AD1986インド南部・マドラス市。医師団は派遣されてきたものの、薬は全く足りていません。
毎日死んでいく子供たちを、眼のあたりにするしかない現状。しかし、悲しんでいる暇はないと気丈に立ち向かう医師団の看護婦達。
ある看護婦は、病院の端の粗末なベッドに寝ている子供に、せめてもの言葉を送ります続けます。「薬はきっと届く!諦めないで!」
その子供は、のどの奥で、看護婦に何かを言いました。筋肉が硬直し声帯や顎まで思うように動かない。
これは、破傷風特有の症状です。そのか細い声は、男の子の口に耳を精一杯近づけてやっと聞き取ることのできるものでした。

「あなたのお幸せを、祈っています」

彼女はたまらなくなって病室を飛び出し、廊下をさ迷っていた男の子にぶつかってしまいます。
「!!ごめんなさい…」と謝ると同時に、彼女はその男の子をきつく抱きしめ、その「ごめんなさい」を繰り返しながら泣き出してしまう。
突如泣付かれたその盲目の男の子は、何も聞かず、黙ってその看護婦の鳴き声を聞いていました。
まるで、泣く子供を宥める父親のように。