作品集11「教えて欲しい」の続編となりますが、単体でも楽しめるかと思います。 「早苗ー、お団子食べないの?」  はあ、みたらし団子のたれを唇に付けたままお団子を次々と頬張る小傘さん、何度見ても飽きることがないです。 「ねえ、早苗ー、食べちゃっていいの? おいしいのに」  鈴の鳴るような声で、何か言ってますけれどその意味は脳には伝わってきません。  私に喋りかけてるのに視線はお団子から外さないんですから。そんな小傘さんの様子を一瞬でも見逃すわけにはいかないのです。 「ねー、ねー、本当に食べちゃうよ? 早苗、ここのお団子大好きだから連れてきてくれたんだよね。  早苗まだ一本も食べてないじゃない。私が全部食べちゃうよ」  小傘さんが最後の一本を口に運ぼうとしています。  なんて幸せそうな顔なんでしょう。  え、最後の一本?  お皿に盛ってあったお団子、確か六本頼んだはず。それなのに、皿の上にあるのは身軽になった串が五本。  小傘さんの口元を見ると、あの絶妙なあまじょっぱいタレのついた四つの白玉が小傘さんの可愛い口に飛びこもうとしています。あんなに可愛い口元、美味しいものへの期待に溢れた口、そして顔……。  違います。今の問題はお団子です。 「こ、小傘さん、人のお団子を勝手に食べるなんて!」 「だって、早苗全然食べないし、食べないのって聞いても返事もしてくれないんだもん」 「ええい、知りません。さあ、返してください。お金を払ったのは私ですよ」 「お金って言っても神社の御賽銭じゃない。ふふふ、昨日、私お賽銭入れたんだから、少しは私のもののはずよ」 「ぐぬぬ、口答えするなんて悪い妖怪です。そんな屁理屈は知りません、さあ返してもらいましょう」 「いや」  あ、白玉が一個小傘さんの可愛い口の中に。 「か、返しなさいっ」  小傘さんの手から残った白玉三つを串ごと救出しました。残りの救出すべき白玉は一個。 「さあ、小傘さん、返してもらいましょうか」 「んっ、ちょ、んっ、さ、早苗……」  口から直接回収させてもらいます。魔理沙さんであれば、回収できる範囲が広いのでしょうが、私では狭いのでこうやって直接…… 「さ、早苗……」 「小傘さん……」 「茶屋で何いちゃついてるのよ」  だからって玉串で頭を殴らなくてもいいじゃありませんか。 「何するんですか、霊夢さん」 「何って妖怪退治?」 「疑問形ですか。しかも私は妖怪ではなく」 「巫女?」 「風祝です!」 「大通りの茶屋の縁台で妖怪と乳繰り合っている風祝なんて妖怪と一緒よ」 「だ、誰が乳繰り合ってる……」 「どう見ても接吻しようとしてたじゃない」 「いや、あれは小傘さんからお団子を取り返そうと」 「あら、お団子ねえ」  霊夢さんがにやにやと私の手を見ています。  最後の一串を持っていたはずの手、そして妙に軽くなった串です。 「早苗、ご馳走様」  咀嚼しながら、満面の笑みを浮かべる小傘さん、今すぐ抱きしめたいくらい可愛いです、って違います。 「こーがーさーさーん、どうやら妖怪退治の時間の様ですよ」団子の六串、二十四個の仇が目の前にいるのです。 「ひっ、れ、霊夢、助けてっ」 「妖怪が巫女に助けを求めないの。あんたに妖怪としての矜持はないのかしら」 「今日日、そんな矜持でご飯は食べられないのよ」 「霊夢さん、そこをどいてください。お団子の恨み、晴らさずにおくべきか」 「はあ、全く。ちょいと、お姉さん。団子六本お願い。ほら早苗も小傘も座りなさいな」 「霊夢さんに奢ってもらうなんて、明日は雨でしょうか」 「それなら私の出番だね」 「あんたの趣味の悪い傘なら私はごめんよ。それと早苗、お団子没収ね」 「しくしく」「もう食べちゃいました」  霊夢さんに奢ってもらうだなんて、本当に初めてです。槍でも降らないといいのですが。 「ねえ、早苗。まだ失礼なこと考えてるでしょ」 「ソンナコトナイデスヨ」 「霊夢、ごちそうさま、ありがとう!」  小傘さんが満面の笑みで霊夢にお礼を言っています。  あ、霊夢さんが小傘さんの頭を撫でてます。ぐぬ、小傘さんもまんざらじゃなさそうですし。  それを見ていると、霊夢さんに鼻で笑われました。 「小傘さんは返してもらいますよ」小傘さんを抱き締めるように、悪い巫女から奪い返します。 「ちょ、早苗、苦しい……」 「ふーん」  霊夢さんがにやにやと笑っています。何かやたらと、にやにやと笑われる日です。 「巫女――分かったからそんな目しないで――風祝が昼間っから人里で妖怪とデートだなんて、羨ましい御身分よね」 「な、デートだなんて!」 「でーと? でーとって何?」  霊夢さんがお茶を飲みながら、とんでもないことを言ってくれます。小傘さんは小傘さんで、そんな純粋な目で霊夢さんに目で問いかけないでください。小傘さんの目が穢れます。 「早苗、あんたまた失礼なことを……。まあ、いいわ。  いいこと、小傘、デートってのはね、好き合っている男女、いや好き合っている同士であちこち出掛けたり、ごはん食べたり、さっきのあんた達みたいに乳繰り合うことよ」 「好き合っている同士……」  ああ、小傘さんの顔が真っ赤に。私も恥ずかしいですけど、霊夢さんグッジョブです。小傘さんを照れさせるなんて。  で、でも私も恥ずかしいですよ。 「レ、レイムサンハドウシテコチラニ?」とりあえず無理矢理話題を転換します。 「ん、デートよ」 「さ、早苗は霊夢には渡さないんだから」 「こ、小傘さん! そんな人前で宣言しなくても」 「ぷっ。小傘から、早苗を奪うだなんて無理な話よ。ねえ、早苗、そうでしょ」 「そのにやにや笑い止めてください」ええ、確かに無理でしょうけど。  霊夢さんのにやにや笑いを止めさせようと、私は御幣を取り出した時でした。 「おう。何、人前でいちゃいちゃしてるんだ?」割り込むような人影。  ざっと箒から飛び降りて私達の前に現われたのは魔理沙さんでした。 「遅いわよ。約束何時だと思ってるの。お陰で早苗と小傘で時間を潰す羽目になっちゃったじゃないの」私達は暇つぶしの道具ですか。 「悪い、悪い。昨晩実験を遅くまでやっててな」  魔理沙さんが悪びれない笑顔で霊夢さんに謝ってます。霊夢さんも溜息をつきながらも笑ってます。いい関係ですよね、二人とも。 「ねえ、魔理沙?」小傘さんが魔理沙さんの袖を引っ張ります。 「なんだ、小傘。今日も早苗と一緒か、仲がいいなあ」 「魔理沙、もしかして霊夢とデート? デートって好き合っている同士でやるんでしょ。つまり霊夢と魔理沙は好き合っているってこと?」  小傘さん、そんな無垢な顔でそんな事を聞かないでください。魔理沙さんが楽しい事になってるじゃありませんか。  私は吹き出しそうになるのを我慢しながら、魔理沙さんを見つめます。霊夢さんも私と同じ表情してますね。 「い、い、いや。何を言ってるんだ、よ、わよ、小傘。好き合ってるだなんて、そんな軽々に言うことじゃないんだぜ?  こういうことはな、秘めているからいいんであって、ほら、それが美徳ってやつだ。  うん、幻想郷的にはそれが普通なんだよ、べらべら喋る奴は風紀を乱しているんだ。  この魔理沙さんはそんな破廉恥な真似は出来ないぜ。  そ、それに、デートだなんて、その恥ずかしいじゃないか。な、霊夢」 「あら、魔理沙、私のこと嫌いなの?」 「いややややややや、そんなことないぜ、大好きなんだ。てっ!」 「ありがと、魔理沙」あ、霊夢さん嬉しそう。 「霊夢も魔理沙も好き合ってるんだね」小傘さんの一言に、楽しいくらい魔理沙さんの顔が赤く染まりました。茹蛸は幻想郷ではなかなか見れないので、他人に伝えにくいのですが。 「ば、馬鹿言うな、誰がこんなやつ」 「ふふふ、そうよ、好き合ってるわよ。さ、魔理沙、デートに行きましょうか」 「小傘、早苗、本当だからな。霊夢だなんて大嫌い、だからなぁ」  ドップラー効果と共に、霊夢さんに引き摺られて魔理沙さんが遠くへ行ってしまいました。とりあえず小傘さんと一緒に手を振って見送りましょう。  魔理沙さんも、霊夢さんも、別々な意味で頑張ってくださいね。 「今日のデート楽しかったね」 「ふふふ、そうですね」  二人で手を繋いだまま、鳥居をくぐります。玄関よりも鳥居をくぐった時に、帰ってきたと思うのは鳥居の時点でお二人の神威を感じてしまうからでしょうか。今日は感じませんが。  小傘さんと手水舎で清めてから、母屋に入ります。妖怪である小傘さんを清めてしまうのも、変な話ですが。 「早苗、何笑ってるの?」「何でもありませんよ」  小傘さんの手水でわずかに冷えた手を握り、玄関をくぐりました。  ********************************  早苗へ  宴会に行って来る  晩御飯は適宜取ること  ダイエットとか言って食事を抜くのは逆効果  神様が言うのだから間違いない              神奈子              ケロちゃん  ********************************  そんなフランクな書置きが今のテーブルに残されていました。 「どうしたの?」小傘さんが書置きを覗きこんできますので、「今日は二人で晩御飯ですよ」と言うと、小傘さんは嬉しいのか悲しいのか、複雑に入り混じった表情をしてくれます。  四人で食事をするのは楽しいみたいなので、二人きりは寂しいのでしょう。けれど同時に嬉しいからこんな表情になっているのが、手に取るように分かります。  人間なんかよりよほど裏表のない表情の変化に思わず笑いそうになってしまいます。 「さ、せっかくですから、一緒に料理をしましょうか」 「うんっ! 今日こそは早苗に美味しいって言わせるよ」  小傘さんが作ったものなら何でも美味しいですよ、そう毎回言ってるのですけどね。 「食後のお茶が入りましたよ」  小傘さんは私の部屋の中できょろきょろといろいろ見渡していました。何度も来ているはずなのですが飽きないものなんですね。 「ちょうだい」  ベッドに腰かけた小傘さんに湯のみを手渡します。 「あちち」小傘さんはそう言いながらもおいしそうにお茶を啜っています。小傘さんの笑顔を御茶うけに私もお茶を啜ることにしましょう。 「ね、早苗。あれ、何?」  小傘さんが指さしたのは私の机、そしてその上に置いてあったのは目玉付きの無骨な銀色の塊でした。 「ああ、これですか? これはですね、デジタルカメラ、通称デジカメって言うんですよ。外の世界のものですよ。あの、天狗の人たちが持ってるカメラの従兄弟ですよ」 「ふーん……、天狗のことは良く知らないから」  デジカメを手に取り、興味深そうにデジカメを見つめている小傘さんをファインダーに入れて……。  シャッター音。 「ひゃっ、な、何したの、早苗」小傘さんがシャッター音にびっくりしています。カメラを知らないのであれば、シャッター音なんて聞いたことがないでしょうし。 「驚き過ぎですよ。はい、これを見てください」小傘さんに液晶が見えるようにデジカメを差し出します。 「これ、もしかして、私?」小傘さん、そこに自分が写っていることに半信半疑です。ならばその疑いを晴らして見せましょう。 「そうですよ、ほらちょっとこっち寄ってください」「きゃっ」  小傘さんの肩を抱いてできるだけ距離をなくします。そしてシャッター。  液晶で写りを確認して、小傘さんにもう一度見せてあげます。 「わ、早苗と私、一緒に写ってる」 「写真、って言うんですよ。プリンタとかあれば印刷ができるんでしょうけど、ウチにはないんですよね。にとりさんか、八雲さんにでも相談しようと思っていたのですが」 「ねえねえ、これってどう言う原理?」 「げ、原理ですか……」小傘さん、そんな目を輝かせないでください。原理なんてブラックボックスになっていて知らないんですから。 「こ、これはですね、写した対象の魂を抜き取って映し出すんですよ」小傘さんなら信じてくれますかね。明治の人みたいなものですし。 「……、これからはそんな霊力は感じないんだけど、本当?」 「……、……、ごめんなさい。よく知らないんです」  小傘さんに看破されるだなんて、ちょっと自信なくなってしまいました。 「でも、原理が分からなくても、これで人間脅かせないかな。魂を吸い取るとか言って」小傘さんがまた目を輝かせて提案してきますが、無理でしょうね。 「さっきも言いましたが、天狗がカメラを使いますからね。珍しいものではあるんでしょうけど、驚かすにはちょっと足りないんじゃないかと」 「ふーん、残念。せっかくいいアイデアだと思ったのに」 「人の驚かせ方はともかく、『小傘さん撮影会』でもしましょうか」 「どうしてそこでさでずむな表情するの?」  小傘さんが一歩後ずさりますが、私も一歩進むだけです。逃がしませんよ、小傘さん。 「この服可愛いねー」 「小傘さんは何を着ても似合いますね。そう、そこでこっちを振り返って」  今小傘さんが着ているのは昔私が着ていた風祝の衣装です。その前に着せた私の中学生のセーラー服も似合っていましたが、風祝の衣装も甲乙付けがたいです。 「早苗とおそろい」そんなこと言いながら、くるくる回らないでください。いろいろなものが迸りそうになるじゃないですか。  私はそのいろいろなものをシャッターにこめて、小傘さんの姿をデジカメに写し取っていきます。  いくら、何時ものスカートより長いとはいえ、そんなに動いたら見えちゃいますよ。いや、動くな、と言うつもりはないのですが。  もうメモリーが半分使ってしまいました。電池はにとりさんにもらったものがあるとは言え、パソコンがない環境では、メモリーは死活問題です。  にとりさんか八雲さんに相談するのは明日にしましょう。  そんな算段をしていると、いつの間にか小傘さんが私の手元を覗き込んでいました。 「早苗、私も早苗の写真撮りたいな。私ばっかりとってもらっちゃ、早苗もつまらないでしょ」 「そんなことはありませんが……」本心でそう思っているのですが、好奇心で破裂しそうな小傘さんの表情を見ていると、とても拒否できるわけがありませんでした。本能的に。  教えると言っても、教えなければならないのはシャッターとズームと画像表示くらいのもの。いくら文明の利器に余り触れたことない小傘さんと言えど飲み込みは早いものです。他意はないのですが、付喪神として仲間である道具とは相性がいいのかもしれません。 「ほら、早苗ポーズとってー」 「は、はい、こうですか?」 「早苗、表情が硬いよ、もっと自然に」 「に、にこ」 「口で言ってもしょうがないのに。ほらもっとしなを作って」  こんなに写真を撮られるのは、外の世界で初めて制服を着たときに、八坂様に写真を半日撮られ続けた時以来かもしれません。 「早苗はこのデジカメでも可愛いよね」そんな事を突然言ってしまう小傘さんに、私の心臓が一拍余計に動きます。  そんな台詞の後にレンズを向けられると恥ずかしいです。 「たくさん撮ってあげたよ」 「はぁ、疲れました。小傘さん、天狗に代って写真を撮るようになれば、みんなびっくりしてくれますよ。唐傘なのにって」 「それって、インパクトに掛ける気がする」 「あは、そうかもしれませんね。少し休憩しましょうか?」  私の提案にも関わらず、小傘さんはデジカメの各所を興味深そうに眺めています。 「ねえ、早苗、この『デジカメ』って教えてもらった以外にもいろいろボタンがあるよね」 「そうですね、私も全部使いこなしているわけではありませんが、例えばそのボタンを押してシャッターを押すと、フラッシュがた……」 「ふら? えっ、きゃっ」  フラッシュの光が奔りました。  そもそもフラッシュが何なのか分からなかったのでしょう、小傘さんがデジカメを取り落として、しかも…… 「いたた、また早苗にびっくりさせられちゃった」  お尻を畳に打ち付けて痛がっていました。 「あの……小傘さん?」 「酷いよ、早苗。デジカメから弾幕が出るだなんて聞いてない……」  余程驚いたのでしょう。私の衣装を着た小傘さんのスカートが、はしたないことに捲れ上がってしまっています。お陰でというか、なんというか小傘さんの下着が、可愛い水玉の下着が私の目にも露わになってしまっていました。  スカートから覗く小傘さんの下着。小傘さんはお尻を打ったせいか涙目で、しかも私を上目遣いで見てくるのです。 「誘っているんですね」そうとしか思えません。 「な、何を言ってるの、早苗」 「小傘さんが可愛いからいけないんですよ。そんな私の服を着て、その上、下着を見せるだなんて」 「これは早苗が着せた……、んっ」  小傘さんの小さい柔らかい唇。小傘さんが目を瞑ってくれましたので、私の目を瞑って、唇だけで小傘さんの感触を味わうことにしましょう。  私と小傘さんが互いに唇を吸う高く短い音、その音がするたびに唇が少し離れて、すぐにまた吸い付きます。  小傘さんの上唇を噛むと、小傘さんの鼻を抜けるような「んっ」という声が聞こえてくるのです。それだけの短い声なのに、下手な嬌声より私にとって破壊力が大きいものでした。  小さな身体で私の愛撫を受け入れてくれる小傘さんの、戸惑いと許容の入り混じったその声、幻想郷であっても女性同士が決して推奨されたものでないのは私も小傘さんも分かっています。  そうであっても小傘さんは私が小傘さんを愛撫するたびにそれを受け入れてくれる意思表示のように声を出してくれるのです。  だから私は小傘さんが本当に嫌がることはしません。でも少しくらいなら、そんな悪魔の誘惑を振り切るのは日常になっていますが。  小傘さんを抱き締めると、腕の中に小さな身体がすっぽりと入ってしまいます。 「早苗……」  私の名前を呼ぶ小傘さんは、目をつぶって私を見上げる体勢です。おねだり、ですか。  私は敢えて、小傘さんの唇ではなく、おでこにキスをしてあげます。  小傘さんの表情を見てみると、不満そうなでも満更でもないと言った感じです。  もし不満そうな表情なら、もっと焦らしてあげようと思ったところですが、及第点ですよ、小傘さん。  小傘さんの唇に再度キスをしてあげます。  小傘さん、キスだけでそんな嬉しそうな表情しないでください、私我慢できなくなっちゃいますよ。  そう小傘さんに言うと、小傘さんははにかみながら、早苗ならいいよ、って言ってくれたんです。  次の瞬間、私の体の下には小傘さんの身体。押し倒すつもりなんてなかったんですが、小傘さんの台詞が悪いのです。 「や、早苗、服着たままなんて恥ずかしい。それにそんな触り方だなんて」  小傘さんの服は、昔の私の服。そしてブラはもちろんサラシすら着けさせなかった私の判断に万歳です。おかげでこうして小傘さんのなだらかな胸を簡単に触れるのです。  でも、今度は腋から手を入れて、小傘さんのブラやサラシを外すのもいいですね。でも、それならまずは小傘さんにブラを買ってあげないといけません。  ふふふ、今度一緒に人里に行きましょうね、そして私が選んであげますよ。着け方も私が手ずから教えてあげましょう。 「う、うん。早苗と一緒ならいいよ」 「あら、口に出てましたか?」 「うん、私も早苗に選んで欲しいし。早苗が可愛いって思うのが欲しいかな」 「胸を揉まれながらそんな可愛いこと言わないでください。小傘さん、貴方に似合うブラを選んであげますね」  首筋にキスをしながら小傘さんの小さな乳首が硬くなってくるのを楽しみます。  まるで私への期待を乳首への硬さで表しているみたいで、私としてはここで止める気にはなれません。それは小傘さんも一緒なようで、私の服の裾を握って私の愛撫に耐えている、いや受け入れてくれています。 「小傘さん、いいですか?」もう限界です。小傘さんに確認して先に進めましょう。 「いいよ、痛くしないでね」 「もちろんですよ、でも痛かったら言ってくださいよ。その分気持ちよくしてあげますからね」 「うん、でも早苗にだったら少しくらい痛くても……いいかな」そんな事を笑いながら言わないでください。 「ちょ、ちょっと、早苗、本当に痛いって。苦しいっ」  それは苦しいでしょう、全力で抱き締めているんですから。 「痛くてもいいんでしょう?」 「うぅ、早苗がさでずむになっちゃった」 「小傘さんがいけないんですよ」小傘さんの耳たぶを強めに噛み付くと、その柔らかい歯ごたえが、私の歯を押し返してきます。  食べちゃいたいですよ。 「や、巫女が妖怪食べちゃ駄目じゃない!」 「風祝だからいいんですよ」そう言いながら小傘さんのスカートの中に指を潜らせて、目的地にたどり着かせます。 「それに小傘さんだって、期待してるじゃないですか」  私の指先には、小傘さんの期待を示す湿り気、それに対して小傘さんはノーコメントでした。  けれど表情で丸分かりなんですけどね。  小傘さんが震えている手で私の袖を握り締めくるので、小傘さんの頬にキスをして少しでも不安を和らげてあげます。  それでも小傘さんが不安に思うのも仕方ないのかもしれません。  何せ私が持ち出したのは、御幣なのですから。 「早苗、退治しないで……」 「ああ、もう、退治なんてするわけないじゃないですか! もったいないですよ、小傘さんを退治してしまうだなんて」 「それじゃ、その……、御幣だっけ? どうするつもりなの?」 「どうするって、小傘さんに気持ちよくなってもらうだけですよ」  私の台詞に想像以上に小傘さんが怯えています。  そんな酷いことをするつもりはないのですが。  ……  …………  ……………… 「もしかして……、初めての『痛み』が怖いんですか?」私の質問に小傘はゆっくりと頷きます。  どうやら私と小傘さんの間には御幣の使い方への認識に齟齬があったようです。 「小傘さんの初めてをもらうなら、御幣なんか使いませんよ。私が直接もらってあげます」  私の言葉に小傘さんは、今度は顔を真っ赤にして頷きます。  小傘さんが初めて、いえ、体を交えるのは初めてではないのですが、処女はまだもらっていないのです。そして私もまだ小傘さんにあげてはいないのですが。  そう、それは…… 「それはまた今度、小傘さんと私が良い、と思った時にしましょう」そう決めているのです。二人が良いと思えるときが来ると思うんです。「だから今日は……」 「じゃあ、どう、するの?」  こうするんですよ。  私は返事の代りに、御幣の木の部分、幣串を小傘さんのあそこに擦り付けたのです。 「ひゃ、さ、早苗……」 「ほら怖がらなくていいですから、私に全部任せて、小傘さんは思う存分感じちゃってください」 「んっ、やぁ。そんなことに使っちゃ駄目だよ」 「そんな気持ちよさそうな声を出しながら言っても説得力ないですよ。  ほら、小傘さん、下着の上からなのに。こんなに下着ごと濡らしちゃって、御幣が気持ちいいんですよね」 「や、だって、そんな硬いもの、んっ、そんなに押し付けられたら」 「ほら、こんな風に押し付けたら、どうなんですか?」 「やぁ、早苗がさでずむ過ぎる……」  小傘さん、知ってますか。可愛いことは罪なんですよ、だから小傘さんはそれを償うんです、私に。  小傘さんの目にキスをして、小傘さんの瞳からこぼれた涙を掬い取ると、口の中に小傘さんの塩味が広がりました。  目だけではなく、首筋や、耳、うなじ、二の腕、いろんな所にキスをしちゃいます。  その間ずっと、小傘さんは御幣の刺激に耐えていました。  私は小傘さんの服のボタンを外して、腋から覗くだけだった小傘さんの可愛い胸を晒しちゃいました。 「や、早苗、見ないで……」 「駄目です。小傘さんの胸、可愛くて大好きですよ」 「早苗みたいに大きくないのに……」  それがいいんじゃないですか、と言ったら変態さんですね。 「小傘さんの胸だから大好きなんですよ。ほらこんなにぷっくりしてて」 「んっ、や、舐めちゃ駄目……」  小傘さんの息が大分荒く、瞳も潤んで、私を熱く見つめてきます。小傘さんの限界も近いんでしょう。 「小傘さん、いっちゃっていいですよ」 「やぁ、早苗……」 「ほら、小傘さんっ」  私は御幣を強く押し付けると共に、小傘さんの小さな乳首に歯を立てたのです。 「! ひゃ、ぁ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」  その声と共に、小傘さんは私の腕の中で体を震えさせて、達してしまったのです。  そして、小傘さんの下着越しに液体がこぼれ出るのを感じて焦ってしまいました。  初めは小傘さんが、その……粗相をしてしまったのかと思ったのですが違いました、臭いが違いました。これが噂に聞く、潮吹きというやつでしょうか。  直接見ることはできませんでしたが、見る機会はまたきっとあるに違いありません。  私はその小傘さんの「潮」で濡れてしまった御幣を諦めて、ぐったりとしている小傘さんを抱き締めることにしたのです。 「御幣も小傘さんので濡れちゃいました。これは作り直しですね」 「うー」  毛布を被って恥ずかしがっている小傘さんを毛布から取り出すのは大変でしたので、私も小傘さんと一緒の毛布に潜り込みました。  毛布を奪うのは嫌がりましたが、一緒に入るのは駄目じゃないみたいです。顔は合わせてくれないんですけどね。  でも意識がない間に服を全部脱がせて、体も拭いてしまったので、小傘さんの恥ずかしいところは全部見ちゃってます。だから私的には問題ありません。 「小傘さん、いい加減機嫌直して下さい」 「早苗がいろいろ酷いことするし」 「酷いことをしたつもりはないですよ。ただ小傘さんが可愛いので、止まらなくなっただけです」 「やっぱり今度は妖怪らしく、早苗を退治することにするね」 「じゃ、負けた方が相手を一日好きなようにできるという条件だったら受けますよ」 「うっ、むむむ……、それで……」  負けても勝っても、お互いに損しませんしね。小傘さんを後からぎゅっと抱き締めると、小傘さんが手を握ってくるので、私も握り返してあげます。  そんな風にまったりして、私がまどろんだ時でした。  突然のシャッター音に、一気に目が覚めたのです。 「へへへー、早苗びっくりした?」 「ええ、小傘さんに驚かされるなんて不覚です」  小傘さんが持っていたのは、あのデジカメでした。  楽しそうにデジカメをいじっている小傘さん、そしてその手の中のデジカメの液晶には、うつらうつらしている私と、その私の頬にキスをしている小傘さんの姿が写っていました。 「恥ずかしい写真撮らないでください」 「えー、こうして一緒に写ってるところ残したいのに」 「それじゃ、こうしましょうか」  私は小傘さんの手からデジカメを奪い取ります。 「あっ、早苗酷い!」そんな事を言う小傘さんの頬にキスを仕返しして、その瞬間の写真を撮ってあげました。 「さ、早苗、恥ずかしい写真撮らないで」 「これでお相子ですよ」  デジカメの電源を切って、小傘さんを抱きかかえたまま横になりす。もう眠気が限界なんです。 「お休み、早苗」 「おやすみなさい、小傘さん」  意識を失う直前、唇の温かい感覚があった気がしますが、その正体は分かりませんでした。  翌朝、朝御飯の準備をしていると、八坂様と洩矢様が帰ってきました。  このお二人に休肝日というものは存在しないでしょうか。  とりあえずお二人にはリクエストのお茶漬けをお出しして、私と小傘さんはご飯に味噌汁に目玉焼き、もちろん醤油です、という定番の朝食となりました。  小傘さんと人里に行くことへの承諾は頂きましたので、洗い物はさっさと済ませましょう。小傘さんのブラを買いにいくという用件は伏せましたが。  小傘さんと八坂様と洩矢様にも物怖じせずに一緒に遊ぶのが常になっていました。お二人とも面倒見が良いのでありがたいです。 「わあ、すごーい」  小傘さんの歓声が聞こえてきます。  また御柱ジoンガでも顕現させたのでしょうか。神徳は無制限ではないので、無駄遣いには気をつけて欲しいのですが。 「早苗、早苗見てー」  小傘さんが、一枚の紙を持って私に駆け寄ってきます。洗い物で手が濡れていなければ抱き締めたいところです。 「八坂様、本当に神様だったんだね、すごいよ」 「神様でないなら何だと言うのですか」  私は苦笑しながら、小傘さんの見せてくれた紙を眺めます。  そこに描かれていたのは、私の昔の服を着た小傘さんの姿。それは確かに昨日の光景、そして昨日撮ったデジカメの画像でした。 「念写って言うんだって。八坂様すごいね。  デジカメの話をしたらね、げんそう? うん、げんぞうできるから、貸してみなって言われたからお願いしたの。  そしたらほらこんなにはっきり写ってる。すごいね、八坂様、洩矢様!」  八坂様、そんな事出来たのですか。それならにとりさんに印刷を頼む必要はないですね。  そう思った時でした。にわかに昨晩の記憶がよみがえります。  背中に嫌な汗が流れます。小傘さんがデジカメを持っていないということはデジカメはまだお二人の手元にあるのでしょう。  確か最後の二枚の写真は……、毛布を被っているとは言え、裸で二人……  八坂様と洩矢様の悲鳴と絶叫が神社に響き渡り、そして…… 「いいかい、早苗。確かに若いうちは……」  正座で八坂様と洩矢様に叱られるなんて何年振りでしょう。  隣で同じく正座している小傘さんが可愛い、もとい楽しそうなのは正座で叱られるという体験をしたことがないからなのでしょう。  ここは私が一方的に責めを負うのは仕方ないのですが。  八坂様のお説教は十五分ほどでようやく終わりを迎えました。  私は深々と八坂様に謝罪の意味を込めて、頭を下げます。小傘さんも私の真似をして頭を下げてくれました。  そして次に私達の前に立つのは洩矢様です。 「大体の事は神奈子が言ったから私は繰り返さない」 「はい、申し訳ございませんでした」 「だから私から言うことは一つ」 「……」  洩矢様のお言葉を待ちます。 「大事なことだから一度しか言わないよ」 「はい……」 「避妊はちゃんとするように。昔、神奈子がちゃんと避妊しなかったから、早苗ができちゃ……」 「あ」 「へ」 「?」