ティル・ナ・ノーグ~栄光ある失敗作~
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<ティル・ナ・ノーグという作品>

この作品はPCのRPG史上重要な作品であると同時に、非常にマイナーな作品といえる。
PC9801用のRPGとして発売され、その後二作目、PC8801、MSX用と発表された。
時期的に言うとアクションRPGの傑作「ソーサリアン(日本ファルコム)」「ハイドライド3」と重なっている。
制作したのは大戦略でお馴染みのシステムソフト。
このゲームは当時画期的なシステム「シナリオジェネレーター」を搭載していた。
プレーヤー一人一人が別々の世界を冒険し、またシナリオコードを指定する事で同じシナリオをプレーする事もできた。
共通するのは各種データーと世界観であり、何度でも楽しめるゲームを目指したものと思われる。
実際に作者の話だと、一つのシナリオをクリアするのに17~18レベル。すべてのイベント、モンスター等に出会うには、
大体4本のシナリオをプレーする必要があるとの事だ。
システム自体もしっかりしていて、登場する種族、アイテムもかなりの数があり、本気でやり込めばかなり楽しめるゲームであった。
 

<世界観やその他>

この作品の世界は「ケルト神話」を元にしている。
非常にマイナーな世界観であるため、なかなか馴染めないものもあるかもしれないが、魅力的なものである。
そもそもこのゲームの舞台となるのは「ティル・ナ・ノーグ」という「常若の国」(とこわかのくに)で、
平たく言えば理想郷である。ここには様々な妖精や幻獣、人間が住み、生活している。
主人公はダーナ神族(かつては神に等しかったが力を失い現在はダーナー・オシーという妖精にすぎない)の若者で、
実は「英雄妖精」と言う設定。シナリオの導入部分にもよるが、大抵舞台となる国が妖魔か悪い魔術師によって、
危険にさらされているため、王族の住む城にいくとかなり良い装備とお金をくれる事が多い、この辺は、
「『おお、ゆうしゃよ』とか言って竹竿しかくれないどっかの王様とは大違い(笑)」
である。で、その後シナリオの目的を果たすべく冒険をする訳だ。
時々、まだ何も起きてないけどこれから起きそうな予感がするって導入もあり、オープニングは芸が細かい。
街の酒場で仲間になってくれるキャラクター(人間、妖精が殆どだがかなりの数が居る)を募ったり、
はたまたダンジョン内でいきなり「連れてって!」と言って来る奴がいたり、このあたりはなかなかいい感じである。
仲間になるのは何も妖精や人間だけじゃない。時としてファルコンやウルフといった野獣、場合によっては
スケルトンやブラッドファンガス(お化けキノコ)まで仲間になる事がある。
このあたりのバリエーションは非常に豊かである。

戦闘は原則としてAI任せで、主人公すら自分の思い通りに動いてくれない。
これは、攻撃目標を指定する、使用する魔法と対象を指定するといった大体の指示をするだけで、後は勝手にやってくれるからだ。
当然それを行うまでの細かい指示なんかは「全く出来ない」わけだ。ま、こんなのはマシな方。
主人公はどんなに馬鹿でもこちらの指示には絶対従う(当然か)が、他の仲間になると
「命令無視」
なんて平気でかまして来る。それでもそこそこの働きをするなら良いが、
「AI馬鹿すぎ(爆)」
なんである。勝手に突っ込んで勝手に袋叩きに遭って勝手にご臨終なんて、日常茶飯事なのだ。

魔法もこれまでのRPGの様に普通に覚えて行くが、巻き物を入手すれば封印さえ解いてあればそれも使用できる。
これはWizと違いMPを消費して発動させるタイプなので何度でも使用できる。
他に消費型アイテムもある。

あ、仲間の件でもう一つ。戦闘の時に逃げる方向が違ったりするとはぐれるという現象がある。
この時近くの酒場で再会するというイベントも存在する。また、信頼されてないと抜けていってしまう事もある。
また、妖精が多いので必然的に女性が多くなるのだが、これがけっこう恐い。
森を歩いていると「やぁお嬢さん達、僕と一緒に冒険しないかい?」と、
いきなり声をかけて、女性キャラを根こそぎナンパしていく「プレイ・ボーイ・エルフ」
が出てきたりする。これでパーティーが壊滅した事がある。ま、逆のケース(ラナンシーに誘惑されて男がいなくなる)もあるんだけどね。
 

<では何が失敗か?>

ここまで見ていると面白そうに感じるだろう?では、何が失敗なのか?
まずはあまりにマイナーな世界観だということ。これで随分損をしているが、同時にこの世界観でなくてはあの味は出なかった。
また、バランスの悪さもある。
キャラクターは成長するのだが、同時に敵も成長する。レベルを上げてもそれほど楽にならない。
楽になるにはなるのだが、こちらのレベルに合せて向こうのレベルも上がっている様な感じを受けた。(主に88とMSXで)
しかしこれらの問題はある意味魅力になるし、それ以上の素晴らしさが在るのだから些細な事といえる。
だが一番の問題は、
「シナリオに変化が出ない」
この一点なのだ。
導入部分こそ芸が細かいが、過程はランダムで発生しているイベントの連続で構成されているため、シナリオごとの特徴や変化が出ない。
そのため、それほど変化を感じられないと言うのが正直な感想である。
また、そのイベントの発生率もやや低めで、結局のところ盛り上がりにかけてしまう。
結果として、無軌道な話を進めていく事になっていく場合もある。
 

<それでもこの偉業は忘れない>

結構最後に致命的な事を言ったが、それでも近年の二流、三流のRPGに比べると天と地ほどの開きを見せる名作であるのは間違いない。
また、このゲームはシナリオ自動生成の可能性と難しさを教えてくれた作品である。
この作品の後、システムソフトは「ブルトン・レイ」という、シナリオ差し替え型のRPGを発表している。
これもまた名作と名高いもので、シナリオ・エディターも発表されていた。
そう、この「ティル・ナ・ノーグ」の発表時期を境に、何度でも楽しめるRPGという物が一つの大きな路線として誕生したといえよう。
後に「ルナティック・ドーン」の発売において、この流れは一つの完成を見るが、それはまたの機会に。
何にせよこのゲームの評価は85点と言った所か?
また、このゲームは私にしては珍しく万人に勧められるゲームです。
もう入手困難(不可能?)ですけど。(汗)