3Sisters 「メルラン、風呂上りに服を着ろと何度言ったら」 「いいじゃない、姉さん。別に減るもんじゃないんだし、ちゃんとタオルで大事な部分は見えないようにしてるよ。さて風呂上りの牛乳、牛乳…」  メルランは氷室を漁る。どうやら仕舞って置いた牛乳を探すがどうも見つからないようだ。 「姉さん、全然、隠れてない。見えてる、見えすぎ!」  妹の抗議にもメルランは構わず、牛乳を求めて氷室を漁り続ける。いろいろと悩ましい部分が視界に入り、姉と妹の視線を泳がせる。当の本人はそんなことを気にする様子も見せず、氷室に頭を突っ込んで牛乳を探すが、そんな彼女を絶望に追いやったのは姉の非情な一言だった。 「あ、ごめん。さっき飲んじゃった。言うの忘れてた」 「姉さん!」 「いや、言うの忘れたわ。というか、目のやり場に困るからそんな格好で詰め寄らないで」 「そんなことはどうでもいいの。私の一日の一番の愉しみを奪っておいて」 「ほら他のものならあるよ、ほら、亡霊のお嬢様にもらった葡萄酒」  ルナサは手近にあった洋酒の瓶を手に取るが、メルランは目もくれない。 「姉さん、分かってない、風呂上りには牛乳でしょ!風呂上りには牛乳だって、道具屋の主人だって言ってたじゃない。第一、牛乳は…」 「だって、リリカ」 「……」  牛乳、牛乳と連呼するメルランを放置して、ルナサとリリカを顔を見合わせた。姉の反応がなくなったのを感じ取ったメルランが、再度姉に詰め寄る。 「姉さん、ぎゅーにゅー!」  メルランがそうルナサに詰め寄ると、揺れた。乳が。  ルナサは悲しくなった。  毎日毎日、妹に追いつこうと、妹の分の牛乳までこっそり飲んできたのに、この絶望的な戦力差。兎と亀ではないがこうして毎日、飲んでいれば追いつけるのではないと期待して早一年。メルランの真似をして牛乳飲み始めてそろそろ一年。きっと、気のせいだけど、メルランは更に脅威を増している。誤字ではない。むしろ、ゼノンのパラドックス?兎は永遠に亀に追いつけないの?ルナサの脳内に浮かぶのは絶望的な光景。先行してるのが兎で、追いかけてるのが亀なら、それは絶望的だ。兎は昼寝もせずに毎日せっせと牛乳を摂取している。それでもとルナサは思い直す、一日の摂取量はそんなに変わらない、むしろ今日はメルランの分まで飲んだんだから、一日分の差は埋めたはず。そう自分に言い聞かせようとしたルナサの目の前で跳ねる肉塊。自分の胸を見下ろすと、涙が出そうになった。  そんなルナサの思考を気にかけたのか、気にかけていないのかリリカがメルランに聞いてみる。多分、リリカが聞きたかっただけだったのだが。 「姉さん、大きくなった?」 「ん、何が?」  メルランは幼児の様に首を傾げた。 「胸」 「胸?」 「そう、胸」 「胸…」  リリカとルナサの視点がメルランの胸部で交差する。 「うっ」  さすがに恥ずかしくなったのか、メルランは腕で胸を隠すが、隠しきれないこと自体がリリカの質問の答えになってしまっていることにメルランは気づいていない。  しかもメルランは自分の視点で胸を隠すが、メルランより背の低いルナサとリリカの視点からだと、胸がメルランの腕で上から抑え付けられているように見えて、かえって立体的にその存在感を主張してしまっていた。  ルナサは思わず、唾を飲みこんで、一瞬間を置いてから口を開いた。 「で、大きくなったの?」 「ちょ、ちょっと、ルナサ姉さん、怖い、怖い。そんなに近づかないで…」  じりじりと後退するメルランと追い詰めるルナサ。 「や、やぁ…」  ルナサの手がメルランの手を掴むと、ルナサが頷く。するとメルランの腕に抑え付けられていた胸が自由落下運動を開始した。 「ちょ、ちょっとっ…」  メルランは、ルナサの腕を振りほどこうとすると、ルナサがリリカに視線を走らせた。  後ろに回りこんだリリカが、ルナサの目配せに応えるようにメルランの胸をわしづかみにする。 「うわっ、ルナサ姉さん、やっぱりメルラン姉さんの…大きくなってるよ」 「やっ、リリカ、やめてよ…」 「どのくらい大きくなってそう?」 「多分、一年前から比べて3センチは」 「……」  ルナサ、沈黙。やっぱり兎だった。永遠亭に売りつけようかしら、ルナサがそんなことを考えてると、リリカの調査が更に念入りに進行していた。 「リリカぁ…、もうやめ…あっ」  空気が凍った。  メルランの口から漏れた音は、ルナサの音コレクションでは『嬌声』、リリカの音コレクションだと『性的な意味で気持ちいい』で登録されている音だった。幻想郷の多数収録し、絶対音感を持つ二人では聞き間違いようがなかった。 「メ、メルラン…」 「ね、姉さん…」  二人の間でメルランが崩れ落ちるると、俯いたまま動かなくなってしまった。 「メルラン…」  ルナサがそう声を掛けると、メルランは上気した顔で二人を見上げるとまた俯いてしまった。  リリカがルナサを見つめる。メルランは俯いたままだ。  ルナサが意を決したように、しゃがみ込むがメルランはルナサには視線を合わせない。 「よっ」 「きゃっ」  メルランは一瞬どうなったのか分からず、数瞬の後、姉の腕の中にいることに気づいた。 「お姫様だっこだ…」  リリカが説明してくれた。ルナサがメルランをお姫様だっこしていた。  メルランとルナサの視線が絡みつくと、メルランは俯いてしまった。 「んー、リリカおいで」  ルナサはリリカをつれて、メルランを抱いたまま、寝室に消えていった。