天保年間市中隠し売女吉原入札一覧

以下の表は『藤岡屋日記』に記載されているのを整理したものです。『甲子夜話』にも一部同じ記述があり、金額、人名などに異同がありますが、照合はしていません。また、このころ金１両＞銀65匁と思わますが、便宜的に金１両＝銀60匁としました（2004/06/29）。

〔天保三　『藤岡屋日記』〕
両国柳橋うなぎ[魚亶]屋にて普請ことのほか手広に造り商売繁盛いたし、婦人給仕の者あまたこれあり候につき、御糺しこれあり候へば、隠し売女いたし候につき召し捕られ、当人は遠島仰せつけられ、女は新吉原へ入札にて御払いにあいなり候。もつとも三ヶ年に限り、代金の儀は三ヶ年のうちに町奉行所へ上納いたすべき旨、仰せ渡され候。

〔天保四年分に関する『甲子夜話』〕
予、壮年の前……その折しも聞くには、世俗の岡場所と呼ぶ隠し売女屋、ときとしてはそのところの売女を穿鑿して町同心どもこれを捕へ庁所へ出せば、この女どもを吉原町へ下さる。これよりかの町の見番所の前に並べ置き、女郎屋中出て人々の見込みを入札にする。そのとき銘々の金高を捕へきたりし女の髻（まげ）に、紙に書きて結ひつくるなど、今に憶へゐたり。しかるに去年の夏か、都下の芸妓あるひは茶屋女など売色なる者、多く捕へられたりと聞きしが、たゞ風声のごとく聞き過ぎしに、近ごろ弓町へ能見物に行きて、計らず町同心某に会ひたり。このとき去夏のこと、並びに吉原町入札のことなど話し出でたれば、さればこれは実事にて、政道今に違はずとて去冬吉原町入札の本書を贈る。
……
ある人曰く、「右吉原町入札の金は、それのみにて取り上げはなく積み金になし置き、かのところ非常の備へに申し付けある」と。……またある人曰く、「浅草平右衛門町の芸妓、ふき、小さんと言ひしは本来身上よき者にて、地面なども多く持ちゐたり。しかるにこのたび右の成り行きに及びたれば、かの町の花魁になれば、おほむね吉原町中の総芸者に仕着せをなす。しかれども、かれが仕着せは受けじと言ひ合ひけるを聞きて小さん言ふには、『かく言ひ合ふうへは、我が持ちゐる千両地面二所を売れば千余金を得るべし。これを年限三年中の揚げ代として身揚げして過ごすべし。されば客に出るにも及ばず。また置き主への申し訳も済むべし』と言ひし」と。

〔天保十二　『藤岡屋日記』〕
去子年（天保十一）十一月中、北御番所遠山左衛門尉殿へ召し捕られ、隠し売女は新吉原へ売り渡し、……宿をいたし候者どもは所御構にあいなり候。右のほかに病人などこれあり、総高六十五人のうち五十三人の者、隠し売女身売りいたし候者、天保十一庚子年十二月四日召し捕られ、同月中御吟味にあいなり、同月廿五日落着。吉原へ下され候事。あと十二人は同月十二月廿三日、北御番所へ召し捕られ、同月廿九日落着。即日に吉原へ下され候事。