蘭





 人から聞いた話をするのもどうかと思うんだが、蘭って花があるだろう。
 いや、俺もそんなに詳しいわけじゃないんだ。蘭って言われて、「えーと、あんな花だったよな?」と、自信なく思い出した程度だったし。
 その、人から聞いた話なんだが、蘭ってヤツは、菌から養分を貰って生長するらしい。ものによっては完全に依存するものもあるらしくてな。普通の植物は太陽の力で生長するだろう。それを完全に放棄したり、もしくはその上、菌から養分を奪って、二重取りだな、をするらしい。
 太陽の恵みを受けてすくすくと育つ植物、そんな概念を打ち砕いてくれるわけだ。冬虫夏草のように茸然としているならばまだ受け入れられるが、あの花を咲かせる植物がそんなことをしているというのは、その話を聞いた後に蘭の花を見てもなかなかその話と結び付けられなかったよ。
 美しい花には棘がある、とは良く言われるけれど、怪我をするだけの棘持ちの花が可愛く見えてくるよ。棘が刺さったところでよほど深く刺しでもしない限り一日もあれば元通りだからな。
 蘭に取り付かれた日には一生を貢いで過ごすことになるわけだ。働けども働けども、の心境になるな。
 いや、どうしてこんな話をするのかって?それはだな……





















「ここに来るまでに能天気な巫女には会わなかった?」
 俺は頭を振る。
「じゃ、胡散臭い妖怪には?」
 妖怪? そんな単語に顔をしかめてしまった。
 妖怪、妖怪ってアレか、ヌリカベとか一反木綿とかぬらりひょんの妖怪だよな。なんでそんなことを聞かれるんだろう。妖怪の話をするのも十年振りくらいだ。俺の表情で察してくれたんだろう、その女性は次の質問に移った。
「それじゃ、人間でも妖怪でもどっちでもいいから、ここに来るまで誰かに会わなかった?」
 相変わらず、妖怪、か。何かの冗談を言ってるかと思い、目の前の女性の顔を眺めるが、本人は至って真面目そうな顔をしている。
 チェック柄の服から伸びた手が、エレガントとかそうゆう単語が似合いそうな日傘を支えている。
 肩で切りそろえられた髪が、風に揺れて、日傘で減衰した太陽の光を僅かに乱反射させている。その濃緑の髪に太陽の光が差すのを見ていると、深い森で上を見上げて、木々の僅かな隙間から光が覗くのを思い出す。

「で、どっちにも会ってないの?」
 俺が質問に応えないからか、その女性は不機嫌そうな声で聞きなおしてくる。
「あぁ、すまない。その、道に迷ってから見かけた人は貴女が初めてだ」
「人?」
 彼女は愉快そうに笑う。
「私を人と呼んでくれるなんてね」
 彼女のわけの分からない発言と笑いに俺は彼女に掛ける言葉を見つけられなかった。彼女の笑いと共に風が走り向日葵が揺れる。その中で彼女は笑い続けた。



 家から見えるあの山に登ってみよう、と友人に誘われたのは一昨日だった。そんなに高い山でもないので気軽に頷いた。その結果が友人とはぐれての昨日の遭難。
 家族にも何も言わずに来たので自力で下山するしかないと思い定めて、遭難したら尾根をいったん目指せと、聞いたことがあったので目指して見たものの、途中で崖に阻まれて夜を迎えてしまった。
 そして迷い出たのがこの向日葵が咲き誇る丘だった。

 だがどうにも違和感が拭いきれない。
 登った山は家からそんなに遠くはない山、その近所にこんな広大な向日葵の畑があるという話を聞いたことがない。
 そのうえ、昨日の夜は短すぎた。いくら遭難したという状況とはいえまだ一日目。そんなに体力、精神が追い詰められた状況ではなかった。夜がいつもの半分の長さもなかった気がする。暗くなって完全に暗くなっても、注意深く歩いていたが、気がついたらここに辿り着いていた。それとほぼ同時に日が昇った気がする。
 というか、日が昇ってからどれくらい経った? 女性の差している傘はほぼ真下に影を作っている。日が昇ってからそんなに時間が経ったか? 昨晩からそんなに時間が経っている気はしない。本当に俺は山を下りたのか?

 風景がぐにゃりと歪む。立ちくらみか。まぁ、友人とはぐれてから、一睡もしてない、というか疲れた。
 人に会えた、そのことが俺の緊張感の糸を切ってしまっていた。
 闇に落ちていく意識の中で覚えていたのは、満開の向日葵のように凄惨な彼女の笑みだった。彼女の笑い声が何時までも耳の中で反響し続けていた。





 目を覚ますと、四つのものが目に入った。
 視界を丸く切り取っている日傘。
 日傘に切り取られた蒼空。
 林立する向日葵。
 そして女性の顔。

 しばらくの間、俺は自分の置かれた状況が分からず、女性の顔を見つめていた。
 彼女の顔が近い腕を伸ばせば届いてしまう。
 彼女が三回瞬きするのを見届けた瞬間に唐突に膝枕されていることに気付いた。
「おあっ」
 変な声を上げてしまう。起き上がろうとするが、彼女の手がそれを遮り、俺の後頭部は再び彼女の柔らかい太腿に埋まる。
「あら、おはよう」
 彼女は何でもないように声を掛けてくる。
「あぁ、すいませんでした」
 俺は謝るが、彼女はただ笑っているばかりだった。



 その後、俺は膝枕をしてもらいながらという変な状況で、自己紹介と道に迷った経緯を伝え、自分の家への帰り方を聞いたが、彼女の答えは当を得ないものだった。彼女と呼ぶのはもうやめよう、彼女の名前を聞いたのだから。彼女の名前は風見幽香、幽香さんか。
 ともかく、幽香さんの言った地名は俺の耳に馴染まない地名で、俺の言った地名も幽香さんは聞いたことがないようだった。
 ただ幽香さんの態度は、お互いに地名を知らなくて当然といった風だったのがとても気になった。

「俺の家への道を知っていそうな知り合いはいないんですか?」
「いないこともないわ。精確に言うなら帰り道ではなくて帰り方だけれどね。さっき言った能天気な巫女とか胡散臭い妖怪とか」
 あぁ、帰宅への希望が少し持てた。今ならまだお隣さんから貰った惣菜が食べられるかもしれない。

「でも……ね」
 幽香さんが笑っている。
 忘れていた。あの気を失った時の、幽香さんの笑顔。
 どうしてあの時逃げなかったのか、と本能が問い詰めてくる。たとえ意識を失っていたとしても、逃げなければならない、そんな状況だった。

「コッチに来たのに、霊夢にも紫にも会わずに私のところにきたってことは、私のモノってことよね」
 膝枕をしたまま、幽香さんが俺の顔を覗き込んでくる。
 そのとき、ようやく俺は理解できた。
 彼女がヒトではないことに。そして雑草をむしりとるように、俺の生殺与奪を握っていることに。
 子供の頃野犬に襲われたときのことを思い出す。あの時は親父が助けてくれたが、今回は野犬の比ではない、野犬と比較にはならない。
 そんな状況で、彼女の手が俺の頭を撫でてくれる。
 とても気持ちよかったけれど、同時に首から上をを万力と荒縄で同時に縊られるようなそんな感覚に襲われる。
 今起き上がったら、その想像通りになるという確信が俺の体を縛る。そんな俺を見ながら、彼女は俺の頭を撫で続ける。
 目を逸らすこともできない笑顔のまま。


「別に頭からがぶりと獲って食ったりしないわ。ただこの身体を持つものとしては、どうしても『食べたくなる』ときがあるのよね」
 彼女はその豊かな胸に手を当てながら、ゆったりと語りかけてくる。
 俺は、何をですか、と聞きたかったけれど、さっきから唇が動かない。全身
、指先一つ動かない。多分、幽香さんは何もしていないんだろう。それでも彼女が近くにいる、それだけで俺の身体は完全にその働きを喪失していた。
 そんな俺を見下ろしながら、幽香さんは首もとのスカーフを緩めて、そのまま外した。
 それだけで花の香りが漂ってくる。幽香さんの香りだった。幽香さんは自分のブラウスのボタンを2つほど外しながら、俺が結局発することができなかった質問の答えを教えてくれた。
「こうしたいときもあるのよ」
 まったく脳からの命令を拒絶し続ける俺の唇に幽香さんの唇が重ねられた。





 俺のモノに熱い吐息が掛かる。六度目までは数えていたけれど、今では何度目か分からなくなってしまった。幽香さんの口戯に俺のモノが震える。
 幽香さんの責めは容赦なく俺を射精寸前にまで持ち上げてくるけれど、射精はさせてくれない。指で一回突かれたら我慢できないというところで止めてしまう。そしてしばらく焦らされた後で、また幽香さんの唇と舌と指が俺のモノを責め立ててくる。その繰り返しに腰が砕けそうな快感とともに、もはや痛みに等しいようなもどかしさに覆われている。
 そんな時に、幽香さんは俺のモノに熱い熱い吐息を吹きかけてくる。そんなことだけで俺は快感に腰を震わせてしまうが、辿り着けないもどかしさに焦れる。

「あの、幽香さん……、どうしてこんな……」
「んっ、だってこうして我慢してもらったほうが『美味しいのよ』」
「美味しい?」
「そう、貴方の体の中の精も、すぐに出しちゃうんじゃ駄目なの。こうして練って、私に馴染むまで、美味しくなるまで寝かすのよ」
 俺のものを舐めて垂れた涎を自分の唇で拭いながら、幽香さんはそんなことを言った。
「ね、だから頑張って。その方が貴方の得る快楽も極上のものになるわよ。まあ、私は美味しければいいんだけどね」
 頑張って、つまりまだこの甘美な責め苦は続くのか。そして俺の快楽はおまけらしい。
 この今まで味わったことのない快感が何時までも続いて欲しいという想いと、今すぐにでも射精したいという想いがせめぎ合う。だが、ここで幽香さんの思いに反して、勝手に射精をしたら……今の俺は幽香さんの機嫌を損ねたら存在することもできなくなるということを本能で悟っていた。
 そんな理由だけでなく幽香さんの口の中に入れさせてもらって動かないだけでも射精しそうなほどの快感、という状況に浸っているだけでもあるんだけれど。

「口ばかりもあれだし、他のところでするわよ」
 俺の返事を待たずに、幽香さんはブラウスのボタンを一つ一つ外していく。その一動作毎に幽香さんの肌が露わになり俺の視線がそこに縫い付けられる。
「そんなに見ないでよ」
 幽香さんは満更でもなさそうにブラウスのボタンを外しきる。幽香さんはブラウスの中には何もつけておらず、ブラウスの隙間から幽香さんの胸の谷間が覗いている。
 幽香さんの乳房はまだブラウスに隠れているけれど、ブラウスの布地を突き上げるようにその存在を誇示している。今まで下着を着けていると思っていたのに、着けていないでもあの存在感を示していたという事実に俺は息を飲むしかなかった。

 じわりと幽香さんの胸が俺のモノに近づいてくる。何か俺と幽香さんの立場を象徴してるような光景に思えてくる。本来胸はそんな暴力的な存在ではないはずなのに。
 薄絹のような幽香さんの胸の感触と共に、俺のものが幽香さんの胸に飲み込まれていく。幽香さんの胸の中に俺のモノが沈み込んでいくたびに俺は腰が融ける様な感覚を覚える。触覚だけでなく幽香さんの胸に俺のモノが飲み込まれていく視覚が俺の神経を苛んでいく。
「何よ、そんなに気持ちよかったの? そんな声上げちゃうなんて」
 幽香さんに言われて俺は知らず知らずのうちに声を上げてしまっていたのに気付かされる。顔が熱い。
 幽香さんはそんな俺を見て笑顔のままで、手で自分の胸を押さえつけ体を動かし始める。

 やばい、声が止まらない。我慢しようとしても声が止まらない。声を我慢しようとしたら今すぐにでも射精しそうになってしまう。射精を我慢するには声を堪えるのを諦めしかなかった。
 幽香さんの体が動くたびに、俺のモノが快感に打ち震える。幽香さんの胸の柔らかく艶やかな感触が俺のモノを包み込んで、口でされていたときとは別の快感で俺を責め立ててくる。
 さきほどの口戯で付いていた幽香さんの唾液が潤滑剤のように俺のモノと幽香さんの胸の間でちょうどいい摩擦となってくる。

「まったく、そんなに声を上げちゃって。聞いているこっちが恥ずかしくなるわよ」
「いや、だって幽香さんの胸、すごくいいから。」
 俺はそう答えるのが精一杯だった。
「あら、そう。じゃ、もっと頑張ってね」
 そう言って幽香さんは、俺のモノに口づけする。

 俺の腰がびくりと震える。
 幽香さんの口が俺のモノの先端を口先で刺激してくる。割れ目に幽香さんの舌が侵入してくる。
 その間も幽香さんの胸は止まらない。幽香さんの胸は別の生き物の様に、俺のモノを包み込んで締め上げてくる。

 俺の腰の震えが止まらない。だんだん下腹部にいろいろなモノが集まってくるのが分かる。
「幽香さん、もう駄目だ。それ以上されたらっ」
「あらっ、じゃ、止めるわ」
「えっ」

 幽香さんはあっさり胸も口も離してしまい、俺のモノは突然の虚空に包まれる。行き場をなくした俺の精が、俺の中で戸惑い、彷徨っているのが分かる。
 今自分の手でちょっと触れば射精に至るだろう。だがそうしたら幽香さんの興味は消えうせ、俺はどうにもならない状況に追い込まれる、そうゆう未来視に、自分でするだなんて選択肢としてはありえない。
 いや、ただ幽香さんにして欲しいだけだ。この寸止めであろうとも、幽香さんに与えてもらえる快感に溺れてしまいたい。




 その後、今度は胸で何度してもらったのか記憶にない。俺は人間らしい言葉を発することもできずに、幽香さんの胸を味わい、そして最後の一歩を踏み出させてもらえない。

 だが、それもそろそろ限界に近い。もう俺のモノは完全に充血して、根元でマグマ溜りが爆発しそうになっている。
「ねぇ、もう我慢できなそう?」
 俺の状態を的確に見抜いているのか幽香さんはそう尋ねてくる。俺はただ必死に頷くことしかできない。
「そのようね。ね、もうこんなになってて、美味しそうな香りがするわ」
 幽香さんは、俺の先走りと唾液で光る俺の亀頭に鼻を寄せ匂いを嗅ぐ。
 そんな行為だけで俺のモノは期待に震える。
「よく我慢しわね。じゃ、そろそろ味わわせてもらうわ」

 幽香さんの胸に俺のモノがまた包まれる。俺は悲鳴のような声を上げてしまう。
「まだ出すには早いわよ」
 幽香さんの口が俺のものを包み込む。

 もう止まれないのが分かる。多分途中で止められても今回は我慢できない。そんな状況を幽香さんは分かっているんだろう。今までにない強さで、俺のモノを責め上げてくる。

「ゆ、幽香さん、出るよ、もう俺我慢できないっ」
 幽香さんが俺のモノを舐めたまま、もっと我慢しなさい、という目つきで睨んで来る。
 俺は括約筋に力を込めて暴発を抑えようとするが、もう水門が決壊するのは自明だった。
「ごめん、本当に駄目だ、出る……よ」

 幽香さんが強く俺のモノを吸ったのが引き金となった。

 頭の中が真っ白くなった。
 今までいけなかった分、十回の射精を同時にしているような快感だった。多分、俺の口からは呆けたような声が出ていた気がする。
 それほどの快感と共に、幽香さんの口の中に噴火するかのような勢いで精液を放出する。止まらない。射精して、その射精の快感で次の射精が誘起されているような気がする。

 射精している間の視覚から得られる情報はまったく脳には記憶されなかった。その間脳に刻み込まれたのは、俺の下半身からの刺激だけ、幽香さんの胸の柔らかさと、口の熱さと、そして迸る精液。
 俺はただ幽香さんの口の中に精液を出し続けることしか考えられなかった。





 その奔流から開放された時、最初に目に入ったのは、口から俺の精液を垂らす幽香さんの顔だった。

「あ、幽香さん垂れてる……」
 俺が拭おうと指を伸ばしたけれど、その前に垂れた精液は幽香さんの舌によって舐めとられる。その舌も俺の精液で白くなっていた。そのせいで幽香さんの顔に薄く俺の精液による化粧が施された。

 俺のモノには幽香さんの口の中でたまっていた精液がまだ付いていた。それを幽香さんは何も言わずに、舌で丁寧に丁寧にそれが甘露であるかのように舐めとっていく。
 俺はその幽香さんの舌が俺のモノを這う度に腰を震わせ、幽香さんの波打った髪が揺れるのを眺めていただけだった。





 俺は倒れこみたいほどの疲労に襲われながら、なんとか体を起こしたままにする。今倒れ込めばそのまま寝てしまえるほどの疲労感と充足感に満ちていた。
 あれほどの快感を得たら俺はこの後何があっても満足できないんじゃないだろうか、そう思うと同時にあの快感を思い出しただけで再び達することができるような気もした。

 そんなことを考えていると、突如幽香さんが俺の眼前に顔を突き出してくる。
 幽香さんの顔は上気していて、俺は思わず唾を飲み込む。
「貴方のとても美味しかったわよ」
「そ、それは良かったです」
「あそこまで我慢してくれると、そうね朝露に濡れた花の蜜の様だったわ」
「は、はぁ」
 どんな味なんだろう。
「あら、納得いってないみたいね。自分の出したものなのに」
 舌なめずりしながら、幽香さんが思い出しているようだ、俺の味を。そして急に愉快そうに笑い出す。
「そうね、じゃ、味あわせてあげるわ」

 むっ。幽香さんとの二回目の口づけ。
 ただしそれは俺の口の中にえぐい味を拡げていく。幽香さんの口と舌が俺の口の中に入ってくるが、それは俺の出した精液の味であろう味に満ち溢れていた。
 救いは口づけを続けるうちに、幽香さんの唾液が占める量が増えていったことだった。

 たっぷり百数える時間ほど唇を合わせると、幽香さんが唇を離して聞いてくる。
「ねぇ、どう、おいしいでしょう」
 そんな笑顔で聞かれると、否とは言えない。
「え、えぇ」
「それじゃ、今度は貴方の分も残しておいて上げるわ」
 そ、それは勘弁して欲しい。


 口づけの時に、いつの間にか幽香さんに抱きつかれていた。幽香さんの唇を味わうのに夢中で気付いていなかった。幽香さんの胸が俺の胸に当たっている。

「さあ、続きよ」
 幽香さんに言われて、俺のモノが硬さを取り戻していることに気付いた。
 幽香さんは俺には何もせずに、自分は立ち上がり、スカートの中から下着だけを脱ぎ、俺の肩にわざわざ置いた。
 俺の首に両手を掛けるように、俺の上に乗りかかってくる。上気した幽香さんの顔が近い。俺は自然に幽香さんの腰と太腿に手を掛けて幽香さんを導く。

 幽香さんの秘裂に俺のものをあてがと、幽香さんは一気に腰を落としてきた。何の抵抗もなく幽香さんの中に俺のモノが飲み込まれる。幽香さんの秘部は十分に水を湛えていた。俺のモノにしている間に幽香さんも感じていてくれた、そう思っただけで俺の体が熱くなる。
 そして目の前にある幽香さんの顔も紅く熱く上気していている。俺は唇を合わせようとするが、幽香さんはそれをかわして腰を動かし始める。
「ほら、貴方も動かしなさいよ」

 最初は分からなかった幽香さんの中の良さが、腰を打ち付け合ううちに分かって来る。熱く粘液で滑りは良いけれど、幽香さんの中は俺のモノに吸い付いてきて、俺のモノをもって行きそうになる。敢えてそれに逆らうように、中で引き剥がそうとすると、中の凹凸が俺のモノとぶつかり合い、やはり離そうとしない。
 かと言って、推し進めようとすると、中が押し出すように脈動し、中々進ませてくれない。それを掻き分ける様に腰を押し出しすと、俺の先端が痺れてくる。

 俺の首に腕を回して腰を振る幽香さんの顔には余裕すらありそうな表情を浮かべている。確かに顔は上気していて、俺のモノで感じてくれてはいるようだが、腰の動きは自らの快楽のためというより、俺を気持ちよくさせるための動きと言う気がする。
 俺も幽香さんに対抗するために腰を打ち付けるが、幽香さんが腰をくねらせると、感じすぎないようにくいしめている口から声が出そうになる。

「まだまだね」
 幽香さんはそれだけ言うと、俺の首筋に舌を這わせる。
 背筋に波が走る。首筋を舐められているだけなのに、俺は思わず声を上げてしまった。
「首筋、敏感なのね。じゃ、こっちはどうかしら」
 幽香さんの舌はそのまま上って俺の耳の中に入ってくる。

 蕩ける。
 今幽香さんに入れているのは俺のはずだった。それなのに、幽香さんに耳の中の舌を入れられただけで俺の体は幽香さんに征服されたように感じてしまった。幽香さんの舌が動く度に、耳の中で唾液と舌とでくぐもった音が耳孔に響く。
 俺は腰を動かすのも忘れて、幽香さんの舌を耳で受け入れる。その間も幽香さんの体の動きは止まらず、俺は下腹部と頭部両方で幽香さんに犯される。

「痛っ」
 耳たぶに急に痛みが走った。一瞬何の痛みか分からなかったが、幽香さんに耳朶を強めに噛まれたことに気づいた。
「ねぇ、貴方、腰がお留守になってるわよ」
「は、はい……」
 幽香さんの瞳に見据えられて俺の腰は勝手に動き出す。多分彼女は快感が単純に欲しい訳ではないんだろう。俺が幽香さんに何もしないことが気に食わなかったに違いない。
 これが普通の女の子だったら、俺は単に愛おしいと思うだけで済んだかもしれない。
 でも相手は「幽香さん」だ。耳を噛まれた、多分跡がはっきりついているだけだろう、それだけで済んだことを幸せと思わなければいけない、そう確信していた。
 でも、恐怖だけだったら、多分俺のモノは縮こまって、それこそどうなっていたか分からない。
 幽香さんから受けたものは恐怖もあったけれど、違うものも多分に含まれていた。

 そう、幽香さんはその噛んだ耳たぶを、母猫が子猫の傷跡を舐めるかのように舐めてくる。俺にできるのは、自分にできる限りの範囲で幽香さんに快感を覚えてもらうことだった。

「今度はあんなに我慢しなくていいわ、今度はあっさり目でいきましょう」
 幽香さんはそう言って、膣内で俺のモノを締め付けながら腰を動かす。俺もそれに耐えるように腰を動かす。
「さぁ、貴方のいろいろ食べさせてもらうわ」
 幽香さんが腰を動かしながら、俺の身体に歯を立ててくる。首筋、肩、二の腕、胸……噛み付けそうなところには、多分一通り幽香さんの歯形が残された気がする。
 そしてその跡を見る度に、そこを噛まれたときに上げてしまった甘い声を思い出して恥ずかしくなる。
 幽香さんの少し驚いたような少し侮蔑したような、それこそ粗相をした子猫を見るような表情に俺は目を背けたくなった。幽香さんの手で押さえられて、背けられなかったけれど。

「そんなに噛まれて声を上げるなんて……」
 幽香さんが腰を動かしながら囁いてくる。幽香さんの吐息が幽香さんの唾液で濡れた耳に当たって体が震える。
「そんなに耳だけで感じおなくてもいいのに。でもせっかくだから、もっと耳で感じていいわよ」

 背筋を貫かれた感覚、幽香さんに再び耳を舌で犯される。幽香さんは俺の耳を何度も何度も、歯で噛んで、唇で挟んで、下を差し込んでくる。まるで脳を直接幽香さんに犯されているよう。何も考えられなくなってくる。
 下半身も幽香さんの膣に犯されて、脳も犯される。脳を犯されるて俺は我慢するということを忘れてしまった。

「ふぁぁ、ゆ、幽香さん、出ます……」
「えっ、あ、ちょ……そんな急に」
 俺の鼓動と共に、俺のモノが震える。そしてその震えと共に、幽香さんの膣内に精液が吐き出す。
「んっ、で、出てるわ、熱いの……私のナカに」
 幽香さんも身体を震わせながら俺の射精を受け入れてくれる。むしろ搾り取るように、膣を締め付け次の射精を促してくる。
 さっきまで焦らされていたせいか二回目というのに射精が止まらない。俺は幽香さんの膣に導かれるように射精し続けた。





「ねぇ、貴方、さすがに出しすぎじゃない」
 幽香さんが、精液がこぼれ出さないように自分の秘裂をおさえながら腰を浮かせて、俺のものを抜く。自分でも驚いた。幽香さんが抑えてるのにも関わらず、精液が幽香さんの秘所からこぼれ出る。そんなに出していたのか。
 どうりで気持いいわけだ。
 俺は正直に答える。
「幽香さんが気持ちよかったから……」
「当然よ」
 鼻であしらわれた。





「それにしても貴方の身体、歯形だらけになっちゃったわね」
「そ、そうですね」
 改めて自分の身体を見ると、既に薄くなり始めている葉型もあるが、はっきり跡が残り数日は消えなそうな跡もある。数箇所は跡というより傷と言った方が相応しいものもあった。
「幽香さんが噛むからですよ」
「いや、だって貴方がいい声で鳴くから」
「うっ……」
 確かにそうだった。だけれども噛まれている間に気付いたことがあった。幽香さんは俺が突き上げているときより、俺を噛んでいるときもいい顔をしていた。その顔を見て俺も声を上げてしまっていたんだ。
 多分別に俺を傷つけて感じていたのではない気がする。あれは食べられていたんだろう。

 そう思うと、俺は何の考えもなしに、幽香さんの目の前に人差し指を差し出した。
 幽香さんは俺の顔を、少しの間じっと見つめて、俺の指に噛み付いた。その時の幽香さんの表情は忘れられない。

「うっ」
 指に痛みと痺れが走った。だけれども、幽香さんの上気した表情に俺の心臓が心拍数を上げる。
 しかし指という見やすい場所を噛みつかせて分かったことが、幽香さん、犬歯がきっちり生えていてとても痛い。見たことはないけれど、吸血鬼を連想させる。噛み付かれるたびに、何かを吸われている気がする。血ではないのかもしれないけれど、それでも幽香さんがいいなら、構わないかなという気になってくる。

 そして幽香さんに噛まれることによってもたらされるのは単純な痛みではなかった。決して痛みが引き起こしたものではない。幽香さんに噛まれているだけで俺のモノが再び勢いを取り戻してくる。
 幽香さんに指を吸われる度に、俺のものが角度を持って、存在感を増してくる。
 幽香さんが指を吸うたびに俺から何かが奪われて、代わりに幽香さんから快感が送り込まれてくる、そんな気がする。幽香さんに指を吸われているだけなのに身体が燃えるように熱い。もどかしい。
 そのもどかしさを感じ取ったのか、幽香さんの手が俺のモノに添えられる。幽香さんの冷たい手が一層熱くなっているのを感じさせてくれる。

 俺は幽香さんに指を吸わせながら、幽香さんの添えられた手を使うように腰を振る。幽香さんがあまり手を動かさずそれがもどかしく、一層腰を動かしてしまう。
 その間も幽香さんは俺の指を吸う。その度に幽香さんも顔を赤らめて明らかに高まっているのが分かる。その表情だけで俺はいってしまいそうになるが、腰を動かすのを我慢して堪える。

 幽香さんの手が俺の吸われていないほうの手に添えられる。何だろうと幽香さんの顔を見るとすごい顔でにらまれている。
 少し怯んだ。
 幽香さんはそんな俺の様子を無視して、そのまま俺の手を幽香さんの秘所に導いていった。

 あぁ、幽香さんも我慢できなくなることがあるのか。頬が緩んだ。
 そして思考がばれた。
 犬歯が食い込んで来る。
「ちょっと、ほ、本当に痛い、ごめん、ごめんなさい」
 俺が本気で謝ると幽香さんは気が済んだのか、再び指を吸い始める。

 明らかに今ので指からは血が出ている。そのせいか幽香さんに指を吸われて、持って行かれる感じと快感が増してきた。
「あぁ、幽香さん、幽香さんの口も手も気持ちいい」
 俺の口から自然とそんな言葉が出てくる。
 その言葉を聞いたからなのか、幽香さんは俺のモノに添えられた手を動かしてくる。俺も幽香さんの秘所に指を沈めていく。

 お互いに手で答える。幽香さんが指を吸うと、俺は幽香さんノナカをかき回す。それに反応するように幽香さんの手が俺のモノをこすり上げる。俺が声を上げると、幽香さんが指を吸う。

 その無限連鎖がお互いの手の動きも、吸う早さも、俺が声を上げる回数も全てを早めていく。幽香さんと俺はいつのまにか抱きしめるようにお互いの身体を絡め合い、そしてお互いを指で高めあった。
 幽香さんの胸が俺に押し付けられ歪に変形する。俺は一層身体を押し付けて幽香さんの胸を押しつぶしていく。けれど少し離すと弾力でも元の形を取り戻す。

 幽香さんの手の動きが一段と早くなる。俺も幽香さんの陰核を摘みあげると、幽香さんが身体を震わせる。
 俺は陰核を重点的に刺激し始めると、幽香さんも手を激しく動かし始める。

 それから限界に近づくまでは早かった。
 幽香さんは俺のモノを噛み締めて我慢している。俺もその痛みがなければ果ててしまっていただろう。
 だけれども、我慢しているだけでお互いに限界は超えていた。

 幽香さんの陰核を強く摘むと幽香さんは身体を激しく震わせ、俺の指を吸った。
 お互いにそれが契機だった。俺は獣のような声を上げて、幽香さんは俺の指を噛み締めて絶頂に溺れた。




 しばらく気を失っていたようで、気が付くと全身がとてつもない疲労感に襲われる。単純な性交渉の結果というより、幽香さんに「吸われた」のが原因かもしれない。
 俺が目を覚ましたのは下半身への刺激が原因だった。俺が目を覚ましたとき、幽香さんは俺のモノに最後の絶頂で出したと思われる精液を塗りつけたり、舐めとったりしていた。

 俺はさっきまで幽香さんの口に預けていた指を見る。意外なことに傷はなかった。驚いている俺を見て幽香さんが事も無げに言う。
「あ、治しておいたわ」
 こんなヒトとあんなコトをしたのか。俺は思わず笑ってしまう。それを幽香さんは不思議そうな顔をして見ていた。






























「ごきげんよう」
「あら、紫じゃない。こんな僻地に来るなんて珍しいわね」
「たまにはそんな日もあるわよ」
「そんなこと言って、目的は彼でしょう」
「さすがに分かるわよね」
「そりゃね。珍しい来客が続いたら、因果関係を疑うでしょう。それにしてもどうして私のところに彼を寄越したの?」
「深い意味はないのだけれどね」
「見落としたのね」
「さぁ、どうかしらね。でも、貴女の元へ向かったのを知ったから、なるようになると思いまして」
「随分信頼されているのね」
「ふふふ」
「ふふふ」

「で、今日は何、彼を連れ戻しに来たの?」
「そうね、ただ迷い込んできたなら、元の世界に返さないとね。霊夢に怒られちゃうわ」
「あら、そう」
「随分そっけないのね」
「そうかしら。まぁ、連れて行ってもいいわよ。『本人が同意するならね』」
「……。私、無駄なことはしない主義なの」
「知ってるわ」
「じゃ、霊夢には何とかごまかして置くわ」
「よろしくね。霊夢にも今度、向日葵の種でも持っていくと伝えておいてくれるかしら」
「どうゆう心境の変化?」
「まぁ、いいじゃない、『一人分』のお礼よ」
「いいわ、それじゃまたね、気まぐれな妖怪さん」
「ちゃんと働きなさいよ、胡散臭い妖怪さん」





























 目を覚ましたのは大分日が昇った後だった。隣に幽香様は既にいなかった。寝床から起き上がり一歩踏み出すと身体が崩れ落ちそうになる。そしてそんなことで、昨晩の幽香様との交わりを思い出す。

 ここに来て何度目の太陽だろう。もはやその感覚がなくなって来た。完全になくなったのは望郷の念。もはや幽香様がない生活など耐えられない。
 多分家に帰ったとしても、俺が行うのは此処のこと、いや幽香様のことだけだろう。
 幽香様との情事は常に最高で最悪の責め苦だ。一日一日、より大きい快楽とより大きい喪失感が俺に積み重なってくる。

 幽香様を探して、一歩踏み出す。今では一歩歩くことすら苦痛となってきている。それでも幽香様と一緒にいるときだけは、通常の生活、むしろ激しい運動もできる。少しでも離れるとどうにもならなくなり始めている。

 足が滑り、窓に手を突いた。窓から目に外の光景が飛び込んでくる。窓から蘭の花が咲き乱れていた。蘭か。友人に聞かされた蘭の話を思い出す。

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