BOOK-5
Present BY Kasumi Yahagi


[順不同。これは霞美の個人的な評価です]

本の題名 作者 霞美の一言メモ 5星評価
212 O・ヘンリ短編集(T・U・V) O・ヘンリ 興味深い本でした。物語の主旨が人生によくある皮肉と諧謔に終始一貫していて また、それら全てが物の見事に的を得ていて安っぽくありません。純粋に楽しむこともできるし 深く考えさせられるものもあります。難を言うと、彼独自の多彩な比喩が頻繁且つ長めに用いられているため、しっかり読まないと混乱するかも。03/11/19 ★★★☆
213 桜さがし 柴田よしき ミステリー3割、恋愛7割。「男女4人物語」と改題できてしまいそうな内容で、ありがちと言えばありがち 特別と言えばそう呼べる、それぞれの恋愛とその旅立ちが画かれています。03/11/25 ★★☆
214 暗黒童話 乙一 とある残酷な童話に因んだ殺人事件。その真相を追う事となった、記憶喪失の少女。 記憶が戻らないことへの不安と周りの無配慮な期待に悩みながら、今の自分と過去の自分との 狭間で、少女は思うようになります。 いづれは記憶が戻り、今の自分が本当の自分ではなかったと気がついたとしても、私は 今この時の自分を忘れたくはないと。わかるような気がしました。03/11/28 ★★★
215 六番目の小夜子 恩田 陸 「サヨコ」とは、学校によくある「トイレの花子さん」的な偶像。 その影を臭わす一人の美少女転校生を鍵に物語りは進行します。 いきなり竜巻発生とか凶事に野犬が味方したとか少々突飛な展開もあますが、 そのトリックがどうとかミステリーとして云々と言うより、学園ものとして面白い本でした。03/12/2 ★★★
216 最後の伊賀者 司馬遼太郎 短編集。中でも与謝野蕪村とその弟子のお話が感慨深かったです。 無欲にあり、民衆に寄添って絵を描き続けた蕪村と、彼の死後、所謂王宮絵画へ 路線変更して行った弟子の呉春。蕪村の絵は民衆の間で安く買われ、呉春の絵は名家で高く買われた。 呉春は冨と名誉を得たのに対し、蕪村は生涯栄達を求めず貧しかった。 しかし、今日において蕪村の名は神聖視されているのに対し、呉春の名は無名に近い。03/12/5 ★★★
217 黄泉がえり 梶尾真治 甦った死者が愛する人の元へ帰って行き、やがてまた黄泉へ去っていくという切ないお話。 個人的にもの足りないと思ったのは、命には終わりがあるからこそ人は限りある時を大切にし 精一杯生きるのではないかという、今を生きるべく私達へのメッセージが稀薄だったところです。03/12/10 ★★☆
218 やがて哀しき外国語 村上春樹 アメリカで生活してみて、そこで感じたことを率直に語ったものです。 村上氏にしては以外にストレートな表現が多々あって、アメリカがどんなところなのかを知りたい という方にもお薦めできそうです。03/12/16 ★★☆
219 コンセント 田口ランディ この本を貸してくれた人が「ご飯食べながら読みたくない本」と評したのは、かなり的を得ていると思います。 そういう文体が目に付く本です。性の描写も汚いのでお薦めはしません。03/12/17 ★☆
220 放課後 東野圭吾 江戸川乱歩賞受賞作。思春期の女の子の繊細な心情を上手く用いた作品。 物語りの結末に触れますが、女子高校生ならではの犯行動機それこそが、この本の凄みと言えそうです。03/12/24 ★★☆
221 変身 カフカ 朝、目が覚めると自分が大きな昆虫に変身していた。戸惑う人々を主人公の視点で生生しく描きます。 筆者も認める所訴えるものはありませんが、その息使いを感じるリアルな文脈にぞっとします。03/12/26 ★☆
222 アームストロング砲 司馬遼太郎 幕末の動乱を背景にした短編集。足狙いの名派剛柔流と対決する天然理心流沖田総司の思索と開眼。 佐幕も勤皇も無く中立を守り続け、只管に藩の近代化を図った佐賀宇和島藩の動向など興味深かったです。04/1/7 ★★★
223 張込み 松本清張 松本清張傑作短編集第五段。誰が犯人なのかではなく何故その事件が起こってしまったのかが 物語の枢軸となっています。人の心の内に訴える所の強い、お薦めの一冊です。03/1/14 ★★★☆
226 花神(上・中・下) 司馬遼太郎 薩長軍を総指揮、彰義隊を打ち破って明治維新を完成させた大村益次郎の伝記。 特に面白かったのは前半。外国人医師シーボルトの娘、イネと大村の友達以上恋人未満な 嬉し恥ずかしいやり取りが微笑ましく、かなり笑えました。常に感情を表には出さず、冷静沈着。卓越した頭脳。 しかし、その手の阿呆は婦人と寄りそうに「男には性欲があります」とか説明を始めちゃうアイタタな人。 “花神”は中国語で花咲爺の意です。04/02/06 ★★★
227 深い河 遠藤周作 筆者がキリスト教徒という事もあってか宗教色の濃い作品です。 日本よりインドへ向かう旅行客の一団。人それぞれが己の人生を振り返りつつ、その異国の地に思いを馳せます。 そして、自分の過去において見出す事のできなかった結論を、インドの悲しい現実に垣間見ていく。 テーマが重圧なので、評価を灰色の読後感のみに委ねると罪悪感さえ感じますが、しかしどうでしょうか。 この読後感の意味するところは、そこに書かれた物事の善悪を理屈で並べ立てたところで どうにもならず、またそれ以上でもそれ以下でもない気がしました。04/02/10 ★★☆
228 青空のむこう アレックス・
 シアラー
姉と喧嘩別れしたまま交通事故で死んでしまった幽霊の少年が主人公。 死者の行く先“青空のむこう”へ旅立つ前にもう一度この世に戻って姉に会おうと決意します。 そして少年は、自分がこの世からいなくなるという事の夢想と現実を垣間見る事に。 死者の持ち得るその現実的な視点に、ある種の儚さを感じました。04/02/13 ★★★
229 宇宙のかたすみ アン・M・
 マーティン
主人公は11歳の内気な女の子。何気ない日常に憂鬱していたそんなある日 自分に精神障害を患った21歳の叔父がいることを知ります。 子供のように喜怒哀楽を露わにする叔父。君は宇宙の一部で、その宇宙のすみっこをめくって見る。 そんな叔父の言葉に少女は未だ見ぬもう一つの自分の世界を見つけようとします。 また、本書は読者への勇気ずけとは別に、筆者自身も同じ境遇にあってか 障害者に対する世間へのメッセージ性も高いです。ニューベリー賞とオナー受賞作。04/02/17 ★★★
231 冬のソナタ(上・下) キム・ウニ/
ユン・ウンギョ
韓国のドラマ「冬のソナタ」を小説にしたもの。韓国では社会現象とまでなり日本でも話題を呼びました。 ドラマは見たことありませんが(今現在)、本はもう恥ずかしすぎてまともに読めないくらいストレートな純愛物語。 記憶喪失とか美人のライバルとかカンチガイとか教会から恋人救出とか、雪山、遭難、二人っきりなど、赤面必至なシチュエーションが大盛り汁だく。 きっと、好きな方にはたまらない。04/02/24 ★★★
232 黒のトリビア 新潮社
 事件取材班
題名通り本当に真っ黒な内容。死体で石鹸が作れるとか、焼死体はファイティングポーズを取るとか。 そういう趣向があるなら話は別ですが、道徳を持って冷静に読んだなら、後味の悪い本だと思います。04/02/25 ★☆
233 赤毛のアン モンゴメリ 舞台となるのはカナダのプリンス・エドワード島。空想力に秀でた感性豊かな少女アン・シャーリーと、その里親となった 中年の兄妹、マシューとマリラの物語。「もう、アンがおもしろ過ぎ!」意外の意見をここに一つ。 この作品が不朽の名作と呼ばれる所以はマシューとマリラの抱える現実を、歳行けば誰もが感じる生きる事への不安や苦渋を ありのままに取り入れたからではないでしょうか。 アンの保護者となるのだから自分がしっかりしなければいけない。そう気丈に振舞うマリラですが、そう振舞っては見せても アンが怪我をしたり、自分の身長を追いこしたり、進学して町の学校へ行ってしまうそのたびに、台所の陰に隠れて一人泣き崩れる。 多くの人がそんな彼女の心境にこそ、共感を覚えたのではないかと思います。 そして、物語りの切ないラストは、筆者モンゴメリが読者もしくは自身に語りかけるべく必然だったのかも知れないと、そう感じました。04/03/04 ★★★☆
234 アンの青春 モンゴメリ 勉学、教育、村落改善会の運営など、よりいっそう活動的になった16歳のアン。 相変わらず失敗と空想癖の抜けないアンですが、成長するに従い彼女は空想に現実を噛合せるようになって行きます。 女性の人権と自立についてやアメリカ人を嫌うセリフは1900年代初頭の、カナダの社会背景を加味してのことか 所々にそれが見うけられました。今回も鼻を染めたり人様の牛を売ってしまうなどアンはやってくれます。04/03/11 ★★★
235 駅路 松本清張 松本清張傑作短編集第六段。子供が巣立ち仕事も定年を迎え、配偶者としての使命にある種の終焉を迎えた時 人は余生と言う掴み所のない未来と否応無しにも向い合うこととなる。 本書はその真相を悲しい程に穿っていて、人生の辛酸を知った者にしか書けない筆者の渋みを感じました。04/03/23 ★★☆
242 キノの旅(T〜Z) 時雨沢恵一 後輩と弟に薦められ、その弟に借りて読んでみました。本はカバーや挿絵がアニメチックなので中高生向けに見えるのですが その内容は読者層を問いません。善や正義の本質を冷静に捉え、その真意をブラックユーモアに喩え画くやり方は O・ヘンリ短編集を思わせました。お薦めは二巻の「帰郷」「優しい国」。04/02/29 ★★★
243 白夜 ドストエフスキー なんとも煮え切らない恋物語です。彼の作品は歴史乃至社会的風説が練り込まれていると言われています。 そういったものを読み取れたならよかったのですが、私にはさっぱりでした。04/03/24
244 フランケンシュタイン メアリ・シェリー 若き博士フランケンシュタインの作った怪物のお話。私が思うに、この化物は何ら私たちと変わらない。 化物はフランケンシュタインを追い詰めて問います。 「お前は私を悪魔悪魔と言うが、私だって誰かを助け愛されたいと思っている。実際、私は森で子供の命を救った。 なのに人間のこの仕打ちはどうだ。何をしても、私は誰からも愛されず理解されない。 何もしていないのに槍盾を持って追い回されれば、憎しみも生まれよう。それは、俺の心が醜いからなのか? 人間ならどんなに裏切られても俺のようにはならないと言うのか?」04/04/02 ★★☆
245 或る「小倉日記」伝 松本清張 松本清張傑作短編集第一段。とにかく切ないです。それは、過ぎた恋を安息の地で語るような 淡い切なさではなく、どうにもならない現実に涙を浮かべるようなもの。 人生とはなんであろう。幸せとはなんであろうと、深く考えさせられるものがあります。 第一話『或る「小倉日記」伝』は芥川賞受賞。04/04/23 ★★★☆
246 失はれる物語 乙一 角川出版の「さみしさの周波数」「失踪HOLIDAY」「きみにしか聞こえない」より 編集された乙一短編集。最終話「マリアの指」のみ書下ろし。この一話を読みたいがために買ッチマイました(KILLBILL風)。 筆者のらしさがよく出ていました。期待通りですね。04/04/23 ★★★☆
247 朝霧 北村薫 ストーリーは、私と円紫さんシリーズ「六の宮の姫君」の続編的な運び。 確かに面白い本ではありましたが、文学的知識もしくはその世界の常識を読者に求め過ぎているように感じます。 それを責める事は出来ませんが、読者層を狭めてしまうと言う事実も無視できないでしょう。 筆者は相当なビブリオマニアですね。04/04/26 ★★
248 街の灯 北村薫 舞台背景は昭和七年、帝都東京。主人公の御家に雇われた女性運転手、別宮氏ことベッキーさんとの 謎解き物語。謎解きに銀座八丁目に並ぶ夜店の陳列順序が関ってくるのですが、あとがきによると その順列は調べにしらべて史実通りに画いたのだそうです。すごい凝り様。ベッキーさんは中々魅力的ですよ。04/04/29 ★★☆
249 動機 横山秀夫 斬新な警察小説。とは言っても、読むに難解な業界用語や知識が必要というわけではありません。 筆者が新聞記者であったことも大きいと思いますが、万人わかる文章で特異な世界を書いています。 まるで平成の松本清張。人には心があるからこそ事件は起こるのだと言う筆者の気持ちも伝わってきました。 「動機」は第53回日本推理作家協会賞(短編部門)受賞。面白いです。04/05/06 ★★★☆
250 陰の季節 横山秀夫 警察人たる清らかなイメージの内部に潜む、人間の生臭さを巧妙に画いています。 綺麗事だけではやっていけない警察組織というもののジレンマも感じました。短編「陰の季節」は第5回松本清張賞受賞。04/05/10 ★★★
251 不知火海 内田康夫 内田康夫作品初めて読みました。実際に九州八代へ取材に行ったんだなと言うのがよく伝わって来て、 その点は申し分無かったです。文章も読みやすくファンが何万人いるというのもなんとなくわかります。 ただ、人物の性格や心の描写に物足りなさを感じました。その人がどういう心理にあってそういう考えに至ったのか、 しっくりこない点がいくつかありました。「そう言うことだったのか」だけでは胸で得るに不満です。04/05/14 ★★★
253 ゲノムの方舟(上・下) 佐々木敏 軍事。医学。法律。三つの専門的知識が多分に取り入れられたパニックノベル。 あまりに多くの軍事用語やその歴史が頻出するので、これはマニア向けの本だろうかと勘繰ってしまいました。 本の後には数ページにも渡って「注釈集」たるものがついているほど。 しかし、テロの目的が「未来の地球のために人口を減らす」というのはどうだろうかと。 軍事モノが好きは人は別の意味ではまると思います。04/05/20 ★★★
254 そして誰もいなくなった アガサ
 クリスティー
恐かったです。無人島に招待された十人の男女が次々と消えていく。古い童謡に因んで繰り返される殺人。 犯人はこの中の誰なのか。それとも11人目の殺人者がこの島に存在するのか。 明日殺されるかも知れないという状況におかれ、人は各々忸怩の念にかられて行きます。 ラストはもう犯人が手を下すまでもない、殺される者の心の内で完成されて しまった死。それは、最も恐ろしい人間の死の形でした。04/05/24 ★★★☆
256 夏草の賦(上・下) 司馬遼太郎 四国の覇者、長宗我部元親の伝記。四国を征するまでは敵無で血気盛んに行動する元親ですが 本州より押寄せる豊臣政権の巨大な軍事力に已む無く降伏。百戦練磨の元親が唯一勝てなかったその一勝が元親の運命、 そして人間を大きく変えてしまう。盛者必衰の憐れみを思う一冊でした。04/05/30 ★★★☆
257 象徴の設計 松本清張 明治初期。帝国日本の軍隊設立に努めた山県有朋の伝記。有朋の生き様や生立ちにはあまり触れず その設立においてどうあったかを時勢や資料の引用にて追って行きます。これがかなり解りずらく読みづらい。 引用されている古語の説明もないので読んでいて疲れました。反自由主義的発言もちょっと出てきます。04/06/04
258 村上朝日堂 はいほー! 村上春樹 日常で感じたことを只管に綴ったエッセイ集。 一つ面白かったのは「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く?!」という看板に対する筆者の反駁。 日本は決して狭くない。サハラ砂漠とかそういったところと比べれば狭いかも知れないけれど 山手線だって降りたことのない駅が沢山あるし、そもそも急いで何が悪い?余計なお世話だと、延々。 その看板の主旨は心のゆとりを訴えたものだと思うのですが、なるほど。この手の看板を 彼の様に実質的に見る人もいるのだなぁと、ちょっとおかしくなりました。03/06/09 ★★★

Last Up Date AD2004/06/09

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