強大な敵を次々と駆逐し前に進むも、天下統一目前にして殿は病に倒れてしまう。
家を継いだ息子は父の遺産たる強大な騎馬隊を持ってその志を果たそうとするも、南蛮より渡来した新兵器
鉄砲によって打破され御家は滅亡した。この家の武将の一人が燃えさかる城より自分の娘を野に逃がす。
娘は父の傍を離れまいとこれを頑なに拒んだ。しかし、父はそれを諭す。
「必ずお前を迎えに行く。だから行くのだ!」
しかし、父親は迎えに来なかった。娘は身寄りもなく、物乞いとなり、野道で餓死する寸でのところを僧に助けられた。
やがて娘は、この町を訪れた行き掛かりの旅芸人の一座に加わる。そして、人形師となった。

語り手と共に人形師の娘は人形を生きいきと操る。民衆の殆どはこの悲しい人形劇を何度も見ているであろう。
結末を知るも、何度も足を運んでしまう魅力があった。

娘はたくさんの民衆を前に懸命に舞った。この中に父上がいるかも知れない。本当は生きいて私を探しているかも知れない。
やがて、娘は不治の病にかかる。しかし娘は、その病を隠し踊り続けた。生き別れた父親に会いたい一心で。
月夜の晩、娘は物音に目を覚ました。外に出てみると多くの傷ついた武者が並んで座っている。その中に、父親の姿があった。
「あやめ。踊りを見に来たぞ」皆が、優しい笑顔を向けた。娘は嬉し涙を堪えながら、皆の前で精一杯舞った。
翌朝、娘はしあわせそうな顔をして死んでいた。旅芸人の一座は彼女に手をあわせて言うのだった。
きっと、お父さんに会えたんだろうにね。

この人形劇は評判となり、一座は三河の殿様よりお声がかけられた。娘が御前に上がると殿様と数人の側近が座っている。
娘は言われるがままに人形劇を演じた。それを見て、殿様は言う。
「実に見事であった!が…わしの知っている話と、ちと違うな。この娘に本当の話を聞かせてやると良い」
一人の側近に命じて、殿様を含めた皆が退席してしまった。側近は、娘と一座に向かって話始めた。

「…娘の病であるが。これは次第によくなり、娘は元気を取り戻す。娘は諦めずに踊り続けるのだ。
 一方父親は、城を落ちた後、娘を散々に探すも見つけられず。父の旧主に尊敬を抱いていた徳川家に召抱えらた。
 やがて関ヶ原を経て世も落ち着き、父ももう諦めかけていた頃、下町で演じられている人形劇の内容にもしやと思い
 殿の計らいによって娘と父は…生きて再会するのだ。そして…親子はいつまでもしあわせに…」

その人は、言い終わらないうちに駆け寄り娘を強く抱きしめて言った。
「馬鹿者!自分の父を勝手に亡霊にする奴がどこにおる!」