真情春雨衣 二編

春雨衣二編叙

黒羽玉(ぬばたま)の闇に薫を覆(かく)す吾妻男は、不佞(やつがれ)の莫逆(ばくげき)、韓雲孟龍の島屋連(けつなかま)なるが、嚮(さき)に春雨衣と題する著編(あらは)ししを披閲(みる)に、彼(かの)道灌が秀逸なるてふ、いそがずばぬれざらましとハ裏表(うらうへ)にて、濡て嬉しき玉櫛笥(たまくしげ)箱根の温泉(いでゆ)の奇遇の一ト幕ハ、其情夜半の春雨より微細(こまやか)にして、軒の玉水ならねども、流(つた)ふ涎の音たつる迄、己(おのれ)徒(いたづら)に春心を發(おこ)し、睫(まぶた)をさげ、適快乎(あゝよや)と支躰(したい)に汗して美快の味を渇望(うらやみ)つゝ、恍惚たる折節、茅舎を訪(とぶ)らふ者あり。胡亂堪(うろたへ)て擾攪(とりちら)せし雑書(ふみ)を傍(かたはら)に掻遣(かいやり)、誰人(たそ)と視(みれ)バ、是(これ)別客ならず、城北の好男子一丁主人(いつちやうぬし)にて、懐より春雨衣二番目の稿(したがき)を出(いだ)し、予に叙詞(はしがき)せよと託するに、辭(いなみ)もやらず尾先眞闇(をさきまつくら)、無闇に是を引請て、さきばしりの婬水を硯にたらし、椎の實の龜首(かりくび)を嘗(なめ)、出放題にかきちらす、是を所謂、帋費(かみづひえ)の爲故(わざ)ならんかしと云。

銭湯(ゆや)で視たより大莖(おほきな)午(うま)の春
玉陰(まめ)見て太平の腹太鼓を打つゝ

婦多川の婬士
志亭婬賀述


真情春雨衣二編巻之上

東都 吾妻雄兎子戯編

第七回 遭(あふ)た初手から身に染々(しみ%\)と こらへ情なくなつかしい

 灯台下暗しというように、近くにあるのに遠くを探し、本(もと)を捨てて末を求める過ちがないわけではない。
 お春は熱海で権太郎がお杉に話したその座の余興を真実と思い込み、玉次郎を扇ヶ谷(おうぎがやつ)にある秩父家の若殿と信じて、いま一度会いたいがため、夫を持つのは嫌と言い張り、親の意見や腰元・親類の助言も聞き入れずに、つてを頼って秩父家の奥女中となった。
 金右衛門は、お春が拒んだら姪のお染に婿を取らせて、家を相続させよう決めていた。お染はお春の手前もあって婿取りを躊躇したが、お春からも強く頼まれてしかたなく了承した。
 見合いの当日。お染は美麗に美麗を尽し、わざと供の数を少なくして、金右衛門と見合いの場所である二国橋の青柳亭へ、玉次郎は見合い話を持ちかけてきた多良福屋の横浜の出店の主人・銀兵衛に伴われて向かった。その道中、玉次郎は先方の娘がお染ではなくお春に違いないと信じて疑わず、多良福屋も相手が自分と知っての見合い話だろうと思っていたので、銀兵衛の話にも生返事を繰り返して青柳亭に着いた。
 銀兵衛が奥の座敷へ玉次郎を案内すると、玉次郎を見た金右衛門は思わず膝を叩いた。
金「これは、これは。相手とは玉次郎さんであったか」
 と言われて、玉次郎は金右衛門が何も知らなかったことに気づいた。
 お染はこの夏、熱海であったときから、玉次郎が男前であるのみならず、その利発さに、女と生まれたからには夫とするなら玉次郎のような男を、と願っていたので、その思いが通じたのかと、おぼこ心にうれしいやら恥ずかしいやら、顔を赤らめている。玉次郎は相手がお春ではなかったことにいささか拍子抜けしたが、これにもなにか子細があるのだろうと様子をうかがうことにした。金右衛門の喜びようはひとしおではなく、改まった席だが旧知の間なので遠慮はいらないと、たちまち酒宴になった。
 翌日、金右衛門が銀兵衛を介してこの縁談を結びたい旨を伝えてきたとき、玉次郎はそれとなくお春のことを尋ねてみた。銀兵衛はうなずき、「たしかにお春は金右衛門の娘なのでそれに婿を取らせるのが順というものだが、どういうわけか男を嫌い、一生奉公がしたいと言い出し、いろいろ意見はしたが、聞き入れなかった。もっとも、お染にも家を継ぐだけの理由があったので、結局、このようになった」と話した。
 お春が婿を嫌うのは、もしや自分との情合(わけ)があったからかもしれない、と玉次郎は訝しんだが、ひとまず先方のいうのに従って様子をみることにし、よろしく媒妁をお願いしたいと縁談の申し出を受け入れた。それからの両家は慌ただしく、結納の取り交わしも首尾よく済み、すぐに婿入りの日を迎えた。
 権太郎は婿入りする玉次郎に従って多良福屋にやってきた。脚気が癒えるとすぐに上方より戻ってきていたのである。一方、お杉はお春が秩父家へ奉公に上がるとき、一緒に連れていこうとしたが、権太郎とのことがあったので、理由をつけて残り、お染の世話をしていた。
 暮れ方になると婚姻の祝宴はいっそう賑やかになり、奥も表も台所も酒盛りとなって、誰も彼もが踊ったり唄ったりと、いよいよたけなわになっていく。そのどさくさ紛れに権太郎とお杉はちゃっかり場を抜け出し、庭の築山の陰にある芭蕉堂に忍び込んでいた。
 梢から洩れる月明かりにお杉は身を背け、
杉「わちきゃァ、無理に飲まされたので、たいそうに酔いましたわ」
 ほんのり赤い顔をして、胸のあたりをなで下ろした。
権「おいらも滅法界に酔った。そりゃァそうと長いこと二人が抜け出していたら、気づく者がありゃァしめえかな」
杉「もう、すぐに逃げ支度をする。だからお前さんのお言いなさることは信用できないのだわ」
権「様子がわからねえから、気味が悪くってならねえ」
杉「気の弱い。ここへは誰もくることはございませんよ」
権「だけど、ほかにもこのような不埒な者があってみねえ。ちょうどいい場所だからと、くるとも限らねえ」
杉「そんなにここがお嫌なら、さっさとお行きなさいよう。憎らしい」
権「またご立腹だ」
杉「アレサ、もったいない。どうして腹を立てましょうか」
権「先刻からいじめられどおしだもの」
杉「おや、嘘ばっかり。ほほほ」
権「しかし、縁とは不思議なもの。玉さんがお染さんの亭主になるとは思わなんだ」
杉「本当にわからないものでございますねえ」
権「お春さんは玉さんが婿に世話されたので、それを嫌って一生奉公に出たのじゃねえか」
杉「いいえ。お染さんのお見合いの日まで、お婿さんが玉次郎さんだろうとは、誰も知りませんでしたもの」
権「おいらの料簡じゃ、玉さんとお春さんはただならねえ仲と思っていたが、そうでもなかったとみえる」
杉「ほんにわちきもそう思っていたのでございます。だからお婿さんが玉次郎さんだとお聞きなすったら、きっと後悔なさることでしょう」
権「すると、お春さんはまだ玉さんのことを知らずにいるのだね」
杉「はい。誰も申し上げてないから、ご存じありますまい。きょうも『お屋敷にお差支えがあるから』ときませんでした。近いうちに、うちへいらしって玉次郎さんとお会いなさり、びっくり遊ばすことでございましょう。しかし、その前にわちきがきょうのお祝いのことをお屋敷へ申し上げるかもしれません」
権「お染さんもお可愛いから、どっちみち、玉さんは幸せだなァ」
杉「お前さんだって上方とやらで、京女郎の美しいのとどんなお楽しみがあったか、しれたものじゃありゃしない」
権「先刻も言ったとおり、脚気になって帰るにも帰られず、と言って、おめえとの約束があるから、尋ねて行かなんだから不実な者と思われる。百二、三十里も離れて寝ていて気が気じゃなかった」
杉「ほんに冗談ではすみません。熱海から戻ったらすぐに尋ねるとお言いなすったのに、毎日、毎日お待ち申してもお出でがないので、どんなに気を揉んでおりましたことか」
権「ほかにいい人ができたから、戻ってこなけりゃいいと思ってたんじゃねえか」
杉「あれまァ、自分と同じように、人をも浮気者にしたがる」
権「馬鹿なことを。実を言うと、女とは熱海でおめえと交合(なん)したっきり、これっぽっちもさわっちゃいねえ」
杉「本当かえ」
権「神にかけてさ」
杉「それじゃァどこかはさぞや」
権「ところが脚気だからそうはいかねえのさ」
杉「してみるとなおさら怪しいねえ」
権「怪しいも怪しくねえも、そこに祭ってあるのは何の神さまだ」
杉「あの芭蕉さまのお木像でございます」
権「それじゃァ罰はあたるめえ」
杉「罰とは」
権「なにさ、こうして」
 権太郎はお杉の襟に手をかけて引き寄せ、顔へぴったりを顔を押し付け、股へ手を入れてまとわりつく湯巻をかき払い、玉門をさぐりかかった。お杉は股を緩めて男の顔に熱い息を吹き掛けた。
杉「お酒くそうございましょうね」
権「おいらも匂うことだろう」
 口へ口を差し寄せると、女が目を閉じて舌を出してきたので、すっぱすっぱと吸いながら、そのまま押し倒して腰を割り入れ、つづけざまに誇りきった逸物をぬっと突き出し、つばもつけずに堅くうずいている玉門の割れ目へとあてがい、腰を押し出した。ずぶずぶと根まで入った小気味よさに思わずはっと鼻息をつき、女の体を抱き締めると、女も男の首筋にしがみついて身を震わせた。
杉「どうしてこんなによいのだろう」
 男の顔へ額をすりつけ、そろりそろりと腰を持ち上げると、男も上からも突きたててくる。そのとき座敷から祝言のうたいが聞こえてきた。
うたい♪「四海波静かにて、国も治まる時つ風、枝をならさぬ御代なれや」
権「聞きねえ。座敷が引ける様子だが、いいのか」
杉「いいよう。またいつ会えるかしれないもの」
権「久しぶりのせいか、陰門のふちで玉茎が絞られるような心持ちだァ」
杉「わちきももう気が遠くなってきた。アレサ、じらさずに突いておくんなさいよう」
権「奥のほうをか。ああ、すっぱり子宮(こつぼ)へ鈴口が」
うたい♪「あいに相生の松こそ、めでたかりけれ」


第八回 桃と桜を両手にかけて どれが実になる花だやら

 立て回した屏風のうちの布団の上で、玉次郎とお染が一つ夜着にくるまって枕を並べていた。
玉「縁というものは不思議なものじゃねえかのう」
染「出雲の神さまがお結びなさるというのは、本当でございますかねえ」
玉「名を書いたこよりをよって、くっついた男と女を夫婦にするという話だ」
染「それじゃァお前さんのお名前のこよりと、わちきの名前のこよりがくっついたのでございましょうが、あなたはとんだご迷惑な目にお合いなすったことでございましょうねえ」
玉「迷惑どころか、こんな可愛いのを女房に持つとは、男冥利につきるというもんだ」
染「嘘をおつきなすって。憎らしい」
 と言いながら、男の顔をじっと見てにっこり笑いかける愛敬は、雨にほころぶ海棠(かいどう)といったところであろうか。八重桜の匂いがこぼれる風情である。
玉「それはそうと、お春さんはどうして婿取りを嫌って奉公に出たのだろう」
染「どういう訳やらわちきにもさっぱりわかりません。お春さんをおいてこの家の跡を継ぐのは、誠に気が済まないのでございますが、叔父さんや親戚の者がみんな申しますから、よんどころなく従いました。しかし、あなたとこうになってみますと、人の言うことを聞きましたのはわちきの」と言いかけて口ごもり、恥ずかしそうににっこりする。「もうよしましょう」
 お染は顔を隠した。
玉「こりゃァおかしい。言いかけたことをやめることがあるものか。それともおいらに話すのが嫌ならしかたねえけれど」
染「そうじゃァございませんが、何だか申しにくくって」
玉「なに、聞かないでもよい。どうせ話すのが嫌なのだろうから」
染「そうではございませんよう」
玉「じゃァ言ってもいいじゃねえか」
染「そんなら申しますがね、お笑いなすっては嫌でございますよ」
玉「笑うものか。ごく真面目だ」
染「それでは言いますがね、この夏、熱海で初めてお目にかかったときから、あのう、どうかあなたのようなお方をと思っておりました。そして、この家の跡を取るようになったばっかりに、こうしてご一緒になって」と言いかけて、また恥ずかしそうに口ごもった。「もうお終いでございます」
 燃え立つような緋鹿子の下着の袖で顔を覆い、差しうつ向く姿が愛らしい。玉次郎はお春に会ってその胸中を聞くまでは、たとえお染と同衾しようとも、体よくあしらって妹背の契りは交すまいと決めていたが、お染のこの可愛らしさを目の当たりにして恍惚となり、もとより酒に酔ってもいたので、その決意はどこへやら。このままどうなろうと、釈迦や孔子ならいざ知らず、柳下恵ならこれがどうして辛抱できようかと、自分勝手な理屈をつけて、とうとう堪忍袋の緒が切れてしまった。むっくりと亀頭(あたま)を持ち上げた玉茎(いちもつ)をお染の腹にぴったりと押し当てる。
玉「そんなうまいことを言ったって、どうも本当とは思われねえ」
染「いつわたくしが嘘を申しましたでしょう」
玉「ほかに情合(いろ)がいるという噂を聞いたもの」
染「誰がそんなことを申しましたえ」
玉「いい人がさ」
染「憎らしい。人が知らないことを申して」
玉「本当に知らないのかえ」
染「嘘か誠かお杉に聞いてごらんなさいまし」
玉「お杉に聞くより、ここを改めてみたほうが早い」と言うや、お染の体を抱き寄せ、片手を股に割り込ませて内ももを探りかかる。お染は脚を縮め、身を固くしてもじもじした。「それごらん。このように嫌がるのが論より証拠」
染「アレ、嫌ではございませんけれど」
玉「嫌でなければ、もっとこうして」
 玉次郎は女の脚の間へ片足を割り入れて股を閉じられないようにし、陰門をさまざまにくじりかけた。額口がむっくり高く膨れ、空割の止まりに少しばかり生えた薄毛がもやもやとさわる。なおもとろりとろりと撫で下げて、割れ目へ指を進ませると、雪中の梅花のように花びらは堅く閉じていたが、ひとたび東風が吹けば、たちまち萌え出だすような初春の風情である。やわやわとくじりかけただけで、開中は湯のように温かくなり、ぷよぷよとしたみかんの袋のようなもの、あるいはなぎなたほおずきのような肉が、まとわりついてくるのを探り分け、子宮(こつぼ)をぐりぐりくすぐると、淫水がぬらりぬらりと涌き出て、指を伝わって流れてきた。
 お染は、夢のような、恥ずかしいような、怖いような、嬉しいような気持ちがこもごもとなり、胸がドキドキ、鼻はつまり、上気した額口を男の顔に押し付けて、ただぜいぜいと息をするばかりであった。
 開中が十分に緩んだのを見届けた玉次郎は、大腰をぐっと割り込ませて上から本手に乗りかけ、節くれだった上反りの茎節高男根(かりだかまら)につばを塗りたくり、女の脇の下へ手を差し入れてその体を抱え込みながら、片手で玉門(ぼぼ)の割れ目をこじ開け、玉茎(へのこ)の鈴口をあてがう。そして、ちょこりちょこりと突きかけると、ぎっしぎゅっときしみながら半分ばかりが入った。女が身を引いた。
玉「痛いかえ」
染「痛くってもようございます」と言うが、口ごもって聞き取れない。
玉「いますぐによくなるから、我慢しておいで」
 なおも少しずつ抜き差しすると、頬張るようにまとわりついてきて、互いに洩らす淫水のぬめりで根までずぶずぶと苦もなく収まった。こうなっては、もはや気づかうことはあるまいと、男は下を突き、上を突き、浅く深くこねくり回すと、それに合わせて、玉門も玉茎を食いしめ、吸いついきた。格別の味わいである。
玉「だんだんよくなってきただろう」
染「はい」
玉「ここをこうするとどうだえ」
染「ようございます」
玉「こちらは」
染「そこもようございます」
玉「もっと奥のほうは」
染「そこもどこも、誠に交合(いろ)とは、どうしてこれほどよいのでございましょう。
 女が腰をひねって、初めて「フンスウ」とよがりの鼻息を立てた。玉次郎はこれに気を得て、口を吸ったり、乳を吸ったり、秘術を尽して交合(おこな)えば、新開(あらばち)ながらお染も年ごろの娘なので、男と会うとはどういうことか、交合(し)てみたい、させてみたいと思う気持ちが子宮(こつぼ)の奥でしこりになっていたのを、玉茎(まら)の亀頭(あたま)で何度も突きたてられたので、たちまち開中がむずむずとしびれるようになり、思わず男にしがみついた。
染「アレ、なんだか」
玉「どうかしたのか」
染「いいえ。どうもしません」
 恥ずかしそうににっこりして顔を背けると、髷にかかった緋鹿子の布がぱらりと落ち、梅花の香りがふくいくと鼻を通して腸(はらわた)に染み込んできた。玉次郎が夢うつつにひたすら腰を遣っていると、お染も誰に教わるともなく、こわごわと下から腰を持ち上げるので、抜き差しするたびごとに、ずぼり、くちゃりという音がして、気持ちよさが総身を貫く。男はついに堪りかねた。
玉「おいら、もう気をやるよ。ああ、よくって、よくって、しかたがねえ」
染「わたくしも気がいくというのでございますか、なんだかどうも、あれえ」
 と言いつつ腰をひねり回した。玉門の奥よりじくじくと湯よりも熱い淫水がわき出し、玉茎の亀頭をゆであげる。玉次郎は顔をしかめ、「それ、いく、いく」と言いながら、上反り玉茎に脈を打たせ、ほとばしるがごとくに、腎水をどきん、どきんと弾き込んだ。女も「あれえ」と身を震わせて、互いにしたたかに気をやりつくした。しばらく抱き合って、ようやくほっと一息ついた。
玉「切なかったろう」
染「いいえ」
玉「初めは痛くっても、終いにはよくなったろう」
染「はい」
玉「紙はどうした」
染「わたしが持っております」
玉「ここへ出しな」
染「はい」
玉「こうして持ってな、そのまま玉茎(へのこ)の根を握って。いや、もっとしっかりつかむのだ」
染「何だか間が悪くって」
玉「それはお前の役だから、覚えてもらわねえと困るわね」
染「こうでございますか」
玉「そうさ。そしておいらが腰を引いて、すぐにおめえもその紙で始末するのだ」
染「あなたはたいそう巧者でいらっしゃいますねえ」
玉「そりゃァ稽古をしたもの」
染「憎らしい。どなたに教わりなさいましたえ」

春雨衣二編上 


真情春雨衣二編巻之中

東都 吾妻雄兎子戯編

第九回 お顔見ながら物さへいはず はたの人目が吉野川

 木場の多良福屋では婚姻が首尾よく整い、諸事が滞りなく済んだので、翌日、そのことをお春のもとへ知らせるため、お杉を使いに出そうとしたが、出入りの職人や地主、あるいは懇意にしているほうぼうから人がひっきりなしに訪れたので、なにかと手間取り、はや昼過ぎになっていた。
 そのときお春がやってきた。ほかでもないお春がやってきたというので、一同が「お嬢さまがお出でだ」と騒いでいるとき、そうとは知らない玉次郎が、見世の用事を済ませようと奥から出てきたので、今度はお春がびっくりした。
春「あなたは玉次郎さんではございませんか。どうしてここへ」と言いながら駆け寄りたいのを、あたりを見回してぐっと堪えた。「誠にお久しゅうございました」
玉「ほんに湯治湯でお目にかかったきりでございましたが、不思議なご縁で」
 と口ごもっているところへ、お染とお杉も奥からやってきた。
染「まあ、姉さん。よくいらっしゃいましたね」
杉「ただいまお座敷へ上がろうと思って、仕度をしかけたところでございます」
春「そうか。すれ違いにならなくてよかった」
染「さあ、まあこちらへ。おとっつァん、姉さんがいらっしゃいましたよ」
 お染が先になって案内する後をお杉が追う。お春は玉次郎がここにいることを解し兼ねながらも、こがれにこがれた恋人にやっと会えたうれしさに飛び上がるばかりであったが、人目があって言い寄る術もなかったので、素知らぬ顔をして父の待つ居間へと向かう。玉次郎はいつかこの日がくることを予想してはいたが、実際にこうなってはどうすることもできず、もじもじするばかりであった。
 ことの委細を話したのは金右衛門だった。お春は玉次郎がお染の婿になったと聞いて、呆然とするばかりで、しばし、言葉も出なかった。
 事情を知らないお杉が傍らよりいそいそとして、「あのう、玉次郎さまがお染さまのお婿さまにおなんなさるとは、まァ、不思議なものではございませんか。きのうは権太郎さんもお出でなさいましたよ」
染「ほんに権太郎さんは相変わらずお元気だねえ」
杉「権太郎さんが『ぜひお春さまとお目にかかりたいから、お宿下がりのときは知らせてくんな。楽しみにして待っている』と言ってでございました」
春「そうか。わちきもお目にかかりたかったねえ」
染「きのうの姉さんからのお使いでは、『お障りがあって四、五日、お出でができない』というお文でございましたから、よくまァ、いらっしゃられましたねえ」
春「本当は出られなかったのでございますが、奥さまが『いいから参ってこい』とおっしゃいましたので、下がることができました」
金「ときに杉や、玉次郎を呼んできなせえ。知っている仲とはいえ、改めてお春に引き合わさなァなるめえから」
「畏まりました」と出ていったお杉は、間もなく玉次郎を伴って戻ってきた。
金「さあ、入りなせえ」
 玉次郎が会釈しながら入ってきた。
金「ときに婿どの。そなたもかねて知ってのとおり、お春はわしの娘だが、どうしたことか、一生奉公がしたいというので、お染に跡を継がせた。お染よりひとつ、ふたつ、年上なので、お春を姉と思うようにと、お染にも言いつけてあります。これからなにとぞそのつもりで、わしが死んだ後までも力になってもらいたい。コレ、お春。そなたも万事玉次郎に相談して、何ごとも奥底なく仲良くせいよ」
 お春はうつ向いて「はい」と返事はしたものの、伊豆の熱海で玉次郎と契りを交わしたその日より、忘れる暇は泣くばかり、再び会いたいの一心で扇ヶ谷のお座敷と聞いたのを真に受け、父(とと)さまや人の意見を聞かずに自分勝手な理由をつけ、秩父さまのお屋敷へあがってはみたが、ご家老をはじめとして、玉次郎らしきお方がいないのはそもそも道理。そして、自分の婿にという話が出てきた米沢小路のお人こそ、恋しい人だったとは、どうしてこのような結末になるのだろう。煙草断ちやら茶断ちなど、あまりに無理な願掛けをして、祈りすぎた神さまや仏さまの御罰であろうか。お春はそう思いながら、溜め息をついて、しおしおと打ちひしがれるばかりであった。
 玉次郎は、お春の真意は解せなかったけれど、もしや自分のことがあって婿取りを嫌い、奉公に出たのだろうか、よく訳を聞いてから、と思っていたのに、酔った上でのことといいながらも凡夫の浅ましさ、おぼこのお染の愛らしさに心移りして、妹背の契りを交わしてしまったのは、不実な者と恨まれるだろうと、いまさらながら後悔した。
 お杉が立ち上がった。「もし、お春さん。表のお座敷はお客さまでごった返していますから、奥の離れ座敷へいらっしゃいましな。ねえ、お染さま。そのほうがよろしゅうございましょう」
染「ああ、それがいいよ。さあ、姉さん、あなたはよそのお客さまだから、行き方をご存じありますまい。わたくしがお連れ申しましょう」
春「あの、お杉や。連れてきた供の者を頼むよ」
杉「畏まりました。お竹どんとお松どんですね。奥へ参れと申しましょうか」
春「いや、お屋敷を出るのは久しぶりだから、みんなとたんと遊ばしてやっておくれ。それと持たせてきたものがあるから、それを持ってこさせて」と言いながら、お染に向い、「では、参る道を存じませんから、お案内を申します」
 お染はお春を奥座敷へと連れていった。お春の供の腰元らは、お春からの玉次郎とお染への土産を並べ、着替えなどを運び、お春の指図で勝手より酒、肴をその奥座敷へ運んでいく。
 金右衛門と玉次郎が客の絶え間を見はからって奥座敷へやってきた。だが、お春は鬱々として楽しくない様子である。玉次郎はどうにかしてこちらの訳を話し、お春の心を開きたいと思っていたが、人目が多くて近寄ることすらできず、いらいらしていたとき、一計を案じて座敷を外した。
 しばらくして奥座敷に戻ってくると、運の良いことにお春の腰元がいるばかりで、お杉やお染はいなかった。玉次郎は懐より本を取り出し、お春に差し出した。
玉「これは遊喜連でこしらえた端唄の替え歌。ずいぶんとよい句がございます。お慰みにどうぞ」
春「おや。面白そう。遊喜連と申しますのは、たしか本郷あたりでございましたっけねえ」
 何気なく本を手にとって開くと挟んであった文が見えた。『お春さま 玉次郎』とある。そしらぬ顔をして次の頁を二つ、三つ、読んでみた。
玉「まあ、ごゆるりとご覧なさい」
春「それではそういたしましょう。少しの間、お貸しなすってくださいまし」
 と言いつつ立ち上がり、本を供に持たせてきた袱紗包(ふくさづつ)みに仕舞い、文はそっと取り出してたもとに隠す。折しもまた客が来訪したという知らせに玉次郎は出ていった。
 お春は二、三日、ここに逗留するつもりだったので、供の着物を着替えさせた。「みんな、どこへとも勝手なところで行って遊んでおいで。わちきは表を少し見てくるから」と言って、酒や肴をそのまま残し、母屋へと出かけていった。お染やお杉の手伝いでもするのだろう。
 かくしてその日は暮れていった。夜になるとあちらこちらにいた客も一人、二人と帰っていき、賑わっていた家の中もすっかり静かになった。夕べの夜通しの疲れを今宵は癒そうと、奥も見世(おもて)もおのがじし、それぞれ臥し所で休んでいるのだろう。

 遠寺の鐘が耳元近くで聞こえてくるような静かな夜中。玉次郎は昼より明るく照る月と、ねぐらより離れて鳴く烏の声で目を覚ました。首をもたげてあたりをうかがうと、末枯(すが)れて鳴く鈴虫の声や鼠が天井裏で走る音だけが聞こえてくる。枕を並べて寝ているお染も熟睡の最中だった。玉次郎はひそかに寝床を抜け出し、廊下の雨戸をそっと開けて庭に出、飛び石や芝生を伝い、かなたの座敷の軒下を木だちの陰からそっと透かし見た。雨戸が一寸ばかり開いていて、内から光が洩れている。玉次郎は一人合点してうなずき、なおも忍び足でそこへ行き、しばし様子をうかがってから、雨戸を爪でとんとんとはじいた。うちからそっと雨戸が開いた。


第十回 思ふお方と夏吹風は そつといれたや我閨(わがねや)へ

春「さあ、お入んなさいまし。よくいらしって下すったねえ」
玉「誰もいやしまいね」
春「わたくしばかりでございます」
玉「じゃあ安心だ。気味が悪かった」
 玉次郎が上がると、お春はすぐに雨戸を閉め、「こちらへ」と自分の臥し所へ連れていった。寝間着姿の玉次郎は寒そうな様子である。
春「ほんに薄着で風邪でもめすといけませんから、お嫌でしょうけれど、布団の上でその夜着を羽織っておいでなさいまし」
玉「そりゃァありがたい。なにとぞそうさせておくんなせえ。だが、そうするとお前さんがお寒かろうから、一緒にここへと言いたいが、熱海のときと違ってお前さんは男を嫌ってご奉公においでなすったということだから、そういうわけにはいきますまい」
 お春はほろりと涙をこぼし、うらめしそうに玉次郎をじっと見た。
春「何ごともみなお約束ごと。月下老人(むすぶのかみ)の意地悪と堪忍しておりますが、あなたが熱海をお発ちのとき、お杉へのお手紙に『鎌倉へ戻っても必ず尋ねていく』とありましたのは、『待っていろ』とのわたくしへのお言葉かと思いましたから、湯治もそこそこにこちらへ戻ってからは、栄耀(えよう)を控え、母(はは)さまへの墓前にも参らず、きょうはあすはと明け暮れお待ち申しておりましたのに、一向にその気配がなく、恨めしく思っておりました。権太さんがお杉に、玉次郎さんは扇ヶ谷のお屋敷の若殿さまだと言いなすったというのを聞き、おなたのお召していたお羽織りに桐の御紋がついていたので、秩父さまに違いないと信じたのでございます。婿を嫌って宮仕えをしたのも、あなたにお目にかかりたい一念。それに引き替えてあなたは、わたくしをお嫌いになり、わたくしが家にいないのを幸いに、お染さんと二世かけて変わるまいとのお契り、きょうまで知らずにおりました。女子(おなご)の愚痴と思し召そうが、こうしたことになるならば、隠しおおせもせぬ仲ではございませぬか。一言、かくかくと得心させて下すったら、あきらめようもございますが、あまりにつれないそのお心。恨み申して思いわずらう折節、本に挟んだ先ほどのお文に、言いたいことやまたこちらからも聞きたいことがあるからと、昼は人目があるので今宵、庭づたいに忍んでいくからというお教えでしたので、連れてきた女子を二間も三間も隔てたところへ寝かしつけ、捨てられた身の未練、ふけゆく鐘の音を指折り数え、長い夜を今宵はいっそう長く覚えてお待ち申しておりました。心にもない奉公や男を嫌うというのもあなたゆえ。いかにわたくしがお嫌でも、これほどまでに思う心を不憫と思(おぼ)し下さいまし」
 と涙ながらに言われて、玉次郎は首をうなだれ、思わず太い溜め息をついた。
玉「なるほど、そう思うのはもっともだが、それも段々のわけがある。まァ、しかし、それにしても寒い。腹も立とうがここは堪忍して、さあ、こちらへお入り」
 さあ、さあと無理に手を取り、お春の背中へ被っていた夜着をかけた。
玉「ふとした縁から、数ならぬ身をそれほどまでに思ってくれているというお言葉、ありがたいやら、嬉しいやら、男冥利につきるというもの。我が身ながら嬉しく、たとえひとつしかない命でも、お春さん、お前さんゆえなら惜しいことがあるものか。こういうと言い訳にしか聞こえないが、伊豆から戻るとほどなく親父はあの世の人となり、朝夕、仏名を唱えてまたたく間に四十九日が過ぎ、喪も明けたので、お訪ねしたいと思っているところへ、横浜町の銀兵衛さんが言って寄越したこの縁談、お前さんのほうではわたくしと知ってか知らずかわからなかったが、こうなってはなおさらお訪ねすることもできず、いよいよ見合いの当日。青柳亭へ行くまで相手はただ一筋、お前さんと思っていたのに、お染さんだったので、いささか気が抜けた帰り道、銀兵衛さんに様子を聞くと、お春さんは男を嫌って秩父さまへご奉公にあがったと聞き、もしやこの身の情合(わけ)ゆえに婿を嫌っての宮仕えかと自惚れの当て推量をしながらも、さてどうしたものか、名案も浮かばないので、ともかくお目にかかり、お心を聞いた上での分別と、悪い覚悟も恋の意地、思いは同じ富士浅間、絶えぬ煙のもやもやを言う前に先を越され、お前さんに怨まれてはいまさら言い訳がましいけれど、朝夕祈る神にかけて不実な心は微塵もない。あれこれの間違いからこうなったものの、お前さんさえお捨てでなければ、わらしは何がどうなろうと切れる心は少しもない」
 初めて知った男の心にお春は顔をほころばせた。
春「承ってみればみるほど段々の間違い、そうとは知らずにお恨み申しておりましたが、あなたはわたくしだと思し召し、ご相談なすったのをわたくしは露知らず、こうしたことになったのも、表向きはご一緒になれないご縁でございましょうか。それならばしかたがございません。お染さんには申し訳ないが、そうおっしゃるのが本当なら、なにとぞこれからお見捨てのなきよう」
 玉次郎はお春の手を取った。「そんなら心は解けたのかえ」
春「はい」
玉「きっとかえ」
春「そんなに御念をお押しなすったら、あなたがお困りなさるんではございませんか」
玉「困るか困らねえか、このままではわからないから、ちょっと横になってごらん」
 玉次郎はお春の背中に手を回して抱きかかえ、夜着をすっぽりと覆った。お春は肩ひじをつきながら、かんざしで行燈の明かりをかき立てて男の顔がよく見えるようにし、恥ずかしそうにその顔をじっと見つめた。
春「こんなことがお染さんに知れたらどうしましょう」
玉「どうせ始まりっからこうする覚悟。もとはこっちが本家なのだ」
春「だけど、かような訳になってしまい、実に悔しゅうございます」
玉「なぜそんな形(なり)をしているのだ」
春「何か枕になるものを持って参ろうと、考えているのでございます」
玉「枕は一つでたくさん。もっと体を横にして」
 と自分がしていた枕をお春にあてがった。
春「それではあなたのなさるのが」
玉「なんの枕がいるものか。その代わりに」
 と襟の下へ手を入れて抱き締めながら、もう一方の手でお春の前をはだけ、羽二重よりもすべすべした股へ両足を割り込み、半分、女にもたれかかりながら、胸に頬を押し当て可愛い乳を吸った。薄毛の玉門(ぼぼ)をくじりかけると、はや淫水がぬらぬらと潤ってくる。玉次郎はいっそう勃起(おった)ちかえり、張り裂けんばかりになっている陽物(いちもつ)をお春に握らせた。お春は無言のまま握る手に軽く力を込め、男がさらに空割や紅舌子宮(さねこつぼ)の口あたりまでを、まんべんなくくじるのにあわせて、少しずつ腰をもじらせた。
 玉次郎は本手にぐっと乗りかけ、玉門から湧き出る腎水をつばの代わりに男根(へのこ)へ塗り、とじ目にあてがって一気にぐぐっと突き立てた。すでに湯治場で割れていたので、両縁の肉を巻き込み、きしみながらも根までずぶずぶと入る。
玉「久しぶりだねえ」
 お春はにっこりしながらも、いっそう顔を赤らめた。「しかし、あなたは夕べもこうしていたのでございましょう」
玉「そう言われちゃァ面目ねえ。実はおめえに会って様子を聞くまでは、手を出すめえと思っていたが、そこが凡夫の浅猿(あさま)しさで、つい酔った勢いで交合(なんし)てしまった。こればっかりは申し開きができねえ」
春「いいえ。それでは悪うございますから、なにとぞお染さんをたっぷり可愛がってあげて、そしてわたくしをたァんと……憎がってくださいまし」
玉「憎がるから帯を解いておしまいな。わたしも裸になるから」
春「それではあんまりに」
玉「構うものか」
春「こうやるのでございますか」
玉「湯巻もさ」
春「それではなんだか」
玉「それならわたしが取ってやろう」
 とお春の湯文字の紐を解き、脇のほうへかいやって上からじっと抱き締めると、下からも抱き締め返してくる。腹と腹がぴったり合って、ひとつの体のようになったさまは、また一倍の心地よさである。
玉「このほうがいいだろう」
春「はい」
玉「さあ、突くからお前も下から持ち上げて」
 玉次郎は大腰に子宮をめがけて突っ込んだり、口元をちょこちょこと茎節(かり)の出っ張りでこすったり、抜いて臍までぬめらせ、外して尻へ素股を潜らせるなど、上手を尽して取りのめす。お春は快さが総身にしみ込みわたり、思わず鼻息フン、フン、腰をひねって抱きついてきた。
春「アレ、ようございます。もう気がうっとりとなってきました」
玉「わたしも我慢ができなくなった」
春「アレ、どうしましょう。フン、フン。スウ、スウ」
玉「気がいくのかえ。わたしもやるよ」
 玉次郎は熱鉄男根(ねってつまら)に脈を打たせて、どきん、どきん、ぴょく、ぴょく。上下同時に気をやった。
 折りから夜明けを告げる鶏の鳴き声が聞こえてきた。二人は早々始末を始めた。
玉「それじゃァご馳走の食べっぱなしにしますぜ」
春「お口よごしでお気の毒さま」
玉「ああ、戻るのが嫌だなァ」
春「まァ、気休めばっかり」
 玉次郎は「可愛い」と抱き締め、すっぱ、すっぱと口を吸った。
 このとき、またしても暁を知らせる鐘の音が響いてきたので、二人は後の逢瀬を誓い合い、玉次郎は後ろ髪ひかれる思いで戻っていった。
 この日から、お春は病気と称して幾日も屋敷へ戻ることなく、やがて暇をもらうことができたので、毎日、実家にいるようになった。自分の実の娘なので金右衛門の寵愛は限りなく、お春はやがてひとつの座敷を自分の部屋にあてがってもらった。人目を避けて夜中に玉次郎がたびたび訪れたのはいうまでもない。もちろん、そこは如才のない二人であるから、密会が表沙汰になることはなかった。

春雨衣二編之中 


真情春雨衣二編巻之下

東都 吾妻雄兎子戯編

第十一回 あかぬわかれを鳴鶏よりも 待夜の鐘の音(ね)なほつらひ

 奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く秋もはや過ぎて、今宵は、月が雲間にありながら霰(あられ)がぱらつくわけても寒い夜だった。戸をぴしゃりと閉め切って、玉次郎はつくねんと火鉢の縁によりかかり、ものを考えている様子。お染は読んでいた本を置き、あちこち見回していたが、行燈の火をかき立て、煙管に煙草をつめながら、玉次郎の顔を覗き込んだ。
染「もし。そのように考えておいでなさらずに、ちっとは本でもご覧なさいましな」
玉「考えているならまだしも、ぼおっとしているのだから詰まらねえ」
染「お茶でも入れましょうか」
玉「そうさのう、なんか、うまい菓子でもあれば、それもよかろう」
染「さっき応柳庵の先生がおみやげ下すった菓子折を開いてみましょうか」
玉「すっかり忘れていた。それは大方丸屋のだろうが、近ごろは大和大掾(やまとのだいじょう)もなかなかだよ」
染「ちょうど鉄瓶も沸きかかっております。お姉さんもお呼び申そうじゃァございませんか」
玉「姉さんがお出でだと、また例の芝居の話で夜がふけるから困るぜ」
染「ほんに。ご馳走もないのでよしましょうね」
玉「そこにある奇麗な表紙の本はなんだ」
染「これは煤亭(ばいてい=吾妻雄兎子のこと)が書きました『お半長右衛門』でございます」
玉「ちょっと見せな。なるほど美しくできている。相変わらず画は鶯齋(おうさい=煤亭の弟)、筆工は金兆か。どれどれ。長右衛門にお半、次が繁齋にお絹か。この口絵は目先が変わっていてよくできている」
染「中を読んでご覧なさいまし。どんなにか哀れでございましょう」
玉「誠に可哀想なのはお絹さ。親に孝行、亭主に貞節といういい女だもの、長右衛門だって捨てる気はあるめえが、そこがやはり世にいう因縁だ。ふとしたことから熱海、いや石部の宿でお半と馴染み、一度ばかりか二度、三度と逢瀬が重なり、年端も行かねえ娘を孕ませ、世間の手前と女房の思惑、あまりの面目なさにお半を連れて桂川へ身を投げて死んだから、脇目からみれば女房よりお半のほうが可愛いと思われるだろうが、なんの、お絹だって憎いことがあろうか。その場の成り行きでそうなっちまったが、もとはといえばみんな長右衛門の不埒から起きたこと。男はいくつになっても浮気が抜けねえものだなァ」
染「あちきはお絹のあしらいが悪いから、長右衛門がそんな真似をしたのだと思います。だけど、長右衛門も気が狭い。たとえお半に子供(ねんねえ)ができたとしても、いくらもやりようがありましょうに。世間へ顔向けがならないと身を投げて、親兄弟や女房のお絹を嘆かせ、唄浄瑠璃にされて仇な浮世を残すより、女房や親に話せなければ、懇意の人に頼むとかすれば、お半の代わりに五人、十人、可愛い人がいたとしても、そこは男でございますもの、話がつかないことはありますまいに。おお、熱ッ。あんまり高慢なことを申したので、罰が当たってお湯が煮えてたのを忘れておりました。さて」と言いつつお茶を入れ、菓子折などを持ち出して玉次郎の前へ置いた。「お茶の葉をたんと入れましたから、苦うございますよ」
玉「ひどく年寄り扱いにするぜ。それとも寝かさねえつもりか」
染「薄いのがお嫌でございますから、思い切り濃くしたのでございます
玉「茶がうなぎ色だ。おお、にげえ。なんぼ濃いのがいいといってもあんまりだ。後生と思って少し湯をさしてくんな」
染「さすのは嫌でございますから、お湯を足してあげましょう」
玉「きょうに限ってどうしてそんなに語弊をかじるのだろう」
染「なんだか胸騒ぎがしまして、気になってなりません」
玉「そりゃァ血のせえか、なんかだ。薬を飲んだらよかろう」
染「それよりあなたのお側にこうしていると、だんだんに治ってしまいます」
玉「お前もこのごろは気休めが上手になってきた。油断がならねえ」
染「気休めではございませんよう。だから、わたくしは貞女といわれるお絹になるより、いたずら者といわれて早く死んでも、お半のほうが嬉しゅうございますわ」
玉「まァ、そんなことはどうでもいいから、お菓子をひとつ、お食べなせえ」
染「はい。ありがとう」
玉「これがいいか」
染「いいえ」
玉「それじゃァこっちのか」
染「それでもございません」
玉「難しいことをいうだだっ子だ。どれがいいのだ」
玉「ここにあるのがいいのでございます」
 玉次郎が食いかけて持っていた菓子を取り上げ、笑って口へ入れた。
 腰元が障子を引き開けて手を突いた。「お床を伸べましてよろしゅうございますか」
玉「もう敷いてよかろう」
染「あちきも手伝おう」
腰元「わたくしがいたしますから、お嬢さまはそのまま遊ばしまし」
 これより床を敷くと、玉次郎とお染はいつものとおり寝仕度して、布団の上へ横になり、屏風を引き廻してしばしひそひそ話をしていたが、やがてぎちぎちと枕が鳴り出し、鼻息フンスウ、あれ、いく、いくの声に続いて紙を揉む音がかすかに洩れてきた。

 さて、四、五日前からこの家に逗留していた権太郎は、腰元お杉の計らいで、幾間も隔てた奥の座敷で休んでいた。金右衛門の居間で鳴っている時計の数を数えると、すでに子の刻(夜十二時)だった。権太郎は寝返りを打った。
「待つ宵にふけゆく鐘の声聞けばだ、ばかばかしい。何をしてやがるか知らねえけれど、今宵はぜひ出かけてきそうなもの。あァあ」
 と溜め息をついているところへ、障子がそっと開いてお杉が入ってきた。再びそっと閉めてあたりをうかがい、権太郎のそばによって、その体を揺すった。
杉「もし、権さん。権さんったら、狸寝入りをしているとくすぐるよ」
 脇の下へ手を入れた。
権「なにをふざけるのだ。よせといったら。謝る、謝る」
杉「もう、大きな声じゃないかねえ」
権「そりゃァそうと待たせるにもほどがある。すぐに七ツ(朝四時)だ」
杉「だってみんなが目を覚ましているんだもの」
権「というのは世を忍ぶ仮の名で、本当は番頭とでも一番取ってきたのだろう」
杉「アレ、まァ、憎らしい。人の苦労も知らないで、そんなことをお言いなら、わちきゃァ行ってしまいますよ」
 立ち上がりかけた裾を権太郎は引きとめた。
権「冗談だ、冗談」
杉「無駄口にもほどがあるよ」
権「なるほど。無駄口にもほどはあろうが、腹が立つのにもほどがあろう」
杉「だけど、何かというと『番頭、番頭』。気障でありゃァしない」
権「おや。そう言うけれど、あの人のはすばらしく大きいぜ」
杉「もう、知りませんよう」
権「さあ、ここへ入んな」
杉「冷たいよ」
権「しかたがねえ。ずっと突っ込みな」
杉「いいかえ。そら」
権「おお、ひゃっこい足だ。しかし、こっちは冷えちゃいめえ」
 女の股へ手を入れ、玉門(ぼぼ)の割れ目をくじりかかる。女は股を緩めた。
杉「おや、もうかえ。すぐじゃァあんまりだねえ」
権「だけど、二時(ふたとき=四時間)も前から、このようにしゃかりきになっているのだ。可哀想じゃねえか」
 権太郎は脈を打つ七寸あまりの上反り玉茎(まら)を握らせた。
杉「おや、まァ、憎いようになっているねえ。この出っ張ったところを茎節(かり)というのかえ」
権「いてて。そりゃァ筋だ。茎節はもっと上だ」
杉「これだねえ」
権「コレサ、くすぐってえ」
杉「どうしてこのようなものが入るのだろう」
権「おめえのだって中がこんなに広いものを」
 玉門のうちをあちらこちらをかき回しているうちに、子宮(こつぼ)は熱を帯び、両縁の肉が脹れ上がって、紅舌(さね)もぷりぷりっとしこってきた。お杉はもはや堪りかねて、「さあ入れておくれよ。よくなってきたからさあ」と精水(きみず)をぬらぬらとぬめくらせ、腰をひねって突きつける。
権「はめるからおいらの腹へ乗ってみな」
杉「それじゃァ女がおかしいもの」
権「構うものか」
杉「こうするのかえ」
権「もうちっと尻をおっ立てな」
杉「こうかえ」
権「よしよし」
 権太郎は男根(へのこ)を押っぺし玉門に臨ませ、ぐっと持ち上げる。お杉がすかさず腰を下ろすと、さすがの大物も根までずぶずぶと入り、下腹がぴったりくっつく心地よさに、思わず二人は抱き締め合って、しばらくちゅうちゅう口を吸った。
権「さあ、ちっとずつ腰を遣ってみな」
杉「何だか外れそうでいけないよ」
権「なんの、なんの。こうして持ち上げたら、子宮(こつぼ)の穴を鈴口が突っつくだろう」
杉「何だか知らないが、よくってよくって、しかたがないよ」
権「おいらもこてえられねえ」
杉「お染さんも玉次郎さんと、こんなことを交合(する)だろうか」
権「そりゃァ尻から取ったり、座ってすることもあるだろうさ」
杉「わちきゃァ、もう気をやるよ」
権「待ちねえ。いまやっちゃァもったいねえ」
 権太郎は女を脇へはねのけ、すぐに体を入れ替えて本手に組み直し、再びずぶりずぶりと突き立てた。お杉が「アレ、もう、どうしよう」と男の首にしがみつき、ふん、ふんと鼻息を荒だ立てて腰を持ちあげると、男もはあ、はあと次第に呼吸を荒くする。出し入れするたびに、男根(へのこ)はねじられ、根元から引っこ抜かれるような味わいに、鈴口がしびれてきたとき、お杉が「もう、いく、いく」と枕を外して、結ったばかりの髪を布団にこすりつけた。お杉の腰がひょっこひょっこと蠢いたのをはずみに、権太郎はとうとう正麩(しょうふ)のような淫水を、ずき、ずきっと子宮の口へとはじき込んだ。
 空の上から棹渡(さわた)る夫婦らしい雁の「かり、かり」の鳴き声が聞こえてきた。


第十二回 はやく出雲へ飛脚をたてゝ むすび戻してもらひたい

 軒端の雀が鳴きはじめ、豆腐売りの声が裏町あたりに響くころ、お染は目を覚ました。傍らを見ると玉次郎はすでに起きたのか、夜具だけが置かれていたので、寝過ごしたと驚いて閨を出ると、それを見た腰元がうがい茶碗やたらいなどを持ってきた。お染が楊枝を使いながら腰元に玉次郎のことを尋ねると、知らないというので、口をすすいだり、顔を洗うのもそこそこにして、あちらこちらを探しまわってみたが、姿が見当たらない。
 いぶかしみながら、再び戻ってきて夜具の片づけられた部屋を見回し、ふと机の上を見ると『お染どの 玉次郎』と夫の自筆の文があるのに気づいた。胸が轟き、文の封じ目を解くのすらもどかしく思いながら、ようやく開けて文を見た。
「伊豆の熱海でお春と馴染み、それからかくかく、しかじか」とこれまでのことが詳しく書かれている。「これまでは包み隠しとおせたが、お春がただならぬ身となったからには、養父の手前、そしてあなたの手前も面目なければ、よんどろこなく身を隠す。こうなったことは前世からの約束ごとと諦め、養父金右衛門さまへも、よろしゅうに取り成しを頼む」などと、長々としたためてある。
 お染は落ちる涙を押し拭い、押し拭いして、ようやく読み終えた。そして打ち沈み、茫然自失としていたが、しばらくして立ち上がると、泣き顔を袖でひたと覆いながら、お春の部屋へ行ってみた。こちらにも手箱の隠しに『お染さま 春より』としたためた文があった。
「熱海のことのはじめより、婿を嫌ったのも屋敷へ上がったのも、玉次郎さまに会いたいばかり。それゆえに義理のある仲と知りながら、嫌がるお方をそそのかし、忍び会う夜の数々。情の種をやどしたので、いまは人目を忍ぶほかなく、一人死のうと覚悟もしたが、未練ながらお腹の子を産み落としてからと考え直し、しばらく身を隠して体がふたつになったら、きっと玉次郎さんをお帰し申します。憎い奴、道知らずとお怨みもございましょうが、なにとぞ、なにとぞ、堪忍して」
 お染はその文を読んでは溜め息、見ては泣きして、ようやく袖で涙を拭いた。
染「玉次郎さまとお春さんとの訳は、とうに悟っていたけれど、なにとぞ人には知らせまい、仇な浮世を立たさせまいと思ったのは、みんな夫のため、いまひとつには義理のある家の娘のお春さんだからと、取り乱さないようにしていましたが、この書き置きの様子ではただごとではなく、これほど深い訳があるのなら、お春さんを本妻にして、この身はあしたから妾、てかけになり、三人で仲良く暮らせばいいのに、なぜ明かしては下さりませなかったのか。夢でも知らせて下すったら、こういうことにはならなかったものを。どうしたらよかろう」
 思案しようにも、娘気のお染にできることは、ただ泣くことばかりであった。
 さて、こうなっていようとは知らないお杉は、珍しくお春が朝寝坊なので、気分が優れないのだろうか、様子をうかがおうと部屋までやってきたところ、お染が泣いているのでびっくり。「どうしたことでございます」と尋ねると、お染は涙を拭って一部始終を話して聞かせ、二人の手紙を見せた。
 お杉は驚き迷い、「ともかくこうしてはおかれぬ」と泣き入るお染の手を取り、金右衛門の居間へ行き、書き置きを見せて話すその折、逗留している権太郎もやってきた。金右衛門は委細を聞き、こうべをたれて二の句が継げない。権太郎が膝を進めた。
権「誠に困ったことになりましたが、このことを表立って世間に知らせては、後々の収まりも悪うございますから、番頭さんを除いて内々の衆へは隠しておきましょう。お春さんはお屋敷へお戻り、玉次郎さんは大坂の取引先へ内緒でお行きになったということにすれば、いかがでございましょうか。その間に、米沢小路の鍵屋さんのほうから人を出して、二人を探していただきましょう。わたしどもも一生懸命にお探し申します」
杉「ほんに権さんのおっしゃるとおり。表向きにしてお探し申しては、ことが面倒でございます。そんなにいつまでもお見えにならないことはございますまい。わたくしもお暇をいただいて、お行方をお尋ね申しとうございます」
染「おとっつァん、権さんもお杉もそう申しますから、表向きになさらないで、姉さんも玉次郎もいままでどおりに、どうぞお願い申します」
 三人の勧めに金右衛門は、うなずいたり、溜め息をついていたが、しばらくして、
金「なるほど、この様子であれば、一通りの訳ではないが、すべてお春めが不埒だからこうなり、お染の手前も面目なければ、娘は勘当、玉次郎は親元へポイこくるところではある。しかし、そうなるとお染は婿を取り直すために女の道を破ることになり、また、わたしも年をとって一人娘を捨てるのは不憫だからと、言ってしまえば未練がましいと笑われようとも、なるほど、権さんの言うとおり、表向き騒ぎたてては、親類をはじめ分家に対しても毅然としてみせねばならぬゆえ、お春は秩父さまへ戻り、玉次郎は上方へやったことにしましょう。だから、二人の居所を探すことは、権さん、お前に頼むから、米沢小路と相談して、いいように取り計らっておくんなせえ」
 望外の優しい取り計らいように、お染は胸をなで下ろした。「おとっつァんさえご勘弁なすって下されば、早くお姉さんをお尋ね申して」
権「お気遣いなさいますな。ナニ、どこへお出でなさっても、すぐにお探し申します」
染「どうぞお頼み申します。そしてお杉や、ちょっとこちらへきておくれ」
 お染はお杉を連れて自分の部屋へ戻った。
染「お前を呼んだのは、ほかでもない。権さんもお二人を探して下さるとお言いだが、あの人にはわちきの気持ちを申しにくいので、なにとぞ、お前も権さんと一緒にお探し申しておくんな。そしてお目にかかったら」
 お杉の耳に口を寄せ、なにやら囁いた。
染「よいかえ。なにとぞ頼むからよ」と立ち上がり、手箪笥から金五十両を取り出し、お杉の前に差し出した。「これは浅草の叔父さんから、笄を買うようにといただいたものだが、お前にあげるから、ちっとだけれど、小遣いのたしにしておくれ」
杉「いいえ。このようなものは」
染「お前ばかりじゃない。権さんも一緒だからさ。足りなくなったら、連絡をおよこし。おとっつァんには内緒でそっとあげるから、遠慮をおしでないよ」
 お染は権太郎とのことを察しているのだろうか。お杉は胸が高鳴り、しばし返事ができなかった。

 星月町の名に似合わない暗い裏借家の二階。窓の障子を閉め切って、玉次郎はお春を見た。
玉「どうだ。このようなところは初めてだろう」
春「壁の向こうはお隣でございますか」
玉「そうさ。だから大きな声を出すのはいけねえぜ」
春「下におったお婆さんが、お前さんに乳をあげたのでございますか」
玉「さようさ。あれがおいらの乳母だ。とんだ気安い、いい者よ」
春「わちきが参ったとき、真面目にお辞儀をされて、間が悪うございましたろうね」
玉「そんなに気の弱いことでどうする」
春「それでも」
玉「婆さん、ばったばったとやっているから、なにかご馳走でもする料簡だろう」
春「もう何時(なんどき)でございましょう」
玉「五ツ半(朝九時)ごろだろうか」
春「ではいまごろ、うちでは大騒ぎでしょうね」
玉「そりゃァもう乱痴気騒ぎだろう」
春「いくら申しても同じことでございますけれど、お染さんがわちきのことを、義理知らずの憎い女だと、どんなにか恨んでおいでだろうと思うと、誠にお気の毒で悲しくなってまいります」
 少し涙ぐんで、男の膝に顔をふせた。玉次郎は吐息をついた。
玉「そりゃァおいらだって養父(おやじ)さまに対しては、犬とも猫ともたとえられねえ始末だけれど、こうなったのもなにかの因縁だろうと手前勝手な理屈をつけて、お前さんを誘い出してはきたものの、実にすまねえことだのう」
 しおしおとこうべをたれて、しばし言葉も出なかったとき、乳母が「若旦那。ご馳走ができました」と二階へ上がってきた。


春雨衣二編之下