「御姉さま、無様な姿ですね。冥夜の剣士と言いつつこうなってしまってはただの捕らわれのお姫様ですもの」  フレデグンドの足元には猿轡を噛ませられ、後ろ手に縛られた姉の体が転がっていた。  彼女は妹の姿を睨みつけている。その瞳には憎しみと、そしてこの状況であれば当然覚えるであろう恐怖が映し出されている。  クロデキルドは妹に何か言おうとするが、猿轡に阻まれて言葉になり損ねた呻き声がファラモン城の地下室に響き渡る。 「そうそう、ご安心ください。お姉様のお仲間はみな元気ですよ」  その妹の一言に、姉の負の感情のみ浮かんでいた相貌に、わずかな喜色が滲み出る。  それでもフレデグンドのクロデキルドをあざ笑うかのような笑みにクロデキルドは背筋を凍らせる。  妹の表情は彼女が今まで一度も見たことのないものであった。  フレデグンドはその凄惨な笑みを浮かべたまま、床に膝をついて姉の猿轡を外していく。  猿轡から解放されたクロデキルドが妹を叱ろうとするが、長時間の猿轡のためかむせてしまい、唾が石畳みに飛び散った。  フレデグンドはそんな姉の髪の毛をつかんで引き起こす。  クロデキルドはそんな扱いに声一つ上げず、フレデグンドを睨みつける。 「あら、お姉様。何か言いたいことがあるのではなくて」  先ほどまでの凄惨な笑みが一転、あの二人の世界が暗転する前を思い出させるような笑みを浮かべるフレデグンドにクロデキルドはゆっくりと口を開く。 「皆は本当に無事なんだろうな。もし今から彼らの体の傷一つ付けたら……」 「どうするのですか? 捕らわれのお姫様は」  憎らしげに妹を睨みつける姉にフレデグンドは余裕の笑みを浮かべる。 「そうですわね、幸いなことに捕虜は全て私の管轄下にあります。本部の方々も私にはそう強硬には迫ってこないでしょう。  もう例の城塞も制圧されたようですし、本部の司書の方々も何やら捕虜の皆さまから没収していったようですが。  大丈夫ですよ、一部手荒な真似をしようとした司書の方もいらっしゃいましたが、丁重にお引き取り頂きましたから。  分かりましたでしょう。もうお姉様の大切な方々は私の手の上にいるのですよ。胸先三寸ってやつですよ」 「つまり、お前次第ってことだな」 「そう、その通りです。お姉様らしい簡潔な言いようです。  ちなみに私を人質にとっても無駄ですよ。  私は名目上はファラモンの城主扱いですが、協会本部の方々にとっては手駒でしかありませんからね。  人質に取ったところでお姉様諸共、戮されて終わりですよ。そしてこうなることは決まっていた、で終息しますから。  旗頭のいなくなったアストラシアは協会に従うしかなくなるのです」 「じ、自分を人質に取るのか」 「あら、私の自慢のお姉様ですもの、この程度の逆境に屈することはないでしょうから。そう自慢のお姉様ですから」 「んっ?」  突然フレデグンドは姉の唇を奪った。  クロデキルドは妹の唇から逃れようとするが、手足を縛られ髪を掴まれたままの状態ではそれもままならない。眼をつむって、妹の接吻を受け入れるしかなかった。  そんな姉の姿をフレデグンドは楽しげに見ながら、果物を味わうように唇を貪った。  たっぷりと一分ほど姉の唇を味わい満足したのかフレデグンドは唇を離した。  姉妹の唇の間には唾液の橋が掛り、そして数瞬の後に切れ落ちる。 「な、何をするんだ……」  顔を赤らめながら妹に問いかけるが、彼女らしい威勢は完全に失われていた。  そんな姉の様子を楽しげに見つめながら、フレデグンドは姉の質問を黙殺して自分の質問をぶつけた。 「ねえ、お姉様初めてでしたか?」 「なっ、そ、そんなことは……」 「そんなことは?」 「……」 「ねえ、お姉様、お仲間の命綱を握っているのが誰だかお忘れですか?」 「は、初めてだ……」 「まあ、嬉しい。帝国の皇帝とやらに迫られているという話は協会にいても伝わってまいりましたし、剣士団でも反乱軍でも男共に囲まれていたでしょう。  心配だったのですよ、私の自慢のお姉様がそんな男共に奪われないかどうか。  ああ、でも私知っているんです、お姉様の唇が初めてでないことを」 「なっ、何を言う」 「だって、お姉様の初めては私ですもの。お姉様もしらないでしょうけど。  ほらお城の庭で子供の頃一緒に遊んでたじゃないですか。で、お姉様が寝ちゃったんですよ、その隙に頂いちゃいました。  自慢のお姉様、誰が人に渡すものですか。協会がお姉様の身柄を要求してきても渡したりしないから安心してください。  お姉様は私のもの、それはあのキスの時から決まっていることなんです」 「フ、フレデグンド……お前……」 「ねえ、お姉様の全てもらっちゃいますね」 「や、止めっ」  フレデグンドは姉の胸襟を開いていく。  後ろ手に縛られたままのクロデキルドは、自分の胸が妹の手によって露わにされていくのをただ見て、呻くことしかできなかった。 「お姉様の胸……綺麗です……。体は引き締まっているのに胸は柔らかそうです」  フレデグンドは姉の胸を恍惚の表情で見つめる。  フレデグンドの脳内には幼少のころから盗み見て来た姉の体が映し出されている。それでも姉の今の姿の衝撃にそれらの過去の残像はかき消されそうになる。  それほど姉の胸の姿形はフレデグンドに衝撃を与えた。  それはフレデグンドが常日頃姉の裸体を想像してしたものとまるで同一であった。  そんな妹の視線に晒されて、クロデキルドは羞恥心に顔を染めながら体を反らせるが、縛られたままではその視線から逃げ切ることもままならなかった。  フレデグンドは砂で作った楼閣を触るようにゆっくりと姉の胸に手を延ばした。  妹の手が自分の胸に触れた瞬間、クロデキルドはわずかに体を震わせる。  フレデグンドの手のひらに姉の乳房の弾力が伝わり、姉の胸の柔らかさにフレデグンドの体も打ち震える。 「お姉様の胸、やっぱり柔らかいです」  実の妹に胸をまさぐられているという状況に、クロデキルドは眩暈に似たものを覚えるが、それが一体何なのか本人には分からない。ただ体がじっとりと汗ばんでくるのを感じるだけだった。  フレデグンドが赤子の様に、クロデキルドの胸に吸いついて随分と経った。  初めは止めるようにと妹を諭そうとしたクロデキルドであったが、妹の脅迫じみた懇願に屈して妹の為すがままになっている。  元より拒否権などないことは分かっていた。  妹に、自らの乳首が固くなったことを指摘された時には、羞恥と屈辱でクロデキルドの脳内はいっぱいになっていたが、妹に胸を愛撫され続けていくうちに、クロデキルドに新たな感情が浮かんできていた。  自分の胸に吸いついている妹の頭を撫でたい。ここまで自らを求めている妹に対して、そんな気持ちが滲み出てくるようになっていた。  そんな姉の気持ちを知ってか知らずか、フレデグンドは姉の胸を味わい続ける。  白磁の様と自分で称した姉の胸に歯形を付けた時に姉の上げた苦痛の声に、フレデグンドは全身に快感が駆け巡るのを感じた。  あのお姉様が胸をかじられて、声を上げている、その声をもっと聞きたい  その欲望をフレデグンドは抑えつけるために姉の胸をしゃぶっていた。そうしなければ姉の肌に一生物の傷を残してしまう自分がいることに、フレデグンドは気づいていた。  フレデグンドが姉の胸を愛撫し続けていると、フレデグンドの耳に姉のかすかな声が飛び込んできていた。  フレデグンドが姉の顔を見ると、クロデキルドが気まずそうな顔をして天井を見ていた。フレデグンドにもクロデキルドがソレを誤魔化しているのに気付くのは簡単だった。 「お姉様、気持ちよくなってくれたんですね。さすが私のお姉様です、こんな状況でも私で感じてくれるなんて」  フレデグンドのその時の表情を姉が見ていてもその時の表情がどのような表情なのか分からなかったであろう。フレデグンドの顔には姉への称賛なのか嘲っているのか、蝋人形のような奇妙な表情をしていた。 「お姉様……、お姉様はこんな状況で妹に胸を弄られて気持ち良くなってしまうような変態だったのですか?」  先ほどまでの甘い胸への愛撫から一転、フレデグンドは再び姉の髪を乱暴に掴んで視線を逃がさないようにする。そんな妹に瞳に自分を縛る視えない鎖の存在をクロデキルドは感じざるえなかった。そして妹の問いにも答えることはできなかった。  偽りを述べたところで今の妹には看過されてしまうとクロデキルドは確信していた。そして本当のことを口に出すには姉としての最後のプライドが許さなかった。確かにクロデキルドは妹の愛撫でわずかながらも快感を感じていたのだった。  戦場に駆けるのであれば、そのようなことには気を掛けているべきではない、祖国を救うのが先決だ、とそのような感情を出来る限り圧し殺してきていた。それでもそのような気持ちが湧いて出てくることは何度もあった。  そして自らを慰め、その惨めさに、自分の弱さに涙を流してきていた。  だがそれは全て自ら行ったもの。まだこの城で、こんな悪夢を見るなど想像もしていなかったころ、侍女たちに更衣を任せることはあった、体を磨かせることもあった。クロデキルドは自分でやると言っていたのだが、周りの人間が許さなかった。人に肌を晒すのを恥ずかしいと感じる気持ちは摩耗し始めていた。  それでも他人にここまで体をまさぐられ快感を感じてしまう――しかも実の妹に――体験はクロデキルドにって、口に出すこともできないことだった。  フレデグンドの瞳を見て、クロデキルドは森で出会った肉食獣を思い出す。  しかも明らかに腹が満ちた、遊戯としての狩りを行おうとしている獣の眼ではなかった。 まさに水のみを何日もすすり、獲物には何回、何十回も逃げられてきた獣の眼をしていた。  もう自分を喰らうことしか考えていまい、とクロデキルドは覚悟していた。  それでもどこかクロデキルドは安心している部分もあった。物心付いたころからほとんど離れることなく育ってきた妹のことを、昔の妹と被らせて考えていた。この悪夢もいつか終わるであろうと。  姉は自分の問いに答えなかった、だからそれは肯定したのと同じだ、とフレデグンドは考えた。実際それは当たっているのであるが、そのことは自分でやったことであるのにフレデグンドの何かを打ち壊してしまった。  フレデグンドは姉の髪を掴んだまま、石畳に姉を引き倒した。  顔も胸も石畳に打ちつけられ、クロデキルドは一瞬視界が暗転する。それでも次の瞬間には妹を見据えた。 「な、何をする? クロデキルドッ」 「何って、それを言うのは私の方ですよ。お姉様は敵将に捕らわれているのです、言わば仇にです。  それなのにその仇に体を弄ばれて感じてしまったんですよ。浅ましいことに。  私の姉はそんな人じゃなかった。そうでしょう、お姉様はいつでも颯爽としていました。  大人と向かい合っても稽古で打ち据えられても、相手を見返す視線で切り結ぼうとしていたじゃありませんか。  私と稽古をして、稀に私が勝ってもお姉様は屈したような顔を一度も見たこと見せたことないです。  それなのに捕囚の辱めを受けている上に、敵将に体を許してあまつさえ声を上げてしまうなんて」  クロデキルドの顔は妹の手で石畳に圧し付けられ、細かい傷がクロデキルドの頬を傷つけていく。だが妹の独白に言葉を返すことはできない。妹に負けた自分に言い返せることはできない、とでも言うように。 「お姉様……、もうそんなお姉様は私のものです。もう逃がしません、また会えたら絶対離さないと決めていたんです。たからお姉様、証をもらいます」 「証?」  クロデキルドの怪訝な顔は一瞬で驚愕に変わる。フレデグンドが一閃したディバインエッジによって自分のズボンが一部切り取られていたのだった。  そこはまさに秘所であった。まだ下着はあるものの、フレデグンドに自分の秘所を見られているという事実にクロデキルドは激しく動揺する。この先を想像してしまったのだ。 「フレデグンド……、止め……」  クロデキルドらしくないか細い声をフレデグンドは笑い飛ばす。姉を抑えつけたまま、空いた手で破れたズボンを一気に破り取る。  顔を青く染めたクロデキルドはか細く、止めろ、止めろと繰り返すが、フレデグンドは気にも留めない。 「ねえ、お姉様の証もらいますね」  そう言いながら、フレデグンドはディバインエッジの柄に舌を這わせて湿らせていく。  その妹の様子から、クロデキルドは妹の意図を読み取り、体を震わせる。 「ま、まさか、それで……」 「そう、ですよ」  音がでるほど柄に舌を絡ませたフレデグンドは笑みを浮かべながら姉の顔を楽しそうに、嬉しそうに眺める。 「私、お姉様と同じで繋がることはできませんし、かと言って他の男共に手伝わせるなんて論外ですもの。  でも、幸いなことに剣に生きて来たお姉様にはちょうど釣り合うものがここにあるではありませんか。  ねえ、お姉様。お姉様もディバインエッジであれば本望でしょう。  そんな震えないでください、お姉様らしくない。もっと泰然としていてくれないと自慢のお姉様として他の人に紹介できないじゃないですか」  フレデグンドは姉の髪を掴んでいた手を離すが、すかさず腕を拘束している縄を握りしめる。  そして鞘に納めたディバインエッジを鍔で掴む。  フレデグンドの唾液で濡れた柄をクロデキルドの下着に潜らせていく。  クロデキルドは抵抗しようと体を動かそうとするが、結局は徒労に終わる。 「だめですよ、お姉様、そんなに暴れたら怪我じゃ済まなくなりますよ」  その脅しにクロデキルドは観念したかのように、暴れるのを止めて、妹の行為を待ち受ける。 「あら、もっと抵抗するかと思っていたのですけど、諦めが早いですね。  帝国まで身売りしにいったお姉様とも思えません。でも私のディバインエッジを受け入れてくるんですから、文句は言えませんね」  そう言いながらもフレデガルドは柄で姉の秘所をまさぐり、到達点を探していく。  フレデガルドの手が止まったところで、クロデキルドも唾を飲み込む。 「お姉様は私のもの、誰にも渡さない」  その言葉は姉に言ったのか、自分に言ったのか、フレデガルドも自分で分からなかった。  濡れていない秘所地に一気に柄が突き立てられると、クロデキルドは悲鳴を押し殺した悲鳴を口の端から漏らす。  ディバインエッジを飲み込んだ秘所をフレデガルドは恍惚の表情で見つめている。 「これでお姉様は私のもの、誰にも渡しません。  お姉様、デバインエッジの柄にお姉様の血がしみ込んでます。  これでディバインエッジもお姉様も私のものです。  ほら、お姉様のここ、こんなに私のものを飲み込んでます。  いいんですよ、お姉様、私がいつでも守ってあげますからお姉様はいつまでも私の自慢のお姉様でいてくれていいんです。  だから泣かないでください。ねえ、お姉様……」  協会の行く手を阻もうとする者たちの間で畏怖される存在は一角の鬼達だった。  そしてそこに二人の人間が加わった。  アストラシアの宝剣を振るう姫とその背中を護る姉。彼女達に逆らうものは協会の者であろうと切り伏せられた。  そう彼女らは共にあるもの、そう決まっているのだから。 「お姉様愛しています」 「私もよ」  今日も、十人の男が血の海に沈んでいる部屋で二人は口づけを交わした。