Present BY Kasumi Yahagi
数
本の題名
作者
霞美の一言メモ
5星評価
346
緑の我が家
小野不由美
ホラー・ミステリー。在り来たりな話だなと多寡を括っていたのが、その結末に思わず感嘆。
嘗ては傷つけ、蔑んだ相手に救われた主人公の忸怩の念に、多くを感じ切なくなりました。05/01/25
★★★
347
恐怖の谷
アーサー・コナン・ドイル
シャーロック・ホームズシリーズですが彼はあまり出てきません。
その殺人に至るまでの経緯が話の大半で、驚愕のラストに物語は帰結。
組織と言うものの不気味な性質の描写がこの本の凄みとも言えそうです。それにしても、この時代の探偵はカッコイイ。
本を紹介して下さったNさん、ありがとう。05/01/26
★★★
348
大盗禅師
司馬遼太郎
関ヶ原で浪人となった多くの武士を口説き、徳川幕府を倒して天下を取ろうと企てる面々。
謀反は元より中国の手を借りて倒幕を計画するなど、夢想家は多くを試みます。尚、著者はこれを駄作と評価。05/01/28
★★
349
ピーター・パン
ジェームズ・バリ
フック船長の登場するあの物語とは違いました(新潮文庫)。
語り形式で書かれた幻想世界での大人にならないピーターの不思議な冒険。子供の悪い部分も随所で皮肉られており
「星の王子さま」のような哲学的要素を含みます。また、本の内容を頭に入れるにはそれ相応の想像力が必要だと感じました。05/01/31
★☆
350
オカルト
田口ランディ
どこまで真実なのかはわかりませんが、自分の事を爽快な言いまわしで書いていて中々面白かったです。
その感性と潔い淡白さは確かに彼女の魅力です。ですが、同時にその性格が人の辛い気持ちを理解しようと思う能力を
欠落させているところも、負の要素として目立ちました。05/02/01
★★☆
351
恋
連城三紀彦
20代と40代、2組のカップルが織成す恋の謀略。誰が誰に恋しているのかが分からないところが面白い。
最後まで読まないと恋愛ものなのか推理ものなのかが見極められない本です。05/02/02
★★☆
352
美の神たちの叛乱
連城三紀彦
とある名画を巡って巻き起こる数々の殺人。その名画に意味づけられた美を守るために
犠牲となった人々の復讐劇です。かなり多くの物事が錯綜していて、その読みづらさ故に薄味な読後感でした。05/02/06
★☆
353
カラフル
森絵都
おかしな天使に連れられて、自殺した少年の体に入ってもう一度人生をやりなおす魂のお話。
書出しの文章が可笑しくて笑いながら読んでいたのですが、読み進めるうちに本書の題名「カラフル」の意味を知り、黙考してしまいました。
カラフル。この世は本当にカラフルで、自分がどの色を選んで生きて行けば良いのかがわからなくなる。万人にわかる優しい文章で
深いものを語ります。産経児童出版文化賞受賞。05/02/07
★★★★☆
354
エイジ
重松清
中学生エイジの視点で現代の病理、キレやすい青少年の意識を語る。
確かに子供の複雑な気持ちを代弁してはいますが大人の抱く十代像をも露呈してしまっている気がしました。山本周五郎賞受賞。05/02/09
★★
355
潮騒
三島由紀夫
三島氏にしては珍しい純愛物語。目に浮かぶ美しい海と、何一つ衒うことなく書かれた人間像が心地好い。
現地取材でその土地に心洗われた筆者の意識が表れています。新潮社文学賞受賞。05/02/11
★★★
356
同級生
東野圭吾
その恋を本物と信じたまま事故で死んでしまう彼女と、本当は誰でもよかった主人公。
彼はこの事故の真相解明を罪滅ぼしとし謎解きをはじめます。構成や真相共によくできているのですが
主人公が全然高校生っぽくなくて、優しさもどこか歪んで見えました。筆者の意図したものではないと思いますが。05/02/15
★★★
357
天国で君に逢えたら
飯島夏樹
癌患者の伝えたい気持ちを代筆して相手に送る「手紙屋」を始めた一人の青年医師。
手紙には病への葛藤や虚飾のない真実の自分が打出されていきます。
構成と主人公の口語調に些か違和感を感じましたが、実際に肝細胞癌で余命宣告を受けた
筆者だからこそ書けたものがあって良かったです。05/02/16
★★☆
358
豊臣家の人々
司馬遼太郎
表題に纏わる短編集。徳川家に人質として渡った秀吉の妹、旭姫(駿河御前)のお話が切なかったです。
元は村娘だった旭は兄秀吉の栄達により田舎娘から姫となり、やがて人質を意味する政略結婚で徳川家へと嫁ぎます。
それでも命に従わない家康に、秀吉は自分の実母をも人質として差出す。
ひょんなことから母との再会を果たした旭姫はその裾に縋って号泣。その夜、母と娘は臥所で語り合ったのではないでしょうか。
必死に田畑を耕して暮したあの貧しかった頃の方が、ずっとしあわせだったのではないかと。05/02/22
★★★☆
359
黒い画集
松本清張
短編集。暗がりから現れる牛のように、のそりと芽生える殺意の描写が不気味。
固くなった餅で人を撲殺し、それを人に食べさせて証拠隠滅と言う真相に
その餅を馳走になっていた事に愕然とする刑事の描写が絶妙な「凶器」などお薦めです。05/02/25
★★★
360
ショート・トリップ
森絵都
一話二三ページのショートストーリーが沢山入っています。
一見ヘンテコなお話ばかりですが、それらは全て何かを喩えた奥深いものばかり。
喩えその比喩がわからなくとも文章そのものがかなり面白いので、
哲学を求めて読んでも、絵本として読んでも十分に楽しめる一冊です。
人々のかぶる帽子に、ゲームフルーツバスケットで傷ついた苦い過去をふりかえる女王様のお話「trauma」などお薦め。05/02/25
★★★☆
361
金閣寺
三島由紀夫
金閣寺が己の美の象徴となった主人公は、多くをその建造物と照鑑して考える。
また、実際その寺に携る僧としての自分にふと歩み寄る黒い発想。寺を焼けば全てが変わるか…焼いてみるか?
人が逃げ道として一度は夢見る、全てをチャラにしたいという破壊発想を連想させられました。
読売文学賞受賞。05/03/01
★☆
362
裔を継ぐ者
たつみや章
月神シリーズ四部作の外伝。前作の主人公が神格化された500年後を舞台に、気弱で愚かな少年
サザレヒコの成長を描いた古代ファンタジーです。感謝の念や誠実さ、勇気について多くを語る物語でした。
温泉に浸かる場面が多々あるのですが、あまりに気持良さそうなので自分も入りたくなってしまった。05/03/02
★★★
363
夜の神話
たつみや章
神さま三部作の第二段。前半は児童書によくある不思議な冒険モノと思って読んでいたのですが後半、物語は
現実に考えるべきエネルギー問題へと進展。原発事故をモチーフに、我々が最早無視できなくなっている多くの問題を示唆して行きます。
昔よりも楽をして生き様とする現代人。その生活を守るために行われる情報操作や悲劇の隠蔽。
しかし、私達一人一人の小さな心がけでこの星を救う事もできる。この本はそれに取り組むべく大人にこそ一読の価値がありそうです。産経児童出版文化賞推薦作。05/03/03
★★★☆
364
マディソン郡の橋
ロバート
ジェームズ・ウォラー
結婚に茫漠と人生を見据え平たい日常に馴致されてゆく自分。
そんな心情を解きほぐしてくれる人に出会ったら、善悪を超えて本能のままに歩きだしてしまう。
しかし、不倫がいかなるものかを知った大人だからこそ、哀しい別れを選ぶ二人。
人生の辛酸を知った者にしかない本物の恋を実感します。実話です。05/03/04
★★★☆
365
美女
連城三紀彦
思いこみや妄想をオチにしたものが多く、故にちょっと読みずらいのですが一風変わった短編集です。
死の床で長い浮気を懺悔した妻の真意に謎をかけた「夜の肌」がしんみりといいです。05/03/09
★★☆
366
セイジ
辻内智貴
主人公は旅路に見つけた喫茶店で、そこに住む可笑しな店員セイジと出会います。
社会の不道理とそれによって苦しむ人々の心を常に感じ、それ故か自分自身のことには無関心な男、セイジ。
やがて二人は、ある惨劇に左手首と心を失った子供に出会う。そして、セイジはその子を救うためか命を賭して奇怪な行動に出ます。
「ほら、左手が無くても大丈夫じゃないか」と言わんばかりに。太宰治賞最終候補作。05/03/11
★★★
367
満月の夜、モビイ・ディックが
片山恭一
終始「ノルウェーの森」を思わせる小説でした。違いは自殺した彼女が助かっているところ。
他人の人生に自分のそれを模索する主人公の持論で構成された物語ですが、人生を語るなら、
ましてや二十歳そこそこの主人公なのだからもう少し課題を与えて終わらせても良いのではないかとも思いました。05/03/11
★★☆
368
木曽義仲
小川由秋
歴史物としては読みやすく良い本でしたが、義仲の人格や個性、巴に対する気持の描写に物足りなさを感じました。
むしろ、巴の気持の方が旨く書かれていたなと言う読後感です。尚、管理人は巴好き。05/03/15
★★☆
369
でりばりぃAge
梨屋アリエ
親や教師。大人のしていることに疑問を抱き始める年頃の、中2の女の子が主人公。
今まで信じてきた大人の外面が仮面とわかれば、その素顔を求めずにはいられない
十代特有の焦燥がコミカルに描かれています。大人になりきれていない、でも子供でもない
二〇歳あたりの人に惹かれるという心理も、主人公の視点に立てば何か頷けるものがあります。
講談社児童文学新人賞受賞。著者は元音楽教室講師。05/03/15
★★☆
370
つきのふね
森絵都
親友だったさくらと梨利は、万引き、ドラッグ、援交とその一線を隔ててお互いを避ける様になってしまう。
梨利を思うさくらと自分の弱さに懊悩する梨利と、壊れてしまった絆に苦しむ二人。
やがて、心を病んだひとりの不思議な青年との出会いから二人はもう一度引き合わされるとになります。
愚行を犯してしまった人の、良心の呵責や忸怩たる思いに気づいて上げられなければ、書けないものがあると思いました。
尚、暗くお固い本ではありません。むしろ笑い所も多く、ラストは泣きました。野間児童文芸賞受賞。05/03/16
★★★★☆
376
菜の花の沖(全6巻)
司馬遼太郎
江戸時代の船頭、高田屋嘉兵衛の伝記。
北海で漁業をしていたある日、嘉兵衛はロシア船に捕縛されてしまう。
ロシア船の高官リコルドの説明で両国に生じている問題を知り、その調停に乗り出す嘉兵衛。
いつしか二人には言葉を超えた友情が芽生え、最後は互いの信頼関係に全てを賭けることで
この難解な政治問題を解決に導いて行きます。上記事件が絡んでくる五巻後半から六巻にかけて目が離せません。
我侭を言うと、私はアイヌ文化に興味があるのでその辺もう少し突っ込んで欲しかったです。05/03/28
★★★☆
377
巴御前
鈴木輝一郎
中々変わった本でした。巴が以仁王の使者(平家討伐を号令)であったり、忍上がりであったり、テレパスを使うなど、随分神格化されています。
私はもっと泣いたり笑ったりと人間味のある彼女を求めてしまいますが、そこを割り切って言うなら浪漫チックな物語です。文章的魅力もあります。05/03/29
★★☆
378
永遠の出口
森絵都
筆者の自伝かと思わせるようなリアルさがあります。小学時代の仲良しグループの内輪もめを始め、不良行為、親への客観視、始めてのバイト、家庭問題、恋。
その数々を自身に思い重ね、在り来たりと思っていた青春時代が本当は皆それぞれに特別なものだったのだということを実感します。05/03/31
★★★
379
宇宙のみなしご
森絵都
夜、人の家の屋根にこっそり登ると言うスリリングな遊びを思いつく鍵っ子の姉と弟。
その行為に自分を変えるきっかけを得たいと仲間入りを申し出る、姉、弟の友達。そして、四人は屋根のぼりを決行。
大人には理解し難いこの行為に、彼ら子供たちが登り越えようとしていたモノを、人それぞれの解釈で垣間見て欲しいと思います。
野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞日本放送賞、受賞。05/04/01
★★★
383
DIVE!!
(1) 前宙返り3回半抱え型
(2) スワンダイブ
(3) SSスペシャル'99
(4) コンクリート・ドラゴン
森絵都
飛び込みでオリンピックを目指す主人公、知季の成長話。
まわりのキャラクターが知季に引けをとらずいい味を出していてみんなが主人公と言える、とても爽やかな物語でした。
日本代表になるために、切捨てねばならないもの。彼女や友人との時間、怪我、故郷、取引。未来のために諦めねばならない今日の勝負など、
一人一人が各々違った現状と問題を抱え悩みつつも、只管に努力し続ける彼らの姿勢に目が離せません。
知季達を支える女コーチ夏陽子の存在が色濃く、後の展開に彼女の恋話が絡んでくるものと、それを匂わせる文章より
期待していたのですが、そこは不発に終わっている気がしてちょっと物足りなさを感じました。05/04/08
★★★
384
リズム
森絵都
大好きないとこの真ちゃんは、学校を辞め、髪を染めてロックバンドを始めたことで
大人たちから非難をあびる。真ちゃんと関わってはいけないと忠告する大人達。
真ちゃんは何もかわっていないと切に訴える主人公、さゆきの気持ちに心が揺れます。講談社児童文学新人賞、椋鳩十児童文学賞受賞。05/04/09
★★★
385
ゴールド・フィッシュ
森絵都
リズムの続編。高校受験を目前に自分の夢を自身に問うさゆき。バイトでファーストフードのおねえさんになる。
美術部に入って絵を描きまくる。男女交際もしてみたい。
やりたいことを思うが侭に連ねてみれば、ありきたりでも素晴らしいものばかり。
自分のリズムを守ってゆくとは、社会欲に溺れず本当に自分のしたいことを見つけることと、この本はそれに気づかせてくれます。05/04/11
★★★
386
アーモンド入り
チョコレートのワルツ森絵都
三つの短編を収録。虚言癖の同級生に恋をする男の子の話がよかったです。
二人は不眠症の話題で気が合い、放課後を共にするようになる。
女の子の話は例の虚言壁スケールを増し誇張されてゆくも、それを真に受けて物語を楽しむ主人公。
やがて彼は全てを知り、激怒して彼女を突き放す。
しかし、既に彼女を好きになっていた彼は卒業の最後の日、物語の結末を聞きに彼女の元へ足を運ぶ。
そして、甘酸っぱいハッピーエンド。何故か両者に共感を持てて、且つどこかしらに優しさを感じる物語でした。05/04/13
★★★
389
箱根の坂(上・中・下)
司馬遼太郎
史上最悪の権力抗争、応仁の乱より後、身一つで人心を征し伊豆一国を善政で支配し戦国大名たるものの先駆者となった北条早雲。
この時代ではありえない程長命な彼の長い生涯に、尾の先まで餡子の詰まった鯛焼きを連想させられます。88年間すべき事の尽きなかった早雲の人生。
時代がそうさせたのか、もしくは彼がそう生きたかったのか、それもまた雲のように取っては掴めない疑問と言えそうです。05/05/02
★☆
392
巴御前(全3巻)
松本利昭
膨大な資料を元に書き上げられた巴御前の半生。
私も筆者と同じように木曽義仲の冤罪を信じてはいますが、それ故かこの本の義仲は聖者であり過ぎている感じがしました。
義仲に本作のような政治力などなかったと私は思う。義仲は平家を倒して憧れの都に上り源氏の世で出世しようした。
やがて権力や政治の悪質さに揉まれ、どうにもならなくなって巴やみんなと木曽へ帰ろうとした。
義仲は、そんな至極単純な理想と現実を駆け抜けた、優しいけれど不器用な男だったと思うのです。
巴はそんな義仲に最後まで付き添い続け、彼の望み通り落ちて辛い現実を生き抜きます。
だからこそ彼女の人生は、今尚魅力的なのです。05/05/25
★★
393
よその子
トリイ・へイデン
「トリイはどうして私の心配なんてするの?私はトリイにとってよその子なのに」
凄惨な体験から他人にそう発想せざるを得ない四人の子供達を、障害児学級で受け持つトリイのノンフィクション。
傷つき、傷つけ合いながらもトリイに心を開いて行く子供達。
専門家は彼女にどの教育理論を念頭において場に望んでいるのか問うのですが、思うにトリイは何も特別なことはしていません。
彼女はただ、子供達と同じ立場で泣いたり笑ったりしたかっただけなのです。それが仕事であることさえ忘れ、ただそう望んだ。
そして、それこそが社会から見放されたこの子供達に取って特別で、最も必要な事であったのだと思わざるを得ませんでした。05/05/31
★★★☆