ボクが拾われたのは子猫の時で、ずっと彼女と一緒だった。本当に幸せな日々だったんだよ。
でもある日、彼女は家に帰ってこなかったんだ。数日して、黒い服を着た人たちが家に沢山やってきた。
ガサゴソと荷物を漁り、そのあとトラックとかもやってきて、ボクのベッドも彼女の服も部屋のものは全て持っていってしまった。
彼女がいなくなると、やがて知らないおじさんがこの部屋に住むようになった。
おじさんはボクの姿を見つけるたびに「あっちへ行け」とホウキを振り回す。ボクは行き場を失った。

この町で彼女を探し続けてもう半年。近頃は空腹でよく倒れそうになる。そんな時は決まって彼女を思い出した。
彼女はボクがご飯を食べているのをよくしゃがんで眺めていたっけ。「おいしい?」って聞くんだ。
一緒にお昼寝して、毛むくじゃらのおもちゃで遊んでくれて、抱きしめてくれて。
…どうしても彼女に会いたかったんだよ。それなのに、いくら探しても彼女とは会えなかった。
やっぱり神様なんかいないんだと思った。

彼女はもうこの町にはいないと、ボクは見切りをつけた。あの峠を越えて隣の町に行こう。ボクは車道に沿って坂を登る。
ある程度登ると住んでいた町が一望できた。
一瞬のことだった。夜景に見とれていたせいでボクは逃げ遅れ、車に右の手足をひかれてしまった。
痛みを感じなかったのは、あまりにも酷い傷だったからだと思う。そのまま横たわって街の明りを見つめた。
暖かい家の明り。幸せな家族。暖炉にいるのはぼくと同じくらいの猫だ。どれも、しあわせいっぱいの光。
近くにあって一番遠いモノだった。

ふと、ボクを呼ぶ懐かしい声がした。涙でぼやけた夜景を後に、彼女がボクに手をさしのべている。
…そっか。そうだったんだ。探すことなんてなかったんだ。君はいつだってボクのそばにいたんだね。
もぅ、一人にしないでね。