BOOK-6
Present BY Kasumi Yahagi


[順不同。これは霞美の個人的な評価です]

本の題名 作者 霞美の一言メモ 5星評価
259 女曲馬師の死 E・ギュンター 全33編に及ぶサーカスの史実集。銃で妻の頭上にあるリンゴを狙って手元を誤り彼女を死なせてしまった男は有罪か無罪か。 トラに襲われた猛獣使いの女を救おうとしたライオン。 その奇妙な契約において、正体を隠した紳士淑女たる客を相手に繰広げられた真夜中のサーカス。などなど。 サーカスにおけるちょっとかわったお話が楽しめます。本書は漫画「からくりサーカス」の参考文献。04/06/17 ★★☆
260 シーラという子 トリイ・ヘイデン 不幸な環境に産まれ、ついには高速道路に捨てられた幼女のシーラ。 2年後、6歳になったシーラは数々の傷害事件をおこしトリイの受け持つ特殊学級へやってくる。 接しているうちにシーラが障害者どころかIQ182の天才少女であることが判明。 しかし、トリイは思う。IQがいくつだろうがシーラの負った心の傷の深さや痛み。 それを克服することの困難さに知能指数など関係ないと。この本は、愛し方を知らない子供に それを教える唯一の手段は、愛する以外にはないことを教えてくれます。04/06/24 ★★★☆
261 タイガーと呼ばれた子 トリイ・ヘイデン トリイと再会を果たした14歳のシーラ。シーラはトリイと過ごした8年前の、あの優しい日々を憶えてはいなかった。一体何故。 過去の凄惨な経験のせいで記憶と気持ちが混乱し、トリイの行動と母親の仕打ちを彼女はずっと取り違えていた。 シーラはトリイとの再会でその事に気づき、そんな自分に懊悩します。そして、ここからまた新たに歩きだす少女。 シーラのその後は書かない方がいいと編集部に言われていた筆者。 にも関らずこれを書ききったわけですが、私はこれを読んで書いて良かったのではないかと思いました。04/06/30 ★★★☆
262 Sickened ジェリー
 グレゴリー
精神病“代理によるミュンヒハウゼン症候群”による母親の虐待を生き抜いた筆者ジェリーの体験談。 周囲から良い母親と思われたいがために子供を病気に仕立て上げ、心配を装う母親。 症状をでっち上げるために毒物を飲まされ、死に至った子供も少なく無いと言います。 症例が症例なだけに綴られたその身勝手な行動には、読むに憤りを感じるものばかり。それは病気だったのだと割りきることなど 被害者はもちろん、加害者にもできはしないでしょう。専門家として成功した筆者ですが、彼女は今もそのトラウマと闘い続けています。04/07/06 ★★☆
263 ささら さや 加納朋子 ピンチの時、死んだ夫の霊が自分と子供を守りに来てくれる。そんな切なさ溢れるプチミステリーものです。 主人公を取巻く人物ひとりひとりにも好感が持てて、優しい人間関係を感じさせてくれます。04/07/13 ★★★
264 波間のこぶた 銀色夏生 かわいい挿絵と一緒にこぶたくんの想いを一言一言綴って行きます。 少々放埓な内容でしたがこの本に関してはきっとこれでよいのでしょう。04/07/15 ★☆
265 異邦人 カミユ 常にある種の断言性を持っていて、一貫した語尾と独特の一人称がすごく頭に残る文章でした。 不幸となり行く男の状況と心境を上記の風で描き切った内容なのですが、 この本が語った主人公の「納得した幸福」については説明し難い凄みがあり、何やら圧倒されてしまいます。04/07/15 ★★★
266 辺境・近境 村上春樹 筆者の旅行記。瀬戸内海の無人島、烏島でのキャンプや、香川県の饂飩屋レポが面白いです。04/07/22 ★★★
267 黒い雨 井伏鱒二 被爆者の「被爆日記」を元に原爆の恐ろしさを克明に綴った記念碑的名作。 日記や資料における巧緻な描写は恐ろしく現実的であり、それこそが核の恐ろしさを言い伝えるに求められるべく 残酷にも必要不可欠な要素なのではないでしょうか。野間文芸賞受賞。04/08/03 ★★★
268 共犯者 松本清張 短編集です。「発作」と言う作品について。これはいろんな事がうまく行かない主人公が 電車で居合わせた見知らぬ男の些細な仕草に、累積していたものがあふれ出て狂気に走ってしまうと言う 「理由無き殺意」を書いたものです。発表は昭和32年。最近よく聞く犯行動機「イライラしてやった」 「誰でもよかった」を見るに時代を先取りした作品だと思いました。04/08/09 ★★★☆
269 フランダースの犬 ウィーダ アニメと違い老犬パトラシエの心情も書かれていたりします。 貧しい生活に苦しむ祖父とネロの姿を見て思うパトラシエの「私は死ぬまで休むべきではない」と言う台詞が印象深かったです。 著者は女性で、皮肉にも晩年は貧困の中寂しく息を引き取ったそうです。04/08/12 ★★☆
270 アクロイド殺し アガサ
 クリスティー
アガサ・クリスティーの問題作。犯人が誰なのかは勘の良い人なら予想がつくと思います。 この本の凄みは事件の真相にはありません。あなたが犯罪者だと悲しいと思ってくれる大切な人のために、 犯人に自殺を促す事。物語のヒーローであったはずの名探偵ポアロに それをさせた筆者の意図が見えず不気味です。それこそが、この物語最大のミステリーでした。04/08/19 ★★★
271 人生論 トルストイ 幸福や生命について聖書や万物の定説を引用しつつ著者がいろいろと断言。 その見解に時代齟齬を感じないのは、人間の根本と言うものがいつの時代も変わらない事を証拠立てているからかも知れません。 この難解な論説を右に要約すると、他者への愛を只管に綴っています。04/08/26 ★☆
272 一夜官女 司馬遼太郎 著者がもっとも気楽に書いたという短編六話を収録。「伊賀の四鬼」が面白かったです。04/08/30 ★★★
273 ぼくの・稲荷山戦記 たつみや章 人間に化けた稲荷山守護神狐とその稲荷山を守るべく立ちあがった中学一年生の物語。 自然破壊を主軸に、社会の有り方や人間の生き方、そして命の尊さを考えさせ、且つ感じさせてくれます。 読みやすい、面白い、奥深いの三拍子揃った本です。六年生から中学生向け長編。講談社児童文学新人賞受賞作。04/08/31 ★★★☆
274 水の伝説 たつみや章 山村留学生として東京からやってきた主人公は、ひょんな事から村の龍の伝説に挑むことになります。 冒険を通して、東京でいじめられ学校に通えなくなった過去の自分や、そこからまた歩むべき未来ともう一度向き合って行く。 また、自然との互助精神を切に訴える筆者にも好感が持てます。産経児童出版文化賞受賞。04/09/01 ★★★
275 六千人の命のビザ 杉原幸子 第ニ次大戦最中、ナチスの悪政より多くのユダヤ人を救った日本人外交官、杉原千畝氏。 「ユダヤ人にビザの発行をするな」との外務省の命令に背き、独断でビザを発行。約六千人の命を救いました。 しかし、戦後その命令違反が元で外務省を追放されます。 理不尽な制裁に苦しみながらも彼は、悔いは無い、これで良かったのだと己の信念を貫き通す。 古臭い言い方ですが、本当の日本男児たるものを垣間見ました。 1985年イスラエル政府よりヤド・バシェム賞(諸国民の中の正義の人賞)を受賞。04/09/05 ★★★
276 四日間の奇蹟 浅倉卓弥 とある奇跡に死を受け入れるまでの、限られた時間を貰った女性のお話。 ストーリーは東野圭吾の「秘密」に酷似してます。 僅かに好感を持てなかったのは、主人公の魅力がイマイチだった事と 理屈っぽく聞こえてならなかった箇所が多かった所。 人の魂や想いをより真っ直ぐに伝えるたいのなら、理屈を用い過ぎない事だという私の考えが仇となった読後感でした。あいたた。 マスコミ各社は本書を絶賛。04/09/09 ★★★
277 日はまた昇る アーネスト
 ヘミングウェイ
25、6歳当時の自伝的作品。自堕落な世代と称された1920年代の若者像を描きます。 私には頷きながら読む様なものがありませんでしたが、神田川世代の方にはお薦めできそうです。04/09/12
278 恋文 連城三紀彦 最も切ない恋愛の形に胸をしめつけらそうになります。 人を好きになるという事はこんなにも素敵で、残酷なことなのだなと。 「恋文」他「紅き唇」「私の叔父さん」もお薦めです。04/09/15 ★★★☆
279 アフターダーク 村上春樹 少々淡白な主人公の女の子が、家で眠り続ける姉を心配している。という枢軸を置いて物語は進行します。 スケールが狭いという印象を受けました。物語も中途半端な段階で終わっていて、丁度伏線を這って御終いと言った感じでした。 多分続編が出ると思います。これだけだと随分物足りないです。04/09/16 ★★
280 キッチン 吉本ばなな 幸も不幸も、至純に受け止めて行く彼女の若気に甘酸っぱさを感じます。 文中に見つけた「男の子は自分がわざとつらくなることはしない」という言葉が印象深かったです。 女の子の心の内を雄弁に語っていると思いました。切ないですね。 海燕新人文学賞受賞。世界25ヶ国語で翻訳されています。04/09/21 ★★★
281 坊っちゃん 夏目漱石 終始一貫して愉快痛快な展開でしたが、それもこの破天荒な坊っちゃんが時折見せる愚直なまでの優しさあってこそと、その必然を感じました。 物語のラスト。坊っちゃんがずっと気にかけていた清という翁について語る時「そうだ、言い忘れていたが−」 などと照れ隠しするところなど、暖か味を感じました。04/09/24 ★★★
282 森鴎外 “もしも、あの時”を語ったものです。不幸や失敗に「もしあの時」を言いたがる心理とは 己の気持ちの平安のため以外にはないように思え、私にはこのお話がひどく後向きなものに見えてしまいました。04/09/26 ★☆
283 ポネット ジャック
 ドワイヨン
四歳の少女が母親の死を少しずつ受け入れていくと言う切ない物語。 ノンフィクション的雰囲気に水をさすような急展開があり、脚本としては評価が二分しそうですが 読み終えてみれば物語の暖か味を十分に感じ入る事が出来ていました。映画ではポネット役のヴィクトワール・ティヴィソルちゃん(4歳)が主演女優賞受賞。04/09/29 ★★☆
284 象工場のハッピーエンド 村上春樹
画・安西水丸
大人の楽しむ絵本と言った感じがしました。ジャズやお酒、時には筆者の空想の世界が俎上に上がっています。 頭を休めるのに良い本ですね。筆者の他の作品の人物も登場しますよ。04/10/01 ★★
285 バッテリー あさのあつこ 題名は野球で言うバッテリーの事。天才ピッチャーの主人公が、家の事情で強い野球チームとは疎遠の片田舎へ。 そこで、女房役となるキャッチャー豪と出会い、様々な経験を得ていきます。 野球などやめて欲しいと思う大人の事情。子供のプライド。気持ちをうまく伝えられない事のもどかしさなどが ストレートに書かれていて、誰が読んでも何かしら共感を得る処があるのではないかと思いました。野間児童文芸賞受賞。04/10/01 ★★★
286 バッテリーU あさのあつこ 中学生になった功と豪のバッテリーは念願の野球部に入部。そこで様々な人間と衝突します。 自惚れ屋で勝気な功にどう対処すべきか思い悩む豪。ここで野球をしたいのなら多少理不尽な事でも先輩や監督に従わねばならない。 しかし、それが納得できない功。どう言えばその現実を解ってもらえるのか。 読んでいてもどかしくさえ思う綺麗事抜きの展開に、人間関係の本質を考えさせられます。日本児童文学賞協力会賞受賞。04/10/19 ★★★
287 裸足の1500マイル ドリス
 ピルキングトン
1931年。オーストラリアへ入植したイギリス政府は先住民アボリジニの混血児を家族から引き離し 強制的に白人社会に適用させようとします。三人の少女は引き離された母親に会いたいという一心で収容所を脱走。 着の身着のままで1500マイル(約2400km)の砂漠を歩きはじめます。この大陸横断を「ちょーっと長い旅行だったわね」と著者(娘)に述懐する 84歳のモリーですがそれは言うまでもなく命がけの旅路。命を賭して母親との再会を果たした脱走児に対し、当時それを追っていたアボリジニ保護局官他、 多くの警察官達が上層部に「手がかり無し。もう捜査のしようがありません」と報告を上げています。二度感動しました。04/10/20 ★★★☆
288 音楽 三島由紀夫 主人公の精神科医が不感症を訴える女性患者の虚言壁やヒステリックについて治療を進め、その原因が 兄との近親相姦の記憶にある事を突き止める、と言うお話。内容がどうと言うより、文章力の巧みさで 物語に引き込むといったある種の凄みを感じました。構成が良い意味でミステリアスです。04/10/21 ★★★
289 伊豆の踊子 川端康成 事の一部終始を繰りぬいて書いたような感じがします。著者も物語と同じく学生時代伊豆へ行き旅芸人と知り合っており 後10年伊豆に通いつめている事から、当時の自分の心境を書き記したものなのではないかと思いました。 68年にノーベル文学賞受賞。その4年後、逗子でガス自殺を遂げています。04/10/22 ★☆
290 かまいたち 宮部みゆき 城下町に起こる怪奇な事件を画いた時代物ミステリー短編集。起承転結が巧くまとまっているので気持ちすらすら読めますが 読後感にもう少しその奇怪さを残してもよいのではないかと思いました。04/10/26 ★★☆
291 顔のない肖像画 連城三紀彦 短編集。人の情緒と謎解きのひと捻りがとてもうまく噛合っていて、しかも読みやすい。 氏の本をもっと読みたいと思った1冊。凶悪犯の虚をついた数々の結末に圧巻です。お勧めは「ぼくを見つけて」04/10/27 ★★★☆
292 和解 志賀直哉 父親との不和と和解を書いたもの。文章の写実性及び客観性のせいか固い印象のみで終わってしまいましたが 筆者の回想記でもあるようなので、自分のために書いたと言うのならそれもまた頷けます。04/10/28
293 いくつもの週末 江国香織 夫との結婚生活を綴ったエッセイ。文章は涼やかで面白いのですが「なぜ結婚したかと言うと自分用の男が欲しかったら」 「私をもっと甘やかして欲しい。寛大さなんて片方が持っていればいい」など、そのわがままを非難すべきか それとも、その正直さを賞賛すべきか戸惑うところがあります。04/10/28 ★★
294 ビルマの竪琴 竹山道雄 中一の時読んだのですが再読。戦争捕虜となったみんなの不安や祖国帰還への希望。 戦争の何たるを見てしまった水島上等兵の辛辣な想い。人間の憂いや複雑な心情を万人にわかる言葉で語ってくれます。 テーマは重圧ですが暗いとか辛いと言った本ではありません。毎日出版文化賞、芸術選奨文部大臣賞受賞。 昭和22年「赤とんぼ」という子供雑誌に掲載されていました。本当は童話だったとは知らなかったです。04/10/29 ★★★
295 哀しい予感 吉本ばなな 自分には幼い頃の記憶が無い。私には本当の両親がいるのではないか。 音楽教師の叔母に感じたインスピレーションをきっかけに主人公は自分探しを始めます。 ずっと弟だと思っていた男との恋愛や教師と生徒とのそれなど禁断の愛も俎上に上げていますが 描写に卑猥さが無く、語弊を恐れずに言えば乙女チックでした。04/11/02 ★★★
296 ナイチンゲール 長島伸一 クリミアの天使と呼ばれたナイティンゲールの物柔らかな虚像を拭い去り、人間フロレンスをありのままに語った一冊。 「戦争の真の悲劇とは兵士が死ぬことではなく人の心に不衛生と不道徳が蔓延ること」 フロレンスはたった一人で正しいことをしようとし、軍や国にそれを訴え続け失敗と挫折を繰り返します。 やがて時代が彼女に追いつき、数々の名誉勲章を得た老女フロレンスに意識があったか否かは誰もわからない。 「墓石にはF・Nとだけ記してほしい。私は死んでまで人に憶えていてもらいたくはないの」 “鉄の意志”という言葉の代名詞にさえなった彼女のこの遺言には言外に語るものがあります。04/11/04 ★★

Last Up Data : 2004/11/05

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