私は生後まもなく川の辺に捨てられて、あと数分遅れていたら泥水に飲み込まれてしまうところを行きかけの修道女に救われました。
病院に運ばれた私は、洗浄、酸素吸入、輸血などの手当で一命を取りとめます。そして、身寄りの無い私をその修道女は引き取ったのです。
そこには私のような子供がたくさん暮らしていました。きっと、この人が同じように助けて来た子供達なのでしょう。
その人はいつもみんなに平等で、私にもよく腰をかがめ幼い自分と視線を同じくして話しかけてくれました。
私がそれに返事をすると「よくできました!」と、その胸いっぱいに抱きしめてくれる。私はこの人を本当の母親のように思い
一度も両親がいないことを淋しがったことはありませんでした。

学校でアクセサリーが流行ったことがありました。
孤児である私には到底手の届かないものと諦めていたら、いつの間にかあの人が私のためにアクセサリーを用意してくれていたのです。
本当にうれしかった。彼女は私に勉強勉強と言うだけでなく、友達ともうまくやっていけるように気を配って見てくれていたのです。
私はこのような暖かい恵みにあって。英語、タイプ、速記の技術を身につけ、ついには一流の商社に就職することができました。

入社の書類に両親の名前を書く欄があって、私は戸惑いました。
両親の名前どころか、私は自分の誕生日さえ知らないのです。鉛筆を持つ手はその個所で固まりそれを不思議そうに見る受付の人。
辛くてたまらなかった。やっぱり私は一人ぼっちなのだと、目を伏せたその時でした。
それを見ていたあの人が私の前にやってきて自分の名前を書いてくれたのです。
「母:マザー・テレサ」。私にはもう、用紙の字もマザーの笑顔も、涙で滲んで見えなくなっていました。