Present BY Kasumi Yahagi
数
本の題名
作者
霞美の一言メモ
5星評価
508
藪の中・河童
芥川龍之介
どの短編も喧嘩相手を失う寂しさの様な欺瞞と本心の狭間を感じました。
心境の比喩に一環した遺稿「ある阿呆の一生」は、この気持ちわかるまいと言いながらも理解を求めている様で歯痒い。
「藪の中」は真相諸共藪の中ですが、犯人は妻で残りは女を庇うために全員嘘を言っていると私は推理したよ、ワトソン君。06/06/20
★★★
509
アーサー王と円卓の騎士
シドニー・ラニア
聖剣を引き抜いて王となったアーサーと彼の元に集う騎士達の物語。
「騎士道」と改題してもいいくらいその精神に触れており、裏切られ傷つけられても尚王に忠誠して止まなかった準主役
サー(騎士)・ランスロットの人柄など興味深かったです。450Pの本書でさえかなりの要約があるので薄い本はお薦めしません。06/06/26
★★★
510
小生物語
乙一
作り話も織り込んだ筆者のWeb日記。読者を意識しての面白おかしい文脈がとにかく笑えました。06/06/26
★★☆
511
古事記物語
福永武彦
日本最古の神々に触れて、ギリシャ神話に酷似した嫉妬や残酷をも感じました。
この神々の考える決着の理念は陰陽両極端で、常に生かすか殺すかに裁断しているところがあります。
大国主神に助けられた因幡の白兎が可愛いかったです。この兎、悪いことしようとして失敗するタイプ。2006/06/27
★☆
512
蜘蛛の糸・杜子春
芥川龍之介
「杜子春」が特に良かったです。拝金主義の世に失望した杜子春は仙人に弟子入りを志願。
「私が良いと言うまで口を利くな」という試練を受けます。故に殺され、黄泉で閻魔様の辛辣な審判にも挫けず
地獄に落ちても頑なにこれを守る彼。鬼は先に逝った彼の母親を呼び出し殴打。母は言います。
「言いたくないのなら黙っておいで。私は大丈夫だから」「お母さん…」杜子春は呟いてしまいます。
夢から覚めた彼は、自分は仙人にはなれないけれど、それで良かったのだと悟ります。賛成!愛は超越するものではないんですね。06/06/29
★★★☆
513
川の深さは
福井晴敏
権力に抗う青年スパイを助ける元刑事の物語。
ややリアリティに欠けますが、オウムや朝鮮問題等この国の現状を俎上に上げている所は面白いです。
題名は心理テストの問いで情熱の深さを表すとか。06/07/03
★★☆
514
涼宮ハルヒの憂鬱
谷川流
常にミステリアスを求める変人、涼宮ハルヒ。彼女の願望は当人も知らないところで現実となり、故に彼女の憂鬱は世界の終わりを意味した。
その極みに絶望した(クラスメートに扮する)観察者達は主人公に全てを賭ける。
彼女を現実に連れ戻そうとする主人公の言葉がこの物語を集約して木魂します。
「お前が知らないだけで、世界は確実に面白い方向に進んでいたんだよ」設立より三人目、スニーカー大賞・大賞受賞。06/07/04
★★★
518
播磨灘物語(全4巻)
司馬遼太郎
秀吉に仕えた奇才、黒田官兵衛の伝記。主に本能寺までの活躍が描かれています。
官兵衛は旧主へ織田につくよう説得に向かいそのまま幽閉されてしまう。
その独房で、手足も曲がらぬ程に衰弱しつつも悟った命の意味。
その経験が無欲な人格を形成し、晩年の彼を救っていたのではないかと思えました。
信長の命(誤解)で殺されるはずだった官兵衛の子を命がけで救った竹中半兵衛には感涙。06/07/21
★★★
521
ダ・ヴィンチ・コード(上・中・下)
ダン・ブラウン
キリスト人間説の確証たる聖杯を巡ってヴァチカンやシオン修道会の裏事情が描かれます。
教義そのものが温かいものならば、キリストが人であっても良いではないかと思うのですが
それによって権力を得た者はキリストを神にする事に必死で、ある種の滑稽を感じました。
謎解きに使われた多くの雑学が凄いです。06/07/30
★★★
522
わたしのグランパ
筒井康隆
囹圄の祖父が刑期を終え出所。山積していた家庭の問題を骨太に解決します。
非暴力ながらも命知らずな行動に心労が絶えず、とても一緒にはいられないと語る祖母の愛と、
祖父はどこか死に場所を探しているようなところがあったと回想する家族に悲しい共感を覚えました。
シンプルながらも中々に深い物語です。06/07/31
★★★☆
523
日本霊異記
水上勉
平安初期に書かれた仏教説話集。どれも同じ顛末において只管に恩や罪の行方を説きます。
己の不幸は前世の罪にあるという解釈があり、貸したものを返さないと牛に、仏法に逆らうと猿に転生するとか。06/08/02
★☆
524
カフェデイズ
廣瀬祐子
カフェについて綴った散文。視点をちょっとずつ変えることで、カフェのあらゆるものを美しく見出しています。
私は雨の日のカフェが好きですね。06/08/02
★★☆
525
東京タワー
リリー・フランキー
筆者の自伝小説。東京で地に足着かない生活を送っていた筆者が、行き場を失った田舎の母を呼び、共に暮らします。
お金のない二人がその僅かな金銭で親は子のために、子も親のために尽くし、支え合って生きる。
仕事、家、親、お金、時間、友達。そして生きる事の意味を、笑いと涙の中に考えさせられました。
何かに躓いている時こそ、人は魅力に溢れています。本屋大賞受賞。06/08/09
★★★★
526
村上ラヂオ
村上春樹
(画)大橋歩
ananに掲載されたエッセイ集。女性を束縛する社会に抗議し、拘束着のブラジャーを街中で焼いたというニュースについて。
主張はともかくそのブラジャーが使用済みなのか否かに興味があると、村上ワールド相変わらず。
エンジンの止まった飛行機は恐ろしく静かだったという体験話が興味深かったです。06/08/11
★★★
527
風に舞いあがるビニールシート
森絵都
短編集。国連で出会った夫との離婚と死別。夫は家庭を安息の地にできず国際支援に没頭。妻は逆の事を望みます。
やがて知る夫の孤独な少年時代。家庭の温かさ知らず、それ以外の場所で人に尽くそうとした夫。
悲しき天命みたいなものを感じました。左記「風に舞いあがるビニールシート」直木賞受賞。06/08/16
★★☆
528
人はなぜ生まれ
いかに生きるのか江原啓之
事細かい魂の解釈は筆者の苦悩と涙の経験に内包されており、置いては難しい事などわからなくても
人道に遵って精一杯生きて行けば良いのだと至純に思えました。
祈祷師時代、参拝に来ていたダウン症の子供と向かい合って、立派な袴を着ていた自分を傲慢に思ったと、筆者の人柄感じます。06/08/18
★★★
530
日本国債(上・下)
幸田真音
国債の入札未達に市場が大混乱に陥るパニックノベル。敏腕ディーラー達の攻防戦が描かれます。
フロントはかなりの俸給を得ているようですが、それ相応に神経をすり減らす仕事と実感。
国債の重要性を訴え、シ団制度に疑問符を打ち、市場の健全化に対する筆者の模索が伺えました。
ストーリーもサスペンスや恋愛が加わっていて中々良いです。尚、札割れ(未達)は2002年の日銀ショックで現実に起きています。怖っ。06/08/24
★★★☆
531
不思議の国のニッポン Vol.1
ポール・ボネ
フランス人の筆者が日本を考察。70年代、筆者は空港でロシア人が泣き叫ぶのを耳にします。
「帰りたくないわ!お店のあの豊富な商品。働けば働いた分だけ物が手に入るなんて…夢の様よ…」
日本人は自分達がどれだけ恵まれているかに気付くべきだと、30年経った今もその言葉は耳を傾けるに値しますね。06/08/26
★★★
532
青空の卵
坂木司
血の無いミステリー小説。主人公と引篭もりの友人が、引篭もりながらも難解な事件を次々と解決して行きます。
若干技巧的ですが書こうとしている人間関係が真直ぐで好感が持てました。本書は三部作。06/08/29
★★☆
533
時をかける少女
筒井康隆
薬品事故で時空を往来できるようになる少女の物語。ミステリーでありながらも奇を衒うところが無く
、非現実性の中に風のように通り過ぎる青春の一片を感じました。舞台は1965年。台詞が超昭和です。06/08/30
★★★
534
幽霊博物館
赤川次郎
短編集。愛人と妻が夫への愛を無言内に認め合う「旅路の終わり」が切ない。
好きな人のために、その人を手放すという愛の形。事件を紐解く年の差カップルの彼女が
「あなたならどうする?」と彼に問いかけ、物語をより深く締め括っています。 06/08/31
★★☆
539
永遠の仔(全5巻)
天童荒太
親達の勝手によって心に傷を負った施設の子供たちが成人して再会。やがて、その罪深き過去が親兄弟おも巻き込んで
主人公達の人生を蝕んで行きます。よく書かれていると関心する反面、生を訴えるのにこんなにも人の死を描かねばならないものかと
気の滅入りも感じました。一筋の光に懸けるラストに、後悔も償いも生きてこそあると自答して本を閉じました。日本推理作家協会賞受賞。06/09/12
★★☆
540
星々の舟
村山由佳
家族皆が自分独りだけの不安を抱え、それに抗いながら生きてゆく。何か囚われの心境を感じる本でした。
祖父の戦争体験に、従軍慰安婦という難しい立場を書いた「名の木散る」がお薦め。直木賞受賞。06/09/14
★★
544
南総里見八犬伝(全4巻)
(原作)滝沢馬琴
(編著)浜たかや
(画)山本タカト
里見の伏姫と妖犬八房に誘われて集った八人の犬士(剣士)が、里見家を復興させると言う時代活劇。
物語は人の因縁と因果応報をベースに廻る構成で、ワンパターンとの酷評もありますが、
個人的にはそれが読み易さを与えてくれて逆に良かったです。里見家復興後、老いた八人は山奥で楽しく暮らし
ある日、突如全員が消えていなくなった、というラストが何とも神秘的でした。06/09/20
★★★
546
落日の剣(上・下)
ローズマリ
サトクリフ
5、6世紀のブリテン島の歴史を背景にした、アーサー王伝説の再話。
主人公の主観でひとつひとつの物事を分析するかのように語る、完全に大人向けの本です。
王位奪還に裏切りなど物語自体はシンプルですが、旅、戦、騎士になるという事についての写実的な描写が、
伝説をリアルに仕立てています。06/10/06
★★★
547
美女と野球
リリー・フランキー
笑えるエッセイ集。飾らない本音に好感が持てる半面、淫語の多さに生臭さを感じるところがしばしば。
ひきこもりの双子について書いた「僕でごめんね」がお薦め。べったりという訳でもないのですが
どことなく寄り添うこの姉妹に不思議な絆を感じました。06/10/11
★★
548
ひかりのあめ
フランチェスカ・
リア・ブロック
兄の死について想い歩き出す妹。浮き足立たぬティーンエイジャーの精緻でありながらも直接的な心情が描かれます。
彼女の視点と気持ちの描写の中に説明のない現状を推察する必要がある、かなり詩的で散文的な小説です。06/10/12
★★
549
パイナップルの彼方
山本文緒
積重なる不幸と不安がごくありふれたOL生活を少しずつ壊し行く。
未来への明確なビジョンを見出せない現代人のありがちな心境に灰色の共感を覚えます。
会社を辞めてハワイで暮らすという発想も、ある意味リアルな夢想です。06/10/13
★★☆
550
さようなら、ラブ子
よしもとばなな
筆者の日記。前半は子供や友人や仕事の事、後半は愛犬ラブ子とのお別れに向けて文章が綴られています。
人を憎みませんと言いつつ「〜な人が嫌い」という単語が多いのが少し可笑しかった。
自然死を望み、最後の時までラブ子のそばに居続けた筆者。その行為は、ペットの望むほぼ全てであり
加療云々よりも大切なものだと思うので、私には頷ける別れの形でした。06/10/17
★☆
551
ちひろのことば
いわさきちひろ
子供はみんな綺麗に見えて、泥臭いリアルな子供が描けないと悩む筆者。
しかし、見える間々に描かれた優しい絵は本当に素敵です。
伝票整理ができないよと嘆く筆者が何か可愛らしいですね。06/10/18
★★★
552
十七歳
井上路望
時には大人より狡猾な子供と、波風立てないよう責任逃れに走る大人たちの実情が筆者の視点で赤裸々に綴られます。
いじめ体験の中で知った集団社会の実態。長いものに巻かれずに、尚且つ経済的に自立したい。
そういう人がフリーターには多いんじゃないかなと言う意見に納得です。
彼女の体験は、自立心の強さが敵視される少年少女の社会の実態をよく穿っていると思えました。06/10/19
★★★
553
めろめろ
犬丸りん
短編集。ネットで少女になりすまして恋愛し他界したおばあさんのお話「恋しき人の顔は見えねど」が綺麗で切ない。
デパートを愛する買物依存症の女性が一文無しになって自殺。そして、デパートで迷子の子供を見守る守護神となった
「日本橋デパート童士」も涙を誘います。登場人物が皆、愚かであっても優しさだけは見失わない。人のあるべき姿をそこに感じました。06/10/21
★★★
554
魔法のゆび
ロアルド・ダール
鳥や動物をハンティングする父親の一家が、それを非難する主人公の魔法によって鳥と体が入れ替わってしまう。
鳥になった一家は銃に脅えながら生活するはめになります。童話とはいえ読んでいて本当に怖くなりました。
相手の身になって考えることの大切さを深く感じることのできる本です。06/10/23
★★★
555
銃とチョコレート
乙一
探偵ロイズと怪盗GODIVAを巡る主人公の冒険劇。
誰もが善悪両者に成り得るのだという些かリアルな展開が、大人をも物語に惹きつけます。
どんな状況にあろうと毅然とし続ける主人公の綺麗なお母さんが
清く正しく美しく…そして、ちょっと怖いです。06/10/27
★★★☆
556
だから日本は叩かれる
ポール・ボネ
外国(主にフランス)との違いに焦点を置いて日本のおかしさを説いた本。
「これは決して差別する意味ではなくて。紳士淑女はそれ相応の場所で振舞うべきであり
一流のレストランやホテルに、家族連れや学生が綯交ぜになって居るというのはおかしい」と言う筆者に
日本の武士道同様、仏国特有(ブルボン王朝)の精神みたいなものを感じました。
いろいろな意味で自分の国を俯瞰して見れる、よい本だと思います。06/10/31
★★★
557
これからの出来事
星新一
真実は常に人の嫉妬や偏見に歪められていると、皮肉った話が目立ちます。
不自然な成功=犯罪者、と受け取られた女性の話「気ままな生活」。
真実は人の意識の産物であると謳った「小さなバーでの会話」が、それを雄弁に語っていました。06/11/02
★★
558
つねならぬ話
星新一
神話や歴史を題材にした短編集。然も意味有り気に語るのですが
あまり要領を得ていないものが多いです。話の一つ。義経が清に逃れたという伝説は有名ですね。06/11/07
☆
560
氷点(上・下)
三浦綾子
子を殺された夫が犯人の子供を引き取る事で、浮気した妻への復讐を企てます。
お前の愛したその子は、実は最も憎むべき人間の子供なのだと。
犯人の子、陽子は真実に苦悩し、その果てに一つの結論を出します。
私自身は何も悪い事はしていない。けれど私にも氷点があったのだと。
人は自分を許せないと自虐的になる。罪と向かい合えたのなら、まずは自分で自分を
許してあげなければならないのではないか。原罪とは何かを考えるより前に、そのことを思いました。06/11/13
★★★☆
561
開国
津本陽
外国の武力に圧されて已む無く至った開国。
安政の大獄を始め外夷に悲憤して自決する者が相次ぐなど、右往左往する当時の国内の現状が綴られています。
幕末は特に人が時勢に翻弄されていた時代だなと感じました。
島津斉彬が生きていたらまた違った幕末であっただろうという意見には管理人も納得。06/11/16
★★