森に住むと言う人狼を探してその一団はやって来た。
一旗上げようと躍起になる学者の父に半ば飽きれながらついてきた娘のクレア。
必死になる彼等を他所に、人狼と最初に対面を果たしのは娘のクレアの方だった。

彼女は人狼に危険はないと感じた。肩や手足に異常な発達は見られるけれど、あとは普通の人間とかわらない。
それもそのはずで、森に捨てられた子供が狼に育てられたと言うのがその真相だった。彼は新種でも何でもなかったのだ。
彼は無邪気にチンパンジーと遊んでいた。彼女と目が合っても、何か動物がそこにいる程度の認識しか持ち合わせていないようだ。
それから、二人の交流がはじまった。何にでも興味を抱き無邪気に笑う彼に、彼女はすっかり魅せられてしまった。
髪を切り服を着せれば彼はそれなりに一人前の青年に見えた。そんな彼が、追われ捕われの身となるのはおかしい。
彼女はそれを父親に訴えた。しかし、父親は納得しなかった。本国へ連れて帰り調べてから結論を出すと、人狼の捕獲に拘った。
住慣れた森から彼を無理やり連れ出すなど許してはいけない。クレアは頑なに彼の居場所を教えることを拒み続けた。

どうすれば彼が人間と同じであることを理解してもらえる?彼女は思案の末、彼の手の平にアルファベットを書いて言葉を教え始めた。
「いい?私の名前はクレアよ。クレア・バートン!さ、言ってみて!」
彼は口まねこそするものの、すぐにあきて友達のチンパンジーと遊び出してしまう始末。
不真面目な人狼にクレアが怒ると、彼は泣きそうな顔をして森の中へ逃げ帰ってしまうのだった。どうしたらいいの?
そうだ。うまくしゃべれたらご褒美をあげよう。彼女は翌朝、果物を沢山かかえて彼の元へ向かった。
父親が猟銃を持って後をつけていることも知らずに。

突然現われた父親の一行に二人は目を見開く。父親の指示で一人が娘を人狼から引き離し、残りが彼に銃口を向けた。
「博士!彼は人間なのでは?!」戸惑う護衛兵に父親は叫んだ。「違うぞ!奴の手足を見ろ!!あれは人狼だ!!」
鳴り響く銃声。倒れたのは、クレアだった。彼女は男達の手を振り払い、人狼にかけよっていたのだ。
突きつけられたいくつもの銃口を前に、人狼は倒れた彼女の手を取る。その指先に、あの温かい声を思い出していた。

「…クレア」

その声に人々は銃を降ろす。地に膝をつき頭を抱える父親。人狼の涙を見て、兵の一人が言った。
「博士。…人間とは何ですか?どこからが人間で、どこからが人間ではないのですか?」