「メリーの馬鹿ーーー」 「何か言ったーーー?」 「馬鹿って言ったのよーーー」 「何よ、私が悪いって言うの? 蓮子だって反対しなかったじゃない!」  私達は泥まみれになった足を動かしながら、そんな醜い言い合いを繰り広げている。しかもお互いの声はほとんど絶叫になっている。別にそこまで激昂しているわけではない。叫びでもしないとお互いに聞き取れないのだ。  私達は横殴りの雨から逃げるように山の稜線を歩いている。雨に逆らって歩こうとすると顔に雨粒が当たって痛くて歩けないほどの雨に、私達の進行方向は自動的に決まってしまう。  メリーとはぐれない様に手を繋いでいるというのに、お互いに叫ばないと意思疎通も出来ない。 「メリー、どうして携帯の電池切らしちゃうのよ」 「蓮子こそ、今時衛星でもなくGPSも付いてない骨董品なんか使ってるからよ。折角電池があるって言うのに無用の長物じゃない」  こんな嵐では、月を見て私達の座標を確定することも出来ない。でも現在地が分かったところで、どの方向に行けば良いのかが分からないのでは意味がないけど。  既に山を彷徨って、三時間は経っている。道を踏み外した頃は青天に太陽が輝いていて方角の感覚もあったけれど、急に湧き出てきた黒く厚い雲に覆われてしまってはその感覚も失われてしまった。  山を甘く見すぎと言われたらいい訳もできない。今までの山登りなんて、道が舗装されている山登りくらいのもので、前時代的な山登りは二人とも初めてだったのだから。そもそも山登りなんてするつもりはなく、ハイキング程度の予定だったんだし。 「全く蓮子が、こんな山奥に来ようって言うからっ!」 「境界を探して登山道から外れたのはメリーでしょっ!」 「蓮子だって、愉しそうにしてたじゃないの」 「そ、それは……」  口篭る。言えない、言える訳がない。メリーの「ほら、はぐれるといけないから」そう言いながら、延ばしてきた手が柔らかかったからだなんて。  私は何も言えず、メリーの手を引っ張って遮二無二進む。 「ちょっと蓮子、早いわ!」  嵐に少し感謝している。そうでなければメリーの手の柔らかさににやける顔をメリーに見られてしまっていただろうし。  それでもシャツが雨を吸って、完全に下着が透けてしまっているのはどうにかしたいけれど。  メリーは服の色調が濃いので色は透けていないけれど、それでも下着の形がはっきり見えてしまう。むしろメリーの服の方が水を吸っている量が多いはず。メリーはその服の重みもあり疲労の色が濃くなってきている。その証拠に最初の頃より愚痴が少なくなってきている。これでも少なくなったのだ。  もう少し歩いてこの自然の迷路から抜けられないのであれば、木陰でも良いから休むしかないかもしれない。少なくともこの大きくて、痛みすら感じる雨粒の直撃を受け続けるよりは遥かにましかもしれない。 「メリー、大丈夫?」 「大丈夫じゃないわ、靴の中まで泥だらけ、お気に入りだったのになあ」  確かに私の靴も雨が直接流れ込んできて、しかも舗装されていない道を歩いているものだから中に小さなごみが入っている。このままだと怪我をしかねない。  そういえばメリーがお気に入りだというその靴は私の見立てで買ってあげたやつだった気がする。少し嬉しいかも。でも汚れてしまったのは悲しいかもしれない。 「ねえ、メリー、この岩に座って」 「ん? 分かったわ」  メリーを岩に座らせると、私はメリーの前に屈み込んでメリーの靴を脱がせる。 「わ、何するの蓮子」 「小石でも入ってたら怪我するかもしれないでしょう」そう言いながらメリーの靴を逆さにすると、茶色い水と共に小枝が靴からこぼれ出た。 「ほら、メリー」 「うん」  残ったゴミを掻き出して、メリーに靴をはかせる。 「こうしてもらうと、蓮子、私の召使いみたいね」 「殴るわよ」 「ごめんね、れんこー」  メリーは甘えた口調で謝ってくる。メリーはそれが似合ってしまうから怒るに怒れないのだ。逆に私が同じ事をするとメリーから厳しいツッコミが入る。不公平な世の中の一つの事例ね。  ともかく、メリーの召使い……、それはそれで楽しそうと一瞬でも思ってしまったけれど、メリーには伝えない。ええ、伝えませんとも。 「あっ」  私がメリーのもう片方の靴を綺麗にしていると、メリーが不意に妙な声を上げた。  見上げるとメリーが明後日の方向を指差している。メリーの指先の指し示す先を辿るとその先には茶色の人工物、所謂山小屋と呼ばれる建造物がひっそりと佇んでいた。  半ば走るように私達はその山小屋に駆け込んだ。  ありがたい事に扉には鍵は掛かっていなくて、私達は何時間か振りに雨粒から身を守ることができるようになった。 入ってから分かったことだけれど、鍵なんかこの小屋には必要ない。小屋にあるのは板間と壁と屋根。後は板切れとロープが幾ばくか。  鍵があろうとなかろうと、わざわざ盗み出すようなものは何も無かった。  昔はいろいろ物があったのかもしれないけれど、今ではただの大きい箱にしか過ぎない。窓もついてはいるけれど、埃で濁ってしま、外を見通すという役目を半分放棄している。けれどドアを閉めて、雨音が遠くに聞こえるようになっただけでもすごく安心できる。 「何もないけど、屋根だけでもありがたいわね。雨で全身打撲一歩手前ってところ。」 「そうねえ、でもこの板間……、何年掃除していないのかしら」  メリーの懸念通り板間には、全体にうっすらと埃が積もっていた。雨と山道で既に全身泥まみれに汚れているとは言え、自ら更に汚れたいとは思わない。かと言って掃除する気力なんてあるわけはない。 「はい、これ」  私が何かないか探そうとすると、メリーがバックからカラフルなそれを取り出した。それは数時間前にお弁当を食べる時に使ったレジャーシートであった。 「メリー、良い仕事ね」 「ふふふ、そうでしょ。褒め称え、崇め奉りなさい、蓮子」  メリーは笑顔でレジャーシートを板間に広げていく。メリーの子供っぽい笑顔を見ていると、メリーが年上だということを忘れそうになってしまう。  メリーの笑顔は、何と言うか、ぎゅっと抱きしめて守ってあげたい気分に私をしてしまうのだ。  私はとりあえず、完全にずぶ濡れの靴下を脱いでしまう。服が濡れているのは気持ち悪いけれど、靴下が濡れているのが一番気持ち悪い。水で引き締められた靴下を脱ぐのは難儀だったけれど、脱ぐとそれだけで疲れた足の血行が良くなった気がする。  ねえ、メリーも……、そう私がメリーに言おうと振り返った時だった。  メリーはスカートの中に手を入れて、ストッキングを脱ごうとしていた。確かに靴下だけの私と違って、ストッキングをはいていたメリーはもっと不快だったに違いない。  メリーの足を黒色で覆っていたストッキングが、メリーの手によって、ずるりずるりと水分の抵抗を受けながらも、メリーの足から名残惜しそうに離れていく。私はメリーに言うべき言葉を失って、そのメリーの指先とストッキングを見ていた。  先程まで黒のストッキングに覆われていたメリーの太ももが、メリーの手で上げられたスカートの裾から覗いている。  メリーの太ももは雨に濡れていたせいか、いつもより白く冷めている気がする。それでもメリーの肌の下を通っている血で、メリーの太ももは柔らかそうな気配を漂わせている。  脱ぎかけのストッキングと捲れ上がったスカートの間に覗く十数センチのメリーの太もも、その太ももにスカートから水滴が垂れて伝っていく。  あの水滴みたいに私の指をメリーの太ももに伝わらせたい……。 「あー、伝線しちゃってる」メリーのその一言で我に返った。  メリーは残念そうに脱いだストッキングを見ている。あんな山道、獣道ですらない道を通れば伝線の一つや二つするに決まっている。  そういう私の足にも、いつの間にか細い傷が何本か赤い線となって張り付いている。 「いいじゃない、メリー。私なんか素足が伝線したのよ」  私は妙な自慢でメリーを慰める。それに対するメリーの反応は私の予想と少し違っていた。何を馬鹿言ってるのよ、そう言うかと思っていたのに。 「まあ、大変。消毒液……、は持ってきてないし。この小屋にも無さそうだし。どうしよう、蓮子」  メリーが私の足元でしゃがみ込んで私の足を見つめている。その体勢でメリーがしゃがみ込むといろいろ大変な事になった。  雨でメリーの肌に服が貼り付いて、余裕のあったメリーの服は枯れた花のように萎んでしまっていた。そのせいで、いやそのお陰で上からメリーを見下ろすと、メリーの胸の隙間がはっきりと見えてしまう。  鼓動が早くなる。  昨日一緒に温泉に入っただけでなく、今まで何度もメリーの胸を直接見る機会は何度もあったのに。こうして盗み見るメリーの胸は、犯罪的なまでに私を蠱惑してくる。  メリーが何か言ってるけれど良く聞き取れない。メリーが体を動かすと、その胸の隙間も形を変えて、まるで私にその隙間を埋めて欲しそうに誘っているようだ。  思わずその隙間に延ばしそうになった手を押し止める。  一体何をしようとしているの、と自分を叱咤する。今は、こんなことをしている場合じゃないのよ、と。  けれどそこで自らの叱咤に愕然とする。じゃ、こんな場合じゃなければ、良いのか、と。  平穏な状況、昨晩はそうだった。  確かに昨日の温泉で水面に浮かぶ二つの球体を絶景と称して、メリーに親父っぽいと言われた。あの時はこんな精神状態ではなくて、本当に軽口のつもりで言ったのに。  私の思考が無益に二周りほどした時だった。  足に粘ついた生暖かい感触が通り過ぎる。 「へ?」  メリーの胸にフォーカスを絞っていた瞳孔を開いて、現状確認に努める。そして私の視神経を通して私の脳に伝わってきた光景は、再び私を思考停止に陥れた。  メリーが私の足を舐めていた。  私の足の細い、血も出ないような傷跡をメリーは舐めていた。  子供の頃にメリーと一緒に見た猫の親仔を思い出す。怪我をしてしまった仔猫の傷を一生懸命に舐める親猫、私の足元に跪いて私の足を舐めるメリーはまさにあの時の親猫の様であった。  メリーは私の泥で汚れた足の傷跡を舐めていく。汚いから止めて、と言おうと思ったけれどその言葉が出てこない。メリーに足を舐められているというその情景に私は溺れていた。  一番大きい傷をメリーが舐めると、さすがに少し傷にしみた。でもその痛みは不快ではなくて、何か別の甘美な感覚だった。メリーが傷を舐める度に、私の背筋が震えながらその感覚を全身に伝えていく。  口の中に唾が溜まる。それを飲み込む。  その唾を飲み込む音に気付いたかのように、メリーが見上げてきた。 「ねえ、痛くない? 蓮子ったら呆けて返事もしてくれないから、勝手に舐めちゃったけど、痛くなかったかしら」 「あぁ、うん……」 「良かったぁ」  嵐の山で遭難したという最悪の事態に相応しくないメリーの笑顔。でもこの笑顔が見れたのであれば、この事態も良かったかもしれない。  でも余計な一言は要らなかったかな。 「蓮子の足、美味しかったわよ」  そのメリーの一言は私の体を金縛りにしてしまった。 「ねえ、蓮子、いつまで立ってるのよ」 「あぁ、ごめん。って何をしてるの?」  我を取り戻したときには、メリーはロープを壁の突起に結び付けていた。その突起が元は何のために付いていたのかは全く分からなくなっていたけれど。 「何って……。ねえ、蓮子、風邪引きたいの?」  そう言われて、ようやく自分の体が冷え切っていたことに気付いた。  濡れた服がほぼ無限に体温を奪っていく上に、豪雨で湿度が高いせいか服は一向に乾く気配を見せない。  あぁ、そうか服を干そうとしているのね、メリーは。  服を?  干す?  私達は一泊の旅行だと思って着替えは下着しか持ってきていない。しかも二人とも荷物は雨に祟られて、既にその着替えは「着替えだったもの」に成り下がっている。  つまり  着替えは存在しない 「蓮子、早く服脱がないと、本当に風邪を引くわよ」  部屋を横切るようにロープを張ったメリーは私に詰め寄る。 「う、うん……」  ロープに掛けられたメリーのストッキングから雫が滴り、床を濡らしてしまう。多分、私達の服はあの何十倍も水を含んでいるに違いない。  目の前に立つメリーの服にも、はっきりと下着の線が浮き出ている。 「もう、蓮子ったら、さっきから変ね。結界に迷い込んだわけじゃないのよ」 「そうね……」私は気のない返事しかできない。 「そうね、じゃないわよ、全く。そうか、蓮子、じゃ、メリーお姉さんが脱がしてあげるわ♪」 「え?」  私のタイは濡れているはずなのに、メリーはするするとタイを解いてしまい、首元の圧迫感がなくなる。  一つシャツのボタンがメリーの手で外される。二つ外されると不安になる。三つ外されると、私の水色のブラがメリーの眼に晒される。  ブラは朝着替える時にもメリーに見られていたし、さっきまで雨で濡れて透けていたからメリーには十分すぎるほど見られているはずだった。それでもこうしてメリーにシャツのボタンを外されて、ブラジャーを露わにされるというのは全然別物だった。  シャツのボタンが全て外されて、メリーの指がスカートのホックに掛かると私はようやく正気を取り戻した。 「メ、メリー、いいわ。自分で脱ぐわ、ね」 「詰まらないわね、メリーお姉さんに最後まで脱がせて欲しかったわ」 「何、言ってるの……よ」  動揺したままスカートのホックに指を掛ける。そしてそのホックを外した頃には、既にメリーは上着を脱いでいて、藤色のブラジャーが私に自己主張していた。 「ほら、蓮子、早く脱ぎなさいよ」 「う、うん……」  私がシャツとスカートをロープに掛けるのと、メリーが服をロープに掛けるのはほぼ同時だった。メリーの脱ぎっぷりが良いのか、私の往生際が悪いのか。  メリーはさっさとレジャーシートに腰を下ろしていた。私はメリーの傍に、肌が触れ合わない程度の際どい距離感で座る。  とりあえず夏なだけあって下着だけという格好でもなんとか寒くはなかった。ただここは山、日が傾き始めたら一気に気温は下がるに違いない。  せめてボロ布でもあったら、仕方なしに包まると思うのに、この山小屋にはそんなものすらない。  私は溜息と共に、これからの事を考える。  今日はこのまま夜を過ごすとして、雨が明日止むとは限らない。お菓子程度の持ち合わせはあるけれど、今食べるわけには行かないわね。  この旅行はお互いに家族に告げてない上に、今日の終電で帰る予定だったのだ。せめて今日も宿泊予定があるなら、何か問題があったと旅館の人も思って、捜索願を出してくれたかもしれない。ただのドタキャン扱いされそうな気もするけれど。  結局のところ救助隊が来るという期待は何もできない。  本格的にサバイバルかも……。  メリーの携帯に充電することができれば良かっただけれど、この隔絶された山小屋には元から配電設備は見当たらなかった。もしかしたら昔は発電機があったのかもしれないけれど、今では影も形も見ることは出来ない。  天候が回復しない限りはこの山小屋にもう一泊することになりそう。  今日もここに辿り着く頃にはメリーもつらそうだったし、メリーの回復を待つには一泊くらいは良いのかもしれない。  でも食事がお菓子だけでどうにかなるかな。こんなことなら旅館の部屋に置いてあった饅頭を到着早々食べないで、持ち帰ればよかったわ。アメニティグッズなんかを持ってくるんじゃなくて。……、歯磨き粉って食べられるのかしら。 「蓮子の手、相変わらず暖かいわね」 「ひゃうっ」  私の手に突然重ねられたのはメリーの手、その柔らかさと冷たさに私は思わず悲鳴を上げてしまった。  メリーの手は冷え性でいつも手は冷たかったけれど、今日はいつも以上に冷えていた。数時間も雨の中歩いていたら当然なのかもしれない。良く見るとメリーはわずかに体を震わせていた。 「ねえ、メリー、寒いの?」 「うん、ちょっとね……」  メリーはぎこちない笑みと共にそう言うけれど、私はメリーが無理をしているとすぐに分かった。  この状況でメリーの身体を温める方法。私に思いついた方法は一つだけ。  私に選択肢はない。  メリーを抱きしめる。 「あっ」メリーの驚愕の声。  メリーの冷えた体と私の冷えた体が密着する。でも温かかった。メリーの胸が私の胸に当たるし、抱きしめているとメリーの各所の柔らかさを実感してしまう。  私は恥ずかしいので、できるだけメリーの顔を見ないようにしてそのまま押し倒す。そしてそのままレジャーシートを私達の体に巻きつけてしまう。 「蓮子……、私達みのむしみたいね」 「そう……ね」  メリーの顔を見ないつもりだったけれど、抱きしめたままレジャーシートを巻きつけてしまえば自動的にメリーとの顔の距離は10センチもなくなる。  メリーの呼吸も吐息も感じれる距離だった。こんなにメリーと近づいたことは今まで一度もなかったと思う。しかも下着姿で。 「蓮子、私重くない?」  私がメリーを抱きしめているので、腕の片方はメリーの体の下敷きになっている。けれど私は重さを感じなかった。感じたのはただ……。 「メリーは柔らかいから大丈夫よ」私の答えは答えになっていない。 「な、な……、もう……」  メ、メリーさん、こんな近距離で顔を染めないで貰えないでしょうか?私は思わず敬語でそう言いそうになってしまった。  そして下着姿のメリーを抱きしめているというその状況を再確認してしまう。  メリーの胸はブラジャー越しにでも、柔らかさを伝えてくる。そして照れたように目を逸らすメリーの姿。学校で私に抱きついてくるのはメリーの方なのに、どうしてそんなに照れているのよ。  これではまるで……、私はその先を考えるのを止めて、その考えを振り払う。 「メリー、寒くない? もし寒いなら……何か工夫するけど」とりあえず私はいろいろなものを振り払うために事務的にメリーに確認する。 「蓮子が暖かいから良いわ」  そう言って、メリーも私を抱きしめ返してくる。メリーの足が私の太ももの間に入ってきて、私達はお互いに太ももを絡み合わせる体勢になってしまう。 「あ、あ、あ、温かいのね、よ、良かったわ」思わず声が上ずってしまうけれど、メリーはそんな私の心境を斟酌してくれない。 「蓮子の体も柔らかいわ。私より体重軽いのに、こんなに柔らかいなんて」  そう言ってメリーは、私の太ももに指を這わせてくる。メリーとしてはただじゃれているつもりだったのかもしれない。でも私は平常心ではいられなかった。メリーが私の太ももを触るたびに、メリーの体が私に押し付けられて、メリーの胸が私の胸と絡み合って形を変えているのが、直接は見えなくても分かる。 「めめめめめ、め、めりーのおっぱいも柔らかいわ」  何、口走ってるの。私はっ!  メリーはきょとんとした目で私を見ている。  私だってその表情をしたかった。あんなこと言うつもりなかったのに。でもこんなに胸を押し付けられて、意識しないなんてとても無理だった。  私は全身の神経でメリーを感じていた。  既に外の雨音は聞こえない。聞こえるのはメリーの鼓動と吐息、全身でメリーの体温と柔らかさを感じる。  鼻にはメリーの良い薫り。見えるのはメリーの戸惑った顔。後、味覚があればメリー制覇ね。  そのメリーの表情が変わる。  その表情は、私のお姉さんとしての表情だった。私がメリーを追いかける時にメリーが見せてくれる表情。そしてメリーはその表情のままのたまうた。 「ふふふ。ね、蓮子、私のことを襲うつもりなのかしら?」  メリーとしては冗談だったんだと思う。  でも私は、次の瞬間にはメリーの唇を塞いでいた。メリーの瞳が大きく拡げられて、私の顔を映し出している。  メリーの反応を待たずにメリーの唇を貪る。初めて味わうメリーの唇は甘かった。  メリーを味覚でも味わった。これで私の五感はメリー以外のものを全部締め出してしまった。  メリーの体を抱き寄せて、もう片方の手でメリーの胸を揉む。メリーの瞳は更に驚愕の色で染められているけれど、逃げ出そうとはしなかった。私はそれを良い事にメリーの口の中に舌を差し込む。  メリーの舌を見つけ出して、舌を絡み合わせる。メリーの舌は怯えた小動物の様に動かない。それを私は舌で弄ぶ。  さっき私の太ももを舐めたメリーの舌は、こうして舌で味わった方が良く分かる。甘い。気持ちよくなる薬なんて使ったことはないけれど、そんなものは必要ない。メリーとこうして口を合わせているだけで、私の脳にはヤバイ物質がたくさん分泌されているのが分かる。  私の手はいつの間にか、メリーのブラを外していた。メリーの胸の突起が直接私の手の平の上で転がっていく。メリーの胸は私の指を飲み込むように受け入れてくれる。私の手の中でメリーの胸が形を変えるのに私は夢中になってしまった。  ねえ、メリー、貴方のおっぱい、こんなに柔らかいのね。やっぱり貴方の方が柔らかいわ。  メリーは私を抱き締めるでもなく、突き放すでもなく、ただ停滞している。そのメリーの行き場を失った手が、指が彷徨って私の肌をかすかに引っ掻いた。  多分メリーは引っ掻くつもりなんてなかったに違いない。ただ偶然当たってしまっただけ。メリーの表情もそう語っている。  だけどその痛みとも言えない様な痛みに、私は夢から覚めてしまう。  メリーとの口づけを止めると、唇が寂しがるように銀色の橋を作るがすぐに落下してしまう。  私は熱気が急激に失われて恐慌に陥ってしまう。 「あ、あぁ、うぅ……メリー……」 「……」  メリーは何も言わない。  こんな事をするつもりはなかったのに。でも自分が止められなかった。  でもメリーの事を何も考えないで、自分の思うがままに、突っ走ってしまったことに自己嫌悪を感じずにはいられなかった。  卑怯すぎるわ、私……。  私の手も、メリーの手も半端な位置で止まって、次に何をしたら良いのか分からない。 「その……、ね、メリー、なんて言うか……」  何を言えばいいのか分からない。言いたいことはたくさんあるのに、日本語になって出てこない。これが自室の出来事だったら、服を掴んで逃げ出していたかもしれない。  でもそうでなくて良かった。逃げ出すのは、全ての選択肢の中で一番メリーを悲しませるものだと分かっていたから。 「蓮子……」 「う、うん……」  何と言ったら良いのか分からない。私は喉から言葉を搾り出そうとするけれど、メリーの瞳に射竦められて何も言うことができない。  その状況を打ち破ったのはメリーだった。 「私、ちょっとびっくりしちゃったけど……。その、ね、嫌じゃないのよ。  不思議ね、さっきまでは蓮子とこんな事するなんて、想像したことなかった、ううん、あんまり想像したことなかったけれどね、嫌じゃないのよ。  蓮子にキスされたけど、他の人だったら突き飛ばしてたわよ。そもそも蓮子以外とこんな格好で抱き合うなんて考えもしないけど。  うん、蓮子だからいいのよ……」  メリーとしては珍しい朴訥とした言葉、でもその言葉は私の体にすとんと落ちてきた。 「私はずっとメリーとこうしたかったんだけど……」 「それって?」  私の大好きなメリーの笑顔だ。お姉ちゃんぽくって、子供っぽくて、どこか妖しい笑顔。 「好きよ、メリー」 「私だって、蓮子のこと大好きよ」 「それってキスをしたいって意味で?」 「そうね。日本人的な意味でね」  今度はメリーからのキスだった。これで一回ずつ。 「でもね、蓮子。この状況ではね……」  こんな時に常識人ぶらなくても。でも、分かっているのだけれど、とても止まれない。 「嫌」私はそれだけ言って、メリーを抱き寄せて、指をメリーのショーツの中に滑り込ませる。 「れ、蓮子っ! こういうことは無事に帰ってからっ」 「我慢できないの、メリー、ずっと我慢してきたんだから。それにメリーがいつも私にだけ無防備すぎるのがいけないのよ。いつもいつもメリーのことが気になって仕方なかったのよ」 「んっ、れ、蓮子……」  メリーの初めて触るそこは、柔らかくて熱かった。 「ねえ、メリー、さっき私とこうすること『あんまり考えたことなかった』って言ってたけど、たまには考えてくれていたって事で良いのかしら」  メリーの首筋に吸い付いてキスマークを付けながら、メリーを問い詰める。 「う、うん……、でも、ほら、蓮子でそんなことを想像するなんて……」 「私が嫌がると思った?」  メリーは黙って頷く。そんなメリーの耳に噛み付く。 「んっ、れ、蓮子……」 「酷いわ、メリー。私、メリーだったら、どんなメリーだって大丈夫なのに」 「う、うん……」照れるメリーに頬ずりをする。可愛いなあ。そんなメリーに悪戯をせずにはいられない。 「メリーは、私を思って、一人でここを弄ったことあるのかしら?」  私が強くそこを弄るのに合わせて、メリーは切なげな声を上げる。 「ねえ、どうなの?」返事をしてくれないメリーの耳元で囁く。 「うん……」そのか細い返事で私は有頂天だった。  自分だけじゃなかった。相手を想って自らを慰めあっていた。その連帯感が嬉しい。 「メリー、私嬉しいわ」 「私だって……嬉しいわよ」  私の方が嬉しいに決まってる!  私はメリーのショーツを脱がしていく。それに合わせる様にメリーも私のショーツを下ろしてくる。  メリーの顔は私のを脱がせているというだけで真っ赤になっている。さっき私の服を平然と脱がせたメリーはどこへ行ったのかしら。  メリー、メリー、可愛いわ、メリー。抱きしめても、抱きしめても、抱きしめ足りない。 「メリー、愛してるわ」  自然とその言葉が私の口から転がり出た。  メリーの顔が更に真っ赤に染まる。きっと私の顔も真っ赤に染まっている。顔が温かくて気持ちいい。メリーも抱きしめてくれるし。メリーは柔らかいし。 「わ、私も、蓮子のこと……愛、してるわよ」  その言葉を聞いて、私はメリーのあそこに太ももを押し付ける。メリーは押し殺した嬌声を、山小屋に響き渡らせる。  私はそのメリーの声がもっと聞きたくて、押し付ける動きを強くする。  私の太ももがメリーの愛液で濡れ始めると、メリーも抵抗がなくなってきたのか、だんだんと嬌声を押し殺す回数が増えてくる。  その表情が見たくて私はメリーのお尻のほうから指を回して、一緒に周辺を弄ってあげる。 「れ、蓮子……」メリーは涙ぐんだ瞳で私を見つめたかと思うと、私のあそこに太ももを押し付けてきた。  キス以外でメリーが初めて積極的になってきた。そのことに私の胸と、あそこが熱くなる。 「メリー、私のこと気持ち良くしてくれるかしら」 「う、うん、頑張ってみる……」  メリーはゆっくりと私に太ももを擦り付けてくる。気持ち良くして、なんて言ったけれどメリーにされて気持ち良くならないはずがない。 「メ、メリー……」 「蓮子ぉ……」  嵐が激しくなった気がするけれど、全く気にならない。ただ目の前のメリーを気持ち良くしてあげたい、気持ち良くして欲しい。その気持ちで一杯だった。  メリーの瞳が、見たことのない色で蕩けている。こんなメリーを見るのは初めて。  私が太ももを押し付けるたびに、メリーの口から飛び出た呼気が私に吹きかかる。  メリーの呼気も愛液も全てを私のものにしたいけれど、ここでは無理そう。この旅行から帰ったら、きっと私は止まることができない自信がある。  ずっとメリーを独り占めしたくてたまらない。  ずっと抱きしめていたい、ずっとキスしていたい。  こうして気持ち良くして欲しい、してあげたい。私にだけその表情を見せて欲しい、その声を聞かせて欲しい。  そんな粘着質の気質が私の中で大きくなっていく。  メリーと一緒になれておかしくなりそうだった。いや、おかしくなっていた。  私もメリーもいつの間にか声を抑えることを忘れていた。普段決して出さないような声を上げていた。  声に合わせる様に、太ももを押し付け合う。  メリーの名前を呼ぶ。私の名前が呼ばれる。太ももを押し付けあう。  そのたびに私の中はメリーで一杯になっていく。 「れ、蓮子……、私……」 「いいのよ、メリー、一緒に一緒に……」 「蓮子、蓮子」 「メリー、メリー」  私達はレジャーシートにくるまれたまま、私の太ももでいってしまった。レジャーシートの中に脱ぎ捨てた下着があるけれど、湿っていたそれを再び身に着ける気にはならなかった。ただお互いの体温をより感じていたかった。  目を覚ますと、目の前には寝息を立てているメリーの顔。メリーを起こさないようにもう一度目を瞑った。 「んっ」  二度目の目覚めは息ができなかった。何かと思ったら、私の口はメリーの口で塞がれていた。 「れ、蓮子、お、起きたのね。お、おはよう」私から顔を離したメリーはたどたどしく、真っ赤な顔で朝の挨拶をする。 「んっ」  私も仕返しにおはようのキスでメリーの口を塞いであげる。  私達が体を起こしたのは、それを十数度繰り返した後だった。  無言でロープに掛けていた服を身に着ける。まだ服は湿っていたけれど、我慢できないほどではない。  それより寝起きのテンションでの、キスの応酬が今更羞恥心となって私達に襲い掛かってきている。 「れ、蓮子、タイが曲がってるわよ」  いつものようにメリーにタイを直してもらう。今までは無自覚にやっていた行為なのに、今日のその行為は格別だった。  メリーも恥ずかしそうな顔で、でも誇らし気な表情でタイを微調整している。  私はくしゃくしゃになってしまったメリーの髪を、旅館から持ち帰ってきたアメニティグッズに入っていたブラシで、櫛を入れる。  メリーはくすぐったそうに、でも笑顔で私に髪を手入れさせてくれた。  窓からは早朝だと言うのに、眩しいほどの陽光が差し込んできている。埃まみれの窓越しにでも、外の陽気が伝わってくる。  ドアを開けて、周りの景色を見渡す。その風光明媚な景色と共に、今日どうすべきか考えていた時だった。 「あっ」メリーの声。 「どうしたの?」 「これ見てよ、今、本当に今見つけたの」  メリーが突き出してきたのは、小さな四つ折の紙、その紙のタイトル部には「○○○登山コース」と書かれている。どう見てもこの山の登山マップだ。 「蓮子、この印この山小屋じゃない?」  地図と手書きの×印、そしてさっきまで見ていた周りの風景から、確かにその×印はこの山小屋だと確信できた。  そして登山コースまではこの山小屋から1キロほどの距離、山道であることを考えても迷わなければ一時間で着ける。  けれど謎は残る。 「ねえ、メリー、この紙、昨日は無かったわよね」 「うん、あったら絶対気付いていたもの。さっきそこに落ちているのに気付いたんだけど」 「天井……から落ちたのかしら」天井を見上げたけれど、そんな紙切れが置いてありそうな場所はない。それに天井なんかにそんなものがあるわけもない。この山小屋も二階などは存在していない。 「それに……、この紙、新しいわよ。こんなに真新しい存在は、この山小屋に他にないわよ」 「そうね」私は寒くもないのに、体が震えてしまう。 「境界が歪んでいる……?」 「え、メリー何か言った?」体の震えに気をとられて、メリーの呟きを聞き逃してしまって聞き直したけれど、メリーには気にしないでと流されてしまった。 「まあ、良いじゃない。蓮子、早く帰りましょう」 「そうね」  外に出ると、心地よい風が吹いている。ハイキング日和だった。 「ねえ、蓮子」 「何?」 「登山道に戻ったら、温泉に戻ってもう一泊しましょうか」 「メ、メリー?」  メリーは恥ずかしいのか手を擦り合わせながら、いろいろな意味でとんでもない事を言ってくれる。 「だ、だって……、帰っちゃったら大学に行かないと行けないじゃない……。旅行だから仕方ないのよ。折角の体験、蓮子の居眠りしている講義に比べたら遥かに有意義よ。違う? 蓮子」 「そ、そうね。仕方ないわよね、自主休講でも。いやあ、講義に出たいのはヤマヤマなんだけれど、旅行だから仕方ないわよね」  自己正当化。確かに手持ちで温泉をもう一泊する程度のお金はある。それにこの汚れた格好で帰るのは恥ずかしいから、宿で身も心も服も清めるべき!  私はメリーの手を握ると、メリーも握り返してくれる。  一昨日泊まった宿には露天風呂があった。しかも部屋風呂で。  部屋風呂付きの部屋でメリーと一泊。一昨日も同じ一泊だったけれど、それは一昨日とは全然別な一泊になるだろう。  今なら空でも飛べそう。 「ほ、ほら、メリー、急ぐわよ! 温泉が逃げるわ」 「逃げないわよ。あ、ちょっとそんなに引っ張らないで」 「何言ってるの。それとも私と一緒に温泉に入る時間を減らしたい?」 「そんなこと、あるわけないじゃないの」  私は笑い合いながら、山肌を一歩一歩踏みしめて下って行く。  メリーとの温泉一泊二名様に向かって。 「――様、――様」  式が主を呼ぶ。 「どうかしたのかしら、――」 「どうかしたのかしら、ではありませんよ、――様。結界の歪みが発生しましたので報告に。発生した場所は……」 「あ。それは私が原因だから」 「まあ、予想していましたけれどね」式は溜息をつく。 「巫女に怒られない程度にしてくださいね、悪戯は」 「精々気をつけますわ」主は扇で顔を隠す。けれど主の目が笑っている。 「悪戯の相手は巫女ではないのでしょうね。あの巫女に殴りこまれるのは色々な意味で面倒なのですが」 「大丈夫、大丈夫、巫女ではないわ。『顔見知り』にちょっとね」 「はあ、それならよろしいのですが」満足そうな笑顔の主人に、式は再度の溜息をつきながら部屋を辞そうとした。 「――、やおい、って言葉は知っているかしら?」その式を呼び止める主の言葉に式は首を傾げる。 「矢追ですか? 確か固有名詞でしたよね」 「そのやおいじゃないわ、平仮名でやおいよ。  外の世界の一部の人間が使う符牒ね。山なし、落ちなし、意味なし、略してやおいというのよ  広義と狭義で意味が変わってくるのだけれど、私は言いたいのは広義の方ね」 「はあ」式は気の入らない返事をする。主の意図が全く読めない。読めないのはいつものことであるのだが。 「これで察してくれる程度じゃないと、博麗大結界の基幹部分のメンテナンスは任せられませんわ」 「申し訳ございません」従者は如何にもやる気のない態度で謝罪する。溜息をついたのは、今度は主の方だった。式の式が来ると、式の性能が落ちる。基本的な能力は変わってもいないのに関わらずだ。 「まあいいわ。ほら――が来ているのでしょう。戻っていいわよ」  その言葉を聴いて、式は礼もそこそこに部屋を辞して行った。 「まったく、自らの式にあそこまでかまけて式に蔑ろにされるなんて、私の腕もまだまだなのかしらね。  仕方ないわ、私自ら式を打つしかないわ。ただ境界を作るだけですもの、――にやらせるのにちょうどいいと思っていたのですけれど。  やらせられなかったものは仕方ありませんわ。  さあ、やおいの結界、山なし、落ちなし、意味なしの結界を作って差し上げましょう」 ―――――――――――――――――――― 以下 やおい ――――――――――――――――――――  仲居さんに、山道に迷って山中で一泊したことを告げたら、好意でただで服を洗濯してもらえることになってしまった。本当にありがたいわ。 「新婚旅行するなら、またここがいいわね」  メリーサン、何ヲ言ッテマスカ。 「あら、蓮子はそうは思わない?」 「あ、う、うん。思うわ……」そう返事をしたものの私はとてもメリーの顔が見れたもんじゃない。「ほら行くわよ」メリーの腕を引っ張って部屋へと向かう。鍵を持った仲居さんを置いてきてしまい、仲居さんに笑われてしまうというオチだったのだけど。  私達は部屋でゆっくりと寛いでいる。着ているのは勿論、浴衣に決まっている。  しかもお互いに替えの下着もないので、部屋から出ることすらできない。出ようと思えば出られるけど、そんなリスクを負うつもりはない。  そして私達は座椅子に座っている。それは一昨日と同じ。  でも一昨日と違うところがある。一昨日は机で向かい合って座ったけれど、今日はメリーの頭が私の肩に持たれかかっている。私が畳についている手にメリーの手が重ねられている。  それだけでも十分すぎるほど幸せだったけれど、私達は二、三言話す度に笑ってキスをする。  山小屋ではあんなに昂ぶっていたのに、旅館に戻ってくるとこうしてメリーと触れ合っているだけでも十分幸せな気持ちになれてしまう。  遭難という特異な状況が、私達を駆り立てたのかもしれない。でもメリーとこういう関係になれたのだから良かったのよね。別に吊橋効果なんかじゃなくて元から好きだったんだし。 「蓮子っ、何考え込んでいるのよ」  メリーが頬を膨らませて怒っている。メリーの話を少し聞き逃してたみたい。 「ごめん、ごめん」そんなメリーの頬を突っつくと、それだけでメリーも笑顔になる。 「蓮子、温泉入りましょうよ」メリーが私の手を握って立ち上がろうとする。下着も何も着けていないので、メリーの素肌のいろいろな場所が見えそうになる。  でも堂々と見れるのよね。そういう関係になったんだもの。 「そうね、メリー。入りましょうか」メリーに手を引かれて、立ち上がる。  窓からは大量の陽光が差し込んで、部屋から見える露天風呂の水面に乱反射して、部屋の天井に光の波が映し出されている。 まだ陽は高く、正午にもなっていない。宿の好意でチェックイン時間でもなんでもない時間にチェックインさせてもらったお陰で時間はたくさんあるのだ。  シーズンオフで良かった。というかシーズンオフでもない限り、高くて泊まれないような宿なんだけどね。  二人とも浴衣しか着ていないので、浴衣を脱ぎ捨てるように籠に突っ込んで温泉に浸かる……。  その前に山越えで汚れた体を洗うのが先決。  メリーの手の中で、タオルがボディソープをたっぷりとつけて泡立てられている。 「さ、蓮子、ぴかぴかに洗って上げるわ」 「う、うん……」  お互いに先に髪だけ洗って、次は体。それにしてもメリーの目が輝き過ぎている気がするんだけど。  私の背中にたっぷりの泡が付けられて、背中の汚れがこそげ落ちていく。 「はあー、メリー、気持ち良いわ。なんて言うか、いつもの三倍くらい身体が綺麗になっていく気がするわ」 「昨日はお風呂入れなかったものね」 「そうねえ、今日は昨日の分まで取り返しましょ。何回入ろうかしら。最低五回は入っておきたいところね」 「そのためには綺麗にしないと。大浴場と違って、掛け流しじゃないのが残念ね」 「一番高い部屋の内風呂は掛け流しらしいわよ」 「良いわね、羨ましいわ」 「本当にね。はあ、掛け流しの部屋風呂か憧れるわ。いくらするのかしらね」 「バイトしないと無理よね。とりあえず、旅行から帰ったら蓮子のアパートでやりましょう、掛け流しのお風呂」 「水道代払ってくれるならね」  メリーが私の背中にお湯を掛ける。うん、綺麗になった気がする。 「じゃ、次はメリーの番ね……、ね?」  私が振り向くと、メリーはタオルをまた泡立てていた。 「私がやるから。ほらメリー背中向けて」 「あら、蓮子からこっちを向いてくれるなんて」  メリーの目がやっぱり輝いている。ああ、この目は……。 「蓮子を隅々まで綺麗にしてあげるわ」 「じ、自分で洗えるか……んっ」  メリーの泡立てられたタオルが私の胸に押し付けられる。 「ほら、じゃ、まずは蓮子のおっぱいからね」 「や、ちょ、ちょっとメリー、そんなに強く。や、それ洗う手付きじゃないでしょ。や、あ、あぁ……」 「メリー、私もうお嫁に行けない体にされちゃったの。汚されちゃったわ」 「綺麗にしてあげたのよ。それに私が貰ってあげるわよ」 「はいはい」  私の足に付いた最後の泡をメリーがお湯で洗い流した。  メリーによって隅々まで洗われてしまった。それこそ本当に隅々まで。思い出すだけで逃げ出したくなるようなところまで。 「蓮子の足の傷、まだ残ってるわね」 「そうね。でもまだ昨日の傷だし、大した傷じゃないから、放っておけば二三日で消えるでしょ」 「そうだけど……」  メリーは私の足の傷に指を這わせる。もう痛みを感じたりはしない。 「蓮子の足が傷だらけなのは……」 「私もメリーみたいにストッキングはいてくればよかったかしら」 「そうかもしれないわね。でも蓮子の足が傷だらけなのは、蓮子が私の手を引いて先導してくれたからでしょう。  危なそうな場所はいつも蓮子が先に歩いてくれたし。お陰で私は大した傷も付いてないけれど、その代償に蓮子の足がこんな傷だらけに」  メリーは私の足の傷を撫でながら、私の足を見つめている。そんなに見つめられると足でも恥ずかしい。  胸ばかり見られて恥ずかしいって言うメリーの気持ちも分からないでもない。主に見ているのは私なんだけど。  それはともかく、自然と私が先を歩いていたのは確か。  自覚していなくてメリーに言われて初めて気付いたけれど、今思えばメリーに怪我をさせたくなくて先に歩いていたんだろう。ほとんど無意識だけど。 「でも、私が先に歩いていたから、道に迷ったのかもね」 「それは私が先頭でも一緒よ」ぴしゃりと言われてしまう。 「蓮子……」  デジャヴ。  メリーに足を舐められている。二日連続で。  でも何かが違った。昨日のメリーは親猫の様だったけれど、今日のメリーから親猫らしい優しさは感じられない。むしろ何と言うか、舐め方にいやらしさとか艶やかさとかそう言ったものを感じ取ってしまう。 「メ、メリー……、そんなに舐めなくても……」 「洗っちゃったから、なかなか蓮子の味がしないわね」 「味とか言わない!」 「んっ、だって……、蓮子の足。山を歩いている時に、蓮子の足見てたの。手を繋いでいたけれど、私を引っ張っていてくれたのは蓮子の足なのよ。  それに蓮子の、ほら、この傷あるでしょう」メリーが指を差して、一番大きい傷を示す。 「この傷ができちゃった瞬間を見ちゃったのよ、背の低い木の葉っぱでできた瞬間をね。  でもそのすぐ後に、傷ができたのは蓮子なのに、私に向かって『大丈夫? 怪我してない?』って聞いてくれたでしょう」 「そ、そんなことあったかしら……。山を歩いていた時は必死で……」 「憶えてなくても、私が憶えていたから良いのよ。  蓮子には自分の事をもっと大切にして欲しいわ。でも嬉しかったのよ。ありがとう、蓮子」  気がつくと、メリーは私の太ももを舐めていた。傷は太もものような高い位置には付いてなかったはずだし、メリーが舐めているところを見てもどう見ても傷は付いていない。  それでメリーがこの先どこを舐めるつもりか分かってしまった。すね、太ももと来たら次は……。  そしてメリーは私の予想通りに舐める位置を高くしてくる。 「ちょ、ちょっと、メリー、それ以上は」 「駄目?」 「そんな悲しそうな目しないで。駄目じゃないけど……」 「じゃあ、いいのね」 「そ、そうじゃなくてっ」  抵抗虚しく、メリーが私の太ももの間に入り込んでくる。 「良く見えるわ……」 「そんなじろじろ見ないでっ。変態っ」  私は思わずメリーの頭を叩いてしまったけれど、メリーは気にする様子もなく私のあそこに顔を近づけていく。 「ひゃっ」生暖かいものがあそこを通り過ぎる感触に、私は思わず声を上げてしまう。 「メ、メリー、止めなさいよ」 「い・や♪」そんな満面の笑みで拒否しなくても。  メリーの舌が私のあそこに入ってくる。  やばい、すごく、気持ち良い。気持ち良いのにメリーを突き飛ばしたい衝動にも駆られてしまう。  それを我慢するためにメリーの髪を弄る。髪を洗ったままのメリーの髪の毛は、陽の光を浴びて光っている。いつもふわふわして気持ち良いメリーの髪の毛も濡れてしまってはそうもいかない。  それでも触っていると、なんだか愉しくなってくる。  そんなメリーの髪の毛で遊んでいるのをどう思ったのか、メリーが私を本格的に攻めてきた。  舐めるだけじゃなくて私のあそこを指で広げて直接奥深くまで舌を差し込んでくる。  私は手で口から恥ずかしい声が漏れ出そうになるのを押し止める。メリーは指で一番感じちゃうところとか、周りとか、入り口とか、好き放題に弄ってくる。  メリーの名前を呼びたかったけれど、一緒に恥ずかしい声が出そうでメリーの名前が呼べない。  メリー メリー  そのメリーと言えば、私の太ももの間で水音を立てて、私のあそこを舐めている。  水音?  メリーが私のあそこを弄っていた指を、私に見えるように突き上げた。その指は何かの液体で照かっていた。私、あんなに濡れてるのね……。あんなにメリーに愛液を出させられちゃってる。 「み、見せ付けなくていいから。ひゃっ、め、メリー……」  メリーは楽しそうに私のあそこを弄ってくる。私は一旦口を開いてしまうと、声が我慢できなくなってしまった。 「んっ、やっ、そんなに拡げないで……」  メリーの指が私のあそこを拡げて、私の全てがメリーにとって露わになってしまっている。メリーはあそこの全てを舐めるかのように舌を這わせてくる。  私が拡げないでって言っても、メリーは止めようとせずにむしろより強く私を攻めて立ててくる。  メリーの頭を抱きかかえるように手を組む。それでより強くメリーを感じてしまうけれど、何かに捕まっていないととても耐えられなかった。  私の様子に気を良くしたのかメリーは、私の一番感じるところを集中的に責めてくるようになってしまった。 「ひゃ、め、メリー。もう止めて、メリー、止めて……」  そう口では言うけれど、もちろん止めて欲しくはなかった。もっとして欲しかった。メリーもそれを分かってくれたのか、もっとしてくれる。  メリーが弄ってくる度に私ははしたない声を上げてしまう。そしてそれも終わりだった。  私の「芯」をメリーが歯で噛んだ瞬間、私の脳は真っ白に、メリー色で塗りつぶされてしまった。  私に出来たのはメリーに捕まることだけ、どんな声を上げてしまったのかは憶えてない。後でメリーに聞いたときには「可愛い声」だったそう。 「メリーったら……」 「蓮子だって、イヤじゃなかったんでしょう」 「そうだけど……」  私達はようやく温泉に浸かることができた。「身体を洗う」のに時間が掛かり過ぎだけれど気にしないことにしよう。そうしよう。  メリーにいきなり何かされたくないけれど、離れるのはもっと嫌なのでメリーを後から抱き締めて、湯船に浸かっている。  メリーの肩に顎を付いて、腕でメリーのお腹を抱き締めている。  すぐ上のメリーのおっぱいは触ると、本当に歯止めが利かなくなりそうで自重している。本当は触りたいんだけど。  こうして肩まで温泉に浸かっていると、山行の疲れが溶け出していく。  腕の中のメリーの身体が柔らかい。握ったり触ったりしたい自分を押し止めて、メリーを背中から抱き締めるだけで我慢する。  さっきからメリーに「胸が当たってるんだけど」と言われているけれど無視する。確かにメリーほど大きくは無いけれど、たまには私の胸も堪能しなさいな。 「気持ち良いわねー」  メリーが手を頭の上で組んで身体を伸ばす。その振動、具体的にはメリーの胸の振動で湯船に波紋が広がる。  妬ましい、そんな単語が頭に浮かぶ。  そんな私を他所にメリーは手を動かして身体のコリを取ろうとしている。まあ、そんなに大きい荷物を二つも抱えていれば肩こりにもなるでしょうね。  でも今気になっているのはメリーの胸じゃない。胸も気になっているけれど、今一番気になっているのは、メリーが腕を伸ばすたびに、私に見せ付けられるメリーの腋。  綺麗にしてあるメリーの腋は、なんというか非常に官能的、だと思う。  だから、そう、舐めてしまうのは仕方のないことなのだ。生理現象なのよ。 「ひゃっ、れ、蓮子! そんなところ舐めちゃ駄目よっ」 「んっ、美味しいわ。メリーのここ。なんというか、洗ったばかりで薄味なのが残念だけど、メリーの香りがするわ」 「れ、れんこ、くすぐらない、ひゃ、くすぐったいぃ」  メリーの脇腹に指を這わせながら、メリーの腋に舌を這わせる。  やっぱり私の睨んだ通りメリーの腋は極上品だわ。メリーが腕を伸ばしていた時の曲線美も素晴らしかったけれど、こうして必死に腋を閉じようとしている時の柔らかそうな腕と腋の隙間の空間も素晴らしい造形をしている。  そこに割り込んでいる私の顔が無粋な気がするけれど、こうでもしないとメリーの腋が味わえないから仕方が無い。 「あぁ、メリー、美味しいわ、メリー」 「れ、蓮子、止めなさいっ」 「あ、が……、ぽっ……」  私の視界を覆っていたはずの蓮子の腋が、いつの間にか歪んだ水面に切り替わる。  何が起こったのかしら?  数秒の思考の後、私はようやく気付いた。  私は湯船に顔から突っ込んでいる。  出ようとしてもメリーの腕で浮き上がることができない。 (ちょっと、メリー。息できない、息できない。  さっきまでメリーの腋舐めるのに懸命になってて、あんまり肺臓に酸素の備蓄がないから、メ、メリー!  お湯入ってきてる!  あぁ、温泉じゃなければ、もっとメリーの出汁が出たお湯を堪能できたのに……。  そろそろ限界も……、メリー、メリー……)  目を覚ました時には、部屋でメリーに膝枕されていた。  メリーは浴衣を着ていたけれど、私はバスタオルを羽織っただけの姿。  メリーは私を湯船から引き上げて、身体だけ拭いてくれて、そのまま膝枕をしていたらしい。  そして当のメリーも、ゆっくりと身体を前後に揺らして、夢の世界に旅立っていた。時計を見ると結構な時間が経っている。  昨日からいろいろあって私達は疲れ切っていた。それなのに風呂ではしゃげば更に体力を消耗するに決まっていた。  このままメリーの膝枕で寝たいのはやまやまだけれど、メリーがつらそうよね。  私はメリーを起こさないようにゆっくりと立ち上がって、さっき脱ぎ捨てた浴衣を羽織る。面倒だから帯なしで。 「ね、メリー……、寝るわよ……」メリーに囁くけれど、メリーが目を覚ます様子はない。  メリーの身体を抱き締めるけれど、それでもメリーは眠っている。そのまま優しく、メリーが起きてしまわない様に気をつけながらメリーの身体を横にする。 「蓮子……、優しく……」「はいはい、お嬢様」メリーの寝言に適当に相槌を打って、メリーを畳に寝かせる。  手の届く範囲に座布団があったから、それを枕にしようと思い、そして止める。  メリーの枕に座布団はもったいない。座布団にその座を譲るくらいだったら……。  メリーの頭を私の腕に乗せる。  メリーに腕枕をしてあげるのは、昨晩以来ね。  私の腕の中で、寝息を立て続けるメリーにキスをする。 「蓮子……、もっと……」  本当は起きてるんじゃないの? そう疑問に思うほどの的確な寝言だけれど、すぐにまた寝息を立て始める。 「メリー、続きはまた起きたらね」そう言って、私も目を閉じる。  メリーの体温を感じながら、夢の世界に落ちるのに時間は全く掛からなかった。  良い夢を見た気がする。  どんな夢を見たのかは忘れたけれど、きっとメリーが出ていた夢に違いない。  今の私にはメリーの出ていない夢はそれだけで悪い夢。  目を覚まして、まだ目の前にメリーがいたことに安心して、腕枕をしたままの腕の痺れに幸せを感じてしまう。  メリーはずっと寝ていたのか、浴衣も着崩れてしまっている。おかげでメリーの胸が大分覗けてしまう。 「メリー。起きないなら悪戯しちゃうわよ」メリーは起きない。 「ほら、メリー……」メリーの顔に近づく。メリーのほくろが良く見える。ちいさなにきびを見つけてしまった。後で薬塗ってあげないと。 「メリー、起きないわね。それは悪戯しても良いってことよね。駄目なら返事をしてね」勿論返事は無い。 「じゃ、承諾を得たということで」  私はメリーの鼻の頭にキスをした。そしてそのままメリーの鼻を歯で甘噛みする。  それでもメリーは起きない。  指でメリーの鼻の頭をくすぐる。  メリーの顔が歪む。まるでくしゃみをしたそうな変な顔。愉しくなってきた。  メリーのくるくるの前髪を指に巻きつける。指に巻きつけたまま、そのブロンドにキスをする。  本当にメリーの髪の毛は柔らかくて羨ましい。  髪の毛を巻きつけた指をメリーの瞳に持っていく。メリーのぱっちりした睫毛、その睫毛を軽くメリーの髪の毛でいじってあげた。  メリーが目を見開いた。起きちゃったのね、もう少し弄っていたかったのに。でも驚いてる、驚いてる。メリーは寝起きのこの状況に何もできず、何も言えずにいる。  そんなメリーに、少しばかりディープに唇を合わせる。ついでに膝枕で痺れた腕も使ってメリーを抱き締めてみせる。 「んっ、んっ……」  メリーは僅かでも嫌がる素振りを見せずに、私の舌に、舌で寝技を仕掛けてくる。舌を入れるつもりだったのに、逆にメリーの舌が私の口の中に入ってきた。  仕方が無いので、メリーの着崩れた浴衣の隙間に手を滑り込ませる。  メリーの胸、やっぱり柔らかいわ。  手で揉むたびに、下品にならない程度に形を変えてくれる。 「んっ、おはよう、メリー」 「何、触ってるのよ、蓮子」 「メリーのおっぱ」 「言わなくていいわよ、蓮子ったら。おはよう、蓮子、最高の目覚めだわ」そう言ってメリーが私のおでこにキスをしてくる。私も負けていられないわね。  メリーの頬にキス、そしたらメリーに首筋にキスをされた。  だから私はメリーの胸の間にキスをした。 「全く蓮子ったら……、そんなに私のおっぱい好き?」 「ふふふ、だってこんなに柔らかいんだもの。狭いところに入りたがる猫の気分が分かるわよ。あ、でも結界の隙間に入りたがるメリーも一緒かなぁ」 「結界の隙間に入りたがるのは蓮子も一緒でしょ」 「そうねえ」メリーの隙間を堪能する。「この隙間だったらずっと入っていたいわ」 「蓮子ったら、馬鹿ね」メリーに軽く頭を叩かれた。 「この体勢じゃ蓮子とキスできないじゃないの」 「それは喫緊な課題ね」 「レポートの提出は来週まで待ってあげるわ。今はそうね、お腹が空いちゃったわ」  メリーにそう言われて、私も自分の空腹具合に気付かされた。  昨日から食べたのはお菓子をちょっと。しかもお風呂に入ったり昼寝をしたりで、すっかり食べ損なっていた。私達は浴衣を調えて、旅館の店に繰り出した。  結論から言うと、売店でお土産を買ってきた。  まだ洗濯をお願いした下着が返ってきていなかったけれど、余りの空腹に耐えられなかった。途中でメリーの浴衣の帯を緩めようとしたら、メリーに睨まれた。本当に人が殺せそうな目だったわ。羞恥プレイはお預けね。  そんなわけでお土産屋さんでお菓子を買うことにしたのだった。 「ほは、へんこー」  私の目の前で、饅頭を咥えているのがメリーである。  饅頭は何とかの月とか言う、どこかで見たことがある名前と味をしていた。空腹は最高の調味料と言うけれど、二人で既に一箱を空けてしまい、今メリーが咥えているのが最後の一個だった。 「ははく、へんこー」  メリーはそのお菓子を咥えながら、私の名前を呼んでくる。蓮子なのか天候なのか変更なのか分からないけれど、私を見つめながら言ってくるのだから蓮子なんだろう。  メリーはそのお菓子を食べないで、咥えたまま私の方に突き出してくる。 「はあ、全く。メリーったら、そんな子供っぽいことを」  私は笑顔のメリーにそんな憎まれ口を叩いたけれど、内心は愉しくて仕方が無かった。  メリーの咥えているお饅頭を逆から被りつくと、口の中にカスタードの香りが広がる。もう何個も食べて空腹は紛れてきていたけれど、この最後の一個は特別な味がした。  私とメリーはゆっくりとその饅頭を食べていった。早く食べたかったけれど、敢えてゆっくりと食べ進めていく。一口食べ進めるごとにメリーの顔が近づいてくる。  そして後一口、というところで私はメリーに押し倒されてしまった。 「んっ!」その勢いでメリーの口で、残っていたお饅頭は私の口に押し込められてしまった。  口の中にカスタードの甘みが広がる。けれどそれを邪魔するものがあった。  私の口の中の饅頭をメリーがキスをしたまま舌で奪い取ろうとする。私はそのメリーに従うように、口の中の饅頭をメリーの口に口移しであげる。まるで小鳥みたいに、メリーは私の唇を啄ばんでくる。  メリーが喉を鳴らして私の上げた「餌」を飲み込んでいく。 「ねえ、満足した?」  本当に美味しそうに食べるメリーに聞いてみたけれど、メリーにとっては不満だったらしい。 「まだね、まだ足りないわ」 「でも、お饅頭は全部食べちゃったわよ」 「いいえ、まだきっと残ってるわ。調べさせてもらうわよ、蓮子の口の中」 「えっ、んっ……」メリーの舌が、私の口の中に入り込んできた。  私の口の中を隅々まで探すように嘗め回してくる。まるで私の口が全部メリーのものになるのかと思うくらい、メリーの舌が私の咥内を踏み荒らしていく。  けれどそのメリーの舌が動くたびに私はメリーに自分のナカをえぐられているようで身体が熱くなってしまう。  メリーの目は狩人の目になっていた。 「蓮子、甘くて美味しいわ」 「もうお菓子の味なんて残ってないでしょ」 「だから、蓮子が甘くて美味しいのよ」 「メリーの馬鹿……」 「んっ……」  私達はそのまま、一時間ほどキスをし続けたのだった。  顎が外れるかと思った……。 「それじゃ、秘封倶楽部の無事の帰還を祝って」 「かんぱーい」「乾杯」  麦酒を並々と注ぎ合ってグラスをかち合わせた。  夕食は部屋に運んでもらっての優雅な一時。 「ビール、美味しいわー。本当に生きて帰ってきたって実感が沸くわね」 「あら、メリー。あんなことやこんなことをしておいて、生きて帰ってきたって実感はないのかしら」 「そうねえ、だって蓮子との逢瀬は夢見心地だったんですもの、実感がなくて当然ですわ」 「むぅ」  メリーめ、ぬるりと抜けよる。  グラスを置いて、メリーに向かって、手をわきわきと動かす。 「じゃ、もっと実感させてやらないと」 「蓮子、食べないならお肉貰うわよ」 「頂きます」  合成食材と分かっていても、味付けが違うのか、合成食材のランクが違うのか、学食の食事とは比べようもない料理に、メリーと舌鼓を打つ。 「お腹一杯食べれるって幸せよね」 「そうねえ、お菓子だけの食事の後だと格別よね」 「じゃ、明日からもお菓子だけの食事をすれば、学食も豊かな食生活と思えるようになるんじゃない」 「無理、その役目は蓮子に譲るわ」 「私も無理……」  ご馳走で一杯になったお腹を擦りながら、私達が背中を預けあって、そんな取りとめもない話をする。  そんな私達の前で、仲居さんが食器を下げ、布団を引いていく。そして「おやすみなさいませ」と言って仲居さんが下がると、今日という世界は幕を閉じる。後は二人だけの世界。  背中合わせのメリーと背中合わせのまま手を握る。 「メリー、今日は楽しかったわ」 「そうね。しかも幸せだったわ」 「自分で言っておいてなんだけれど、過去形は止めない?」 「ふふふ、じゃ、幸せよ、蓮子」  メリーが私の手を握り締めてくる。今まで手を握ったことはあるけれど、こんなに手を繋いだのは初めてだと思う。 「こんなに、幸せならもう一泊したいわね」 「打ち出の小槌があったらそうするんだけれど。しばらくはカップラーメンを啜ることになるわね。  ご自慢の結界を見る目で一攫千金狙えないかしら?」  メリーが何かを考え込む様な気配を見せて、数拍の後に口を開いた。 「それなら、蓮子、提案があるのだけど」 「んっ?」 「材料費半分出してくれたらね、その……お弁当、作ってあげなくもないんだけど。それなら食費が浮くと思うのよ。そしてお金を貯めてまた来ましょう」  メリーの提案は魅力的だった。けれど……中身が一緒のお弁当を大学で毎日一緒に食べる、と。みんなに何て言われるかな。  でも……嫌じゃないわね。 「塩と砂糖を間違えないでくれるならいいわよ」 「うん」  本当は飛び上がって喜びたかったけれど、メリーと手を握り合っているのでそれもできない。  だから私は手を引っ張ってメリーを無理矢理振り向かせて、キスをすることで喜びを表現することにした。 「っ……」メリーの口の中を味わいながら、私のアパートの煎餅布団とは全然違う柔らかい布団にメリーを押し倒す。 「お弁当の前にメリーを味見するわ」 「もう……、食べ過ぎるとお腹壊すわよ」 「本望ね」  メリーの頬を噛むと甘い味がする。首筋を舐めても甘い味がする。おっぱいを咥えても甘い味がする。 「ねえ、メリー。貴方甘すぎて、私糖尿病になるわ」 「あら。それじゃ蓮子のお弁当、卵焼きは砂糖抜きね」 「ひどいわ、私の好みを知っていてそんなこと言うなんて」 「そうね、ご飯は固め、果物は酸っぱめ、蜜柑は青いくらい、牛肉の脂身は駄目なのに、豚肉の脂身は大丈夫。それと最近苦いものが大丈夫になってきたでしょう、しし唐とか。それと……」 「ちょ、ちょっとどうしてそんなに把握してるのよ。それに私、しし唐昔から好きじゃない……あれ?」 「今日、晩御飯で天麩羅出てきてたでしょ、蓮子ちゃんと『おいしい、おいしい』って言いながら食べていたわよ。きっと好みが変わってきたのよ。毎日蓮子とご飯食べているんだもの。蓮子の好みくらい知ってるわよ」 「本人より把握してるなんて……」 「あら私の好みだって、蓮子知ってるでしょ」 「知ってるわよ、勿論。でも、ベジマイトだけは知っていても理解できないけどね」 「あんなに美味しいのに。蓮子ももう一回挑戦してみましょうよ」 「嫌よ、私はメリーだけでお腹一杯にする予定なんだから」 「んっ」  メリーの乳首を食べるのに合わせて、メリーの口から歌声の様な声が上がる。それを聞いていると、私はメリーの「お弁当」が待ちきれなくなってきた。 「メリー、お先に頂くわ」 「な、何を? えっ、ちょ、れ、蓮子っ」  私はメリーの浴衣の中に潜り込む。  そこには洗濯から帰ってきたばかりのメリーのショーツ、けれど……。 「なあに、メリー。折角洗濯してもらったのに、もう汚しちゃうなんで駄目じゃないの」 「だ、だって……、さっきから蓮子に触られてるから」  メリーの消え入りそうな声に私は奮い立つ。昼間あれだけしてくれたのに、自分がされるとなると、そんな心細そうな声を出すなんて。 「ねえ、メリー。脱がすわよ」 「自分で脱ぐから、蓮子はちょっと離」 「だ〜め」  私はメリーのショーツに指を掛けてゆっくりと下ろしていく。  私は思わず歓声を上げてしまった。そしてメリーに頭を叩かれた。  仕方ないじゃない、こんなにメリーのえっちぃ所を間近に見たんだから、そうメリーに言ったらもう一回叩かれた。  叩かれたお礼に私はメリーのそこがどうなっているのか実況してあげることにした。  まずはショーツについたシミから。どんな風にシミがついているのか、それがメリーのあそこと対応していることをメリーに説明してあげた。  また叩かれた。ひどいわ、メリー。 「そんな捨てられた子犬みたいな目をしないでよ。どう考えても悪いのは蓮子でしょ、あんな恥ずかしいことを言って」 「だって仕方ないじゃない、私の食べ物の好みは全部メリーに知られちゃってるから、私だってメリーの全てが知りたいのよ。  メリーの形とか匂いとか味とかね。ほら、だからまずは形を知るためにこうやって……」 「も、もう、蓮子ったら……」  意外とメリーは反発してこなかった。私はここで調子に乗ることにした。  口の中に、メリー味が広がる。今日、メリーに舐められはしたけれど、メリーのを舐めるのは初めてだった。 「うん、変な味ね……」 「蓮子の馬鹿……」 「ごめんね、メリー。でも美味しいわよ」 「蓮子の馬鹿……」  馬鹿呼ばわりしてくるけれど、メリーの表情を確認したらうっすらと笑みを浮かべている。他の人だったら見落としそうな笑みだけれど、メリーが嫌がっていないのは断言できる。  だから私はもっとメリーのあそこを舐めてあげる。  昼間メリーに舐められていかされてしまった時を思い返す。メリーは愉しそうに私をいかせてくれたけれど、その気持ちは逆の立場になると良く分かる。  私がメリーに刺激を与えるたびに、メリーは我慢できなくなった声を上げてくれる。舌や指でメリーのそこを弄るたびに、メリーは布団を握り締める。 「メリー……、可愛いわ」 「何よ……、蓮子の方が可愛いに決まってるじゃないの」 「あら、だってこんなに乱れたメリーを見たら、きっとみんなメリーを可愛いって思うわよ」 「嫌よ、みんなに見せるのは嫌。蓮子にしか見せないわよ」 「メリー……」  さっきまでメリーのあそこを舐めていた口だったけれど、メリーは抵抗もなくキスを受け入れてくれる。私もメリーとキスできるなら、どんな状況でも受け入れるつもりだけれど、メリーも同じだと分かって嬉しさをこみ上げてくる。 「ねえ、メリー……」 「んっ、なあに?」  キスの合間の会話。一言口に出す度にキスをするから、全然会話が進まない。でもそれも良かった。  メリーを抱き締めながら、メリーとキスを続ける。 「さっき、気持ちよかった?」 「う、うん……」  照れながら頷くメリーが可愛くて、キスをしながらメリーを押し倒す。  メリーのあそこに私のあそこを押し付ける。押し付けあうと水音が立った。 「メリーの愛液の音がするわよ」 「蓮子の音でしょう」 「そうかもね。でもメリーの音もしたわよ」 「だって、蓮子が気持ちよくしてくれるからでしょ」 「そうね」私達は笑みを浮かべあって、またキスをする。  メリーのあそこは気持ちよかった。柔らかくて、愛液に濡れて、私のものを離そうとしない。メリーがあそこを押し付けてくるので、私はメリーのふくよかな胸に手を伸ばす。  メリーの乳房は柔らかいままだけれど、乳首は堅く自己主張していて私の手のひらに程よい刺激を与えてくれる。  メリーの胸は乳房の柔らかさと乳首の堅さで黄金比を形成していると思うの。後でメリーに教えてあげよう。そう思いながらメリーの胸を揉む。  そうするとメリーは私の首筋に噛み付いてきた。痕が残るかもしれない、と一瞬思ったけれど、メリーに止めさせる気にはならなかった。むしろメリーにキスマークを、歯形を、付けて欲しかった。 「ねえ、もっと……」私の口からは自然とそんな言葉がこぼれ出た。  キスマークなのか、歯型なのか、それとも擦りつけ合っているあそこの話なのか、どれだか判然としない言葉なので、メリーがどう捉えたのかは分からなかった。  なぜならメリーは全てをしてきた。 「あ、痛っ。でも……、止めないで……」  メリーに噛み付かれて痛かった。痛い筈だった。でも何故か気持ちいい。メリーにされるなら全てが快感になるのね。  キスマークが喉に付けられた。服を着ても絶対に見えてしまう場所。でもこれで私はメリーのものになった。  メリーと擦り付け合うあそこはお互いの愛液で大変なことになっていた。動くたびに水音が立ち、布団に垂れて、お互いの間で泡立つ。 「はっ、れ、蓮子……。私達……こんなに相性いいのね」 「そうね……、まるで最初から、一つだったみたい」  そう思えるほど私とメリーのあそこは絡み合って、離れようとせずお互いを刺激していく。愛液が布団に泡立ったままシミを作っていく。  キスをすると、あそこと唇とで蓮子と繋がっていることを実感してしまう。  メリーの手が私の髪を握り締めてくる。少し痛かったけれど、メリーがそこまで夢中になっているのだと思うと、その痛みすら心地良かった。  メリーの切羽詰った声を聞いていると、私の限界に近づいてしまう。、 「蓮子、いいわ、蓮子……」 「メリー、一緒にいきましょう」 「うん、蓮子、大好き、大好き……」 「メリー、メリーっ、あ、あぁ、あぁ!」  一瞬だけ先に達してしまったメリーを抱き締めながら、私も達してしまった。  私の全身をメリーにもらった快感が走り回って、私の意識を混濁させてくる。私の腕の中で絶頂に浸っているメリーの顔を見ながら、キスをする。 「蓮子……」メリーは私の名前を呼びながら意識を夢の世界へと落としていく。  私も「おやすみ、メリー」そう言って、メリーの後を追う事にした。  二人で目を覚ましてまた風呂に入っている。とは言っても夜とも朝とも言いがたい時間。  空が僅かに白み始めた頃に、二人とも目を覚ましてしまった。原因は私が腕枕で痺れた腕のせいで悲鳴をあげたからだけれど。  そしてお互いの身体についたいろいろな液体や匂いを流すためにこうして風呂に入っている。  メリーを後から抱き締めながら湯船に浸かっている。本当は向かい合って入りたかったんだけれど「蓮子は胸ばっかり見るから嫌」との非情な一言でこの体勢となっている。メリーは自分の胸の魔力を知らないんじゃないかしら。  それでも後から抱き締めるといろいろ弄りやすそうだから問題ない。問題なのは……。 「声が響くから変なことしないでよ」  露天風呂で早朝という条件、確かにナニカをしたら、ナニカをしていると旅館中に喧伝するようなもの、さすがに恥ずかしい。布団は汚れてしまったから後々ばれるに決まっているけれど、それは私達がチェックアウトした後のことだ。 「はぁ」  少し痛みを残す頬をメリーの頭にこすり付けて、痛みを和らげる。  ナニカが出来ないので手持ち無沙汰になり、ちょっとメリーのお腹のお肉を摘んだだけなのに。帰ってきたのは結構本気の肘鉄だった。  別にメリー、太ってるわけじゃないのに。 「蓮子ったらデリカシーがないわよ」 「何よ、メリー別に太っていないでしょう」 「そういう問題じゃないのよ」 「さいですか」  肩まで湯に浸かると、ちゃぷりと湯が跳ねる。 「もうすぐ日の出ね」メリーは群青色から青色に移ろいつつある空を見上げている。私もメリーと同じ空を見る。もうほとんど星も見えなくなってきていて私の時刻を見る能力も無効化されそう。 「新しい秘封倶楽部の夜明けね」 「それはどっちかって言うと昨日じゃない?」 「そうかも」  メリーと初めて肌を合わせた一昨日の夜を思い出す。 「ね、メリー。日の出を見たら……」 「なに?」 「またシましょう」 「……、うん……」  頬を染めて頷くメリーの唇を奪う。やっぱりメリーは可愛いわ。 「早く、太陽昇らないかしら。ねえ、メリー、結界をどうにかして太陽の動きを早送りしてよ」 「無茶言わないで」 「早く、早く♪」  適当な音程で太陽を急かす歌を歌う。 「まったく蓮子ったら」  メリーに笑われたけど気にしない。  太陽が昇ったら、メリーに何をしよう、そう考えながら日の出を待つ。メリーの頬も日の出の赤じゃない色で染まったままだったので、きっと同じ事を考えていたに違いない。  太陽が頭をのぞかせた。 「おはよう、メリー」「おはよう、蓮子」  朝一回目のキスと共に、新しい一日が始まる。