イナリワン

有馬記念の馬券を友達に頼んだ。

もちろん大好きなオグリキャップから。

オグリは中央デビューしてから単枠指定で一度もを外したことがない。

京都から東京へ移動しての連闘で世界レコードを出す脅威の意味は

今ほどの理解はなかったけれど、充分私のスーパーヒーローだった。

テレビの中で走るオグリはなんだかいつもと違う気がした。

でも、勝つんでしょ・・・。

スーパークリークが直線で伸びた。

オグリは?

そのクリークを差しきってイナリワンが勝った。

2点を厚く買っていた馬券はタテ目

馬券を外したのはまだいい・・・ただオグリが連を外すなんて・・・。

イナリワンの首にまかれたの「有馬記念優勝」の襷。

オグリがこれをかけて口取りをするはずだったのに・・・。

私のやるせない怒りの矛先はイナリワンへと向かった。

春の天皇賞、宝塚、有馬を勝ったイナリワンがオグリと争った末に年度代表馬。

オグリは特別賞・・・。

「有馬記念」の襷をかけたイナリワンのぬいぐるみが店頭に並んだ。

春にG1を二つ勝っていながら、スーパークリークが復帰すると迷うことなく武豊に見切られたイナリワン。

「イナリはいんですよ」ジョッキーが苦笑する気性難。

イナリワンなんてキライ。

翌年の有馬記念。

前日退院した病み上がりの私はむろん中山に向かった。

だって、オグリが今日で引退しちゃう。絶対に馬券を自分で買いたかった。

入場規制のなかった最後の有馬記念。

スタンドにはとても出られる雰囲気ではなかった。

どっちみち家でゆっくりテレビを見ようと思っていたからいいんだ。

でも、せっかく来たんだしパドックぐらい行ってみようかな。

スタンドの込みようからはガラリと変わってすいているパドック。

まだ、馬が出ていないのかな・・・。

誘導馬に引かれ一頭だけが周回している。

なんで、一頭しかいないの??

見ている人たちは自分の前に馬が来ると拍手する。

あれ?

引退式に向かうイナリワンだ。

誘導馬よりも一回りも二回りも小さなイナリワン。

こんなに小さな馬だったんだ・・・。

大井から出てきたイナリはオグリと同じ「○地馬」

オグリがいなかったらもっと人気があったかもね。

関西馬優勢の中で頑張ってくれた関東馬。

「ご苦労様っ!」っと所々で声がかかる。

私も一生懸命を叩いた。

パドックに来てよかった。イナリワンをこんなに近くで見られて良かった。

静かな拍手に送られてイナリは最後のスタンドに向かっていった。

誕生日のプレゼントに貰った大きなイナリワンのぬいぐるみ。

そのぬいぐるみには「有馬記念」の襷はなかった。