、4代にわたって記録映画の製作に携わる女性たちを描いたSide Bが交互に語られます。特に後者は史実と虚構が入り乱れていて、人間を殺傷する映像作品が戦争に投入されたりします。大森さんはプリースト『隣接界』を引き合いに「ついにプリーストの領域まで達した」と賞賛します。
監視社会における見る/見られるの関係や、家族とは何かという問いかけなど、複合的なテーマが語られているのも『暗闇にレンズ』の読みどころのひとつです。「テーマは絞らずにいろいろ入れた」と高山さんが言えば、笠原さんも「わかりやすくしてほしいとは言ったけど、削ってほしいとは言わなかった」。また大森さんはシスターフッドの物語として『第五の季節』『宇宙へ』など、最近の翻訳SFの潮流ともシンクロしていると指摘します。

後半は、事前に募集した参加者からの質問に高山さんが答えるかたちとなりました。

——ご自身の書くものはSFだと思いますか?
「創元SF短編賞に選んでもらったのは大きいと思います。これはSFと違うと言われていたら別の道に行っていたかも。そもそもSFとは、個々の作品で判断するのではなく、作品を読み解くための鍵だと思っています。だから純文学でもSF的な読み方もできる作品があるし、ひとつの作品でも何の鍵を使うかで開く場所も異なってくる」

——普段はどのように執筆していますか?
「毎日少しでも書くようにはしていますが、ノルマは決めていません。1日3行でもいいし50枚でもいい。テンションが上がれば、推敲は別として1日30〜40枚書くこともあります。何か思い浮かんだときにすぐ書きたいので、執筆の時間帯も特に決めていません」

——お好きな画家は誰ですか? また絵を描くのと小説を書くのとでは違いはありますか?
「石田徹也、瀧口修造、会田誠。画家というより現代美術寄りですね。自分にとって絵と小説は、アウトプット直前までのプロセスは一緒なんです。ただ今は絵が描けていないので、その分のリソースが小説に行っている気がします。余裕ができたらまた絵を描いてみたいですね」

——芥川賞を受賞した感想は。
「連絡をもらったときは『ウソじゃないの?』と思いました。記者会見では、田中慎弥さんとか西村賢太さんみたいに面白いこと言わなきゃいけないのかなと思ったらプレッシャーが大変で(笑)。その後も取材が殺到してコロナ禍で引きこもっている分、日常との落差が凄かったですね。ちなみに賞金でプロンプトンの折りたたみ自転車を買いました。都内なら大抵の場所はこれで行くことにしています」

「自分の表現は世の中にとって必要じゃない。だから自分にとっては必然だと思うことにしている」という高山さんの言葉が印象に残った企画でした。

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 ■10月例会レポート by  

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■日時:2020年10月24日(土)14:00-16:00

■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:隣の本棚事情2020
●出演:北原尚彦さん(作家)、大野万紀さん(SF翻訳家・評論家)、渡辺英樹さん(SFレビュアー)、中根ユウサクさん(SFファン)

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SFファン生活を送る上で避けて通れないのが、蔵書の保存管理の問題。あの人の本棚はどうなっているんだろう?とのことで、今回はZoomを使って4名の方にそれぞれの本棚を〝実況中継〟していただきました。

【01】配列の美学——渡辺英樹さん
トップバッターは渡辺英樹さん。20年前に建てた自宅は、本の重さに耐えられるようにと軽量鉄骨造。2階が書斎兼書庫になっています。
渡辺さんのご自慢はコンプリートで揃えられたハヤカワ文庫SF。実は『ハヤカワ文庫SF総解説2000』の表紙の書影のうち1500冊分は、渡辺さんの提供だそうです。
壁一面のハヤカワ文庫SFは『さすらいのスターウルフ』から刊行番号順に並べられています。普段は使用済みのカレンダーを貼り合わせカーテン状にして、本棚の前に垂らすなど日焼け対策もバッチリ。背表紙が黄色いターザン・ブックスは、小口を表にして並べるという徹底ぶりです。ハヤカワ・SF・シリーズ、サンリオSF文庫も、もちろん番号順。ちなみに渡辺さんには双子の弟(睦夫さん)がいて、こちらもSFファンなのですが、蔵書は作家名別に並べているとのこと。渡辺さんいわく「作家別の並びが見たくなったら弟の家に行く」。
2階に入りきらない本は1階の段ボール箱に詰められていますが、ここでも渡辺さんの几帳面さが発揮され、箱の表には何が入っているのか一目でわかるようマジックで明記されています。一番上にあるのは〈星雲〉や室町書房などの稀覯本。なぜ一番上なのかというと「火事のとき真っ先に持ち出せるように」とのこと。
「本の床置きは絶対にしない」というだけあって、とにかく整然とした本棚でした。

【02】本の地層——大野万紀さん
続く大野万紀さんの部屋は6畳間×2部屋。片方が仕事部屋でもう片方が倉庫部屋。前者には21世紀に出た本、後者には20世紀に出た本が収蔵されています。
大野さんも床置きはしない派だといいますが、〈SFM〉の収納場所があちこちに散らばるなど、渡辺さんの本棚と比べるとやや雑然とした印象がありました。実は、以前はもう少しキッチリと並べていたのですが、阪神大震災で本棚が崩落して以来考えが変わったとのこと。
本棚に入りきらない本についてはプラスチック製の衣類ケースを活用。買った新刊はその上に積み、読み終わると隣にまた積んでいくのですが、ここで困ったことが少々。というのも未読の塔は新しい本ほど上に来るので、中途半端に過去の本は〝下の地層〟に埋まってしまい、読むのがどんどん後回しになってしまうそうです。
さて、文庫解説などの仕事で必要な本はどうしているのでしょうか。発掘してテーマ別に段ボール箱にまとめているそうなのですが、どうしても見つからない場合もあります。「そのときはあきらめて買う」と大野さん。
【03】謎の床——中根ユウサクさん
本の床置き問題について中根さんの場合「そこだけは絶対に見せたくない」と本人の強い意向で公開NGとなりましたが、「椅子を置くスペースがない」「本をまたがないと移動できない」というのですから……実態はまあ推して知るべしでしょう。
中根さんの書庫は2階の2部屋。もともとは1部屋だけだったのですが、隣の部屋にまで浸食が始まり奥さんの怒りを買ったため、あわててカラーボックスを買ったのだそうです。
中根さんの本棚で特徴的なのは、その収蔵本。SFというより、オカルト関係の本が圧倒的に多いのです。
ざっと眺めただけでも、妖怪博士と呼ばれた井上円了の全集、エジソンが晩年に書いた心霊本、ヤバい陰謀論本などなど。『南洋諸島の古代文化』という学術書っぽいタイトルもありますが、実はムー大陸を日本に初めて紹介した本だといいます。一見カオスながら、これらは中根さんなりの分類法で並べられているそうです。
中根さんによれば、戦前のエログロ雑誌には妖怪談が多く掲載されていました。戦争によって一旦は姿を消しますが、戦後カストリ雑誌として復活。人脈や出版社の流れを辿ると、これらが後のオカルト雑誌の源流となったことがわかるといいます。その中には、SF作家のショートショートを掲載していたものもあります。「かつてSFは、サブカルチャーとしてエログロと隣接していた」と中根さん。
蔵書を紹介しながら中根さんが連発していたのが「これはみなさん持ってるでしょう」というフレーズ。いやいや、フツーの人は平田篤胤の和綴じ本なんか持っていませんって。
このほかにも「階段は本棚になるんです」「昭和ヒトケタに出た本は最近の本」など中根さんの名言が炸裂したターンでした。

【04】ホームズ、ホームズ——北原尚彦さん
最後は北原尚彦さん。本棚があるのはリビングルームおよび隣接する6畳間。
壁一面に19世紀のホームズの原書が並ぶリビングルームの本棚は一見造り付けですが、なんとこれが喜国雅彦さんと手作りしたもの。はじめから大きなものを作ると本の重みで棚板が歪む可能性があるため、硬い木材でカラーボックス状のものをいくつも作って積み上げたそうです。

6畳間の書庫は、本棚をパーティションのように壁から突き出す格好で置き、「SF」「ホームズ関連」「ヘンな本」とスペースを三分割。ところがここで問題が発生しました。本棚の上にも天井に届くまで本が積まれていて完全な壁状態になっているので、部屋中央にある照明器具だけでは光線が遮られて、あちこちに暗がりができてしまうのです。そこで別にコードを引っ張ってきて数カ所に照明を設けてあります。

本棚に入りきれない本は上だけでなく本棚の前にも積まれ、その高さは胸のあたりまで達しています。縦置きの本と横置きの本が混在しているせいで、画像を見せられてもそれが正しい方向なのか、それとも90度横に回転しているのか判断がつきません。

ところで北原さんといえばホームズ。大学時代に早くも日本シャーロック・ホームズ・クラブに入会していた北原さんですが、もともと本格的な研究をするつもりはなかったといいます。しかし古典SF関係で明治の雑誌を読むとドイルの翻訳が載っていたりするなど、視点が広がれば発見も増えることに気づき本腰を入れるようになりました。
「僕はコレクターでないからコンプリートとか気にしない」という北原さんですが、デジタル化されていないホームズの映像ソフトのため、いまでもベータとVHSのデッキを現役で所有しているあたり立派なコレクターだと思いました。

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 ■11月例会レポート by  

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■日時:2020年11月21日(土)
■時間:午後2時〜4時
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:新たな時代の海外SFが読みたい!
●ゲスト:橋本輝幸さん(アンソロジスト、レビュアー)、大野万紀さん(SF翻訳家・評論家)、冬木糸一さん(レビュアー)ほか交渉中

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2020年11月・12月にはハヤカワ文庫SFから2000年代・2010年代の海外SF傑作選が立て続けに刊行されます。今回のファン交では同アンソロジーを編集した橋本輝幸さんを中心に、アンソロジーについてのお話を伺いました。
このアンソロジーが生まれたきっかけは『SFが読みたい!2020年版』に掲載された座談会。出席した橋本さんが「アンソロジーが欲しい」と言ったところ、大森望さん・鏡明さんから「お前がやれ」という雰囲気になり、同席していた編集部も乗り気で企画が始まりました。

作品選択を行ったのは主に今年1月から3月にかけて。橋本さんは『80年代SF傑作選』『90年代SF傑作選』『20世紀SF』を熟読し、アンソロジーの作り方を自分で解析したそうです。
今回の選択は作家ベース。まず収録したい作家の名前を挙げて、そこから作品を絞り込んでいったとのこと。2000年代は〈SFマガジン〉からの採録中心でしたが、有名な作品と入門者向けの作品のバランスに苦心したといいます。ちなみに中国作品も原書で読んで検討したとのこと。橋本さんは大学の第二外国語が中国語だったそうです。
作品の選択だけでなく配列もアンソロジストの腕の見せ場となります。2000年代でクレイジャズのショートショートを巻頭に置いたのは、重い作品が多いので、軽くとっつきやすいものから読者を誘い入れる意図があったそうです。「アンソロジストとDJは同じ」と橋本さん。
ここで話はアンソロジー一般のことへ。人はなぜアンソロジーを編むのかという問いに中村融さんは「自分の好きなものを他人に見せたいという こどもっぽい衝動」と言います。大野万紀さんは「作品を集めていくと、集めたものが独自の主張を始める」。また橋本さんにとっては「アンソロジーはSFの面白さを人に伝える一手段」だといいます。複数の人間がひとつのアンソロジーを編むことに関しては「性格の違う人間を組み合わせた方が面白くなる。ウォルハイム&カーみたいに頑固な年寄りと生意気な若造のコンビがベスト」と中村さん。

後半は近年における英米SF短編の動向について。
現在はウェブマガジンの隆盛もあって、発表される短編も増えています。このため年刊傑作選もテーマ別に細分化されていて、たとえばミリタリーSFの年刊傑作選、ロボットテーマの年刊傑作選、アフリカ系アメリカ人作家の年刊傑作選……などが出ているそうです。そして作品が増えすぎたことの帰結として大きなムーブメントや特定のトレンドが見えにくくなっていると橋本さんは指摘します。その代わり、大きなスケールでは見落とされていたテーマが作品化されるようになったといいます。
「大きな物語がやりにくくなっているのでは」という冬木糸一さんに対し、大野さんは「たとえ個人のことしか書かれていなくても、SFにはバックグラウンドとして大きな物語が存在している」と指摘します。ただ大野さんには、個人的な話が増えることが分断へとつながってしまう可能性への危惧があるようです。
現在の海外SFは従来のような英米一辺倒ではなく、作家レベルにおいても言語レベルにおいても多国籍化が進んでいます(竹書房からはイスラエルSFに続いてギリシャSFのアンソロジーが出るとか!)。このような細分化・多様化を踏まえながら、個々の作品をつなぐ役割が今後のアンソロジーには求められることになりそうです。

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 ■12月例会レポート by  

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■日時:2020年12月19日(土)
■時間:午後2時〜4時
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:頑張れSF大会〈大会応援シンポジウム〉&ファン交納会
●ゲスト:第59回SF大会スタッフ: (副実行委員長:武田康廣さん/菅浩江さん)
 第60回SF大会スタッフ:(副実行委員長:大谷津竜介さん、林田茂さん/企画局長:山崎晃さん/渉外担当:櫻井晋さん)

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2020年はコロナウィルス禍により、史上初めてSF大会の開催延期という事態となりました。が、考え方を変えれば翌21年は1年間に2回も大会を楽しめることにもなります。今回のファン交では第59回大会F−CON、第60回大会SF60のスタッフに、それぞれの大会についてお伺いしました。

●第59回大会
福島県郡山市で開催されるF−CONは、延期により開催日が奇しくも東日本大震災10周年と重なることになりました。震災で大きな被害を被った福島というだけでなく、コロナウィルス禍で開催されるイベントということで大きな注目を浴びているといいます。
目玉の企画は地元出身のZABADAKライブ。またオプショナル・ツアーで福島第一原発の見学など、福島の現状と関連した企画も進行中とのこと。そして大会のテーマは「明るい未来」。テーマに沿った未来観でやりたいと武田さんは言います。会場となるホテル華の湯は各種設備の整ったホテルで、受付もホテルのスタッフが手伝うなど全面的に協力してもらっているそうです。また食事処のレベルの高さも売り物だとか。
さて感染対策には万全を期すとして、気になるのは最近流行のオンライン開催です。この件に関しては「登録参加してくれた人には一部配信してもいいかな。ZoomではなくYou Tubeやニコニコ動画の活用を考えている」と武田さん。ただ全面的な配信にはさまざまなハードルがあり難しいようで、また何より武田さんが現地開催にこだわりを見せています。

●第60回大会
史上初めて四国で開催されるSF60。地元香川県・高松市の各観光協会からもバックアップを受けており、会場周辺の街路や店舗ではコスプレ可とのこと。これを受けて通常の参加より安価なコスプレ登録も検討しています。会場のサンポートホール高松は04年竣工の本格的コンベンションセンターで、高松港のすぐそばに位置し高層階からの見晴らしは抜群。また周辺には観光施設も多数あり、「企画のない時間帯は観光を楽しんでもらえたら」と大谷津さん。
またSF60の特徴は毎週金曜日に配信されるプログレスレポート(12月19日現在で何と70号!)ですが、これは「まとまった頁のものを散発的に出しても、1頁のものを毎週出しても、結果的に製作する頁数は一緒」という担当者の考えによるものだとか。
企画については開催まで間があることもあり、具体的に決まってはいないといいますが、今回は60周年を記念し、第1回〜10回大会の参加者を無料招待するそうです。そもそも高松で立候補したのは、以前ファン交の二次会で、四国開催の話で盛り上がったのがきっかけという秘話も明かされました。
「震災から10年経っても、まだ福島は風評被害に苦しんどる。そこへ今回のコロナウィルス禍や。でもSFファンはそんな中でも科学的に、冷静にものが見られる人たちだと僕は信頼しとる。こんな状況下でも楽しんでいる姿を見せたい」という武田さんの言葉が印象に残った企画でした。

本企画終了後はファン交初のオンライン納会。約40名が自己紹介、オススメSFの紹介などで盛り上がりました。

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