東方星蓮船2ボスが登場します 〜〜〜宝船の騒動から数日後のお話〜〜〜 「早苗、お客さんだよ」 「はーい」  諏訪子に呼ばれて、昼食の準備ため、台所で葱を切っていた早苗がエプロンで手を拭きながら玄関に駆ける。  来客が山の妖怪か霊夢辺りであろうという早苗の予想は完全に裏切られてしまった。 「どなたですか、って小傘さん?」 「どうも、いつでも貴方の手元に小傘です。というか初めて会ったときより、今私が訪ねたことの方が驚いてませんか?」 「いやあ、そんなことないですよ。多分」 「自信がますますなくなっていくー。って、元からないけど」 「ねえ、早苗とりあえず上がってもらったら? 小傘ちゃんだっけ、ご飯まだなら早苗の手料理でもどう?」 「ぜひ頂きますっ」 「だってさ、早苗」 「はい、では少し量を増やしますね」 「うん、それじゃ、小傘ちゃん、こっちにどうぞ。あ、早苗はご飯作ってて、私小傘ちゃんにお茶出すから」 「いえ、私が……」 「早苗は料理を作る! 私はお茶を淹れるだけ、OK?」 「わ、分かりました、洩矢様、お願いします。それじゃ、小傘さん、腕によりをかけて昼ごはん作りますから少し待っていてくださいね」 「はーい」 「早苗、料理上手なんだね」 「いえ、お粗末さまで」  早苗の部屋で、小傘は早苗の淹れたお茶を飲んでいる。  結局、早苗は食事では小傘の訪ねてきた理由を聞き損ねていた。二柱が小傘の、早苗に相談したいとの思いを汲んで、食事中は早苗が一方的に小傘を打ち負かしたときの話に終始した。  そんな話であったのに小傘は早苗に負けた悔しさを見せずに、むしろ弾幕中の早苗の様子を活き活きと二柱に語った。  その話を聞いて、二柱の早苗を見る目が少し変わり始めたのは、小傘の話には関係のない話であった。  早苗の部屋で小傘は辺りを見渡しながら、お茶を飲んでいる。 「あの、小傘さん、何か珍しいですか?」 「うん、全部珍しい。私の家って、本当に昔ながらのものしかなくて。こんな桃色の座布団なんて考えられないの。しかもこんなに柔らかいし」  そうクッションを指差しながら話す小傘に、早苗は「ああ、本当に昔の人、いや昔ながらの妖怪なんだなあ」と嘆息してしまう。 「ああ、そうそう話ってのもこっちの話で。  あちき、いや私もあれから考えてね。確かに人を脅かすのが妖怪の本分だけど私には向いてないんじゃないかって」  早苗は、あはは、そんなことないですよ、と小傘を慰めるが、気休めにしかならなかった。 「だからです。あちきは考えたんです。そもそも私が捨てられた理由をどうにかすればいいんじゃないかって。  だから私も捨てられたりしないような傘になればいいんじゃないって思ったんだよ。  ねえ、お姉さん、あちきを可愛くしてもらえませんか?」  早苗の脳髄を電流が走る。  早苗に懇願する小傘は上目遣いで早苗を幽かに見てくる。  小傘のその頬は軽く紅に染まっている。  その小傘の仕草は早苗の色々な神経を直撃してしまう。 「やっぱり、ダメですか?」  小傘がダメ押しをしたことで早苗の理性は崩壊してしまった。 「も、もちろんですっ、ぜひ私に任せてください」  早苗は小傘に化粧を施していく。  ただし控えめに、上品に。  小傘の小指にマニキュアを塗りながら、早苗は小傘に訪ねる。 「ねえ、小傘さん、どうして私のところに?」 「いやあ、あの日は紅白の巫女とか白黒の魔法使いにものされたんだけど、何となく早苗が一番こういうのに詳しそうだから」 「その選択は正解だったかもしれませんね。特に紅白の巫女、霊夢さんのところだったら針かお札は覚悟しておかないといけませんでしたよ。ここの神社は妖怪の山ですのでそんなことしないですけど」 「あの紅白の巫女が一番容赦なかったから……」  小傘は頭を振って、悪夢を忘れ去ろうとする。 「それにしても、早苗、初めて会ったときと、何か違わない?」 「え、そうですか?」 「だって、いろいろ早苗に言われたし」 「あ、いやあ、あれは初めての異変解決でちょっと舞い上がってしまって……お恥ずかしいです」 「でも、私そういう早苗の方が好きかな」  早苗はどきりとして小傘の顔を見つめるが、小傘の顔は落ち着いている。  早苗が思ったような意味で言ったわけではなかったらしいが、早苗はその言葉が頭にこびり付いて離れなくなってしまった。  小傘は鏡を見る。  早苗を見る。  また鏡を見る。 「えーと、私、可愛くなった?」  小傘は不安げな表情で早苗に尋ねるが、早苗は太鼓判を押してあげる。 「ええ、十分可愛いですよ。   ……それに元から可愛いんですから」  早苗の後半の台詞はとても小声で小傘までは届かなかったが。 「後は傘ですね」 「うん、でも……」  二人で例の傘を見る。  早苗は無言で玄関から自分の傘を持ってくる。その傘は飾り気の少ない傘であったが、布地はパステルグリーンで取っ手は勿論人体を模してあるわけもない、何かの植物で編んであり滑らかな触感である。  小傘は見比べているだけでため息をつく。 「と、とりあえず幻想郷らしくリボンを付けてみましょうか!」  早苗は明るい声で、思い付きを提案してしまった。 「どうかな?」  小傘が得意げに、早苗の部屋で傘を回す。  傘の石突と取っ手にそれぞれ小傘の瞳の色と同じリボンを付けてみたのだが……。 「う、うーん」  早苗は自分の発案ながら首を傾げる。 「私は可愛いと思うんだけど」  小傘は嬉しそうに早苗に笑いかける。その表情を見て、早苗も何となく微笑んでしまう。  本人が喜んでいるのであればいいか。  傘の「舌」が一緒に振り回されているのを除けば、絵になる光景だった。  きっと最初からこの光景を見ていたら、小傘の昔の持ち主も捨てたりしなかったに違いない。  早苗の部屋の窓ガラスに水滴が一粒、二粒としがみつく。  その音を小傘は聞き逃さない。 「雨、だ!」傘の妖怪らしく、小傘は雨に嬉しそうな表情をする。 「ねえ、早苗、ご飯とお化粧と、それにリボンありがとう!私、傘を差されにいかないといけないから」 「はい、頑張ってくださいね!」  早苗に見送られ、小傘は雨の中飛び立って行く。 「あら、もう帰ってしまったのかい。おやつに羊羹を切ろうとしていたんだけどね」 「八坂様……」 「今日の雨は強くなるよ、傘は必須だね。あの子の出番さ」 「そう、ですね」  早苗は小傘が飛んでいった方をしばらくの間見ていて、洗濯物を干しっぱなしだと気づいたのは諏訪子にその事を指摘された後だった。  守矢家の夕食も終わり、神奈子と諏訪子は将棋に興じている。  無謀な諏訪子の攻めを飲み込むように、神奈子は桂馬で飛車金取りを仕掛ける。  諏訪子は長考するが、既に投了すべきかどうかの長考になっているあたり既に敗色が濃い。  早苗はそんな二人を見ながら、お札に筆を走らせる。  弾幕用のお札ではなく、神社で頒布するようにお札である。  厄除け  家内安全  無病息災  学業成就  商売繁盛  交通安全  交通安全のお札を書いていて、早苗は小傘を思い出す。  境内の木々が風に吹かれて葉を擦り合わせる音が聞こえ、風で傘が飛ばされたりしていないか不安になってくる。 「あー、もう」  諏訪子は手に歩を二枚持ったまま、寝っころがった。 「あら、お手上げ?」  神奈子は飛車角をお手玉している。 「はいはい、負けましたー」 「口ほどにもないわね」  早苗が二人を微苦笑いを浮かべながら見ていると玄関から物音が聞こえてくる。 「おや、こんな時間にお客さんかい、こんな天気だし天狗あたりかねえ」 「どうでしょう。では私が」  早苗が玄関に向かう。  風邪も強いので玄関に入らないと雨に打たれてしまうだろう。  それでも客は、呼びかけるでもなく、玄関の外に立ち尽くしていた。  早苗は三和土のサンダルを突っかけて、玄関を開ける。 「こ、小傘さん……」  傘の妖怪というのに、彼女は濡れ鼠となっていた。彼女の自慢の傘は畳まれて、彼女の体を雨から守る役目を放棄している。  そして彼女の瞼は雨じゃない液体に濡れているのが、早苗にもすぐ読み取れてしまった。  小傘はただ立っている。 「さあ、いらっしゃい」  早苗は何も言わずに濡れたままの彼女を家に上げる。  小傘は一瞬躊躇するが、強く彼女を引っ張っていく早苗の手には逆らわず、廊下に水跡を残していく。そしてそのまま脱衣所に連れて行かれた。 「そのままだと風邪を引いてしまいますので、お風呂をどうぞ」  それだけ言って早苗は脱衣所から出て行ってしまう。  脱衣所の小傘に「八坂様、洩矢様、私が拭きますから、お二人は将棋の続きを……」そんな声が聞こえてくる。  このまま立っていても迷惑だろうと小傘は、だらだらと服を脱いで浴室に向かった。  小傘は湯船に膝を抱きしめるようにして浸かっている。 「湯加減はどうですか? 八坂様が熱いお風呂が好きなので、熱いかもしれませんがその時は薄めちゃって構いませんよ。それと着替え置いておきますね、私のじゃサイズ合わないと思いますので、洩矢様のをお借りしちゃいました。蛙柄なのですぐ分かると思います」  脱衣所に入ってきた早苗は、それだけ言うとすぐに出て行ってしまう。  早苗の心遣いに感謝して、湯船に浸かっていると、体が温まると同時に、心にもようやく平静を取り戻し始めていた。 「はい、王手飛車取り」 「げ、諏訪子、待っ……」 「待ったはなしだって」  先ほどの借りを返すように、諏訪子は再度猛攻をしかけていた。  盤上に残っている駒はお互いに半分程度。神奈子には手持ちの駒を使えば凌ぎ切れるのは分かっていたが、一手足りないのも分かっていた。 「はぁ、今日は引き分けか」 「明日はお二人で勧進ですね。確かそれを掛けた勝負でしたよね」 「ああ、天気が収まったらね」 「ねえ、神奈子。あんた何の神様よ」 「あ、あの……」  そこに蛙が相撲を取っているパジャマを着た少女がおずおずと表れる。 「よ、似合ってるね。さすが私のパジャマ」 「私の蛇柄の方がいいと思うんだけどな。じゃ、諏訪子、私たちも風呂とするか、たまには一緒に入るとするか」 「ちょ、ちょっと……」 「いいから、いいから」  諏訪子を担いで神奈子が、小傘の来た方に歩いていく。  小傘とすれ違うとき、神奈子は小傘の肩を叩いて、諏訪子は「パジャマ似合ってるよ、お世辞じゃなくてね」そう言って、脱衣所へと消えていった。 「私の部屋でお話しましょうか」 「はい……」  早苗は湯飲みの乗ったお盆を持ち、空いた手で小傘の手を引いていく。  小傘は早苗に半歩遅れて歩きながら、今日二回目の早苗の部屋へと入っていった。 「どうぞ」 「うん……」  早苗に勧められるままにお茶を飲む小傘。そしてその小傘が喉を潤したところで、早苗が芋羊羹を差し出す。 「ご飯、食べてないんですよね」  その言葉で小傘の体はそのことに気づいたように、腹の虫を鳴らしてしまう。 「うっ、うん……」  顔を赤く染めた小傘は、その音を誤魔化すように早苗の手から芋羊羹を奪い取って、噛み、飲み込んでいく。  雨に体力を奪われた体に、糖分が行き渡ってくる。  よやく二人の間の空気が柔らかくなるのを早苗も小傘も感じることができた。 「あのね……人里の近くで、人間の男の人が雨に濡れて走ってたの」  小傘がポツポツと話し始める。早苗は邪魔をしないように、黙って聞きに徹することにする。 「驚かさないように、傘は目も口も隠したんだよ。うまくいったら、里に着く直前に驚かそうと思ったの。  だから私その人に言ったのよ。 『そこのお兄さん、この傘貸してあげるわよ』  そしたらその人、なんていったと思う? しばらく黙って、 『そんな傘借りられねえなぁ』  それだけ言って、走って里に走って行っちゃったの。せっかく早苗に飾り付けてもらった傘なのに」  早苗はもしかしたらと思う。その男の人は小傘の傘を借りたら、小傘を雨に濡らすことになってしまう、そう思ったから断ったのかな。  だが道中で突然そんなことを言ってくる少女の存在を訝しんで、妖怪だと感付かれただけって可能性も捨てきれない。 「そしてその場で、傘を差して次の人を待ってたんだけどね、通る人、みんな綺麗な朱色の傘とか藍色の傘を差しているの。私の傘みたいにくすんだ色じゃなくて」  小傘は玄関の方に目をやる。壁に遮られて、玄関に立てかけてあるはずの傘は見えないけれど。 「だから私、妖怪の本分に立ち返ろうとしたの。  それでね、眼鏡をかけた、替わった模様の服を着たお兄さんが歩いてくるのを見かけたの。  その男の人、腰を抜かす予定だったのに、笑って私の頭を撫でるんだよ。 『僕は驚かされることに慣れてるからね』  そんなことだけ言って行っちゃったの」  早苗は小傘の通行人を驚かそうとした話を聞いていく。  早苗はその話を聞いていて思う。彼女には足りていない、と。 「でね、段々外も暗くなって、風も強くなって、もう誰も通らなくなって……  で、傘を見たら、早苗に石突に付けてもらったリボンもいつの間にか無くなってて」  そういわれて、早苗は赤い石突側のリボンがなくなっていたことに気づかされた。 「それで気づいたら……」 「玄関に立っていたというわけですね」  小傘は頷く。  早苗は、その小傘の小さい体を見ていると、なんとなく少し前、幻想郷に着たばかりの自分を思い起こしてしまう。  あの時の自分もあんなテンションだったけれど、不安と自身の無さを自らの現人神であるという事実で塗布していただけだった。それが折れてしまった後はしばらく立ち直れなかった。  目の前の彼女に過去の自分を重ね合わせていると、早苗の腕が勝手に小傘を抱きしめてしまう。 「さ、早苗?」  小傘は早苗の突然の行動に動転してしまい、早苗の名前を呼ぶ以外何もできない。 「ねえ、小傘。貴方はもっと自分に自信を持っていいんですよ。今日は駄目だったかもしれませんが、明日があります。  幸いこの妖怪の山には貴方の先達もたくさんいます。きっとみんな貴方と同じような時期もあったはずですよ」 「そうかな?」 「私にもありましたから」 「本当?」 「ええ」 「じゃ、頑張れるかな」小傘は早苗を抱きしめてくれる。  そしてそこで早苗は余計なことを思い出してしまう。昼間の「でも、私そういう早苗の方が好きかな」という小傘の言葉を。  早苗は腕の中にいる少女のことを意識してしまう。  おかげで早苗は小傘を抱きしめている腕を解くタイミングを逸してしまった。  小傘は小傘で、早苗に抱きついている間に早苗の体の香りをかいでしまう。その香りはそれはある意味妖怪としての本能を呼び起こしてしまう。  早苗が欲しい。 「早苗……」  小傘を抱きしめている少女の名前を呼ぶ、そして小傘の瞳は早苗を熱っぽい視線で見てしまう。 「小傘さん……」  二人は見つめあう。  そして優しく触れ合うだけのキスをする。  触れ合った粘膜から、早苗は小傘の自分への思いを感じ取ってしまう。  小傘は早苗の優しさを感じ取る。 「ねえ、小傘さん……」 「何?」  小傘は早苗の顔が見れないくらい緊張している。 「小傘さんは可愛いんですし、もっと自信を持つべきなんです。もっと自分の武器を磨けばみんないちころですよ。小傘さんみたいな妖怪に驚かされれば」 「うん……」  早苗の胸の中で小傘は頷く。小傘の早苗の服を掴む手に力が入る。  早苗の部屋の時計の秒針が十回、音を鳴らした後であった。 「ねえ、早苗……」 「何ですか?」 「私に自信をくれない?」  そう言う小傘の声は震えている。  「いいんですか?」早苗はつばを飲み込み、問い返す。  早苗には断るという考えはない。勇気を振り絞ったであろう小傘の願いを断ったら、小傘はしばらく立ち直れないであろう。まるで自分にように。  そしてそんな理由が些細なほどに、今の早苗には小傘が愛おしかった。  早苗は、小傘に尋ねながらもその小さい体を抱きしめる力を強める。まるで小傘を逃がさないとでも言うように。  そして小傘は再び早苗の胸の中で頷いた。 「は、恥ずかしい」 「こんなに綺麗なんだから恥ずかしがらなくていいんですよ」  早苗の布団の上で小傘は一糸纏わぬ姿を早苗に晒していた。  早苗は巫女服を着たまま、小傘の体を堪能する。 「そうこんなに綺麗なんですから」  早苗は両手を立ててうつぶせで小傘の体に覆いかぶさる。  小傘は目をつむって、早苗を待っている。 「ねえ、小傘さん」 「何ですか?」 「私、小傘さんの瞳好きかもしれません。だから目を開けてもらえますか」 「恥ずかしいのに……、早苗、結構さでずむ?」 「そうかもしれませんね」  小傘はしぶしぶ瞼を開き、オッドアイが早苗を見つめる。  早苗はその視線を感じながら、小傘の小ぶりな胸をついばむ。 「さ、早苗っ」  小傘は初めての刺激に体を震わせる。早苗は小傘のその様子から初めてなんだろうなと感じ取る。  早苗もこういったことは初めてで、心中では全裸で外に走り出したいくらい恥ずかしいのだが、それを押し隠して小傘を怖がらせないようにする。  胸を唇でついばみながら、小傘の秘所に指を伸ばす。早苗の人差し指が小傘の秘裂にわずかに触れただけで小傘は大きく体をこわばらせてしまった。 「ねえ、小傘さん。私を信じてください」  早苗はまっすぐ小傘を見つめる。その視線に小傘は徐々に力を抜いていく。  その様子を確認すると、早苗は指で小傘の秘裂を徐々に開いていく。その度に小傘はその違和感を声とともに押し殺す。  小傘を傷つけないように、早苗は丁寧に丁寧に小傘を刺激していく。  そうしているうちに早苗は指にぬらつく物を感じ取る。 「ねえ、小傘さん、どうですか?」 「どうって……」  小傘は自分の体のその反応に戸惑っているようで要領の得られる返事を返すことができない。ただ顔を赤らめて早苗から視線を外すだけだった。  早苗はそんな愛おしい小傘の唇を自分の唇で塞ぐ。今度のキスはお互いを深く知ることができるキスだった。  早苗の舌が小傘の舌と絡み合う。早苗が舌を動かすと、小傘も頑張ってそれに応えてくる。  口の粘膜を絡み付けている間も、早苗は小傘の秘所を弄る指を止めない。  小傘は上と下、両方から早苗に刺激される間に、段々と分かってきた。  小傘もこういったことの話を聞いたことがないわけでもなかった。  年老いた付喪神が元の持ち主に恩を返すために、恨みを晴らすために、こういったことを体を張って行ってきた話を何度も聞いてきた。  そして彼女は恩を返すための話がいまいち飲み込めないでいた。どうしてそんなことをするんだろう。もっと即物的な恩の返し方もあるだろうし、実際そういった恩の返し方をした付喪神も大勢いる。  だが体で恩を返した付喪神は、他の付喪神と比べてそれを誇らしげに語っているのに違和感を持っていた。一時の快楽と永続的な金子や自らに代わる道具、どちらが有用であろうかと。  その疑問がようやく氷解していった。昔聴いた話がするりと体の中に浸み込んでいく。  人と一緒になるってこういうことなんだ、と。  早苗が小傘の口から自分の口を離すと、二本の唾液の糸ができて、そして切れて小傘の口の周りに落ちる。  その糸を小傘が舐め取る。 「ねえ、早苗」 「何ですか、小傘」  上気したしたで小傘は早苗を呼ぶ。  問い返された小傘は、結局何も言えずに黙ってしまう。何を言って良いのか分からなかった、言いたいことはたくさんあるはずなのに。 「何でもないっ」それだけ言って小傘は早苗を抱きしめて、自分からキスをする。  二人は抱きしめあって、指をお互いの秘所をお互いの太ももでこすり付けあう。  早苗は秘所同士を擦り合わせようと思ったのだけれど、体格差のためキスをしたままではそうも行かず、太ももを使うという形になった。  早苗は自分の太ももが小傘の愛液でぬめっているのを感じているし、小傘も同じだった。  そして二人ともお互いを見つめている。口はお互いに塞ぎあっていたので、言葉を交わすことはできないけれど、目で語り合う。  お互いに上り詰めようとしているのを感じ取っていた。  小傘の目に映るのは、あの優しい早苗が今まで小傘に見せなかった淫蕩な顔。  早苗の目に映るのは、早苗によって与えられる未知の感覚に戸惑いながらも、早苗を感じさせようとしている顔。  小傘の指が空を掴む。その手を早苗が握り締め、指を絡めあう。  それが合図であるかのように、二人とも階段の最後の一段を上り終えた。  小傘も早苗もキスをしたまま、体を大きく震わせる。  お互いの体が限界を超えてしまったのを感じ取って、そしてより高い頂へと登っていった。  翌朝、神奈子と諏訪子が朝食を作って、寝坊した早苗を待ち構えていた。  朝食から赤飯であった。  絶句する早苗と、理解できずに「お赤飯だ」と喜ぶ小傘、二人には神奈子と諏訪子の首筋についているキスマークに気付く余裕もなかった。  四人での朝食の間も、昨日から降り続く雨はまだやんでいなかった。  そしてそこで早苗は神奈子と諏訪子に他の妖怪たちの話を小傘と一緒に行く話をして、二柱とも賛同する。  私たちは勧進へ行くと神奈子は言ったが、実際のところは諏訪子と一緒にして、昨晩の続きをしようとしているだけであったが。 「それじゃ、いってきます」  二柱に挨拶をする早苗と、お辞儀をする小傘。  雨はまだ降っている。  玄関で早苗は自分の傘を手に取ろうとして止めた。 「さあ、小傘さん行きましょうか」  早苗の手にあるのは小傘の傘。 「うんっ」  そして玄関から一歩出たところで小傘は立ち止まる。 「どうしました?」 「えっとね、傘はあちきが持つよ」  そういって小傘は、早苗が差そうとしていた傘を奪い取る。小傘は早苗が濡れないように少し背伸びをして傘を二人の上に差す。  早苗は微笑んで濡れないように小傘に体を預けた。  二人は参道を歩く。しばらくこうして肩を並べて歩きたかった。  鳥居を潜るまで心地よい沈黙が雨音の間に漂っていた。 「ねえ、早苗」  小傘が早苗を見上げる。  早苗は何も言わずに小傘を見る。 「早苗、捨てないでね」  早苗は笑顔で小さな肩を抱きしめた。