Present BY Kasumi Yahagi
数
本の題名
作者
霞美の一言メモ
5星評価
430
こころ
夏目漱石
親の縋りを疎ましく思ったり人より先に幸せになりたいと優越を欲する心。
誰にでも身に憶えのありうる陰の気持ちをリアルに描写している点、読んでいて恐かったです。
同時に、主人公に希望を語りかけたくもなりました。それでも、人はそう簡単に優しさを諦めたりはしないと。05/10/15
★★☆
431
迷宮百年の睡魔
森博嗣
ミチルとロイディの旅、三部作の第二段。「女王の百年密室」の続編です。
伝染病に苦しむ国が、研究の末人間の頭部と体の分離に成功。
肉体を切り捨てる事で自由を得たという解釈に人としての定義が問われます。
肉体的苦痛を逃れた完璧な開放に一体どれほどの魅力があるだろうか。問うに、私はその言い分に懐疑的です。
ともあれ、未来特有の謎かけと世界観は読み応えがあります。05/10/19
★★☆
432
ラッキーマン
マイケル・
J・フォックス
パーキンソン病を告白したマイケル・J・フォックスの自伝。
「永遠のティーン・エイジャー」たる爽やかなイメージを打ち砕く内容で、一時は酒や名誉に溺れた自分の忸怩たる感情と
、そこから立直るべく心の変化を余すことなく綴っています。
病で震える指を息子に握らせ、震えを止めて遊んだと何気なく書いているシーンが印深い。
その光景は私に多くを語り、息子はその体験を一生忘れないだろうと思いました。
病気を友人に悟られた時の、もう嘘をつかなくてもいいんだと言う彼の悲しみの開放が胸に苦しかったです。05/10/25
★★★★
433
ペルシャの幻術師
司馬遼太郎
本書は筆者のデビュー作で講談倶楽部賞受賞。幻術をキーに選りすぐられた短編集で不気味な話しが多かったです。
無敵のモンゴル軍が天災で幾度も崩壊したという史実に、人の命をも凌駕した歴史の運命のうねりを感じました。
恐ろしくも儚いです。05/10/28
★★
434
老人と海
アーネスト・
ヘミングウェイ
不漁続きの漁師の老人が少年の期待を背負って一人海へ。大物を獲るも帰路の途中鮫に襲われ、結局収穫を得ずに帰って来ます。
しかし、彼は穏やかな気持ちを得ていました。思うに、それは立ち向かうべきものに立ち向かったと言う勇気と自信の表れだったのでしょう。05/10/30
★☆
435
ユトリロの生涯
J・P・クレスペル
9歳にしてアル中となり、その治療の一環として絵を描き始めたモーリス。
大人になっても悪戯好きで絵を褒められればすぐに赤くなってしまう。
そんな純粋無垢な彼にとって、現実と言う世界はあまりにも生き辛い場所だったのではないかと悲しくなりました。
真っ当な環境で愛に恵まれ、何の不当もなく生きていたらこんな偉大な画家になりはしなかったでしょう。
そんな、名立たる画家達の皮肉な共通点に、人が耐えるべき苦難の意味を考えさせられました。05/11/02
★★☆
436
紅い白描
松本清張
知的傷害の子供の絵を盗作し続けていたデザインの巨匠が、その秘密に寄生する一部のスポンサーによりそれを止める事ができなくなる。
やがて、主人公葉子によって謎は解明かされ、得てきた地位や名声と引き換えにその苦しみより開放される。
今やクリエイターとスポンサーは従属関係にあるという悲しい現実をつきつけていて、物語の終止符として言い捨てられた「結局何も変わらないのさ」と言う台詞が物悲しいです。05/11/06
★★★
437
スカイ・クロラ
森博嗣
一風変わった戦闘機乗りのお話。戦争の悲惨や平和を忘れないために演じ続けられる凄惨な空中戦。
その役を引き受けるために創造された、歳を取らず戦争でしか死ねない新種の人々。
人の死を日常にして少しずつ自我崩壊して行くパイロット達の感性が悲しい物語でした。05/11/08
★★★
438
僕の心臓を盗まないで
テス・ジェリッツェン
臓器移植を巡る残虐な犯罪を描いた医療サスペンス。人を殺して心臓を売買するという恐ろしい内容です。
愛されている者と愛されぬ者の命の比較。人それぞれが抱く命の優先順位。
到底比べ量りうることのできない難題に立向っていること自体が、この本の凄みと言えそうです。05/11/14
★★★☆
339
つめたいよるに
江国香織
不思議で少し切なくて、温かい物語の数々。童話的な温もりを感じる短編集です。
主題や訴えが堅苦しくなくて良いです。「さくらんぼパイ」「デューク」「冬の日、防衛庁にて」などお薦め。05/11/15
★★★☆
440
流れ星と遊んだころ
連城三紀彦
男2女1の三人が織成す騙しあいの物語。どんでん返しがあまりに頻繁なので途中慣れてしまいました。
三人は夢を人に押付ける事で何を求めていたものか、索漠とした読後感でした。05/11/18
★☆
441
そして二人だけになった
森博嗣
盲目の学者とそのアシスタントは隔離されたシェルターで殺人事件に遭遇。
互いを疑いつつも惹かれあう二人の絶妙なやり取りが面白かったです。殺人の動機は森氏らしい学者のマッドさが伺えます。05/11/24
★★★☆
442
こころのチキンスープ15
犬が好き 猫が好き
(執筆)ジャック・キャン
・フィールド/
マーク・V・ハンセン/
マーティ・ベッカー/
キャロル・クライン
犬猫の自然な行動に表れる優しさが奇跡を生み、時には命を助け、愛を語る。
社会的理屈を持たない動物達は、人も動物も植物さえも等価値に置いて愛すべく者か否かを感じ取ろうとしているような気がします。
だからこそ、種族の狭間を越えて尽くし愛するのでしょう。お薦めは飼い主に常に付き添い、自殺をも救った猫の物語「小さな仕草」。05/11/27
★★★
443
塩狩峠
三浦綾子
北海道塩狩峠で制御不能な列車を身を挺して止め、乗客を救った長野政雄鉄道員がモデル。
舞台はクリスチャンがヤソと呼ばれ忌嫌われた明治。
主人公は解せなかった基督教を様々な経験を経て受入れるようになり敬虔なクリスチャンに目覚めていく。
そして、峠で己の命と引き換えに乗客を救う。その崇高な魂形成の過程がこの物語の枢軸といって語弊はないと思います。
しかし、私の心に残ったものはそれには無く、笑顔を絶やさぬ完璧なキリスト教徒だって悲しみに暮れるのだと言う主人公の婚約者が流す涙でした。05/11/29
★★★
444
こころのチキンスープ16
だれもが奇跡にめぐり逢う
(執筆)ジャック・キャン
・フィールド/
マーク・V・ハンセン
自分の一番大事なものを手放し他人に与えると、不思議な事に一番大切なものを得ている。
そんな格言の成されお話が多かったです。
幼い子供がついてまわるのを鬱陶しく思った若かりし日に後悔し、今において
子供との会話を求める母親の心境を語った「一緒に行ってもいい?」がお薦め。05/12/01
★★★
446
優駿(上・下)
宮本輝
一頭の競走馬オラシオンを巡って皆の運命が旋回し始める。オラシオンはスペイン語で祈りの意で
その名の通り皆の想いを一身に受けて走る。しかし、私が思うにオラシオンはそれを知らぬであろう。
オラシオンの無我に人々が想いを馳せたという所に神秘性を感じる物語でした。吉川英治文学賞受賞。05/12/07
★★★
447
恋の休日
藤野千夜
ダメになった恋を今に思うに、そう悲観的な要素など本当は何もなかったんだよと、そう感じさせてくれる文章が心地よい。
歯切れの良いテンポと主人公のバッサリした性格が、恋に少し疲れてしまった人を楽な気持ちにさせてくれそうです。05/12/08
★★★
448
旋風陣信長
津本陽
織田信長を現代人の視点で捕らえたエッセイ。
読むに見習える点も多々ありますが、信長を持ち上げすぎている気もします。
身分を越えた人材登用は信長の有能からなるものと言うのはどうか。
人の育成を試みない所に単なる利己主義を感じますし、懐疑的な点も多かったです。05/12/11
★★
449
春風無刀流
津本陽
一刀正伝無刀流の祖、山岡鉄舟の伝記。剣禅一致の心理に鉄舟は何を見たのだろう。
彼の墓前に殉死者が出た程だから情の厚さが伺える。その境地は暖かいものだったのではないかと思えました。05/12/13
★★
450
生協の白石さん
白石昌則
東京農工大に設置された生協のご意見板でやり取りされた学生と生協職員、白石氏の問答が本になったもの。
どんな問いであれ、いつも真面目に答えてくれる白石氏の人柄に憧れます。
面白いQAがあったので一つ紹介します。「Q:愛は売っていないのですか?」「A:愛は非売品のようです。もし
どこかで販売していたら、それは何かの罠かと思われますのでご注意下さい。」05/12/13
★★★☆
451
凶夢など30
星新一
現実と非現実の狭間をいったりきたりするような摩訶不思議な短編集。
良く見る夢の設定としてなんだかあり得そうで、オチの無い所もそれはそれで納得してしまうような不思議な説得力を感じました。05/12/15
★★☆
452
人参倶楽部
佐藤正午
バー「人参倶楽部」に集う男女の色恋物語。主人公のマスター自身が女性にだらしなく、バーにイメージされる
静謐な要素が観うけられないままに終わってしまったところが期待外れです。05/12/17
★☆
453
三毛猫ホームズのフーガ
赤川次郎
性犯罪を枢軸に男尊女卑の現実を問います。男性が女性を尊敬する言葉を持って物語を収束させているところで、
異性が互いに認め合うことの必要と必然性を語っていて良かったです。05/12/20
★★★
454
僕の彼女を紹介します
クァク・ジェヨン
題名「僕の彼女を紹介します」の意味を知って泣きました。お話自体はコミカルで現実離れもしているのですが
云わんとしている事がストレートで綺麗にまとまっています。映画の方も観てみたくなりました。05/12/22
★★★☆
455
エヌ氏の遊園地
星新一
ショートストーリー。因果往訪な結末に苦笑いしてしまうような物語が多かったです。
二人の強盗が成行きから人を救い心を入れ替える「夕ぐれの車」が好きです。強盗は言います。
「今夜の都会は、まるで一つの生物となって俺達を迎え、送り帰したようだ」05/12/26
★★★
456
博士の愛した数式
小川洋子
80分しか記憶の持たない数学博士とその家政婦の物語。
人生とは決して脳内に収められた記憶のみによって象られているのではないという事を実感しました。
この物語は奇を衒わず人生の本質に触れています。ただの数字も親しみと意味合いを求めて見てみると、美しく面白いものになるんですね。05/12/28
★★★☆
457
いつかパラソルの下で
森絵都
死んだ堅気な父に愛人が居た事を知り、その過去を辿ろうとする兄弟三人。
そして辿りついたのは、有触れた、それでいて特別な、誰にでも起こりうる多種多様な人生のうちの一つだった。
兄弟達はその旅の中で、過去に囚われ亡き人に思いを引きずるのではなく
今を生きている人に関心を向けるべき事の大切さを見出して行きます。
過去は不変ですが、未来はいつも可変であることの素晴らしさを感じました。2006/01/07
★★★
459
ざ・ちぇんじ!(前編・後編)
氷室冴子
古典「とりかへはや物語」の現代版。時は平安、容姿の似た姉と弟が男女入れ替わって育てられます。
入内(結婚)や出仕(出勤)にあたふたする二人が可笑しく、全ては納まるべき場所に納まるという落ちが
何より清々しいです。2006/01/11
★★★☆
461
レ・ミゼラブル(上・下)
ヴィクトル・ユゴー
18世紀初頭。盗人ジャンバルジャンが司教の愛に改心し、悪しき心に屈せず一人の少女を幸せに導く物語。
多くの登場人物に脇役など一人もおらず、一人一人の考えが見事なまでに交差して物語の骨組を担っています。
苦労だらけのジャンバルジャンの生涯がこんなにも美しく思えるのは、他ならぬ人への愛によるもので、
過去の罪がいくら彼を追いたてようとも、その輝きは決して失われたりはしないと読み取れる力強い内容でした。
題名ミゼラブルは「惨め(ミゼル)」の複数形で「惨めな人々」の意。06/01/21
★★★★
462
ハッピーバースデー
青木和雄
母親に愛されずとうとう声を失ってしまう主人公あすか。
祖父母との生活に自分を取戻すあすかに、今度はその家族ひとりひとりが自分の持つ心の問題に気付いて行きます。
愛されない子供は大人になっても人を愛せないという痛みの連鎖。
しかし、優しさもまた人と人との間を行き交い広まって行くものだということを切に訴えた物語です。06/01/24
★★★
463
シェイクスピア物語
メアリ・ラム
シェイクスピアの台本を小説化したダイジェスト本。
ハムレット、オセロなど悲劇は自決に終結したものが多く暗澹とした読後感で、ヴェニスの商人などやっぱり喜劇の方が面白かったです。06/01/26
★☆
464
佐賀のがばいばあちゃん
島田洋七
「がばい」は方言で「すごい」の意。佐賀の田舎町で貧乏を明るく生きた筆者とその祖母の物語。
お金や地位の高さこそが幸せに直結するのだと言う現代の蒙昧な解釈を拭い去った、心の豊かさが書かれています。
二人を貧しさから助けようとする町の人達にも心打たれました。もう号泣。06/01/27
★★★★☆
465
がばいばあちゃんの
笑顔で生きんしゃい!島田洋七
がばいばあちゃん第二段。「これ食べんしゃい」と、何気なく自分より更に貧しい人に分け与える彼女の姿は、
拝金主義に染まったこの現代社会において渇仰すべく一つの境地です。
紹介される彼女の様々な格言の中で。脳傷害を患った我子に対し、
施設に預けないのかと言う意見に答えた彼女の言葉が印象的でした。「自分の子を人に預けてどうする」06/02/02
★★★
468
三国志(上・中・下)
羅貫中
三国志演義を三冊に纏めた要約本。黄巾賊討伐から司馬氏の三国統一まで一通り書いてあります。
諸葛孔明の兵法など目を見張りましたが、主を失ってから一人また一人と仲間に先立たれて行く様は、
いくら智謀に長け様とも彼をもの悲しく見せて切なかったです。06/02/10
★★★
469
霧のなかの子
トリイ・ヘイデン
叔父の性的虐待に刻まれた心の傷を覆い隠すため虚言癖となってしまった少女。
厳格な祖父の期待に背けず、我が子の患う先天的な喉の病を失語症と言うことにして
生んだ自分に過失はないと思いこまねばならなかった母親など。
子供の奇異な行動に隠されていた悲しい事実が徐々に姿を現して行きます。
少女の心ない行動は、自己防衛の手段であり、救いを求める唯一の声無き叫びだったんですね。06/02/16
★★★
470
地下鉄に乗って
浅田次郎
地下鉄に乗って父の若き日、昭和初期へタイプスリップする主人公。
家庭の不仲の元凶を父親の生立に見つめ、また自分の愛人が父親の愛人の子と知り、その愛人は主人公の幸せのために
過去の自分を親共に殺してしまう、悲しい物語です。私には納得できない愛の形でした。吉川英治文学新人賞受賞。06/02/18
★★