Rouge

「ありがとう、碇くん」

僕があげた小さな包みを、大切そうに受け取る綾波。

「どうかな?気に入ってもらえるといいんだけど……」

「……開けても、いい?」

ちょっと遠慮がちに訊ねてくる。
僕が笑いながら頷くと、早速綺麗な包装を剥がしはじめる。
とても喜んでいるのが、手に取るように分かる。
すごく、可愛い。

「…これ」

「どう?なんか、こういうの贈るのって初めてで…似合うかな?」

綾波の手には、金色に輝くルージュスティック。
キャップを取って、少しひねり出してみる。
綾波の瞳の色と同じ、鮮やかな、朱色の口紅。

「綾波って、あんまりこういう色つけないけど、きっと似合うと思うんだ」

いつもは、ほんの少し色がつく程度のリップクリーム。
僕と出かける時は、淡いピンクの、控えめな口紅。
どちらも綾波らしくて、似合っているけど。でも、きっとこういう綺麗な色だって、綾波の白い肌には映えると思うんだ。

「…ありがとう。大切に使うわ」

頬を染めて、微かに微笑む綾波。僕には、それが心から喜んでいる証だって分かるんだ。

「つけてみる」

ルージュを手にして、鏡を覗きこむ。

「……ねえ、僕が塗っても、いい?」

驚いた表情で振り返る綾波。ちょっと困惑した表情を見せたけど、すぐに答える。

「……いいわ」

綾波の手からルージュを受け取る。
目を閉じて、僕のほうに顔を向ける綾波。
彼女の細いあごに手をあて、少し上向かせる。
愛らしい唇に、そっとルージュスティックを当てた。
軽く開いた唇が妙に艶めかしい。

ほんの少し、力を込めて、やさしくルージュを唇に塗っていく。
綾波は、頬を桜色に染め、幼い子どものように、僕のなすがままにされている。
閉じられた長い睫毛が、微かに震えている。
ルージュに染まっていく、可憐な唇。
白い肌に、そこだけ鮮やかな朱が浮かび上がる。
いつもとは違う、大人びた表情の口元。

柔らかな感触の、綾波の唇。

僕だけのもの。

綾波の唇を奪った。
急な口付けに驚いて、綾波は少し体を引いたが、すぐに僕を受け入れた。

「ん、んんっ……ん……ふ、ぅ………」

彼女の唇を味わう。ほのかにルージュの味がする。

長い口付けを終えて、彼女から唇を離す。

「口紅、とれちゃったね」

「……もう」

綾波の細い指が、そっと、僕の唇に移ったルージュを拭った。

Fin

[ 感想のメールはこちらへ ]