Present BY Kasumi Yahagi
数
本の題名
作者
霞美の一言メモ
5星評価
166
クモンの空
吉原幸子
(絵)味戸ケイコ
童話というよりは詩的な散文に近く、全てのお話に「死」が関ります。一方的な暗さではありませんが、現世の辛酸を舐めるような展開にあって
筆者もこれを大人向けの童話とあとがきに書いています。生は死という集結に向かって何を成し、どう在るかを考えさせられました。03/06/01
★★☆
169
関ヶ原(上・中・下)
司馬遼太郎
合戦関ヶ原は、西軍石田三成と東軍徳川家康の権謀より、諸国府大名達の本性を露呈させた乱と言えそうです。
そして、合戦の行方は、粗方この二つの人格にのみ起因していたのかも知れないと
特に、人間石田三成を読んで思いました。ラスト、落延びる三成を助けようとした農夫と三成の関係に心うたれます。03/06/24
★★★
170
さみしさの周波数
乙一
北村薫のファンサイトに面白いとの意見があって読んでみました。実際面白かったです。
四つの短編はどれも切ないものばかりで、確かにどことなく北村薫の雰囲気があると言えるかも知れません。
書店で“切ない”を売り文句とされている本多孝好とも比較できそうですね。最終話はちょっと切ないも過ぎるかな。03/06/26
★★★☆
171
きみにしか聞こえない
乙一
どれも不思議なお話です。現実離れした設定故に結末も楽観的にできるはずなのに、筆者はそれをせず
「それでも、人の心だけはどうにもならないんだよ」と、迂遠に綴る。最終話は文のトリックに吃驚です。03/06/30
★★★
172
失踪HOLIDAY
乙一
「わたしは殺されたけど、この世界が好きだよ」
気持ちの整理もつかないままに、私を不確に涙させたのは、第一話に描かれた死者からのこの手紙。
第二話では、血の繋がらない娘へ綴る父親の至純な想いに。ストーリーの起承転結以上に、その気持ちの表れに心動かされました。03/07/03
★★★★
173
中国行きのスロウ・ボート
村上春樹
やはり、よくわからない面白さに惹かれてと言ったところでしょうか。
「我々の日常生活はほとんど意味のない些細な動作の集積で成立している」という理論が面白いという人には
向いていると思います。しかし「ホントのことしか言わない」という嫌味とぶつかりあったら、根も葉も無くなりそうな気がします。03/07/07
★★★
174
回転木馬のデッド・ヒート
村上春樹
村上氏本人が実際に人から聞いた話を文章として結晶させたもの。だから、これは小説ではないと予め
断りが入っていますが、読んだ感じ他の小説とさしてかわらず。ただ、これは実話だという意識があるので
その分興味深く読めたと言うところがあります。03/07/08
★★★☆
176
十一番目の志士(上・下)
司馬遼太郎
宮本武蔵流祖・二天一流の使い手、天堂晋介が高杉晋作に見出され、幕末の動乱を暗殺者として
駆け巡る快活話。高杉他、坂本、西郷、近藤・土方、小栗等、歴史の主要人物に触れつつ語られる様は
飽きを感じさせません。ラストは今一つでしたが、この物語を楽しむに差し支え無いでしょう。03/07/23
★★★
177
幕末新撰組
池波正太郎
池波正太郎、初めて手に取りましたがとても読みやすくて面白かったです。
主人公は新撰組を語るには珍しい副長助勤の永倉新八(筆者がファンらしい)。
隊の凝り固まった理念とは裏腹に、物事に拘らず快活に生きる新八の生き様は
生きる事自体を茫漠に捉える私達現代人にとって、羨ましい程かも知れません。03/07/27
★★★
178
夏と花火と私の死体
乙一
16歳でこれを書いたというのだからびっくり。理屈抜きで面白かったしお話も本当によくできています。
全く予想だにしなかった結末に唖然、驚嘆。ただ、あくまでもホラーなので本作に道徳を求める事はできなそうです。
乙氏デビュー作。第六回ジャンプ・小説ノンフィクション大賞受賞。文庫の解説は小野不由美氏。03/07/29
★★★☆
179
暗いところで待ち合わせ
乙一
ある日、何者かが目の不自由な女性の暮らす一軒家に忍びこむ。彼女に悟られぬようそこに潜み住む若い男。
彼女は男の存在に気がつき、男は彼女に自分の存在を悟られている事に気づく。
しかし、あての無い日常という海を漂流していた二人はその沈黙を破らず、いつしか闇の中で手を取り合うようになっていた。
私は何故この二人の関係をこんなにもいとおしく思ったのか、実はよくわからないでいます。03/07/31
★★★★
180
死にぞこないの青
乙一
子供の視点で描写される“学校の先生”はあまりにリアルで、
これは乙一氏の辛辣な記憶の一部なのではないかと勘繰ってしまうほど。
一見、人気とやる気を漲らせた若き男性教師。
しかし、この男は人気を得るために叱責の対象を一人に定め、ダメ人間の象徴を主人公の男の子に
作りあげてクラスを統率していた。それによって完璧な先生で有りつづけたこの男の末路とは。
また、後に出てくる失敗ばかりの新米女性教師の可愛らしさ、人間的魅力はどうだろう。「先生だって人間だもん」03/08/02
★★★
181
マリア様がみてる
今野緒雪
キリスト系のお嬢様学校が舞台で挨拶は「ごきげんよう」。
この学園にはスールという摩訶不思議なシステムがあり、上級生は好きな後輩と擬似姉妹の関係を結び
マンツーマンでいろいろ面倒を見ている。これは学園内の風紀や規律も生徒達の自主性に任せようというもの。
主人公の裕巳が憧れの先輩祥子にスールの申入れをされ、もう私どうなっちゃうのかしら♪というお話。
割切って読んでも赤面ですわね。おほほほほ。03/08/04
★★☆
183
王妃マリー・アントワネット
(上・下)遠藤周作
政略結婚でオーストリアより十四歳でフランスに嫁ぎ、革命によって断頭台の露と消えた悲劇の王妃マリー・アントワネット。
フランス最後の王、ルイ十六世も王妃マリーも元より悪人ではなかっただけに、やはり憐憫の情を抱きます。
フランス革命の犠牲者は革命前よりその後に多く出ている(恐怖政治)。怒りや暴力はどう装飾しても狂気としかならず、正しき者をも狂わせてしまうのですね。03/08/12
★★★☆
184
小川未明童話集
小川未明
“赤いろうそくと人魚”で有名な小川未明。文体に昭和初期の風を思わせる、傍で優しい翁が
本当に語っているかのような暖かさを感じました。昭和24年当時に書かれたあとがきにも注目して下さい。03/08/14
★★☆
185
天帝妖狐
乙一
悪しき妖狐との契約によって人の形を失い、行く末見失った一人の男。
ある日、そんな彼に救いの手がさし伸ばされる。
人の優しさを受けいれながらも、その幸せを失った時の絶望を恐れ、自制する男が呪いの終焉に垣間見たものとは。
信じよう。どんな苦難も、暴力も権力も。人の心までも挫くとはできない事を。03/08/18
★★★
186
平面いぬ。
乙一
「石ノ目」「はじめ」「BLUE」「平面いぬ。」の四篇を収録。背表紙に“ホラー”とあるのは言い過ぎかな。
四編どれも心に訴える物語で、中でも「BLUE」には号泣。まるで、切ない童話を読んでいるようでした。03/08/21
★★★☆
187
秘密
東野圭吾
確かに面白いとは思いましたが、どことなく想像していた儚い結末が辛かったです。
考え様によっては残酷な話だと思いました。男性と女性とでは、その感想も別れ易いところでしょう。
第52回推理作家協会賞受賞作品。映画「秘密」藻奈美役、広末涼子氏の寄稿収録。03/08/26
★★★☆
188
蛍・納屋を焼く・その他の短編
村上春樹
村上ワールドの特色ですが、多作品の内容がそのまま内包された短編でした。
因みに「蛍」は「ノルウェーの森」よりその内を引用。感想は茫漠な、要するにまったりした本でした。
珍しくあとがき有り。03/08/28
★★☆
189
分身
東野圭吾
「たとえ遺伝子で繋がってはいなくても、やはり彼女は君の母親だった」
これを伝えたいがための物語であったと言っても良いのではないでしょうか。
ラストシーンでは、どことない概視感を抱いたせいか、とても儚い気持ちになりました。
話の主軸にクローン技術が置かれているのですが、この本の初版がクローン羊発表前の93年9月ということで
時代を先取りした作品であったと言えるでしょう。03/09/02
★★★★
190
変身
東野圭吾
自信作だったのにあまり売れず、似たようなサイエンスをテーマにした「分身」が
売れたのはどういうわけかと東野氏。私はニ冊を読んで、その理由が解る気がしました。
人間の生死とは何かを問うより前に、触れるべき“心”についてを、本作は若干言い逃しているように思えたからです。03/09/05
★★
191
パラレル
ワールド・ラブストーリー東野圭吾
ドラマとしては文句のつけようがないのに、何か一つモノ足りないような感がありました。多分、筆者の真意が
書かれていないか、もしくは私が読み取れなかったからだと思います。03/09/07
★★☆
192
白夜行
東野圭吾
860ページある厚い本。1973年から1992年までを舞台にした長編ミステリーです。内容が暗いのはいいのですが、
私には精緻な構成以外にじっくり読むべくシーンがありませんでした。各節ごとの時代描写は感嘆するくらい
巧緻に書き上げられていますが、人の心のそれについてはどこか茫漠としていました。03/09/11
★★
193
月曜日の水玉模様
加納朋子
OLの主人公が日常のちょっとした謎を解き明かしていくプチミステリーもの。
ニュアンスとしては北村薫に近いかな。
偶然の過ぎる設定も変に技巧的でなく、素直に感じ入る事のできる文章にどことなく安らぎました。
読んでいて気持ちのいい本ですね。03/09/12
★★★
194
冷静と情熱のあいだ Rosso
江国香織
主人公の女性が人間的魅力に欠けていて、そこに伴い物語に興味をそそられませんでした。
彼女は恋に苦しむ以外のところで妙に理屈っぽく、なのに淡白が過ぎていて、受け入れずらかったです。03/09/17
★☆
195
冷静と情熱のあいだ Blu
辻 仁成
Rossoのあおいよりは幾分好感の持てる主人公で、お話の主旨もこちらの方が前向きに捉えることができます。
とは言っても、私にはちょっと手を持て余す本でした。(BluはRossoより少し未来で二つの物語を結びます。読むのなら
江国氏のRossoを先に読んだ方がいいです。)03/09/19
★★
196
ふたり
赤川次郎
死んだ姉の声と共に数々の苦難を乗り越える主人公実加の物語。
失ったものを不器用ながらも一生懸命に拾い集める家族。そして、もう一度結んだ絆。
紹介文に“青春ファンタジー”とありますが、それ以上ものがあると断言していい作品だと思います。
この本を紹介して下さったりおさんに感謝して、ありがとう。03/09/21
★★★★
198
壬生義士伝(上・下)
浅田次郎
主人公の吉村貫一朗が筆者の考える武士道観にかっちりとはまりすぎていて、人間的リアルさに欠けて見えてしまったのが残念。
お話に居りこまれた新撰組龍馬暗躍説は興味深かったです。03/10/01
★★☆
199
ZOO
乙一
短編集です。最初の三作を読んだ時点で人にお薦めしたくなりましたが、後半が相反してかなり恐かったので
思わず憚ってしまいました。「SEVENS ROOM」は、ここまで読んだ来た本の中で一番恐かったです。
まるでスティーブン・キングのホラー映画。一番のお気に入りは「陽だまりの詩」かな。03/10/06
★★★★
200
光の帝国
恩田 陸
所謂、超能力者たちの物語。私には不思議な現象が技巧的に書かれていること以外に汲取るモノが少なくて
この話の云わんとする所がよく理解できませんでした。既読感もそれを手伝っているかな。03/10/08
★☆
203
“It”(それ)と呼ばれた子
幼年期/少年期/完結編デイヴ・
ペルザー
幼児虐待の告白話。いつかは、どこかで語られねばならない現代の悲劇であり、それを機敏に感じて
この悪夢を今一度思い起したデイヴ氏の勇気には敬意の念を抱きます。
「辛いから、暗そうだから嫌だ」と気になりながらもこの本を読まないでいる方。
決して辛い、暗いだけの本ではないので読んで見て下さい。03/10/16
★★★☆
204
ある閉ざされた雪の山荘で
東野圭吾
ミステリーの王道アガサ・クリスティーをなぞったような作品でした。
ちょっと嫌な感じの主人公ですが、ラストでその埃も掃われると言うところが良かったです。03/10/20
★★☆
205
もう一度デジャ・ヴ
村山由佳
輪廻転生に繰り返される人と人との巡り合わせの物語。
ミステリーとしては今一でしたが、物語の主旨を思えば無理に驚愕の真実を用意する必要もないし
、言わんとする事のまとめ易いお話です。03/10/21
★★☆
206
GOTH 〜リストカット事件〜
乙一
ホラー、サスペンスとしては良く出来ていると思いましたが、この本から得られるものを考えてみると、今一歩という感があります。
登場人物は森野 夜と言うキャラクターが結構良い味を出していて、ある意味主人公より魅力的。
この本はとにかく人間を切り刻むので苦手な方は読まない方がいいかも知れません。03/10/26
★★☆
208
はてしない物語(上・下)
ミヒャエル・
エンデ
映画「ネバー・エンディング・ストーリー」の原作。映画は元祖が上巻、パート2が下巻を映像化したもの。
原作を読んで改めて、パート1は本当に良く出来ているなと思いました。原作ではアトレイユの愛馬アルタクスが
人間と同じように話をしたり、映画とは違った温かみを感じます。
映画で極めて聞き取りずらい、バスティアンが嵐に向かって叫ぶ女王の名前は「モンデンキント(月の子)」。
映像では「ムーン・チャーΩ〃Φ♀∞…!!」と叫んでいますが、ドイツ語“モンデンキント”を英語読みした
ものと思われます(かすみ推断)。この本は児童書として扱われていますが小学生には難しいです。中学生以上かな。03/10/31
★★★
209
フジ子・ヘミング
魂のピアニストフジ子・ヘミング
フジ子・へミングの自伝。長い海外滞在もあってか、文が些か覚束無かったりしますが
伝えたいことを虚飾無しに語ろうと言う至純さを感じます。
異人差別や心貧しきエリート達の嘲笑と嫉妬に苦しみながらも、それでも純粋に音楽を愛し続けた悲運のピアニスト。
媚び諂いに形成される音楽界の一部の驕慢に疑問を投げかけた一流ピアニストは、私の知る限りでは彼女しかいない。
絵や居合の世界にも色濃く依存する陋習ですが、それに染まらなかったからこそ、彼女のピアノは人を惹きつけて止まないのだと思う。03/11/04
★★★