脳を血流が駆け巡るたびに、ずきりと痛む。  縁側の天井を見ながら、その痛みに顔をしかめてしまう。  昼寝の後の気だるさと頭痛が私に覆いかぶさってくる。 「ふぁぁ、寝ちゃってたか」  霊夢に掃除を手伝わされて、休憩で霊夢と一緒にお茶を飲んだのは記憶にある。  それで「疲れたぜ」って冗談で正座をしている霊夢の太腿に頭を預けたんだっけ?  霊夢に軽く頭を叩かれて、でも、そのまま霊夢の太腿に居座って……その後の記憶がない。  そのまま寝ちゃった?  そこで私は、今まで枕だと思っていたものが、そうではなかったことに気付いた。  霊夢の太腿だった。  その霊夢も座布団を枕にして寝ていた。  私が無理矢理膝枕をさせたときには正座だったはずだけど、今は普通に足を伸ばして寝ている。  さすがに正座のまま寝るのはありえないよな。  霊夢と一緒にお茶を飲んだのが15時くらいだった。  なにせ「掃除手伝ったんだからおやつくらい出せよ」とねだったんだから間違いない。  縁側は既に夕陽に照られていて、結構な時間寝ちゃってたことに気付かされる。 「魔理沙……?」  起こしちまったか、霊夢が目を擦っている。 「よう、ねぼすけ、おはよう」 「ねぼすけって、先に寝たのは魔理沙の方でしょ。おかげで私も寝るしかなくなったじゃない。魔理沙に膝を奪われちゃったんじゃ」  鼻で笑ってやる。 「何を言う。私が寝る前の霊夢は正座してたじゃないか。今正座してないってことは、正座を止めた上でわざわざ膝枕しなおしてくれたんだろ。  その時に代わりにその座布団でも私の枕として突っ込んでおけば、霊夢は掃除ができた筈じゃないか」 「あら、魔理沙は私の膝枕より座布団がいいのかしら?」 「いや、霊夢の太腿は最高だぜ」 「全く調子がいいんだから」  霊夢は飲み掛けのすっかり冷めてしまった湯のみのお茶を飲み干す。 「なあ、ちゃんとしたお茶淹れてやろうか」 「あら、殊勝だこと」  霊夢は掃除が途中だったことに触れてこない。  きっと明日やればいいと思ってるんだろう。まったくもって同感だが。  まあ、今は茶が欲しいな。霊夢の膝枕のおかげでよく眠れたせいで、喉がカラカラだ。  二人で夕陽を眺めながらお茶を飲む。  お茶を一口啜ると、ようやく頭痛も治まってくる。 「昼寝って気持ちいいのに、どうして頭痛がするんだろうな」 「あら、魔理沙かわいそうに。私はいくら昼寝しても頭痛になんかならないわよ」 「それは羨ましい能力だな。空を飛べる能力と両天秤だぜ」  霊夢の事だ、どちらかを選べと言われたら、本気で悩みかねない。 「まああれだ、頭痛が痛い私はつらくて家にも帰れないから、晩飯よろしく。もちろん和食でな」 「私としては魔理沙に作ってもらいたいんだけど」 「掃除を手伝ってやったじゃないか」 「おやつにどらやきを二個も食べたじゃないの。あのどらやき高いのよ。妖夢からの貰い物だけど。しかもそのあとぐーすか寝ちゃうし」 「お前の懐痛んでないじゃないか。痛んでるのは妖夢の財布だけじゃないか」 「実利的には痛んでるわ。私のおやつ代が一回かさんだわ」 「まあ、そうではあるんだが。ともかくキリがないな」  こういう時は決まってる。 「まあ、一本いくか」 「そうね、その方が手っ取り早いわね」  東方花映塚 MATCH MODE 「あーあ、負けちゃった」 「油断大敵だぜ」  ここ最近負けが込んでたから今回の勝利の美酒は格別だ。  具体的には霊夢お手製の夕食という美酒だ。思わず鼻歌も出るってもんだ。 「じゃ、よろしくな」 「仕方ないわね、作ったものに文句言わないでよ」 「私の口に合うなら、何でもいいぜ。特に和食な」 「はぁ」  霊夢は溜息と共に台所に向かう。  私は手を振って霊夢を送り出す。  それからさっきから気になっていた、廊下に出しっぱなしの雑巾とバケツを片付けることにした。  霊夢の飯が食えるのであれば、これくらいはしとかないとな。  バケツの中の黒い水を納屋の脇の排水溝に流す。  台所から霊夢の打ち鳴らす包丁の音が聞こえてくる。  参道を歩くと遠くに見える人里にも夕食を用意するかまどの煙が立ち上っている。 「あぁ、腹減ったな」  霊夢は何を作ってるんだろう。  楽しみを後に取っておくために霊夢に呼ばれるまで台所には近づかないようにしよう。  参道には木々が長い影を落としている。その木を見上げるとまだ青い柿の実がごっそりとなっている。  まだデザートにするのには早いなあ。  この実が熟したら、霊夢に柿羊羹でも作ってやるかな。  霊夢の作った夕食がちゃぶ台に並ぶ。  カレーと西洋野菜のおひたし。  美味しそうな香りがする。  まずいカレーを作るのはなかなか難しいが、それを差し引いてもうまそうだ。  気になる。  とても気になる。  別に私の嫌いなものが入っているわけではない。  牛肉っぽい肉、じゃがいも、にんじん、たまねぎが入っている。  そこまでは普通のカレーの具だ。  カレーになぜこの、紐っぽいものが入っているんだ。  私は一回目をつむって、深呼吸をしてもう一度霊夢お手製のカレーを観察する。  気のせいとか、見間違いではなかった。やっぱりしらたきが入っている。 「なあ、霊夢」 「何、食べないの?」  霊夢は一人でいただきますを言って、カレーを食べ始めている。  霊夢は何でも美味しそうに食べるが、今日も例外ではなかった。  だが私は確認するまで手をつける気にはならなかった。 「なあ、霊夢。一つ聞いていいか?」 「何よ、カレーに文句でもあるの? 和食じゃないからかしら?」 「いや、カレーは和食だろ。そうじゃない、これ、しらたき、だよな」 「そうね、しらたきね。和食にはしらたきでしょ」  私がスプーンで掬い上げた物を、霊夢はしらたきだと認めた。  今まで霊夢の作ったカレーは何度か食べてきたが、わざわざしらたきを入れたのに当たったことはない。  私はそれを踏まえて最大の懸念を霊夢に伝える。 「なあ、一昨日私が負けて、晩飯を作ったよな」 「そうよね、美味しかったわよ、魔理沙と結婚する人は幸せね」 「あ、あぁ……。味はこの際どうでもいいんだ。  でも私調子に乗って作りすぎたよな、肉じゃが。  確かじゃがいも十個くらい剥いちゃったからそれに合わせて大鍋で作る羽目になった。ちょっとは悪かったと思ってるんだ」 「殊勝な心がけね」 「で、本題だ。まさか霊夢、お前……」 「おかげで今日のカレーは簡単だったわ」  なんてやつだ!  私の渾身の一作を、こんな目に合わせやがって。  私は自分の皿に盛られた、肉じゃがだったものを思いやる。  ごめんな、馬鈴薯、折角おいしい肉じゃがに仕上げてやったのになぁ。  ごめんな、肉じゃがとしての生を全うさせてやれなくて。 「魔理沙、食べないなら私が代わりに食べてあげるわよ」 「お前になんかやるか。これは私の愛娘、肉じゃがの末路だ、お前になんか食わせてやるものか」 「ああ、そう。じゃ、私は普通におかわりするわ」  霊夢はスプーンを咥えたまま台所に消える。  私が肉じゃがだったものを見つめているうちに、霊夢は一皿平らげてしまったらしい。  私は少し冷めてしまったカレーを口に運ぶ。  口に入れたじゃがいもはそこはかとなく肉じゃがの味がする、でも美味しいカレーだった。  やっぱり霊夢の料理は美味しいなあ。  霊夢と酒を酌み交わす。  つまみはまだ残っている肉じゃがだったけど、作りすぎたのが自分だったので文句は言えない。  言ったら霊夢にはたかれそうだ。  宴会と言うわけでもないので、酒も燗に付けた二合徳利だけでちびちびと喉を潤していく。  酒が主役でなくて、霊夢との下らない話をするために飲んでいる、そんな感じだった。  霊夢のお猪口が空になったので、注ぎ足してやる。  いつもの宴会であればそれを一気に呷るのに、今日の霊夢は味わうように飲んでいく。  別に良い酒というわけではない。ごく普通の酒だった。  そんな酒でも霊夢と一緒に飲んでいると、宴会で誰かが持ってくる上等な酒より美味しく感じてしまうのが不思議なところだ。  こんな二人で酒を酌み返す回数も昔より少し増えてきた気がする。  騒々しい宴会ももちろん楽しいけど、霊夢とこうぽつぽつと話をするものいいもんだ。  私が昼寝で見た夢の話が終わると、なんとなく会話がなくなり、霊夢との間に静かな時間が流れる。  宴会であれば無理にでも盛り上げるところだが、別にこのままでいいやと思ってしまう。  私がうつらうつらとしていると、「ねえ、今日は泊まってくの?」そんな霊夢の問い掛けが飛んでくる。  霊夢はいつの間にか、縁側で月見酒と洒落込んでいる。  別に満月でもなんでもない、下弦の月であったけれど。 「霊夢、一人で飲むなよ」 「だってあんた眠そうだったから。あんなに昼寝したのにね」 「まったく昼と言い、霊夢は私を起こすつもりはないんだな」  私も霊夢を見習って、お猪口を持って縁側に移動する。 「はい、どうぞ」 「おう」  霊夢は袖を押さえて、私のお猪口に酒を満たしていく。 「もう残り少ないわ。どうするの、結局?」 「どうするかな、なんだか今日は帰りたくない気分だな」 「そう……、それじゃ、もう一合だけ燗を付けるわね」 「よろしくな」  霊夢がいなくなった縁側で、私は月を見上げる。  その月は半端な、でも柔らかい光で境内を照らしている。  満月ともなれば、血が騒いだ妖怪が宴会や弾幕ごっこ、もしくは両方を兼ねてこの境内で暴れまわることが多い。  そんな日も楽しいけれど、霊夢とこうして杯を交わすのも悪くはない。 「ほら、ご注文のお酒よ」  霊夢がわずかに湯気を立てる徳利を手に戻ってくる。 「さすがに縁側も涼しい季節になってきたから、熱めにしたわ。気をつけるのよ」 「霊夢、気が利くな」 「あんたに比べたらね」 「そうだな、霊夢にはかなわん」 「認めちゃうのね、まったく」  霊夢は肩をすくめる。  酒は霊夢の言うとおり熱かった。その温度と酒精で私の体は焼くように温められていく。  それが吹き始めた秋の夜風には心地よかった。 「良い湯加減だったぜ」 「どういたしまして」  先に風呂から上がっていた霊夢は、櫛で黒髪を梳いている。  霊夢の風呂上りの髪を見てると、何故かいつも居ても立ってもいられなくなる。 「なあ、手伝ってやろうか」 「その前に自分の髪をどうにかしなさい。まだ全然濡れたままじゃないの」 「私の髪はこんなんだから、どうにかしたって余り変わらないさ、それより霊夢の方がちょっとでもおかしいと目立つ髪じゃないか」 「そうだけどね」  私は霊夢の後ろに座る。  先ほどまで湯船に浸かっていた霊夢のうなじは軽く湿っていて、火照ってもいた。 「まったく。後で魔理沙の髪は私がしてあげるから、よろしくね」  私が霊夢の背後に座ったことで、霊夢は諦めてしまったようだった。 「そうそう人間素直が一番だぜ」 「あんたが言っても説得力の欠片もないわね」  呆れた様子の霊夢から櫛を奪って霊夢の髪を梳いていく。  霊夢は頼んでもなかなか髪を梳かさせてくれないので、今日は本当に珍しい。  霊夢の髪は櫛で梳く必要もないほど梳き易い。私の髪とは、何か全く別のものみたいだ。 「これよろしく」  霊夢から、黄色掛かった液体の入った瓶を渡される。 「お、なんだ。くれるのか」 「あげないわよ、椿油よ。髪、手伝ってくれるんでしょう」 「お、おう」 「少しだけ、数滴でいいからね、付け過ぎないでよ。それを私の髪になじませて頂戴」  私は霊夢の言いつけに従って、霊夢の髪にその椿油をなじませていく。  霊夢の髪はこんなことをしなくても十分綺麗だと思うんだけどな。 「ほら、そしたら櫛でもう一回梳いて」 「はいはい、お嬢様」 「いいわね、レミリアの気分が分かるわ、人にやってもらうのも偶にはいいものだわ。  私も吸血鬼になろうかしら。咲夜の変わりに魔理沙がメイド長よ」 「止めとけ、止めとけ」  霊夢が「ぎゃおー、食べちゃうぞー」と、その辺の妖怪を脅かしている情景を想像して脱力してしまう。 「霊夢は、この神社にいるのが一番だよ」 「あら、私がこの神社以外にいちゃだめなの?」 「そういうわけじゃないけど、私が遊びに来て霊夢が留守だったことってないからな。どうしてもそう思っちゃうんだよ」 「そうなのかしら、私には分からないけどね」 「そうなんだよ。ここ最近は特に霊夢に会い損ねた記憶がないぜ」 「じゃ、きっと私の勘ね。魔理沙が来るのに無駄足を踏ませないようにしてるんだわ、きっと」 「他人事みたいだな」 「だって、意識したことないもの。勘ってそこまで意識するものでもないでしょう」 「異変時のお前は例外だけどな。  でもこうやって一回勘なのかなって思ったら、明日からはどうしても意識しないではいられないだろ」 「そうかもね。  はぁ、しばらく魔理沙が来るのかしらって思いながら過ごすことになりそうね」  霊夢の髪は椿油で一層艶を増した。  まだ湿り気を失っていない霊夢の髪を、私は一房手に取ってみる。  私の髪とは違う、細い軽やかな髪。  私はなんとなしにその髪を見つめてしまう。 「何、見てるの?」  霊夢は私の方に向き直る。  霊夢との顔の距離が近い。  霊夢と話していて心臓に悪いのは、霊夢が話してくるとき妙に顔の距離が近いことがあることだ。  今みたいにだ。  私の視界が霊夢の顔が覆い尽くす。  正直、緊張してしまう。  この距離感を感じるたびに思う。多分、霊夢はその距離感を意識していないんだろう。  だからどんな妖怪とも仲が良くなれるのかもしれない。  でも他の人間や妖怪に、この距離感で霊夢が話をしてるのを見たときは、心の片隅でちりちりと何かが焦げる音が聞こえた。 「さあ、次は魔理沙の番よ」 「お、おう、頼んだ」  緊張の原因である霊夢から顔を離す理由ができたのに、少し残念な思いを抱えながら、霊夢に背を向ける。  霊夢は鼻歌を唄いながら私の髪を梳いていく。  私の髪は霊夢みたいに綺麗じゃないから、恥ずかしいのだけど。  魔理沙の髪って綺麗よね。  そんなお世辞が霊夢の口から出てくるとは思っていなくて、私は返事もできずに口ごもってしまう。  私のそんな様子に気付いているのか気付いていないのか私は分からなかったけど、霊夢はそのまま私の髪を誉め続ける。  私の濡れ烏みたいな髪の毛と違って、魔理沙の髪の毛は砂糖菓子みたいで美味しそうよね。 「ねえ、今日も食べていい?」  そんな言葉を耳元で囁かないで欲しい。  自分の顔が熱い。  ぎこちなくも、頷かずにはいられなかった。  そのまま私は布団に連れ込まれてしまう。  こうなるのは初めてではない。  宴会で酔って珍しく前後不覚になった霊夢に、こっそりとキスをしたのが始まりだった。  そのときなぜキスをしたのか自分でも良く分からない。どこぞの薬師に一服盛られていたからだとしても否定できないくらいだ。  それ以来この関係は続いている。  けど告白をした事もされた事もない。  世間一般で言うセフレなんだろうかと考えたこともあるけれど、何か違う気がする。  そんな関係だから、泊まりに来ても必ずするわけでもなく、かといって自然消滅することもない。  霊夢の服を脱がせる、と言っても風呂上りの夜着だからサラシもしていないし、下ばきを脱がせるだけ。  初めてこういう関係になったときは、霊夢のサラシをほどいていくあの感覚に、もどかしくてどきどきした記憶がある。  私の着ている服も霊夢と同じだったのでお互いにすぐに裸になってしまう。  服をちゃんと着ている時の方が、脱がせている間に勢いが着くけど、こう早いとそれもなく二人で布団の上でお見合いをしてしまう。 「今日は……」  霊夢が口を開く。 「私の負けだから、私が魔理沙にしてあげるわね」  負けと言われて何のことか一瞬戸惑ったけれど、弾幕ごっこだと気付いて腑に落ちる。  霊夢が私の元に近づいて来て、私の体を抱きしめる。  私の首筋を霊夢の舌が這い、くすぐったいような痺れが背筋を走っていく。  霊夢の手が私の胸に当てられたので、私も霊夢の胸を片手で掴む。  正直胸の大きさで負けるのは悔しいけれど、霊夢の胸を触っているとそんな悔しさも消えていく。  霊夢が私の首筋を吸っている。  痕に、キスマークになってしまうんだろうけど、霊夢に付けられたものなら、まあいいかと思ってしまう。  それに一回キスマークをつけようとする霊夢に抵抗したときは、逆に全身に付けられてしまってからは、特にそう思うことにしている。  その時は盛夏だったので、薄着もできずに家に実験と称して閉じこもってキスマークが消えるのを待っていた記憶がある。  私はその吸われる感覚に耐え切れずに、霊夢の体を抱きしめる。  そのまま押し倒されて、私はいろいろなところにキスマークを付けられる。  首筋、鎖骨、胸――霊夢の口はどんどん下がっていく。  太腿にもたくさんつけられてしまう。  そしてそのまま体を裏返されて、お尻にも背中にも。  鏡に映したわけではないので、一体どこくらい付けられたのか分からない。分からないくらい付けられてしまった。多分両手の指では全然足りないと思う。  そこまでやって霊夢は満足そうな笑顔を浮かべる。 「なあ、霊夢……」 「何かしら」  霊夢はうつ伏せになった私を後ろから抱きしめて、私の胸を揉んでいる。  背中には霊夢の柔らかい双丘が当たっている。  背中の神経がもっと敏感だったら霊夢の体全体が感じ取れるのに、と思ってしまう。  そうでなくとも後ろから抱きしめられているだけで、霊夢の体がこんなに柔らかいと感じているのに。 「なあ、こんなにキスマークつけたら……」 「何? 別にもう長袖なんだし大丈夫なんじゃない」 「でも首筋は隠れないだろ」 「そうかもね」 「そうかもって……お、おい、ごまかすなっ」  霊夢は私の胸を揉んでいた手を私のあそこに伸ばしてくる。 「いいじゃないの、魔理沙。お詫びに気持ちよくしてあげるわよ」 「んっ、そういう問題じゃ……」  霊夢の指が私の一番敏感なところを擦り上げる。  霊夢が上に乗ってるから少し苦しいけど、その重みが心地よいと思ってしまう。  その重みのせいで私の胸を擦る霊夢の手も、私の胸を強く押し潰してくる。  霊夢は私の上で体を動かしてくるので、私の体の各所も布団に擦り付けられて、まるで上の霊夢と下の霊夢から一緒に全身を愛撫されているような気持ちになってくる。  霊夢は今度は私のうなじに口を這わせている。  今度はうなじにキスマークを付けるつもりみたいだが、上に乗っかられている状況ではどうにもならない。  それ以前に私はキスマークのことを考えられなくなってきている。  私のあそこを霊夢がかき回すもんだから、私の意識の半分はそっちに持っていかれている。  私は霊夢から逃れるように体を動かすけど、霊夢は蜘蛛の様に絡み付いて私のことを離そうとしない。  うなじに吸い付かれている私は、傍から見たら本当に蜘蛛に捕食されているように見えるんじゃないか、と思ってしまう。 「駄目よ、魔理沙、離さないんだから」  霊夢のその囁きに、心より私の体が先に諦めてしまう。その囁きを聴いた瞬間、私の子宮が熱を持つ。  私のあそこをかき回す霊夢の指が立てる水音が一際大きくなってくる。 「魔理沙、こんなに気持ちよくなってるのね。魔理沙のここ、すごいことになってるわよ。  明日布団も干さないと駄目ね。そうしないと魔理沙の汁が布団に残っちゃうわ」  霊夢は私の耳元で囁き続ける。  その声が聞こえるたびに、私の体が反応してしまう。  まるで霊夢の声が私の中に入り込んできて、私の子宮を直接揺さぶっているみたいだった。 「は、霊夢ぅ」  私の口から甘ったるい声が漏れてしまう。 「魔理沙……いいのよ」  何が良いと言うんだ、そう言いたかったけど、私の口は言うことを聞いてくれない。 「霊夢、霊夢ぅ」 「魔理沙、もっと痕、付けてあげる」  霊夢の歯が私の肩に食い込んだ。  それは痛みだったはずだった。  なのに私の体はその痛みを快感に変換してしまっていた。  霊夢に与えられる刺激はただ触れただけでも、抓られても、舐められても、そして噛まれても快感になってしまっていた。  だから、私は噛まれただけで絶頂に持っていかれてしまった。  その間も霊夢は私の体を弄っていた。  その霊夢の手を、体を、吐息を感じながら私は意識を手放した。  どうせなら霊夢の顔を見ながらがいいなあ……、その思いと共に私は黒い淵に沈んでいった。  夜中に一度目が覚めた。  私はまどろんでいたけれど、裸のままの霊夢に抱きしめられていたことだけははっきりと憶えている。  私が霊夢を抱きしめ返すと霊夢は少しむずかるけど、私を余計に強く抱きしめてくれた。  霊夢の肩が布団から出ていたので、私は布団の位置を直して、霊夢の胸に顔を当てる。  霊夢の心音を聞きながら、再び夢の世界に落ちていく。  霊夢の鼓動が聞こえる。  目を覚ますと霊夢がいなかった。  ちょっと涙が出そうになるが、自分の手の平を抓ってそれに耐える。  寝起きに情緒不安定なんて、私は子供か。  それから私は自分の体を見渡す。 「うわぁ」  思わず声を出してしまうくらい、私の全身は霊夢に付けられたキスマークだらけだった。  こんなところまで……。  しかも昨晩の記憶にないところまで、なぜかキスマークがついている。  内股のとても際どい場所にまで。  私が気を失った後も、霊夢は私の体を弄り続けたってことか。  想像して顔から炎が出そうになる。  意識を失った私は霊夢にどんなことまでされてしまったんだろう。  それにしても霊夢以外には絶対見せられない有様だ。霊夢以外に見せるつもりはないけどな。  特に肩には霊夢に噛まれた歯型がはっきりついている。  霊夢が昨晩、吸血鬼になりたいと冗談めかして言っていたのを思い出して、あながち冗談ではないのかもしれないとか思ってしまう。  外から襖越しに箒の音が聞こえてくる。  もちろん箒が空を飛ぶ音ではなく、箒で掃くという邪道な使い道から来る音だ。  周りに私の服が見当たらないので、私は仕方なく毛布を体に巻きつける。  肌蹴けたりしないように念入りに確認して、縁側を閉ざしていた襖を開く。  朝の陽光に一瞬目がくらむ。  そして目が慣れてくると、境内にいつも通りの霊夢の姿があった。  私の箒でなく、神社の箒で参道のごみをかき集めている。  私はその霊夢がまぶしかった。  今の光景だけ切り取れば、ちょっと変わった巫女服を着た綺麗な巫女だ。  私にあれだけキスマークを付けた人物と同一なのか疑いを持つほどに。 「魔理沙、良く眠れたかしら」  霊夢は私に背を向けたまま、そんな朝の挨拶をしてくる。 「ああ、おかげさまでな」 「私の付けてあげたキスマークはまだ残ってるでしょ」 「ば、ばかっ」  いつ何時魑魅魍魎が来るかどうか分からないこの神社で何を言うんだ。  隠し事はできないやつらばかりだけど、それでも最小限の恥じらいとかさ、な。 「その様子だとまだちゃんと残ってるみたいね、良かったわ」 「そりゃ、あれだけ、さ、その念入りにされたら……」  全身に付いたキスマークが、全て今でも霊夢に吸われているような気がしてくる。  ちょっと体が疼きそう……。 「ホントはもっと付けてあげたかったんだけどね。魔理沙がどこかに行っちゃわないようにね」  霊夢は私に背を向けたまま、とんでもないことを言う。  何を言ってるんだ? 私がどこにもいけないように? 「ほら、あんたってすぐどっかにとんでっちゃうじゃない。紅魔館とかアリスのところとか、地霊殿とかいろいろ」 「まあな」  私は霊夢に聞こえない程度の返事をする。  多分私の返事が聞こえてなくても霊夢の台詞は変わらない、そんな気がする。 「それでふらりとうちに来るじゃない、燐みたいに。  でもその、何かしら、照れくさいわね。  えっとね、どこかに行っちゃうのは仕方ないと思うわ。  でもホントは嫌だから、そんなにキスマークつけてあげたんだけど」  霊夢は本当に何を言ってるんだ?  まるで霊夢は……。 「だからね。どっか行くのはいいけど、もっとうちに来てほしいっていうか……、どこかに行かないで欲しいというか……。  その一緒に暮らしちゃった方がいいんじゃないかなって思うわけよ。ね、その方がお互いに良いでしょ!」  へたり込む。  素肌に朝の冷気に晒された縁側の床が冷たい。 「もし、魔理沙が嫌だったら、ごめん今日はそのまま帰ってくれるかしら。  私ちょっと人に見せられる顔じゃなくなっちゃうと思うから。  あ、魔理沙の服は脱衣所よ。洗濯はしてないからいつでも着れるわよ」  私はぐらぐらする頭で霊夢を見る。  霊夢の肩が震えているってことに私は今更気付く。  なあ、霊夢、何か昨日から世話かけっぱなしだな。 「霊夢……」 「何よ、魔理沙」 「朝飯は何にする?」 「魔理沙が作るんなら何でも良いわね。でもそうね、肉じゃが以外かしら」 「分かった、魔理沙さんが精根こめて肉じゃが作ってやるよ。だから今日の晩飯は霊夢に作ってもらうぜ。  今度は肉じゃがカレー以外にしろよな」 「分かってるわよ、馬鹿魔理沙……。明日の朝ご飯も魔理沙が作るのよ!」 「ねえ、魔理沙ーー」  ちょっと意外だった。 「魔理沙たらー」  霊夢がここまで……。 「魔理沙」  ここまで霊夢が甘えてくるとは思わなかった。  私は体にまとわり付いてくる霊夢を、適当に相手しながら魔術書を読む。  一緒に暮らすようになって、自分の時間が減るのは覚悟していたけれどこれほどとは思っていなかった。  畳に寝転んで魔術書を読んでると、霊夢がのしかかって来る。  以前までの態度と全然違うな。でもツンデレイムとは違うよな、なんだろう。  って霊夢、噛むなよ。まさかヤンデレイムか。  霊夢に耳を噛まれた。もちろん甘噛みだけど、昼間から変な気分になりそうになるから止めて欲しいんだけどな。 「いいじゃない、魔理沙。弾幕ごっこに負けたんだから文句は言っちゃ駄目よ」 「それで『魔理沙の好きなことをしていい』って言ったのはお前だろうが」 「そこで『私がしたいのは、霊夢と一緒にいることだよ』って言うのが魔理沙でしょう」 「一体私はどんなキャラなんだ、お前の脳内で。霊夢、だんだんレミリア病に犯されていないか」 「あら、私のことお嬢様って言ってるのかしら」 「はいはい、霊夢お嬢様」 「あら、よろしい。まずはこれにサインをしてもらうわ」 「なんでございましょう、お嬢様、雇用契約書でございますか?」  私はその紙切れを確認する。  婚 姻 届 「ちょっと待て。  なあ、しかもなんで霊夢の欄は記入も捺印も終わってるんだよ。  親指に無理矢理朱肉を近づけるな。  おいおい、ちょっと待て、話せば分かる。  なあ、霊夢。  まだ早いだろ。  ……  い、い、い、いや、早いってのは言葉の綾でな。  そんな期待に満ちた目で見つめないでくれ。  別に近いうちにとか、そういうわけじゃ。  そう、そうだ、ちょっと前の家に忘れ物を思い出したから、ちょっくら戻るぜ。  って、何でお前まで箒に乗るんだよ」  まあ、いいか。 「ほら、じゃ、振り落とされないようにな。飛ばしていくぜ。霊夢、ちゃんとつかまってろよ」