「さぁ目をあけて。君は僕のつくった人造人間、ロボットだよ。
君には今日から人間というものを学習してもらうよ。いいね」

私は主人の言付けにしたがって、様々な仕事を始めた。
家事の一切をこなし、庭の手入れをし、野菜まで作った。様々な料理を作りその味を覚えた。
最近、私の作る庭の野菜に歯型をつけていくモノがいる。森からひょっこりと現れるウサギだ。
そのへんに生えているやつを食べればいいものを、わざわざ私の作る庭の野菜ばかりを狙う。もぅ、ほんっとに頭にくる!
私はウサギを見つけると追い掛け回し、大抵何かにつまづいて転んだ。
影でそれを見て笑う主人。恥ずかしくて、ちょっとムカついた。私はこうやって、人の様々な感情をことあるごとに学習した。
大分人間に近づいたとは思うが未だ「死」に関しては、茫漠として理解できなかった。
生き物が死ねば、生態学的に土に取りこまれその栄養素となる。当たり前のことだ。

ある日、私は森の中へ山菜を取りに入った。途中雨が降って来たので急いで家に向かう。
その途中、聞き覚えのある鳴き声を聞いた。
それは、崖の方から聞こえてくる。ひょいと覗いてみると、例のウサギが崖っぷちで震えていた。
私は助けようと崖を下りてウサギに手を伸ばす。崖は雨で滑りやすくなっていた。
私は足を踏み外し、ウサギを抱いたまま真っ逆さまに崖を落ちる。私は体を損傷し、ウサギは動かなくなった。

玄関先で主人は私を見て驚いている。「直して下さい」と、私はウサギを差し出した。すると、主人は悲しい目で私に言った。
「君の体は直してあげる。だけど、その子は直せないんだ。命を“直す”ことはできないんだよ」
私は、膝の上でもう動かなくなったウサギ見つめた。…理解したくなかった、この気持にも。失ってから気づくなんて。

「この子が好きだったんです」

私は泣いた。死とは喪失感のことだった。