「本日の最高気温は……」  うへぇ、そんなに。その二桁の数字を見ただけで、私の体感温度が三度は跳ね上がった気がする。 「今日も一日暑い日になりそうです。お出かけの際は、帽子などで直射日光から身を守るようにしてください。特にお子様やお年寄りの……」  こんな暑さ、お子様やお年寄りでなくても死ねるわ。  これ以上天気予報を聞いていると、それだけで暑さが酷くなる様な気がして、音を絞る。天気予報が終わり、ニュースが続いているが、世界情勢なんか知る気にもならない。  蝉の泣き声がやかましい。蝉が百回鳴くごとに気温が一度上がってる気がする。きっとあの泣き声を出すときの摩擦熱が気温を上げてるに違いないわ。  蝉の鳴き声を聞きたくないので、窓を閉めたいけど、そうしたら蒸し焼き料理ができる気がする。  やっぱり家賃ケチらないで空調のある部屋にすれば良かった。今更な後悔が私を襲う。  空調で連想した。メリーのウチを。  メリーのウチに押しかけようかな。  私の目の前にあるのは不景気な音を発しながら、円運動を続ける扇風機のみ。その円運動は確かに私に風を送ってくれる。でも決して涼風とは呼ばれないのは確実ね。熱風よ。  そんな扇風機しかない私の家と違い、メリーの家には空調が完備されている。家賃はおそらく三倍違うから仕方ないのだけれど。この家に招待したときメリーによくこんな家を見つけたわね、と言われたしね。  あぁ、それにしても、暑い。扇風機から送られてくる自称涼風、実名熱風に息が詰まりそう。  まだ、11時。暑さのピークはまだこれから。このままこの部屋にいたら、干物になる気がする。  ここで私は決断を迫られる。  よし、メリーの家に行こう。  思いついてから決断まで一秒ほど。  そんな私の決断は、外出の準備がちょうど終わったところで、意味のないものにされてしまった。 「蓮子、小豆バー買ってきたわよ」 「いらっしゃい、メリー」 「お邪魔するわ」  小豆バーの入った袋を私に押し付けて、メリーが上がりこんで来た。勝手知ったるなんとやらで、メリーは靴を揃えるだけ揃えると、真っ直ぐ扇風機の前に陣取る。しかも独り占め。そこは私の特等席よ。  メリーはそんな私の気持を知ってるのか、知らないのか汗を拭きもせず特等席で扇風機の正面で我々は宇宙人だ声で喋り始める。 「暑かったわ」 「そりゃそうでしょう」  小豆バーの袋を開けて、咥えながらメリーの側に寄る。  いくら熱風しか来ないといっても、扇風機の側から離れる気はしない。自殺行為よ。 「はい、メリー」  私はもう一本の小豆バーをメリーに渡す。 「ありがと」 「元からメリーの買ってきたのでしょ」 「まぁ、そうだけどね」  メリーは本当に嬉しそうな顔で小豆バーを頬張る。そんなメリーを見ながら、しゃくりしゃくりと小豆バーを掘削していく。お互いに無言で小豆バーを消費し続ける。  小豆バーの遺骨を袋に捨てながら、メリーが聞いてくる。 「そういえば、蓮子出掛けるの?」 「今更聞くのね、それを」  私のほうを見ないで言ったので、多分ウチに来た時点で私の出かけ支度には気付いていたんだろうけど、それを確認もせずにあがってくるなんて。さすがメリーね。 「とりあえず直射日光から逃げたくて、上がらせてもらったから」 「まあ、いいわ。メリーの家に行こうとしてたのよ、ちょうど」 「私に会いに来てくれようとしてたの?」  メリーが本当に嬉しそうな笑みを浮かべ、手を合わせて聞いてくる。  あぁ、こんなに暑いのに、そんな表情しないで。体温が上がっちゃうじゃないのよ。 「空調様様に会いによ」 「あら、残念」  少しも残念そうな顔をせずに言ってくれる。まるで自分に会いに来てくれることを信じて疑わないかの様に。まぁ、半分は当たってるけど。ちょっと悔しいから口には出さない。 「でも本当に残念」 「そんなに残念ならメリーに会いに行く予定だった、って言い直してあげるわよ」 「ありがと。でもそうゆう意味じゃないのよ」 「?」  なぜか申し訳なさそうに手を合わせるメリー。 「実は空調壊れちゃったのよ」 「えっ」 「だからもし私の家に来ていたとしても、壮絶な無駄足だったのよ」 「うわー、メリーの家まで歩いていって、それを知ってたら、私は世知辛いこの世を儚んじゃうわ」 「一応業者にはお願いしたんだけど、今日は忙しくて手が空かないらしくてね」 「それでウチに来た、と」 「ええ、どうせ暑いなら、蓮子と一緒のほうがいいから」  あぁ、どうしてそうゆう発言をさらりとするの。あぁ、もう。  顔が熱くなっている気がする。私は照れているであろう顔を見られたくないので、メリーから扇風機を奪う。 「あぁ、蓮子酷い」 「この扇風機は私の」  とりあえずいつの間にかメリーが解除していた首振りをONにする。  暑さの中、休みもせず働き続ける扇風機が、メリーに、私にと、交互に熱風を送ってくる。  しばらくは会話もなく二人で熱風に晒されている。  メリーもこの炎天下の中、よくウチまで歩いてくる気になったものね。外の直射日光はないけれど、代わりにあまり風の通らないウチは熱が篭る。扇風機がなかったら本当にサウナになるのは確実。  空調の壊れた家から、炎天下の外を歩いて、空調のないウチに。メリーも涼むタイミングなかったのね。メリーの汗はまったく止まる気配がない。メリーの首筋で汗が数筋の川を作っている。汗のせいでメリーの髪が肌に張り付いているのに気付いて、なんとなく私は目を逸らす。ただの首筋、ただの髪じゃない、その濡れて張り付いた髪を見ているだけなのに私の鼓動が数拍多くなる。  そんな私の様子を知ってるのか知らないのか、メリーはこの暑さの中、鼻歌なんぞを歌っている。あぁ、もう。この状況をどうにかしないと。 「ねぇ、プール行く?」  私の提案は、扇風機に顔を直接当てたままのメリーに直ぐに却下される。 「きっと今日は、泳ぐどころか、水に触れるのが精一杯よ」  そうね。メリーならともかく、見知らぬ人たちと肩をぶつけ合うなんて。そうでなくても飛び込むことも出来ないプールに、潜水していて見つけにくい子供に気を使いながら、そっと温泉に入るように体を沈めるのはあまり楽しそうな気がしない。 「じゃ、図書館は?」 「休館日」 「あ、返してない本があるの忘れてた」 「このタイミングでそれ? 本なくしてないでしょうね」  メリーに言われて少し不安になったので、部屋を見渡して見る。どこに置いたかしら。えーと、あぁ、机の上に二冊置いてあるのを確認する。  私はその本に栞代わりに挟んでる返却日を確認した。 「昨日まで。手遅れだわ」 「貸出しペナルティね。レポート大丈夫?」 「大丈夫、一、二日だから、お目こぼししてもらえるはず」 「と良いわね。まぁ、駄目だったら、私の名前貸してあげるわ」 「そのときは奢らせて頂きます」 「楽しみにしてるわ」  学食で良いって言ってくれればいいんだけど。  何かのお礼だかは忘れたけれど、にどこぞ喫茶店でパフェを奢った時に、メリーの顔くらいのパフェが出てきたときはどうしようかと思ったわ。二人掛りで三時間居座って完食したけれど。 「後は映画とかショッピングとかよね。お金掛かるけど」 「んー、そうねー。そうゆう蓮子とデートもいいわね」  ちょ、ちょっと、私はデートだなんて一言も…。  メリー、そんなにまっすぐ見ないで。さっきまでみたいに、扇風機向いて話してよ。 「蓮子……」  どうしてそんなに近づいてくるの? ねぇ、そんなに近づいたら暑いわよ。メリーの吐息が私の前の前で拡散する。 「ねぇ、蓮子……」 「メリー、顔近いわよ」 「私、蓮子と一緒にいたいわ」  メリーに下がる気配はない。 「ねぇ、蓮子……イヤ?」  真っ直ぐな目でメリーが問いかけてくる。  メリーが訪ねて来たときからこうなりそうな予感はしていた。本当にイヤだったら、その場で一緒に出かけてたわ。それこそとりあえず空調の効いているどこかのお店にね。メリーと二人っきりになれる場所から離れたくなかったのかもしれない。  メリーの真剣な顔に私は行動で答えを返す。 「メリー、そんな顔しないで。イヤなわけないわ」  メリーの顎に指を添えて、メリーの唇を奪った。  小豆バーの味がした。  お互いに服が皺になるのも気にせずに抱きしめ合う。始めに抱きしめようとしたのがどっちだったのか分からないけれど、私の手がメリーの腰に自然に回ったのは記憶にある。 「蓮子、暑いわ」 「暑いわね」  メリーの服が汗でメリーの肌に張り付いて、メリーの体のラインやら、下着のラインやらが私の目にはっきり入ってくる。そんな私も同じ状況で、何かかえって裸より恥ずかしい気がしてくる。  恥ずかしさを忘れるために、私はメリーの上になって、メリーの顔にキスをする。目蓋も、頬も、額も、もちろん唇も。  メリーは大人しく、私のキスを受け入れてくれる。そんなメリーが愛おしくて、更に強く抱きしめる。 「あのね、蓮子」 「ん、どうしたの?」 「服越しなのにね。汗のせいで、蓮子の体温が直に伝わってくるの」 「熱いでしょ」 「熱いわ」  メリーの熱さは私にも伝わってきている。気温のせい、こんなことをしてるせい、もちろん両方だけれども、こんなに熱いメリーは初めて。抱きしめると汗ばみ、メリーとキスをしていることを実感してしまう。  メリーと掌を合わせ、指を絡め、お互いに逃げられないようにしてからキスをする。いわゆるフレンチキス。メリーの口に私の舌が受け入れられる。メリーの舌が私の舌を押し出すように動くので、メリーの舌に私の舌を絡ませた。  私たちの熱の篭った吐息を扇風機が押し流していく。  私の舌がメリーの口の中で、メリーを味わっているときも、メリーの舌が私の口に入ってきたときも、扇風機の低い音と私たちの立てる水音が混じって部屋に響く。  唇をゆっくり離し、目を開けるとなぜかメリーが笑みを浮かべていた。 「ど、どうしたの?」 「だって……」 「キスしてる間、蓮子の顔すごくいろいろ変わって」 「見てたの? ずっと?」  私は目を閉じてたのに。 「ごちそうさまでした」 「もう、メリーとはキスしない」  あぁ、私どんな顔してたんだろう。あぁ、もうメリーったら。 「蓮子、ごめんねー」 「知らないわ」  メリーから顔が見えないように、メリーの肩に顎をのせて、そっぽを向いてみる。知らないわメリーなんて。 「蓮子ー、ごめんていってるのにー」 「……」  まだもう少しこうしていよう。メリーの鼓動が、汗で濡れた服越しに伝わってきて、これはこれでいい気分になる。もう服は汗ばんでいるではなくて、しっとりと濡れているという表現がしっくりくるような状況になっている。メリーが私に呼びかけてる間もそれはどんどん進行している。これはどっちの汗なのかしら。 「ねぇ、蓮子っ」  メリーったら、必死ね。もう少し焦ら…… 「ひゃっ」  耳に息吹きかけないで。 「蓮子、蓮子ー」  耳は、んっ、くすぐったい。メリーの吐息が私の耳を通して、私の全身を震わせる。 「あ、や、やめて……」 「蓮子、可愛いわよ」  ぞくりと来た。来ちゃった。可愛いって言われて来ちゃったわ。  そんな耳元で囁かれたら……。 「ごめんね。一生懸命私にキスしてくれる蓮子を見てたら、目が離せなくなっちゃって」  メリーの囁きは続く。メリーの吐息が耳朶に当たるたび、私の身体に痺れが走る。 「蓮子、大好きよ」  その一言に私の脳内が真っ白になって、その上からメリーで塗りつぶされる。  メリー、私も大好きよ、メリー。  私はメリーの頭を手で抱きこんだ。  メリーは一瞬身を捩じらせるが、私の腕の中の納まってくれる。  メリーの耳元に口をつけて囁き返す。 「私もよ」 「んっ」  メリーはキスをしながら体勢を入れ替えて、メリーは私の太腿に跨って来た。  私の顔がメリーの金色の髪で覆われて、私の鼻腔にメリーの髪の香りが伝わってくる。  私は目を瞑ってキスを受け入れる。メリーは目を開けてるのかしら? 閉じているのかしら? どっちでもいいかな。  メリーが唇を離したのに気付くのと、メリーの手が私の上着のボタンに掛かっているのに気付くのは同時だった。ぽちりと、一つのボタンが外される。 「さぁ、蓮子、暑いから、せめてボタンでも外しましょうか」 「じゃ、メリーも」  私がメリーのボタンを外そうと延ばしたては軽くメリーに払われてしまった。それを疑問に思う間もなく、私の両手がメリーの手で掴まれて、押さえつけられてしまった。あの一瞬の間に、私の両手は頭の上で、メリーの片手で固定されてしまっていた。 「ちょ、ちょっとずるいわよ」 「いいから、いいから」  メリーは器用に片手でボタンを外していく。  私は手を動かそうとしたけど、メリーに抑えられていてセンチ単位で動かすことすらままならない。メリーは片手なのに。私がなんとか動こうと身じろぎしてみるけれど、腰はメリーが乗っていて、手も押さえられたままで自由に動くのは口先と足くらいだったけれど、足は役に立たず、本当に残るのは口先だけ。 「この体勢とても屈辱的なんだけど」 「ねぇ、いやなら思い切り突き飛ばしてもいいのよ」 「そんなこと……できるわけないじゃない」 「じゃ、そんなにいやじゃないってことね」 「いやじゃない事はないわ……」  自分でも煮え切らない返事だな、と思う。メリーにボタンを外されているのはすごい恥ずかしいけど、外されるたびにメリーとの距離が近づいているような気がする。  メリーの指が全てのボタンを外すのに、私と会話してる間は指を止めていたので、実質数秒しか掛からなかった。早すぎるわ。 「じゃーん、ご開帳ー」 「オヤジ」 「なんとでも言うが良いわ」 「ちょ、や、ブラまで」  メリーの手が背中にいつの間にか回っていて、ブラのホックも外されている。  まだブラはホックを外されただけで、ずらされていないけど、きっと時間の問題なんだろう。ってもう、メリーずらそうとしている。すごく嬉しそうな顔しながら。  私は腰を動かしてメリーの手の動きを遅らせようとするけれど、メリーに乗っかられていてそれもできない。 「蓮子の……」  メリーの視線が私の胸に集中してる。火がつきそうな視線ね。  私の胸が外気に晒されたけど、直ぐに私の胸にメリーの掌が覆い被さる。外気も暑いけれど、メリーの手はもっと熱かった。  胸の先端にメリーの熱い手が擦れる。私は思わず全身を震わせてしまう。  そんな私の様子を見ながら、メリーの手はゆっくりと私の胸の上を動く。まるで壊れ物を触るように優しく私の胸の形を変えていく。  そんなゆっくりとした動きであっても、その手の持ち主がメリーというだけで私の体の心が熱くなっていく。  メリーの汗ばんだ手の感触が動くたびに、背中をパルスが走る。  私の胸を搾るように擦りながら、メリーが口を開く。 「蓮子の汗、すごいわね」 「え、メリーの汗でしょう」  メリーの顎から、私のお腹に一滴汗がたれる。 「ううん、蓮子の汗よ」  そういってメリーは私のお腹に指を沿わせる。くすぐったいけど、メリーの指が通った所が痺れてくる。多分、もうこれはくすぐったいじゃない、多分、私、感じちゃってる……。  私の顔が熱くなるのを感じる。でも、メリーは気付いていないようで、私のお腹を見ている。 「ほら、こんなに蓮子の汗が」  位置的にあまりよく見えないけど、私の汗を指で集めたんだろう。 「まぁ、こんなに暑いしね」 「蓮子の汗……」 「ちょ、ちょっと汚いわよ」 「蓮子のだったらいいわ」  や、やめなさいよ。  メリーは私を拘束していた手を離して、私のお腹に舌を這わせる。私の汗がメリーに舐めとられる。メリーの舌が私のお腹を走り、メリーの舌の動きに合わせて出そうになってしまう声を押し殺すのに必死になっていた。  自由になった手でメリーを止めることが出来るのは理性では分かっていた。でも動けなかった。 「んっ、蓮子の汗……、しょっぱいけど、蓮子の味がする」  にっこりと笑いながらそう言ってくるメリー。その笑顔を見て、私もメリーの体を味わいたい、そう思ってしまった。 「メリー」  私は起き上がってメリーの首元にキスをする。そこにはメリーの汗で髪が張り付いていた。 「メリーの汗と、髪……」  メリーの汗と私の唾液の後が残る。  塩分が口内に拡がる。でも甘かった。メリーの首筋に更に舌を這わせる。  メリーの味が私の口一杯に広がる。メリーは私の唇を受け入れながら、私の胸を優しく揉んでくる。  私も服の上からメリーの胸を揉むことにする。  十人並みの私と比べるとメリーの胸は、こうして服の上からでもはっきりとボリュームが伝わってくる。  私は自分の胸を、敢えてメリーの胸に押し付ける。 「れ、蓮子?」 「メリーの胸が服越しに当たってる」  その言葉を合図に私たちは抱きしめ合い、胸を押し付けあう。  私は胸を熱気に晒して。メリーは密やかに隠しながら。  それでもお互いの吐息が熱くなってくるのが分かる。  メリーの顔からメリーの胸元に汗が滴り落ちる。  私たちはいつのまにか太腿を絡めあって、胸を押し付けあうようになっていた。  私は胸が直接メリーの服の繊維に絡め取られる。汗で湿り摩擦係数の上がった繊維は私の胸を痺れさせる。メリーの胸は私の胸にあわせてその形を変えていく。まるで私のを受け入れるかのように形を変え、私のを包み込もうとするようだ。 「蓮子、蓮子」 「メリー、メリー」  私はメリーの名前を呼ぶことしかできなくなっていた。それはメリーも同じだったようで、私の耳にメリーの声が響いてくる。そしてこうゆう時のメリーの声で、名前を呼ばれると、それだけで下腹部が熱くなってしまう。  メリーの太腿に、私の秘所がこすり付けられる。  私の太腿に、メリーの秘所がこすり付けられる。  それは下着越し、スカート越しであったけれど、メリーの足の動きが私の秘所に伝わってくるというだけで十分だった。  自分の名前を囁かれるだけで、脳に光が差してくる気がする。  私がメリーの唇を奪うと、メリーは私の耳を噛んでくる。そしたら私はメリーの唇を甘噛みする。  その間にも、胸とあそこを擦り付けあうのは止めない。  もう扇風機の音も聞こえなくなっていた。  この世界は私とメリーだけ、その世界でこうしてお互いだけを感じている。それは時間を忘れさせる時間だった。  そんな空気が一瞬で破られる。  けたたましい音で私たちは、元の扇風機のある部屋に引き戻される。  蝉が窓にとまって、短い夏を謳歌するかのように、空気の波を部屋中に伝播させていた。  私たちを顔を見合わせる。 「ぷっ」 「ふっ」  二人で笑い合う。さっきまでの世界は十センチにも満たない蝉一匹に破られるようなものだったなんて。 「メリー」 「何、蓮子」 「まだ続けるわよ」 「もちろんよ」  私たちは唇を合わせる。まるで今から始めるかのように。  私はシャツをはだけない様に抑えて立ち上がる。 「暑いけど我慢してね」  私はメリーの返事を聞かずに、窓を閉める。  閉める時に蝉が飛び込んでこなかったのは幸いね。さすがにそれは興が削がれてしまうわ。  窓を閉めると世界が二人だけになった錯覚に囚われる。外の喧騒も蝉の鳴き声も別の世界の出来事のように思えてくる。 「窓って結界みたいね」  どうやらメリーも私と同じ事を考えていたみたい。 「ええ、二人だけの世界を作ってみたわ」 「私にもこの世界の綻びは見えないわ」  そういってメリーは立ちあがり私を出迎える。  抱きしめあい、唇を合わせる。  熱気の逃げ場所がなくなった室内は、もう熱が篭り始める。でも私たちの熱も逃げなくなった。  扇風機は外の空気を送り込んでくるのではなく、私たちの間の空気を循環させるためだけの装置に成り下がってしまった。  そこで私たちは立ったままで、永く永く唇を貪り合う。  今度はメリーから胸を押し付けてくる。私もそれに応えて、胸でメリーの胸を感じる。  口づけは終わらない。メリーの手が私のお尻を擦るので、私はメリーの太腿を撫で回す。私はしばらくメリーの太腿の艶やかさを愉しんでいたけれど、だんだんそれだけでは我慢できなくなってきた。  私の指が五センチ上に上がる。メリーが体を震わせる。  十センチ、メリーが唇の動きを止める。  十五センチ、メリーが私の名前を呼んだ。  私はその呼び声には反応せずに宣言した。 「メリー、邪魔なのとっちゃうね」  私は指をかけて、メリーの下着を下ろしていく。幽かな布音を立てて布切れがメリーの足元に落ちる。 「次は蓮子の番ね」 「うん」  私のスカートの中にメリーの手が入ってくる。  下着と私の体の境界に指が差し込まれ、ゆっくりと下ろされる。  秘所から布地が離れると、外気の暑さの中でも涼気を感じてしまう。  こんなに濡れてたんだ。汗の可能性もあるけれど、きっと違う。  私たちは何も言わずに、自分のスカートを少しつまみ上げ、そのまま足を絡ませる。  メリーもこんなに感じてくれてたんだ。メリーの秘所の粘液が私の太腿に僅かな水音と共に絡みつく。  きっとメリーも同じ事を考えてるわね。私のここももうこんなに濡れてるし。  私達は再びキスをする。  キスをすると勝手に体が動き始める。  息をするのももどかしい。息をするならメリーと一回でも多くキスをしたい。肺腑を動かすなら、メリーに胸を押し当てていたい。太腿を動かしてメリーを感じさせたい。  メリーの手が私のシャツの中に潜ってくる。背中がメリーの手で責められる。肩甲骨から腰のところまでメリーの手が這い割る。  メリーのシャツのボタン外しておけば良かったと思ったけれど、もう遅い。  私はメリーの頭に手をやり、メリーの髪に手を絡ませる。  メリーのいつもはふわふわ柔らかい髪は汗で湿って、でもそんな髪でも私は手でメリーを頭ごと抱きしめるようにしてあげる。メリーのうなじあたりから手で髪を梳き、髪を一房持ち髪に口づけする。  そしてもう一方の手でメリーのお尻に指を這わせ、掴む。それだけでもメリーは体を震わせて反応してくれる。  メリーの手が私の背中から脇腹を撫でる。私もそれで体を震わせてしまう。  その度に太腿が揺れて、お互いの秘所が刺激される。そして秘所が刺激されるたびに太腿も反応してしまう。  もっと、メリーが欲しい。胸が苦しい。メリーが欲しい。メリーと一つになりたい。  私がそう言おうとした時だった。 「蓮子、私もう我慢できないの。一つになりたいの」  先に口を開いたのはメリーだった。  私の我慢ももう限界だったのに、メリーの一言で私のこの熱情が許容量を完全に超えてしまっていた。  メリーの背中を押さえながら、メリーを押し倒す。 「れ、蓮子……」  少しの怯えと、期待に満ちた声で私の名を呼んでくる。私はそれに応える。 「ね、メリー、私も我慢できなくなってたの。メリーと一緒よ」  メリーは嬉しそうに頷く。 「だから、ね、一緒に」 「うん、蓮子、一緒に」  メリーは自分から片足を、手で少し持ち上げて私を迎えてくれる。  私はメリーの足を抱える。  メリーが期待に満ちた顔で私の顔を見ている。  私の秘所とメリーの秘所が粘液を絡ませて繋がった。それだけで私は体に衝撃が走った。 「メリー、いくわよ」 「うん、来て、蓮子、一緒に気持ちよくなろう」 「メリー大好き」 「私も、蓮子のこと大好き」  その告白を合図に私は腰を動かす。メリーも動かす。  メリーのあそこが複雑に私のモノと絡み合う。粘液は入り混じり、篭った熱で汗も混じって、床にいろんな液体が水玉模様をたくさん作っている。  そして私たちのあそこはもう一つになって、どっちが動いて、どこが絡み合っているのか、自分でも分からなくなっている。分かるのは動くと気持ちいい、動いてもらうと気持ちいいということだけ。  メリーに動いて欲しくて私は、メリーに絡みつくように動く。メリーの抱えている足に、噛み付いてみたりもする。メリーはそんなことでも可愛い声を上げてくれる。  メリーの発する声が、だんだん、私の名前か、意味の分からない言葉だけになっていく。  私もいろいろ言ってるつもりだけど日本語になってるかあやしい。  でもきっとメリーの名前を呼ぶのは伝わってると思う。だからメリーの名前を呼ぶ。  メリーと繋がりながらメリーの名前を呼ぶ。私の名前を呼ばれる。  ねぇ、メリー大好きよ。  だんだん頭がショートしてくる。メリーの声が遠くなってくる。頭の中の神経が一本ずつ切断されていく。そして切断されるたびに私の体は甘い痺れに覆われていってしまう。 「あ、メ、メリー、いっちゃう。私いっちゃうの」 「わ、私ももう限界」  お互いに腰を強く押し込む。その動きが契機だった。 「あぁ、あぁぁぁぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」  その声が私の声だったのか、メリーの声だったのか分からない。ただ私の頭の中はメリーのことで一杯だった。  そしてそのまま、意識が希薄になって、ブラックアウトした。 「やっぱり空調なしは危ないわね」 「メリー、ごめんねー」  私はメリーの胸に頭を乗せる。 「蓮子、反省してないでしょ。そんなところに乗せないでよ」 「え、メリーの胸は私のためにあるんでしょう」 「もう……、そんなこといったらどかせなくなったじゃないのよ」  メリーは頬を膨らませるが、別に本当に機嫌を損ねたわけではないことは分かっている。その証拠に胸に乗せた私の頭を撫でてくれてる。気持ちいい。  自分でも胸に頭をのせるなんてどうかと思うけど仕方ないのよね。メリーに後ろから抱きしめられてたら、メリーの胸が背中にあたるのよ。我慢できるわけないわ。こんなに水に浮くんだし。  メリーの胸は水に浮いていた。  正確に言うならば、私の浴室の浴槽に張ったぬるま湯に優美に優雅に華麗に浮いていた。悔しくなんてないわよ、本当よ。  メリーの話によると、私は倒れたらしい。まぁ、あんな暑い部屋で激しい運動をしてたら当然かもしれないけど。で、そのまま、浴室で水を浴びせられて、そのままこうして一つの湯船に入れられている。  浴室の脇に、ずぶぬれになった私とメリーの服が積み重なっているのがその副産物。メリーは服を脱がせる手間すら省いたらしい。  洗濯してちゃんと着れるといいけど。私の服は大丈夫だけど、メリーの服は適当な扱いできない服が多いし。  でも、乾くまで、メリーには私の服を着せよう。シャツだけで十分よね。楽しみ楽しみ。 「蓮子、何笑ってるのよ」 「なんでもないわよ。ただメリーが可愛いって思ってただけよ」 「また、蓮子たら」  メリーのまんざらでもなさそうな顔に私の頬もにやける。手でメリーの太腿を撫でながら、頭の中でメリーのコスプレ大会を脳内開催してみた。  シャツ一枚はもう妄想したので、次はブレザーかしら。どうしてか分からないけど兎耳は欠かせないわね。こんど買って来よう。  巫女服でもいいわね。金髪と巫女服のミスマッチがいいわね。  あぁ、もう水着でも……。  わたしはなんとなくの閃きを口に出した。 「ねぇ、メリー、海、行きましょう、海」 「どうしたの、突然」 「プールは人口過多。人工海水浴場もそうよね」 「そうね。ついでに言うと、まともに泳げる海水浴場なんていくつあるのかしら」  私は向き直り、メリーの太腿の上に座る。メリーの顔が良く見える。やっぱりこの体勢がいいわね。胸枕もいいけど、やっぱりメリーの顔見たいし。 「だから、メリーの能力で、誰も人がいないような、私たちのためだけの天然の海水浴場を探しましょう」 「また、そんなことを」  メリーが呆れたように言うけど気にしない。 「ね、メリー、水着買いに行きましょう」  私は我慢できず、立ち上がる。 「ちょ、蓮子、分かったから。こんなところで仁王立ちしないで、ね。いろいろと目のやり場が」 「あ……」  結局、服が着れる状態にはならず、その日はずっとお風呂場でメリーと一緒に過ごすことになった。とりあえずお風呂場から上がった後に、シャツ一枚で恥ずかしがるメリーを堪能できたのは、わが人生に一片の悔いもないと言っても良かったかもしれない。  夜になるとさすがに暑さも和らぎ、相変わらずシャツ一枚のメリーを抱き枕にしてみた。メリーは直ぐに寝息を立て始めたけれど。私はなかなか寝付けなかった。私は付けっぱなしの扇風機の音を聞きながら、メリーに似合う水着を考えて寝付けない夜を過していた。  明日もメリーと一緒に……。短針が半周した頃にようやく訪れたまどろみの中で、私の腕の中の愛しい人の事を夢に見たい、と思ったのがその日の最後の記憶だった。