とあるペットショップに、一人の少女がやってきた。
「いらっしゃい。どんな子を探しているんだい?」店主は少女に声をかけ、様々な子犬を抱かせて見せる。
しばらくして、少女は店のすみにおかれたゲージを指差して、店主に言った。「あの子を、見せて下さい」
ずっと売れ残っていたのだろう、もう子犬ではない。犬は片足を引きずりながらゲージから出てきた。
「こいつは足が悪いんだ」どうせ興味を引くことはないだろう。店主はトーンを落として言った。
しかし、少女はもうその犬しか目に入らなくなっているようで、他の犬には見向きもしない。
「この子を下さい」「え?!ビッコなんだよ?この足はもうどうしたって治らないよ。それでもいいのかい?」
「この子がいいんです」少女の言葉に、迷いはない。
正直、お荷物になった犬を手放すことができて店主は嬉しかった。つい、口も軽くなる。
「そうか!それじゃあ、足が悪いぶん思いっきり安くしとくよ!どうだい?」
喜ぶと思ってそういったのだが、少女は喜ぶどころか、視線を落として黙り込んでしまった。
首を傾げる店主。少女は犬に触れながら、静かに言った。「値札どおりのお金で、ゆずってください」

後日。店主は近くの公園で、家族と休日を楽しんでいた。
キャッチボールで取り損ねたボールを追いかけてゆくと、大きな木の下で、見覚えのある犬が主人に寄り添っている。
例のビッコの犬だ。と言うことは、その横でうたた寝しているのは、あの気丈な娘だろうか。
数歩近づいてみて、彼は目を見張った。以前は、少女があまりにも自然に歩いていたので気づかなかった。
そこには、義足の少女と、曲がった片足を抱えた犬が、しあわせそうに寄り添って眠っていた。