碇くんちの結婚の事情

プロローグ
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9月23日(祝)

今日は綾波とデートだった。
貴重な休みだ、今日くらいは二人でいないと彼女に愛想を尽かされてしまう。
それでなくとも最近は僕が会社に泊まり込む日が多かったから、十分ご機嫌斜めなのに。
これは一つ、今日のデートで挽回するしかないぞ、とかなり意気込んでデートに臨んだのだ。
それなのに、彼女の素っ気ない態度ったら。
まあ、確かに普段からそういうところのある娘だけど、でも久々のデートなんだ。
なのに、人の話も、レストランの料理も全く上の空。
ちょっとこれまでの彼女からは考えられないような態度だ。
何か今日のコースで気に入らない所があったのか。いや、それならその場で口にするだろう。
そんなに僕が家に居ないのが気に入らないのか。確かにこの所ろくろく電話もしてないけど。
でも仕事なんだから仕方がないだろう。と、言うと怒られるんだな…これが。

……それとも、なにか悩みごとがあるんだろうか。
彼女はなかなか弱音や悩みを口に出さない。例え態度にありありと表れていたとしてもだ。
それは彼女の良い所ではあるのだけど、悪い所でもある。
何だろう。
とにかく気になる。うーん…


9月26日(金)

今日も綾波とデートだった。
前回のデートの様子が気になったから、強引に仕事を空けて時間を取ったのだ。
しかし。
会ったときから顔色がすぐれなかった。
体調が悪いのかと訊くと、否定する返事はするのだが、明らかに具合が悪そうだった。
またしても話は上の空だった。
途中でトイレに駆け込んでいった。
結局、デートは早めに切り上げることになった。
帰りがけにスーパーでグレープフルーツを買っていた。

………えーと、
えらく気になるんですが。どうよ?これ………


9月28日(日)

久々の日曜日。
久々の完全オフ日だった。
綾波は残念ながら出社、一人で過ごす日曜日は何時以来だろうか。
彼女の仕事は、秘書。
それも、国際展開するメガバンクの頭取秘書だ。
仕事振りは優秀らしく、秘書室でも中心的な立場だそうだ。
仕事上守秘義務事項も多いし、あまり外で仕事の話は出来ない。
だから、周囲には「OL」で通しているのだ。
今日は何でも、頭取の自宅でホームパーティーのお手伝いだとか。
大変だよねえ…それも仕事のうち、なんて。
体は大丈夫なんだろうか、この所の彼女の様子から考えると……
今のまま働かせちゃいけない…かもしれないなあ。
………う〜ん


10月6日(月)

………疲れた………
土日もクソもなかった。
月末と半期の締めと先々週無理やり取った休暇がたたった。
先週は何時間寝たんだっけ?
こんな時はつくづく一人暮らしは嫌だ。
ぼろ雑巾みたいになって帰ってきても、待ってるのは暗い、冷た〜い部屋だけ。
飯なんかなくてもいい、起きてなくてもいい、人の温もりさえあれば…
おまけにもう季節は秋。夏なんてなかったのに秋。どこも行かなかったのに秋。
秋風の冷たさに、人肌が恋しい季節………

結婚したい瞬間ナンバーワン。とほほ。

トウジと約束する。今週末は久々に飲みだなあ。


10月9日(木)

急に寒くなったな…と思っていたら、昨日は風邪を引いてしまった。
先週の無理が祟ったのか。
一人暮らしで風邪を引いた時は、冗談ではなく生命の危機だと思う。
布団から起き上がれないほど熱があるのに、薬や食事や水枕を自分で用意しなくてはいけないのだ。
そして、こんな時に限って、冷蔵庫が空っぽだったり、薬が切れてたりするんだ。
何とか会社から帰り着いて、倒れこむようにして床に就いた。
仕方ないので、綾波に電話で助けを求める。
暫くすると、会社帰りの格好のまま、差し入れを持って来てくれた。
額に当てられた彼女の手はひんやりとしていて、気持ちよかった。
そして早速卵粥を作ってくれた。
レトルトのお粥に、薄く味噌で味をつけた溶き卵を入れて作る簡単なものだけど、彼女が匙で掬ってふうふうと冷まして食べさせてくれた。
美味かった。暖かい味だった。
食べ終わった後に栄養ドリンクを飲まされるのは考えものだったが。
誰が教えたのか分からないが、彼女はそれが風邪に効くと信じて疑わないのだから、仕方ない。
その後に桃の缶詰を食べさせてくれた。
「はい、あーんして」
なんて普段だとくすぐったいけど、こんな時は素直に嬉しいし、なんだかほっとする。
汗で湿った寝巻きを換えて、体を蒸しタオルで拭いて、水枕を換えてくれて。
彼女が居てくれて良かったと、しみじみ感謝する。
お陰で一晩寝たら大分良くなった。助かった。
ホントに綾波に感謝、感謝、感謝。


10月17日(金)

風邪の所為で一週間延期になったが、トウジと二人で飲む。
もう二人目の子供が出来たそうで、同い年だというのにすっかりオヤジ面だ。
「小遣いがまた減ってな〜。うちの奴しっかりしとるから、もう手厳しいのなんのって」
やっぱり世帯持ちは大変だなあ…
さて、今日の本題は、最近の綾波のこと。
今や人生の大先輩と化したトウジに、経験者として教えてもらおうというつもりだったのだ。

「……う〜ん、やっぱ、それはそういう事やないんか?」
「…やっぱり?」
「とうとうセンセも年貢の納め時やナ」
「まあ、そうならそういうことだよネ、うん」
「いやあ、お仲間が増えるのは宜しい事や。まあ、経過はぼちぼち報告してえな」
「うん。これからが大変なんだしね、よろしく頼むよ」
そんな会話を取り交わして、それからまた飲み直し。結局かなり飲んでしまった。

いよいよ人生の一大転機到来…かな。


10月22日(水)

先週の日曜日出勤の振り替えで、今日は午後から休み。
一日丸ごと休めないのかとも思うが、まあ仕事があるんだから仕方がない。
綾波と夕食の約束をして、その時間まで街をブラブラ。
まず銀行で通帳を記帳して残高を見る。通帳記帳って、普段なかなかしないよね。
……う〜ん、あんまり貯まってないような。外貨積み立てもしてるけど、最近円高だからなあ。
その後は、ウィンドウショッピング。
宝飾店のウインドウで足が止まる。値札と、さっき見た通帳の数字を照らし合わせて…うわ。
な、なんとかなるかな〜?………
指輪って高いなあ。エンゲージだと尚更だよねえ。
ウロウロした挙句、2,000円のネックレスを買って包んで貰う。プレゼントを買うのって嫌いじゃないんだ。
突然贈り物をした時の表情って、見てて楽しいんだよね。
今回も、びっくりして、それからすごく喜んでもらえた。
よかったよかった。


11月14日(金)

………転勤の内示が出た。
近県なのだが、今の家からでは確実に通勤できない。
年明けからの辞令になるそうだから、すぐにでも新居を探して引越しの段取りをしないと。
いや、それより先に仕事の引継ぎ……
……それより先に、まず綾波に言わなくちゃ。

なんて言うかな……


12月1日(月)

転勤の準備で毎日大変だ。
通常業務が異動までさほど減らなかったので、何時もの倍仕事をしている。
年明けからの辞令が2月に延びたのが不幸中の幸い。絶対無理だよ…
現場の都合ってのも少しは考えて欲しいよ、全く。
こんな調子じゃあ、今年はクリスマスや正月はないなあ。

そんな訳で綾波にはまだ話してません……まずいよね…
向こうの仕事のことだってあるんだしさ。


12月16日(火)

「実はさ、転勤することになったんだよ。」
電話口から、綾波のびっくりした様子がこっちまで伝わってきた。
『…そう、いつからなの?』
「来年の2月から向こうに勤務。それで、家を探さなくちゃいけないんだけどもさ」
『大変ね』
体が心配、と優しい言葉。こういう所が嬉しい。
「綾波にも一緒に見て欲しいんだけどさ、空いてる週末あるかな?」
『そうね…時間を作るようにはするけど、どうか分からないわ』
「やっぱり水周りとか細かいことは女の人の方が分かってるからなあ。綾波も住むんだから、使いやすい物を選んでもらいたいし」
『………?』
「どうせ結婚してからも住むことになるんだろうから、少し広めの家を探さないとね」
『……ええと……』
「ついでに家具なんかも揃えたりした方がいいよね。やっぱり二人用だとサイズも違うしね」
『………待って、碇君』
「うん?」
『さっきから、結婚を前提に話が進んでいるわ』
「ああ!そういえばそうだね〜」
言われてみて、気が付いた。なんとなく話の流れで結婚を口にしていた。
改めて意識すると、急に気恥ずかしさが湧き上がる。
『……私達、結婚するの?』
「…………え、そ、そういうことじゃなかったの!?」
『…………』
電話口からため息が聞こえてくる…



後日改めて、必ず正式にプロポーズすることを、きつく言い渡されました。ハハハ…ハァ。


12月21日(日)

今日は、婚約指輪を買いに出かけた。
とうとうこの日が来た、という感慨と、もう逃げられないぞ、という…
まあ、いつかは買わなくちゃいけないというか、むしろこうして買える事になって良かったよね、うん。
覚悟を決めてショーケースを覗く。給料3か月分の現金も下ろして来た。
…なんか思っていたより色々とあるんだなあ、種類が。
「どのようなお品をお探しですかぁ?」
店員さんに訊かれたって、男がそうそう答えられるわけないじゃん。
仕方ないので、婚約指輪を探しに来た旨を伝えて、何とかしてもらうことにする。
「まあ、おめでとうございます。では、ご予算と、あとお相手の方のサイズは何号ですか?」
…あれ、そういえば指輪のサイズって……?
その場で携帯電話にて確認することに。格好付かないなあ。
店員さんに色々条件を伝えて、幾つか候補を挙げてもらった。
「あとは、お相手の方の雰囲気なんかを基準にお選びになっても宜しいかと」
雰囲気、雰囲気ねえ……う〜ん…
ダイヤがあんまりでっかくない方が彼女の感じかな?
「それではこちらのお品で宜しいですね?」
………ふぅ〜、買っちゃったぞ〜。一仕事した気分だ。

何はともあれ、これでプロポーズの用意はOKだぞ!

テレビで某有名人の結婚披露宴が中継されていた。
まあ、こんなめっちゃくちゃ派手で豪勢なのなんて、僕も彼女も全然趣味じゃないんだけど。
でも何故か、他人事に思えなくって、結局最後まで見た。
まだプロポーズしただけなんだけどな。いや、これからするのか。


12月24日(水)

今日は、とうとう約束のプロポーズの日!イブだし!

………なはずが、結局終電まで仕事、仕事、シゴト!!
綾波に断りのメールを入れる間中、彼女のがっかりした顔が目の前をちらつく…
『私と仕事、どっちが大事なの!?』
なんていう彼女じゃないけど、でも今日は特別な日だからなあ。
うー、申し訳なさで一杯です。
仕事だもん、仕方ないよなあ…くそ。
ちょっとヤケ酒、と缶ビール片手に家路をとぼとぼと歩く。
玄関の前まで来たところで、ドアノブにビニール袋が掛かっているのに気付いた。
袋の中を見ると、食べ物が入っているらしい容器に、手紙。
『お疲れ様。暖めて食べてください。週末を楽しみにしています』
綾波からだった。
さっきまでの侘しい気持ちはあっという間に吹っ飛んで、世界一の幸せ者って気分。
男って単純…苦笑しきり。
綾波の得意料理のシチューと、冷凍のご飯と、温野菜のサラダをレンジで温めて、食事にする。
美味し〜い!!!

ところで、シチューには納豆がとっても合うと思うんだけど。
それって、やっぱり僕だけ?


12月27日(土)

今日こそプロポーズ。
気合を入れて、有名店のフレンチを予約。
こういうお店は服装も色々気を使わなくちゃいけないんだよね。
散々考えた挙句、無難なスーツに。
待ち合わせ場所に現れた綾波は、綺麗なワインレッドのベルベットのワンピース。胸元には、僕がプレゼントしたネックレス。お化粧も普段より二割増で(笑)もう目一杯お洒落をしてきてくれたのが嬉しい。
何となくそわそわしながら、イルミネーションが煌く街並みを店へ向かう。席への案内からオーダーから何もかも不慣れで緊張するなあ。
席に案内されて、ギャルソンが席を去ってから、スーツのポケットから小箱を取り出し、机の上へ。
「では、改めて」
分かっちゃ居るはずなのに、やっぱり緊張するなあ。
小箱を綾波の方へ差し出し、考えに考えた挙句、やっぱりこれしかないと思うセリフを。

「レイ、僕と結婚してください」

「はい、謹んでお受けします。どうぞよろしくお願いします」

お互いに目が合って、笑みがこぼれる。
まあ、ドラマチックでも感動的でもないけれど、幸せな気分は一杯。
ここから、僕たち二人の新しい人生が始まるんだな…
包みを開いて、彼女の左手の薬指に指輪を嵌める。
「…こんな指輪、貰ってもいいの?」
「勿論」
「……嬉しい。一生大切にするわ……」
頑張った甲斐があったと云うものです。こんなに幸せそうな彼女の顔、これからも沢山見ていけるように頑張ろう。

運ばれてきた料理は、さすがに美味かった。
デザートが運ばれてきたところで、ギャルソンがバラの花を一輪綾波に手渡した。
きょとんとする僕達にギャルソンが一言。
「本日はおめでとうございます。こちらは当店からのささやかなプレゼントでございます」
さすがは高級店、こんなサービスもしてくれるんだ、気が利いているなあと感心していたら、
「記念のお写真もお取りいたします。さ、どうぞこちらに向かって、さあ笑顔で!」
……それはちょっと、やり過ぎなんじゃあ…
しかも周りの人が気付いて、拍手とかされちゃうし。

嬉しいけど恥ずかしい〜〜〜


12月28日(日)

今日は午前中出社し、その足で午後から綾波と落ち合って部屋探しに出た。
行きの電車の中で、今後についてさまざま打合せ。
まずは、一番気になっていることについて…最近プロポーズで浮かれてて棚上げにしてました。
「あの、さ…綾波さん、僕に話さなくちゃいけないことない?」
「?」
「えー、そう、身体の事とか、ね?僕に報告しないといけないんじゃない?」
「……ああ、そういえば」
「そういえば!?」
「この何ヶ月か仕事が忙しかったので、少し不摂生だったみたい。胃炎になってしまって」
「い、胃炎に?」
「ちょっと負荷が掛かりすぎたみたい。秋頃が一番酷くて、随分と食べられなくて困ったわ」
「え、ええ〜、そうなの?」
胃炎、なのか…!?僕はまたてっきり妊娠かと……
「でも、もう大丈夫なの。ストレスの元も解消したし、体も随分回復したわ」
う〜ん、僕の早とちりなのか!?ホントに!?ええ〜!!
………まあ、ホントに最近二人でゆっくり話する余裕なかったからなあ。実際綾波が胃炎になるほど大変な状況だってことも知らなかったわけだし。
「ぼくはまた、綾波に子供が出来たかと思ったよ…」
綾波は、一瞬、あっけに取られた表情だったが、見る見る頬が真っ赤に染まっていった。
「そっ、そんなことあるわけな……あ、もしかしてそれで結婚を…?」
「あ、ううん、別に責任取って…なんて思ってないよ。まあ、正直考えるきっかけにはなったけど、妊娠してようがしてまいが、それで結果が変わるわけじゃないさ」
「……しっかりしている様で肝心な処が抜けているのね。これからは、きちんと私に聞いて欲しい」
「………ごめん」
「これからは、お互いに何でも話しましょう。ふ、ふ、夫婦になるんだ、もの…」
「そうだね、僕達、ふ、夫婦になるんだよね。何でも話していかなくちゃ」
夫婦、って言う言葉でお互いに頬が緩む。ついつい周りも気にせずニコニコ見詰め合ってしまう僕達。うう〜、バカップルになってしまう〜
「しかし、綾波も大変だったんだ。一体何があったの?」
「…もう終わったことだから話すけど………」
………
頭取の不倫報道を水際で取り止めさせ、それに絡む銀行内の派閥抗争を水面下で抑えることに尽力していたそうだ。
「こんな下らない事が最優先事項なんて、お酒でも飲まなくては居られない気分だったわ。自分が責任ある立場だって分かってるはずなのに…」
他人の尻拭いって確かに遣り切れないよね。しかもそんな理由じゃあね…
しかし、秘書って大変だなあ……
「そうそう、果実酒を仕込んだの。グレープフルーツは疲労に良いっていうので、グレープフルーツ酒。来月くらいには飲み頃だと思うわ」
あ、そうですか………

結局、いい物件は見つからず、家探しは次回に繰り越し。
明日明後日と出社したら(勿論休日出勤)やっと正月休みだ。
休みになったら結婚に関する色々な決め事を検討することにする。
それまでにどんな事を決めなくちゃいけないのか、リストアップしておかなくては。


嬉しいけど何だか大変だ〜〜〜


1月2日(祝)

え〜。年末からこっち綾波宅にずっと入り浸ってます。
いや、結婚となったら、なんか色々なことが緩くなるねえ。こんなにこの部屋に居るの、もしかしたら初めてじゃないかな?どこにも出かけずに、家の中でずっとゴロゴロしてます。ああ…
「……碇君、聞いてる?」
「あ、ゴメンナサイ」
「それで、結局結婚式はしなくていい、でいいのよね」
ゴロゴロしながらも、結婚するにあたっての様々な打合せをし続けていたのでした。
結婚式はしないことで一致。まあ、二人とも親も居ないし、親戚付き合いもないし。そもそもああいうイベントって二人揃って苦手だし。
「じゃあ、そう会社には届け出るわ」
「あ、そうか、会社に言わなくちゃなあ」
「あと、婚姻届はいつ出すの?」
「引越ししたところで転居届けと一緒に出せばいいのかな。それが色々と面倒くさくなくていいね」
「そうね」
純粋に結婚だけの手続きって、そんなに多くないな。
それよりむしろ、引越しの準備のほうが頭痛いなあ。本当に2月から新生活に入れるのか?
「早いところ住む家見つけないとな」
「でも……とても楽しみ……」
〜〜〜〜本当にそうだ!
もう、それは色々と想像が膨らむ!
そうだな、最初は2LDK位の部屋で、ソファも二人掛けで、ダイニングテーブルはちょっと大きめで良いかな?そこに僕と綾波の手料理が並んで…冷蔵庫は大きくなくちゃ!食事が済んだらソファに二人で並んでDVDなんか見てさ、ちょっとお酒飲んだりして、お風呂は…二人で入れる大きさだよね、そしてベッドはやっぱりダブルでしょ!カーテンは何色が良いかな。それで…
「………碇君?」

嬉しいし、夢が膨らむ〜〜〜


1月5日(月)

早いもので、もう仕事始めです。うん。
今年は家族も増えるし、ますます頑張っていかなくちゃ!
……なんか顔がニヤける〜
つまらない年頭訓示のあとに、早速上司に報告。
「おお、そうか〜、それはメデタイ!」
「ありがとうございます。それで、式は挙げないことにしましたので」
「…そうか、最近の若い人は多いみたいだからねえ」
仲人が出来なくて残念って顔だけど、それは見ないことに。
その後総務課に行って、結婚の手続きについて教えてもらう。
「おめでとうございます。では、こちらに記入して必要な書類と一緒に提出してください。あ、婚姻届を出してからの提出でいいですから」
「あの、ここに婚姻届の用紙が一緒に付いてるんですけど?」
「ああ、それはうちの会社のサービス。市役所から貰ってきてストックしてあるの。出生届、離婚届も用意してあるのよ」
……なんか変なところが充実してるな、うちの会社。

総務課から自分の課に戻ってくると…
パン、パンパン、パパン!
突然の破裂音、これ、クラッカー!?
「碇君、結婚おめでとう〜〜!!!」
物凄くでっかいバラの花束を持った女子社員が近づいてくる。
………うちの会社って………

帰りの電車の中で、花束を持ってるのが物凄く恥ずかしかった…


1月15日(木)

忙しい。
気がつけばもう1月も半ば。来月から新しい支社って、本当に?!
もう来週には何が何でも新居を決めないと。3時間くらい掛かるけども、今の家から新しい職場に行けないこともないから、決まらなくとも何とかなることはなるけど、でもそれじゃあ寝る時間のない生活になる…
仕事の引継ぎの目処は立ったけど、私生活は一体どうなることか…
お、メールの着信音。相手は綾波だ。
『今日はいつもの時間に帰宅ですか?』
そうなる予定、と返信すると、すぐに返事が返ってきた。
『今日の夕飯の献立はどうしよう?和食でいい?』
OKと返事をする。
このところ、夕食は綾波の家で二人で摂ることが多い。
僕の部屋が引越しの片付けで足の踏み場もないし、新生活の準備について打合せもしなくてはいけないので。
ちょっとだけ新婚気分を先取り。綾波は料理がなかなかに上手。毎日のことだから、料理が美味しいっていうのは嬉しいよね。もちろん不味くたって不満はないけど。僕が作れば済む事だしね。
今日の献立は焼き魚と小松菜の胡麻和え、南瓜と里芋の煮物。
美味しいご飯を頂きながら、話題はお互いの仕事のことに。
「綾波は仕事どうするの?僕は綾波が仕事続けてても全然構わないけど」
「良い機会だから退職することにするつもり」
「いいの?なんだか勿体無い気がするなあ。あんなに頑張ってるのにさ」
「いいの。秘書の仕事は十分に経験したわ。後を任せる後輩もいるし、心残りはないわ。それに、前々から挑戦してみたいこともあるし」
「なに?挑戦したいことって」
「………ナイショ」
その後随分追及したけど、結局綾波はナイショのままで通してしまった。
……気になる。

さあ、週末はいよいよ家を決めなくちゃね!


1月17日(土)

今日は朝から綾波と二人で不動産屋廻り。
ネットである程度検索して最寄り駅を決めて、それから現地の不動産屋を訪ねる。お店に行かないと見つけられない物件も結構あるからね。
駅を降りてすぐ目に入った不動産屋を手始めに、3社回ったところで出物に遭遇。
新婚さんにお勧めというその賃貸物件は、駅からは多少遠いけど2LDK風呂トイレ別で値段も大変お手ごろ。部屋の間取りも悪くないし、近くにショッピングセンターがあるらしい。
現況空室だそうだから、不動産屋の車で現地まで連れて行ってもらった。
実際に部屋を見て、周囲の様子も確認したが、特に問題ないので、ここを契約することにした。
やっと家が決まって一安心。さあ、次は引越しの手配だな…
ちなみに入居費用と引越し費用は会社から出ることになってる。
落ち着いたところで、駅前で綾波と二人で遅い昼食を摂ることに。それから駅の周辺を少し散策。
道を歩きながら色々と新生活の予想を語り合う。家が決まるとぐっと現実味が増すな。
話しても話しても話題が尽きない。楽しみだなあ。


1月18日(日)

昨日ようやく新家が決まったので、今日は一日引越しの荷造りをすることにした。
まずは引越し業者に連絡してトラックの手配と見積もりをお願いする。
それから後はずっと荷造り。
この部屋に暮らして4年、いや5年か。男の一人暮らしでたいした家財道具も無い筈だけれど、片付け始めたらダンボール箱がどんどん山積みになっていく。
人ひとりでも、生きていくための道具って結構必要なんだなあ。
午後からは綾波が来て荷造りを手伝ってくれた。
彼女が指摘するには、僕の部屋は『キッチン道具が揃いすぎている』せいで荷物が多いらしい。
まあ、確かに一人暮らしでは4ドアの大型冷蔵庫やオーブンや電動ミキサーやパスタマシンなんて持ってないかも。エスプレッソマシンも去年良いのを購入したりしてるしね。
食器もついつい5客組みなんかを揃えて集めてしまうし、鍋も夜中の通販なんかで一揃い注文しちゃうんだよね…
そういうところでストレスを解消してる部分もあるなあ…僕。
『二人用に新しく買い揃える必要が無くて助かるわ』なんて綾波が言った。
でもさ、新生活用にペアのボウルとかカップとか湯飲みとか買いたいんだけどな、僕は。


1月20日(火)

綾波が今の会社を退職する日取りが決まったそうだ。
彼女は年度末の3月末日退社が希望だったみたいだけれど、上司から5月までは辞めないで欲しいと泣きつかれたそうだ。
入社式や創立記念日等々、4月に大きいイベントが重なっているので、彼女がいないと運営が上手くいかないということらしい。
信頼されているんだなあ。僕まで鼻が高いや。
ということで数ヶ月だけれど共働きになることになった。
ということは…
綾波は今住んでいる部屋に5月までいるのか?
ええ〜〜!結婚してすぐ別居生活!?
そんなの寂しすぎるぞ!!


続く!!

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