1941年6月22日。ドイツは独ソ不可侵条約を破ってソ連領に進行。
ソ連はこの奇襲に対応出来ず一週間に4千もの戦闘機を失った。
急遽再編成された飛行連隊に約1200人の女性を採用。
その中に、後にドイツ空軍を震撼させたパイロット、リディヤ・リトヴァクという少女がいた。
リディヤは幼い時から大空に憧れていた。身長僅か5フィート(150p)で花を愛する町でも評判の美少女。
そんな彼女だが、天才的飛行技術で16歳にし単独飛行を許され、ドッグファイト(格闘戦演習)では男性教官を破っている。
そして、彼女は第586戦闘機連隊に正式な戦闘員として配属された。

彼女は隊のエース、サロマーテンと恋に落ちた。美男と美女のカップルで二人は部隊の超エリート。
誰もが二人を羨望の眼差しで見つめた。しかし、その幸せも長くは続かなかった。サロマーテンの戦死。
リディヤの親友や同僚、相談相手、上官たちが、彼女を必死で励ました。祖国のためにがんばろうと。
だが、そのやさしい人たちも、一人、また一人とリディヤの前から姿を消した。
戦争によって奪い、奪われて行く命。恋人のみならず、親しい人々まで失い続けるリディヤ。
わずか二年で、彼女は深い孤独に陥ってしまった。「私はここで、何をしているの?」もう一人の自分が問いかける。
彼女はそれを考えないようにするため、更に任務に没頭した。彼女はもう、他にどう生きて良いのかわからなくなっていた。

1943年8月1日。8機のメッサーシュミットに追尾されるリディアの戦闘機Yak-1。
この8機はリディヤ撃墜のために編成された特別部隊だった。
逃げるリディヤ。応戦しない彼女に仲間が無線で呼びかける。
リディヤ!撃て!撃つんだ!!しかし、彼女は撃てなくなっていた。
自分の失った大切な人々と同じだけの命が、敵機にも宿っている。
その事を理解してしまったかのかも知れない。
戦闘に置いては、人間性を取り戻した方が負ける。

「…私が馬鹿だった。軍人なんかに憧れて。
私が憧れた空は、澄み渡る青い空なの。
綺麗で、静かで、鳥がいて、美しい雲があって・・・」

彼女は独り言のように無線に向かってつぶやき、散っていった。21歳だった。