神経内科

Parkinson's disease : 錐体外路系変性疾患

(臨床像)パーキンソン病の4大徴候(パーキンソニズム)

(1)振動tremor : 安静時振戦resting tremorが主体. 4-6Hz. 動作中は減少. 典型的なものは丸薬まるめpill rollingとよばれる. 姿勢時 / 動作時振戦もある.

(2)筋固縮rigidity : 鉛管現象lead pipe phenomenon, 歯車現象cogwheel phen.. 頭落下試験head drop test, 誘発induced rigidity.

(3)無動akinesia : 運動の量と速度の減少, 無動akinesia, 寡動hypokinesia, 動作緩慢bradykinesia, 仮面様顔貌mask-life face, 小字症micrographia. 特殊な無動として, すくみ現象, 奇異性歩行kinesie paradoxaleもみられる. 運動開始時に著しい遅延が認められ(すくみ現象など), その結果, 随意運動自体も減少する(仮面様顔貌など).

(4)姿勢反射異常 : 前屈姿勢をとり歩幅が狭く小刻みな歩行(パーキンソン歩行). 突進現象pulsion, 前方ante- / 後方retro-加速歩行festination.

(その他1)自律神経症候 : 便秘, 脂漏性顔貌, 起立性低血圧, 発汗異常

(その他2)うつ状態, 知的機能の低下, 幻覚, 妄想

 

(経過)基本的には緩徐発病 / 緩徐進行(急性や亜急性の場合は別疾患を考える). 生命予後は良好. 死因は偶発的感染, 外傷, 突然死など.

(病態生理)

(1)黒質ドパミン含有ニューロンの変性脱落 

→線条体のドパミン含有量の著明な減少

→線条体のACh系の相対的亢進状態   

→無動, 筋固縮, 振戦, 姿勢反射異常

(2)青斑核ノルアドレナリンニューロンの変性脱落

→大脳皮質全体でのノルアドレナリン含有量の減少 

→うつ状態, すくみ現象

 

(治療)

(1)不足しているドパミンあるいはその作用を補う.

レボドパL-DOPA : 末梢性脱炭酸酵素阻害剤(カルビドパ)との合剤, ドパミンに変換.

アマンタジン : ドパミン放出促進

ブロモクリプチン, ベルゴリドetc : ドパミン受容体アゴニスト, 直接刺激

テプレニール, ラザベミドetc : 分解酵素MAO-Bの阻害

トルカボン, エンタカボンetc : 分解酵素COMTの阻害

(2)相対的に亢進しているAChの作用を抑制する.

トリヘキシフェニジール : 抗コリン作用

(3)不足しているノルアドレナリンあるいはその作用を補う.

ドプス(L-threo-DOPS) : 体内でNEに変換

抗うつ薬

(4)パーキンソニズム発現の経路を絶つ.

脳定位固定手術 : 視床Vim, 淡蒼球腹外側核

(5)ドパミン産生ニューロンを線条体に移植する.

胎児黒質細胞, 交換神経節細胞, 副腎髄質細胞など

(6)ドパミンニューロンの生存維持機構を助ける : BDNF, GDNFなど.

 

(鑑別診断 / Parkinson剤が無効の時, どういう疾患を考え, どのような補助診断法を用いて鑑別を行うか. )

(1)特発性パーキンソニズム = パーキンソン病

(2)症候性パーキンソニズム = 薬剤性(MPTP), 脳血管障害性, 外傷性, 脳炎など

(3)連合性パーキンソニズム = 進行性核上性麻痺, 多系統萎縮症など

(連合性パーキンソニズム)

(1)進行性核上性麻痺progressive supranuclear palsy, PSP

 抗Parkinson剤が無効. 初老期のtremorを欠くパーキンソニズム. 核上性眼球運動障害(上下(特に下)方向の眼球運動障害)が特徴. 責任病巣は, 上丘, 歯状核, 赤核, 淡蒼球など.

(2)線条体黒質変性症striatonigral degeneration, SND

 抗Parkinson剤が無効. OPCA病変とSDS病変とともに被殻に明らかな変性性病変と褐色の色素沈着を示す(SND病変). これらは多系統萎縮症MSAとしてまとめられる.

(3)汎発性レヴイー小体病diffuse Lewy body disease, DLBD

 抗Parkinson剤が無効. レヴイー小体がstemだけでなくcortexに出現. 不釣り合いな痴呆をともなう.

(症候性パーキンソニズム)

(4)血管障害性パーキンソニズム : CT / MRIで基底核に多発梗塞あり→脳血管性痴呆

(5)薬剤性パーキンソニズム : 原因薬剤服用歴の問診. 薬剤服用中止による症状改善をみる

(6)中毒性パーキンソニズム : CO / Mn / MPTPへのexposureを問診. 

2

筋萎縮性側索硬化症(ALS : amyotrophic lateral sclerosis) : 運動ニューロン疾患

 

(臨床像の特徴 / 責任病巣)

ALSは上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両症候を示し, 球麻痺も伴い, 最も進行の早い変性疾患. 基本的には孤発性であるが, わずかながら遺伝性もある.

上位と下位の障害が組み合わさって, 構音障害, 嚥下障害, 呼吸障害などのさまざまな症状を呈する. (1)(2)は診断に必須の徴候.

(1)下位運動ニューロン徴候 : 脊髄前角(およびそれに相当する脳神経核)にある2次運動ニューロンの変性によって起こる. 四肢遠位筋の筋萎縮・筋力低下・線維束性攣縮, 腱反射低下. 延髄付近に変性がみられたときにはいわゆる球麻痺の症状を呈する. 脊髄では脊髄前角細胞の脱落とBunina小体が出現. 脊髄側索が淡明化する. 延髄・橋では脳神経領域の運動神経細胞の脱落がみられる. 錐体路が淡明化する.

(2)上位運動ニューロン徴候 : 大脳中心前回(運動領)を中心に1次運動ニューロン(Betz細胞)の変性によって起こる. 深部反射亢進, Babinski徴候, 強制失笑・号泣を呈する. 仮性球麻痺の一連の症状もみられる.

(3)その他 : 説明不可能(責任病巣?). 病初期に筋スパスムや自覚的感覚異常, 体重減少, 有痛性痙攣などがみられることがある.

(4)陰性徴候 : 感覚障害, 眼球運動障害, 膀胱直腸障害(Onuf), 褥創. (眼球運動障害は発病10年くらいになると徐々に発現することもある) : 感覚ニューロン, 動眼神経核, 排尿排便反射を担う自律神経核(Onuf)はおかされない.

 

(疫学)多発地域(グアム島, 紀伊半島)あり. 人工10万人当たり2-6. 孤発性が80%, 遺伝性のさらに一部にCu / Zn SOD遺伝子変異がみられる.

(経過)極めて経過が早く, 3年以内に多くは呼吸筋麻痺で死亡.

 

(鑑別すべき疾患, 有用な補助診断法, その評価法)

(1)球脊髄性筋萎縮症bulbospinal muscular atrophy, BSMA : 下位運動ニューロン症候 + 球麻痺 + 内分泌異常を示す経過良好の伴性劣性遺伝病. X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子内のCAG repeatの異常伸長に起因する. ALSに比べて, 極めて経過が遅く, 予後は良好. ALSと違い, 下位運動ニューロン症候 + 球麻痺はあるが, 錐体路症候(Babinski徴候)は陰性(→舌の萎縮はあるが, 機能は維持される!), 女性化乳房や睾丸萎縮, 軽度肝機能異常が認められる.

(2)脊髄性筋萎縮症spinal muscular atrophy, SMA : 若年者に多くみられる近位筋の遺伝性進行性筋萎縮症(下位運動ニューロン変性(脊髄前角)のみ)である. ALSBSMAは中年以降に多く発症する. SMAALSと異なり, 上肢, 特に近位筋に強く症状が出る. 進行はゆっくりだが, 発病年令が低いほど進行速度がはやい. 予後は良好. 発病年令によって, (1)infantile SMA type1 (Werdnig-Hoffmann synd.), (2)intermediate type, (3)juvenile SMA type3 (Kugelberg-Welander synd.)(思春期までに発病)3群に分かれる.

 

 

3

Babinski徴候陽性の所見 / その神経学的意味

…足底外側部を先端が尖ったもので踵から上方に擦過すると, 母指が背屈する. 上位運動ニューロンの障害を示唆する.

 

4

錐体路徴候

…上位運動ニューロンの障害であり, 運動障害(巧緻性の障害), 痙縮spasticity, 折り込みナイフ現象などの筋トーヌスの異常, 障害レベル以下の深部反射亢進, 表在皮膚反射の減弱, Babinski, Chaddock徴候などの病的反射の出現がみられる.

 

5

錐体外路徴候

…尾状核, 被殻, 淡蒼球, 黒質, 赤核, ルイ体などの基底核を中心とする錐体外路系諸核とその経路の障害によって生ずる症状. (1)(随意)運動の調整障害, (2)筋トーヌスの変化(舞踏病の際みられるような極度のhypotonicityあるいはパーキンソン病の時のrigidity), (3)不随意運動(ジストニーdystonia, 振戦tremor, アテトーシスathetosis, 舞踏病chorea), (4)姿勢反射異常(前屈・側屈姿勢, ジストニア姿勢が多い).

 

6

脊髄性運動失調spinal ataxia / 臨床像 / 責任病巣 / 来たしやすい神経疾患

…歩行障害, 下肢に著明な運動失調. (1)深部感覚障害の存在, (2)視覚による調節を除いた時の失調の増強(Romberg徴候, 洗面現象), (3)視覚による調節を除いた時の運動方向の誤り(misdirection). 脊髄後索が責任病巣. VitB12欠乏症, フリードライヒ病Friedreich disease,亜急性脊髄連合変性症,脊髄癆などで特徴的にみられる.

7

小脳性運動失調症cerebellar ataxia / 臨床像

…小脳障害すなわち小脳腫瘍,血管性障害,変性性疾患,小脳萎縮,奇形などに伴う重要な症状. 小脳虫部の損傷では主として体幹性失調をきたし,起立歩行の障害・蹣跚歩行,大歩行を示し一般に姿勢,体位保持が困難で平衡バランス障害をきたす. 小脳半球性障害では四肢筋トーヌスの異常,筋緊張の低下を示し,患側方向への偏位歩行,協調運動不能,誤示(指‐指,指‐鼻試験),運動測定障害,ホームズ・スチュアート現象HolmesStewart phenomenonのほか,企図振戦や小脳性言語(断続性・爆発性)を伴う.

(1)小脳性言語障害(断続性scanning・爆発性explosive), (2)測定異常dysmetriaあるいは測定過大hypermetria, (3)交互反復運動の障害adidochokinesis, (4)姿勢時振戦postural tremorと動作時振戦action tremor, (5)協調運動障害asynergia, (6)運動開始の遅れ, (7)平衡障害dysequilibrium, (8)様々な種類の眼振がみられる.

…測定異常あるいは測定過大 : 随意運動を目的のところで止めることができない現象. 指鼻試験,指耳試験,手の裏返し試験,物取り試験,かかと膝試験などに際して,必要以上に大きな動きが起こり,手・指・足は目的より行き過ぎ,そのため患者は矯正しようとして目的に向かって戻すため,動作は動揺した末に目的に達することになる.

 

8

球麻痺 / 仮性(偽性)球麻痺

…球麻痺bulbar palsy : 脳幹の延髄病変で,迷走神経,舌咽神経と舌下神経が核,核下性に両側性に障害され発語,嚥下,咀嚼ができなくなること. 球麻痺はギラン・バレー症候群,ボツリヌス中毒,ジフテリア(ジフテリア後麻痺)などでみられ,慢性の経過をとる疾患では筋萎縮性側索硬化症,多発性硬化症などで出現する. 舌筋萎縮や線維束性攣縮を伴う.

…仮性(偽性)球麻痺pseudobulbar palsy : 球麻痺でおかされる脳神経V, VII, IX, X, XI, XIIは両側性の皮質延髄路で支配され(核上性supranuclear),この皮質延髄路の障害により,同様に発語などが障害されること. 三叉神経運動核の核上性麻痺により,下顎反射亢進, 強制失笑, 強制号泣がみられ,舌の前方挺出が困難となるが舌筋萎縮や線維束性攣縮は出現しない. 時に, 四肢の深部反射亢進, 痙性麻痺, 小刻み歩行を伴う.

 

 

 

9

痙縮spasticityと固縮rigidity

…筋トーヌスの異常亢進する状態を痙縮spasticityと,固縮rigidityとに分け,前者は臨床上claspknife phenomenon(折りたたみナイフ現象)とたとえ,錐体路傷害によって出現する. 一方後者はcogwheel phenomenon(歯車現象)にたとえ錐体外路系傷害に特有とするが,病態により両方の要素の混在するrigidospasticityの状態も認められ

. 筋トーヌス亢進による運動低下過緊張症候群の代表疾患はパーキンソン病,パーキンソン症候群があり,固縮,運動減少それに振戦がみられる. 痙縮では筋を受動的に屈伸させたときの抵抗が最初に強いが,その後弱くなる.いわゆるジャックナイフ様である. 固縮の際の筋抵抗は鉛管様(鉛管現象)あるいはcogwheel現象(歯車現象)といわれるように,全過程で同じような抵抗を感ずる点が,痙縮とは異なる.

 

10

Gowers徴候

…進行性筋ジストロフィー(Duchenne型,limbgirdle)や多発性筋炎などの疾患で,腰帯筋群の萎縮,脱力のため下肢筋力は低下し,歩行,階段の昇降が不自由となる. 患者は座位から立ち上がるとき,膝に手をつき自分の体をよじのぼるようにして立位となる状態をさす.

 

11

人形の目現象oculocephalic reflex

…人形の目のように眼球の運動と頭部の運動が解離する状態をいう. 例えば顔を横に向けても眼球が横へ行かず,しばらく元のままである. 顔を下へ向けても眼が下へ行かない. 神経成熟の未発達な新生児では生理的にみられる. 臨床的には鉤ヘルニアuncal herniation,小脳扁桃ヘルニアtonsillar herniationなどの診断に,網様脊髄反射,対光反射などと共に使用される.

 

12

ゲルストマン症候群

…頭頂葉症候群parietal lobe syndrome. 手指失認,左右障害,失算,失書の4症状からなる症候群. 優位半球(大多数では左半球)の頭頂葉・後頭葉病変,とくに角回領域の病変により発現する. これら4症状のみを呈する例は少なく,これに他の高次神経機能障害を伴ったり,逆に2-3の症状しかみられない例の方が多い.

13

カーテン徴候signe de rideau

….上咽頭収縮筋の一側性の麻痺(IX). 咽頭の口蓋帆挙筋が一側性に麻痺すると,アーと発音したりするとき,口蓋垂が健側に引かれ,中咽頭の後壁もカーテンを引くように健側へ動く. 頚静脈孔症候群(頭蓋底の外傷,圧迫,クモ膜炎,神経腫,サルコイドーシスなどによって一側のIX, X, XI脳神経が頚静脈孔を通るところで障害されるために起こる症候群)などでみられる.

 

14

深部感覚障害

…深部感覚 = 振動覚, 位置覚, 二点識別覚, 描字覚, 立体覚. これらの障害による特異な症候として, Romberg試験, 閉眼足踏み試験, 洗面現象における転倒(視覚による調節を除いた時の失調の増強), 指鼻試験における視覚による調節を除いた時の方向の誤り(misdirection), 偽アテトーシスなどがみられる.

 

15

ロンベルグ試験の手技 / 陽性と判定する場合 / その時の病変の局在をどう考えるか.

…両足をそろえて立たせ閉眼させると, 開眼時にくらべ著しく不安定になるのを陽性とする. 位置覚の障害(脊髄後角障害)でみられることが多い. (視覚による代償が閉眼によって失われるため)

 

16

不随意運動involuntary movementの例 / 臨床像と代表的疾患

…患者の意図によるものではない異常運動, とくに運動過多症が不随意運動.

名称      臨床像の特徴              代表的な疾患名

(1)筋スパズムmuscle spasm   激しい筋の攣縮で, いわゆる痙攣. ある程度の時間持続する強直性のものと, 攣縮弛緩が繰り返される間代性のものがある.    てんかん, 破傷風, 髄膜炎

(2)振戦tremor  身体の一部が規則的に動揺(振動)すること. 安静時振戦resting tremor / 姿勢時振戦 / 動作時振戦の3つに大別. 姿勢時振戦は甲状腺機能亢進症, 老人性振戦などでみられる. 安静時振戦 : 静止時に認められる粗大な手指, 足の震え. 企図振戦 : 随意運動の際にあらわれる震え.    安静時振戦 : パーキンソン病. 企図振戦 : 多発性硬化症などの小脳障害.

(3)線維束性攣縮fasciculation              筋線維束の不規則な攣縮で, 関節の運動は伴わない. 神経原性筋萎縮の場合にみられる.        ALS

(4)ミオキミアmyokimia              筋表面がうねるように収縮する.               Guillain-Barre synd.

(5)ミオクローヌスmyoclonus              基本的には突然で関節運動を伴わない激しい筋収縮を指す. 通常のミオクローヌスとは逆に, 瞬間的に筋収縮が抑制されるものを陰性ミオクローヌスという. 脳低酸素症. 口蓋ミオクローヌス : 赤核, 歯状核, 下オリーブ核およびそれらを結ぶ線維束の障害でみられる.    陰性ミオクローヌス : Lance-Adams synd.

(6)舞踏運動chorea  身体各所に, 同時にあるいは前後して起こる, かなり速やかな全く無目的な不随意運動で, 運動の種類, 大きさ, 強さになんらの規律性もない. 随意運動や興奮, 集中によって増強するが, 睡眠中は消失する. 持続は短い.               Huntington舞踏病

(7)アテトーシスathetosis              舞踏運動よりもややゆっくりで力の入ったものをいう. ゆっくりとしたくねるような持続性運動.               脳性(小児)麻痺核黄疸

(8)バリズムballism 舞踏運動よりもはるかに激しく, 身体や四肢を投げ出すような運動.               視床下核の血管障害

(9)ジスキネジアdyskinesia              口ジスキネジア : 絶えず舌を捻転させたり, 口をもぐもぐさせたりする.               クロルブロマジンなどの副作用

(10)ジストニアdystonia              非常にゆっくりで, 体を捻ったり回転させたりする. 痙性斜頚もジストニアに分類される.               Lesch-NyhanWilson

(11)チックtic              ある筋の機能単位(1つの筋であることもある)が同時に突然収縮する(顔をしかめるなど)もの. 顔面, 頚部が多い. 緊張によって増強.               Gille de la Tourette synd.

 

17

球後視神経炎 / 来たしやすい疾患とその疾患の病態生理

…眼球より中枢側の視神経に生じる炎症で, 一側または両側に発生し, 視力障害と視神経萎縮が残る. 多発性硬化症の1型であるDevic病にあらわれやすい. 多発性硬化症は中枢神経軸索ミエリン鞘に対する自己抗体が産生され, 限局性の脱髄病変が生じる疾患で, Devic病はそのうち急速両側性の視神経炎と横断性脊髄炎が数week以内に相次いで起きる.

 

18

Kayser-Fleischer / その発生機序 / 現れやすい疾患名 / 診断的意義

…血中でセルロブラスミンを形成していない過剰な銅が脳, 肝臓, 角膜(Desmet)に沈着し, 角膜に沈着した銅は緑褐色のKayser-Fleischer環をつくる. Wilson病の進行例のほとんどにみられ, 若年性パーキンソニズム, 多発性硬化症などとの鑑別に重要である.

 

19

動揺性歩行waddling gait

…下肢帯筋力低下で, 歩行時に体幹を左右に振るようになる. 進行性Duchenne型筋ジストロフィーに典型例が見られるが, 緩徐進行性の脊髄性筋萎縮症にも起こる.

 

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鶏状歩行steppage gait / なぜこのような歩行を呈するのか / 代表的疾患

…足を異様に高く持ち上げ, 爪先から投げ出すようにして歩く歩き方で一側の場合には患側の挙上が目立つ. 垂れ足になっている時これを代償するようにして歩く. 前脛骨筋筋力低下による. 灰白脊髄炎(ポリオ), Charcot-Marie-Tooth (HMSN, hereditary motor and sensory neuropathies)(深腓骨神経→前脛骨筋).

 

21

ミヤール・ギュブラー症候群Millard-Gubler synd. / 臨床像 / 原因 / 解剖学的責任病巣

…下交代性麻痺lower crossed hemiplegia. 橋下部の障害(梗塞)による. 病側ではVI, VII脳神経の髄内根の障害によってVI, VII脳神経の麻痺, 対側では橋底部の錐体路の障害によって, 顔面を除き舌を含む片麻痺が生じる.

 

22

閉じ込め症候群locked-in synd.

…無動,無言であるが,意識は清明であり,随意的な眼球運動や瞬目が保たれている状態. 四肢麻痺,無言であるが,開閉眼や垂直方向の眼球運動により意思の疎通が可能である(意識, 眼球運動は残る). 基本病巣は橋上部2 / 3の両側底部(橋底部)にあり,橋被蓋や中脳被蓋は障害されない. 皮質脊髄路, 皮質延髄路が絶たれる. 原因疾患は脳底動脈血栓症が最も多い. (無動無言症akinetic mutism)

 

23

複雑部分発作complex partial seizures / 精神運動発作psychomotor seizures

…てんかん発作の一つで通常痙攣は伴わず,意識障害(減損)とあたかも合目的にみえるような行動をとる発作で通常,発作時のことは想起できない. 自動症automatism(その場にそぐわない異常行動, 口をすぼめる, 唾をはく, 意味のない笑いなど)を伴う. 主として側頭葉の障害に由来し,脳波では発作間欠時に,しかも好んで傾眠期に側頭領野に棘spikeを示す(側頭葉散発性棘波). 通常意識は消失しないが, 健忘を示し, 発作中の行動については記憶がない.

(1)側頭部に焦点, (2)自動症, (3)健忘, (4)側頭葉散発性棘波.

 

24

易疲労性easy fatigabilityとは何か / この徴候が特徴となる疾患とその臨床像の特徴

…運動後容易に運動を負荷した部位または全身の倦怠感が起こる状態.

(1)重症筋無力症では, 運動によって易疲労性となり, 筋力が急速に低下し, 夕方に疲労感は強くなる.

(2)筋無力症候群(イートン・ランバート症候群)では, 易疲労性は同様に存在するが運動負荷で筋力は次第に増加する.

進行性筋ジストロフィー, 筋萎縮性側索硬化症ALS, 脊髄性進行性筋萎縮症SMA, 周期性四肢麻痺なども易疲労性が愁訴となる.

 

25

Vitamin B1(thiamine)の欠乏により生じる神経症状

(1)脚気 : 末梢神経障害, 循環器症状を呈する. 末梢神経症状としては, 下肢の異常感覚・麻痺などから徐々に上行し, 反回神経, 横隔神経に至ることもある. (2)Wernicke脳症 : 大脳皮質全般に血流が低下し, 複視, 失調性歩行, 知能障害を呈する. (3)Korsakoff症候群 : 乳頭体の障害により, 健忘, 作話, 失見当識を呈する.

 

26

Vitamin B12(cyanocobalamine), vitaminE(α-tocopherol)の欠乏により生じる神経症状

Vitamin B12 : (1)亜急性連合性変性症状 : 髄鞘の脱落が生じ,これに比較すると程度は軽いが軸索の変性も認められる. 脊髄白質の中では後索,側索が対称的に侵され,胸髄に最も強い変化が生ずる, (2)脊髄障害, (3)末梢神経障害, (4)痴呆.

Vitamin E : 運動失調, 末梢神経障害, 吸収障害. 輸送タンパクの異常では, Friedreich失調症様の臨床像.

 

 

 

27

被角血管腫

…角質増生を伴った血管腫の総括名. ミベリ被角血管腫, 陰嚢被角血管腫, 母斑様限局性体部被角血管腫の3.

…びまん性体部被角血管腫angiokeratoma corporis diffusum,ファブリー病Fabry disease : 糖脂質代謝異常症で,αgalactosidase Aの欠損によるceramide trihexosideの系統的蓄積症であり,被角血管腫とは別症. 伴性劣性遺伝で男性を侵す. 暗紅色の血管拡張性丘疹が四肢また全身に多発する. 他に, ガラクトシアリドーシス, フコシドーシス.

 

28

ヘルペス脳炎herpetic encephalopathy

…ほとんどが口部ヘルペスによる脳炎. 頭痛,発熱をもって急性または亜急性の発症様式を示し,記銘力障害,異常行動など精神症状,失語症,あるいは痙攣を呈し,意識障害が進行することが多い. 精神症状は側頭葉症状が中心である. 頭部XCTにて側頭葉に低吸収域を認めることがあり,病理では壊死,ときに出血を伴う封入体脳炎inclusion body encephalitisである.

 

29

悪性症候群malignant syndrome, syndrome malin

…向精神薬psychotropic drugs治療中の重篤な副作用. 精神分裂症,躁うつ病などの治療で用いられる向精神薬(ハロペリドール,クロルプロマジンなど),抗てんかん薬,あるいは抗パーキンソン病薬antiparkinsonian drugなどの中断でも起こる. 治療として,ブロモクリプチン,ダントロレン,輸液,抗パーキンソン病薬などを使用する. 主要症状は,原因不明の高熱,発汗,頻脈,唾液分泌過多症,血圧の変動などの自律神経症状(著明な自律神経機能の亢進),筋強剛,無動無言,振戦などの錐体外路症状,嚥下困難,失声,意識障害.

 

30

ウイルソン病

…肝硬変,進行性錐体外路症状, カイザー・フライシャー角膜輪KayserFleischer corneal ringを三主徴とする先天性銅代謝異常症. 常染色体性劣性遺伝形式をとり,男女両性に出現する. 発症は,4-60歳と幅広い. キレート剤であるD‐ペニシラミンが使用され,発症予防や治療が可能となっている. 肝障害は,軽い黄疸・軽度の肝機能障害から腹水を認めるものまでいろいろの型をみるがいずれも進行性の結節性肝硬変となる. 神経症状は,構音障害,特有の振戦などから始まり次第に歩行障害が出現し荒廃する. KayserFleischer角膜輪は,肉眼的には10歳以降にみられ,神経型には必発.

(1)先天性銅代謝異常症, (2)脳レンズ核変性, (3)肝硬変, (4)KayserFleischer.

 

31

痴呆dementiaとはどのような病態のことを指すか / 代表的な疾患名

…一度獲得された知的な能力が器質的な脳の障害によって阻害されてそれにより日常生活が支障を来たすようになった状態. アルツハイマー病, ピック病, ハンチントン病, パーキンソン病, 多発梗塞性痴呆, CJDなど.

 

32

筋萎縮を来たす場合 / 責任病巣と代表的疾患

前角細胞の変性          ALS, 脊髄性進行性筋萎縮症SMA, BSMA

筋原性 : 進行性筋ジストロフィー              デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)ベッカー型筋ジストロフィーエメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー肢帯型筋ジストロフィーなど筋強直性ジストロフィー

下肢前角細胞より末梢神経の脱髄,軸索変性              CharcotMarieTooth disease(CMT)

末梢神経ミエリン(炎症性, 感染性)              Guillain-Barre synd.

ACh R自己抗体      重症筋無力症

VDCC自己抗体      筋無力症候群(イートン・ランバート症候群)

後索・後根の変性および萎縮,錐体路,脊髄小脳路,クラーク柱の細胞の変性              フリードライヒ病(四肢末梢の筋萎縮)

 

33

視床痛

…中心性疼痛. 脳血管障害などで視床に病変が起こると障害反対側では深部感覚の障害が起こり, 疼痛刺激を与えると不快感と激痛を訴える. この痛みの性質はhyperpathia, 視床の過剰反応によるとされている. また自覚的症状としても視床障害では反対側に自発的に激しい頑固な疼痛があり, 中心性疼痛(中枢性疼痛), 視床痛と呼ぶ. 内包・視床症候群で出現.

 

34

運動失語 / 構音障害

…運動失語motor aphasia : 語の表出が選択的に侵される状態. 構音(発声)は保たれているが喋ることが困難で,まとまった意味を正しく文章で流暢に表出することはできない. 自発言語は減少する. 左下前頭回後1 / 3(Broca中枢)およびその隣接領域が責任病巣とみなされている.

(1)Broca中枢の障害, (2)復唱不良, (3)言語理解良好, (4)自発言語非流暢.

…構音障害 : ことばの音の障害,すなわち意図した音が正しく生成されない状態. 構音器官の器質的ないし形態的障害によるもの(器質的構音障害),誤った癖,ないし構音器官の使い方の誤りによるもの(機能性構音障害),および構音運動に関与する筋や神経の障害に基づくもの(麻痺性ないし運動障害性構音障害)に分けられる.

 

35

レルミッテ徴候と髄膜刺激症状

…レルミッテ徴候Lhermitte sign : 多発性硬化症でみられる症状で,背部,脊柱にそって上下に放散性疼痛を認めるもので,その性質は瞬間的に脊柱を電気が伝わるような感じである.一種の反射性根性疼痛と考えられる. とくに頭部を前屈すると脊柱に沿って下方へ放散する電撃痛を生じる. 頚髄障害を伴うことが多い. 原因としては脊髄視床路や後索障害が考えられ,多発性硬化症以外でも脊髄腫瘍,椎間板ヘルニア,各種のspinal myelopathy,脊髄髄膜炎myelomeningitisでもみられる.

…髄膜刺激症状meningeal irritation sign : クモ膜下出血あるいは各種髄膜炎による炎症などによって髄膜が刺激された時にみられる症候の総称. (1)項部硬直nuchal rigidity, (2)ケルニッヒ徴候Kernig's sign, (3)ブルジンスキー徴候*Brudzinski's sign, (4)眼球圧痛, (5)羞明などの徴候のほか頭痛,悪心・嘔吐その他がみられる.

Kernig's sign : 患者を仰臥位にさせ一側股関節を直角に曲げた状態で膝を押さえながら下肢を被動的に伸展していくと,抵抗を感じ下肢が十分に伸展しない現象をいう. 一般には膝の角度が135°に達しないものを陽性とする.

Brudzinski's sign : 患者を仰臥位にさせ検者は一側の手を患者の頭の下へ,他側の手を胸の上に置き,躯幹が挙上しないようにして頭部を被動的に前屈させると,伸展していた両下肢が自動的に股関節と膝関節で屈曲し立膝になる徴候をいう.

 

36

てんかん / てんかん発作 / 痙攣

…てんかん : 大脳の神経細胞の過剰な同期的発射活動が起こることによって,同一個人の中では同じ型の臨床発作(全身強直‐間代発作,欠神発作,幻聴発作,四肢の一部の強直発作など)が繰り返す病態.

…てんかん発作 : (1)部分発作(単純部分発作,複雑部分発作)(2)全般発作(欠神発作,ミオクローヌス発作,強直‐間代発作,脱力発作),一側あるいは一側優勢発作,分類不能発作, てんかん発作重積状態, 発作後麻痺に大別される.

…痙攣 : 全身または身体の一部の筋群の不随意かつ発作性の収縮. (1)強直性(強直性痙攣)または緊張性tonicのものと(2)間代性clonicのものとがある. 前者では全身の筋が同時に収縮し,とくに伸筋の張力が優位となるため四肢を伸展し,頚部や背部を後屈する. 間代性痙攣は拮抗筋が交互に収縮して起こる. 一般に大脳に起因する痙攣の場合は,意識障害と脳波異常をきたすことが多い.脊髄に起因する痙攣として代表的なのは,多発性硬化症の際の有痛性強直性痙攣であり,末梢神経に起因する痙攣としては,顔面痙攣facial spasmが代表的である. 痙攣はヒステリーでもみられ, 通常,高頻度に痙攣を起こす疾患として,てんかんの大発作,ミオクローヌス発作,乳児痙攣,レンノックス症候群などがある.

 

37

筋肉の仮性肥大 / 現れやすい疾患

…近位筋優位の筋萎縮を来たす疾患において, 下肢の下腿部が大腿部との比較で肥大しているように見える状態. Duchenne型筋ジストロフィーにおいてみられる. これはX染色体短腕のdystrophinの欠損ないし機能障害によって生じ, 筋線維の壊死を来たす.

 

38

眼振nystagmus(生理的に出現するものと病的なもの)

(1)生理的 : 視運動性眼振, 温度誘発眼振

(2)注視眼振 : 定方向性眼振(末梢前庭系の障害). 左右側方注視眼振(脳幹()or小脳の障害). 回旋性眼振(延髄の障害). 垂直性眼振(下向き?小脳, 延髄, 上向き?中脳).

(3)頭位眼振 : 定方向性眼振(末梢前庭系の障害). 方向交代性上向き眼振(小脳の障害). 回旋性方向交代性眼振(良性発作性頭位めまい). 下眼瞼向き垂直眼振(小脳, 延髄の障害).

 

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交代性麻痺

…脳幹部の障害で一側の片麻痺と他側の脳神経麻痺を生じた状態のこと.

(1)中脳腹側 : ウェーバー症候群Weber s

《動眼神経麻痺》 + 対側の片麻痺(顔面含む)

(2)橋下部 : ミヤール・ギュブレール症候群MillardGubler s

《外転神経麻痺 + 末梢性顔面神経麻痺》 + 対側の片麻痺(顔面を除き舌を含む)

(3)延髄の内側(傍正中部) : デジェリン症候群Dejerine s

《舌萎縮と偏位, 舌下神経麻痺》 + 対側の顔面を除く片麻痺,半身の触覚・深部感覚障害

 

40

周期性四肢麻痺

…四肢筋の弛緩性麻痺が周期的に起こり,発作は長くとも数日以内に回復する疾患.

背景に内分泌代謝疾患などがあって起こるものと特発性のものがある.特発性のものには家族性の症例(家族性周期性四肢麻痺familial periodic paralysis)と孤発例がある. 低カリウム血性麻痺が多く,日本人では甲状腺機能亢進症を伴う例(thyrotoxic periodic paralysis)が最多で,この場合ほとんどが男性例である. アルドステロン症,腎尿細管性アシドーシス,緩下薬(とくに甘草)中毒,バーター症候群などによることもある. 背景疾患のない特発性のものもわが国では孤発例が多い. 過食・飲酒・過労の翌朝に麻痺の発現する例が多く,発作の持続は数時間から数日である. 高カリウム血性麻痺は家族性のもののほか,腎不全,副腎不全に伴うことがある. 麻痺は日中に多く,程度は軽く持続は1時間以内で知覚反応を伴う例が多い. カリウム負荷時,運動後の休養時などに誘発しやすい.正常カリウム血性麻痺はまれであるが,発作は程度が強く,持続も長い傾向がある.

 

41

片頭痛migraine

…反復性の片側性,拍動性頭痛throbbing headacheで眼症状,運動感覚異常,情緒不安定,うつ状態,空腹などの前兆あるいは前駆症状,嘔気・嘔吐などの随伴症状を特徴とする. 数時間から長くても3日以内におさまる. 極期には嘔吐あり. 治療には,従来からエルゴタミン製剤が用いられている. 最近,セロトニンの静注により,頭痛が改善することが知られ, 脳血管の収縮に関与する5HT1受容体に選択的に作用するスマトリプタンが開発された.

…閃輝暗点scintillating scotoma, flittering scotoma : 発作性に視野の一部とくに注視野の付近に閃光を感じ,それがきらきらした光の波となって両眼に同名半盲様に視野周辺に向かって広がっていき,その内部がみえなくなる現象を閃輝暗点という. この発作は,後頭葉視覚領の動脈収縮によって起こり,ついで拡張して閃輝暗点と反対側の拍動性頭痛を生じ持続性頭痛に移行する.悪心,嘔吐を伴うこともある. 過労,ストレスなどをさけ,心身の安寧を保つことが予防となる.

 

42

transient ischemic attack 一過性脳虚血発作TIA

…脳循環障害により一過性に神経脱落症状を呈したのち,症状が回復する病態. 脳硬塞の前駆発作.

 

43

家族性アミロイドポリニューロパチーfamilial amyloid polyneuropathy

…遺伝性ニューロパシー(CMT)の一つ. Transthyretin(TTR)遺伝子の異常. 小径線維の障害が強い. 自律神経症状(腹痛, 下痢, 便秘), 解離性温痛覚障害(特に下肢)がみられる. 生検でアミロイドの沈着を証明して診断する.

 

44

神経系へのHIV感染

(1)痴呆と精神行動異常を主徴とする脳症, (2)脊髄症, (3)脱髄性末梢神経障害, (4)筋炎

 

45

脳死

…深昏睡, 自発呼吸の消失, 脳幹反射の消失, 平坦脳波

 

46

Duchenne / Becker型筋ジストロフィー

…進行性筋ジストロフィーとは筋線維の変性・壊死を主病変とし,進行性の筋力低下をみる遺伝性疾患である. この中で最も頻度が高いのはデュシェンヌ型筋ジストロフィー Duchenne muscular dystrophy(DMD)である. 日本では福山型先天性筋ジストロフィー Fukuyama type congenital muscular dystrophy(FCMD),ベッカー型筋ジストロフィーBecker muscular dystrophy(BMD)が次に多く,肢帯型筋ジストロフィー limbgirdle muscular dystrophy,顔面・肩甲・上腕型筋ジストロフィーfacioscapulohumeral muscular dystrophyと続く. いずれの型も筋電図は筋原性,血清クレアチンキナーゼ(CK)値は上昇する. 筋生検muscle biopsyでは筋線維の大小不同,壊死と再生,間質結合組織や脂肪組織織の増加をみる. デュシェンヌ型のような進行が速いものでは呼吸筋,心筋が侵され,死の転帰をとる. デュシェンヌ型は4-5才で, 歩行異常, 動揺歩行, Gowers徴候, 下腿偽性肥大.

 

47

Mononeuropathy multiplexの定義とこの病態を来たす疾患

…多発性単神経炎 : いくつかの単神経が非系統的, 非対称的に障害を受ける.

Cf. Polyneuropathy多発神経炎 : 系統的, 両側対称性の障害→glove-stocking型の障害.

…この病態を来たす疾患

(1)脱髄 : AIDP(急性炎症性脱髄性多発神経炎,ギランバレー), CIDP

(2)軸索障害 : 糖尿病性, RA,PN,SLE,Churg-Strauss, ベーチェット, クリオグロブリン血症, 好酸球増多症候群など.

 

48

失外套症候群apallial syndrome

…意識障害の一つの特殊型(アルツハイマー型痴呆の末期). 大脳皮質と白質からなる外套palliumの広範囲の障害. 痙性で, 無動かつ無言. 症状は無動性無言症akinetic mutismに同じで, 痛みに対する逃避反応, 眼球運動を除いては自発的な運動や発話は全く見られない.

 

49

真菌性・結核菌性・ウイルス性・化膿性髄膜炎?髄液所見からの鑑別方法

(1)化膿性 : 圧は上昇していることが多く, 髄液の外観は黄緑色の膿性. 細胞数は数百-数千を超える場合もあり, 大部分, 多型核白血球である. タンパクも著増, 1000mg / dlを超えることもある. 糖は著明に低下. (2)結核菌性 : 圧上昇, タンパク著明増加. 細胞数も著増, リンパ球が主体. 糖は著明低下. (3)真菌性 : 本質的に結核菌性と同じ所見. 但し, Cryptococcus meningitisの場合は, 墨汁染色による鏡検で胞子が発見されることがある. (4)ウイルス性 : 単純ヘルペスでは圧は正常-上昇, タンパクは軽-中程度増加, 細胞数中程度増加, しばしば赤血球が出現. 糖は正常のことが多い.

 

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多発筋炎polymyositis(PM)の症候と治療

(症候)横紋筋の炎症が主徴. 男女比は1 : 2. 近位筋群の筋痛を伴う対称性の筋力低下を特徴とする. (1)筋症状 : 主として四肢近位部,頚部,咽頭部の筋力低下,筋痛と嚥下障害,発声障害を生じ,筋萎縮に至ることもある. 筋力低下は下肢を初発とすることが多く, 近位筋が対称性に侵される. 発症後3ヶ月で歩行不能となる場合がある. (2)皮膚症状 : ヘリオトロープ疹(両上眼瞼部の紫紅色調の浮腫性紅斑. Gottron徴候(手指の関節伸側面の紅斑, Raynaud現象), 多形皮膚萎縮症. (3)多発性関節炎, (4)びまん性間質性肺炎. (治療)生活指導(安静, 嚥下性肺炎予防, リハビリテーション), ステロイド, 免疫抑制剤.

 

51

進行性核上性麻痺progressive supranuclear palsy(PSP)

…垂直注視麻痺(核上性),項部ジストニー,仮性球麻痺,錐体外路徴候,痴呆を主徴とする. まれな疾患. 男性にやや多く,40-60歳代に,不安定な歩行,言語障害,性格変化などで徐々に発症する. 特徴的なのは注視麻痺で,垂直注視,とくに下方視の障害が顕著で,進行すると側方注視も困難となる. oculocephalic reflexや人形の目徴候が存在し,麻痺は核上性と考えられる.病理学的には淡蒼球,黒質などの大脳基底核,上丘,中脳水道周囲灰白質,橋被蓋などに神経細胞の脱落,神経原線維変化,グリオーシス,脱髄がみられる.原因は不明であるが,変性疾患と考えられている.有効な治療法はない.

 

52

脊髄空洞症

…脊()髄に液貯留が起こり,脊()髄が嚢胞性拡大をきたした状態. (1)体節性の解離性知覚障害(温痛覚障害), (2)下肢錐体路障害, (3)筋萎縮, 脱力, (4)自律神経障害を来たす.

 

53

Lambert-Eaton症候群

…筋無力症候群myasthenic syndrome. 小細胞性肺癌(→小細胞癌)などの悪性腫瘍に伴う筋無力状態. まれに悪性腫瘍を伴わないで発症することもある. -高齢の男性に多い. 臨床症状としては,近位筋とくに下肢帯に強い脱力,筋萎縮,易疲労性,反復運動による筋力の増強,腱反射の消失,自律神経症状などを呈する.

テンシロン試験は陰性で,誘発筋電図では,高頻度刺激で漸増waxing現象がみられる. 患者血清中には,電位依存性カルシウムチャネルに対する抗体が増加している. 治療としては,悪性腫瘍の切除,血漿交換療法(プラスマフェレーシス),塩酸グアニジンの投与などがある.

 

54

CJD

…中年以上に好発し,100万人に1人の発症率で家族発症もあり. 亜急性の経過をとる痴呆,錐体路・錐体外路症状,ミオクローヌスが主な徴候であり,時に視覚失認visual agnosia,小脳症状,筋萎縮を呈する. 脳波に特徴のある周期性同期性発作波periodic synchronous discharge(PSD)が出現する. 病理学的には,大脳皮質,基底核,視床,小脳,脊髄の神経細胞の変性脱落,高度のグリオーシス,海綿様状態が特徴である(→海綿状変性,海綿状変性脳症). ゲルストマン・シュトロイスラー症候群GerstmannStraussler syndrome(ゲルストマン症候群,ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカ病),致死性家族性不眠症,クールkuruなどとともに現在は,プリオン病prion diseaseと呼ばれている.

 

55

Crow-Fukase症候群

PEP(pigmentation, edema, polyneuritis)症候群,POEMS(polyneuropathy, organomegaly, endocrinopathy, M protein and skin change)症候群. 中年の男性に多く発症. 臨床症状として,うっ血乳頭(乳頭浮腫),感覚運動型多発神経炎(→多発神経炎),下腿浮腫,腹水,胸水,皮膚変化として色素沈着,剛毛,硬化,内分泌障害として女性化乳房,陰萎,無月経,耐糖能異常,臓器腫大として肝・脾腫大,あるいはリンパ節腫脹があり,さらに微熱,多汗,ばち指を伴うことがある. 本症例の中には骨髄腫の合併例と,骨髄腫はなく髄外性形質細胞腫あるいはMタンパク(多くはIgGあるいはIgAλ)または多クローン性免疫グロブリンのみを有する例が存在する. 治療として,腫瘍の摘出,放射線照射,ステロイド,免疫抑制剤の投与が行われている.

 

56

Ataxia telangiectasia

…重症複合型免疫不全症,血管拡張・小脳〔性運動〕失調を伴う. 細胞性免疫, IgAおよびIgG減少.

 

57

Wernicke脳症

…アルコール依存症や術後,妊娠悪阻などで不完全な食事摂取などの原因によりビタミンB1が欠乏して起こる. 病理学的には乳頭体,第三脳室,中脳水道,第四脳室周囲の灰白質の急性期における血管内皮細胞の膨化,出血とその後の血管の増生やグリオーシスを特徴とする. 臨床的には,眼球運動障害,失調性歩行,意識障害が三主徴. 多発神経炎,低体温,コルサコフ症状群を合併することも少なくない.

(1)ビタミンB1欠乏, (2)アルコール依存症, (3)眼球運動障害,失調性歩行,意識障害

 

58

Aderenoleukodystrophy副腎脳白質ジストロフィー

…伴性劣性遺伝の脱髄性神経疾患. 4-5歳を中心として発症する. 退行性の運動障害,痙性四肢麻痺, 視聴覚認知障害を主徴. 神経病理学的には,後頭部から始まる広範な中枢神経の脱髄と血管周囲の細胞浸潤が特徴. 炭素数が24-30に及ぶ極長鎖脂肪酸が蓄積している. 診断は培養皮膚線維芽細胞,血清での総脂質脂肪酸のC 26 : 0 / C 22 : 0の比によって診断される.

 

59

Argyll Robertson徴候

…神経梅毒に特異な瞳孔所見. その主徴は, 1)直接および間接対光反応の欠如, 2)迅速な輻湊反応, 3)縮瞳である. 症状は一般に両眼性であるが瞳孔不同や脱円をみることが多い. 過去においてはArgyll Robertson瞳孔が神経梅毒に高頻度に出現したが,近年は,糖尿病,多発性硬化症,脳炎,中枢神経系の変性疾患,アルコール中毒など,非梅毒で本瞳孔を呈する頻度が高まっている.

(1)神経梅毒, (2)対光反応欠如, (3)輻湊反応正常, (4)中脳上丘レベルの障害

 

60

Normal pressure hydrocephalus正常圧水頭症(NPH)

…症候性水頭症の一型. 記銘力障害,歩行障害,失禁が三主徴. 画像上,脳室の拡大を認めるが,頭蓋内圧は正常範囲にあり,シャント手術により症候が改善するという特徴をもつ. (1)クモ膜下出血,外傷,髄膜炎などに続発するものと,(2)特発性のものがあり,ともに髄液の吸収障害を原因とする交通性水頭症communicating hydrocephalusである.

 

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Central pontine myelinolysis橋中央部髄鞘融解CPM

…アルコール依存症患者, 栄養障害患者や低ナト血症の急速な補正で発生. 意識障害回復期に逆に四肢麻痺, 球麻痺が明らかになる. 眼球運動以外の自発運動が消失し, 閉じ込め症候群を呈する.

62

急性間欠性ポルフィリア

…急性ポルフィリン症acute porphyria. 優性遺伝であり,成熟女性に多い. 症候は,(1)腹部症状(腹痛,嘔吐,便秘 = Guntherの三徴)(2)神経症状(四肢脱力-麻痺,筋痛,しびれ感,球麻痺など)(3)精神症状(不安,不眠,ヒステリー,せん妄など)3. (4)自律神経症状(高血圧,頻脈,発汗,発熱など)(5)視床下部症候(乏尿,低ナトリウム血症,高血糖,GH, ACTH, ADHの分泌異常など)を加えて五大症候ともされる. 薬剤(バルビタールなど),ストレス,飢餓,ホルモン(女性ホルモン,甲状腺ホルモンなど)が誘因となる. (1)急性間欠性ポルフィリン症acute intermittent porphyria(AIP)(2)多彩性ポルフィリン症variegate porphyria(VP)(3)肝性コプロポルフィリン症hepatic coproporphyria(HCP)3病型があり,それぞれuroporphyrinogen I synthetase, heme synthetase, coproporphyrinogen decarboxylaseの欠損であり,赤血球,線維芽細胞,肝細胞,羊水細胞などで認められる. 3型とも発症期尿porphobilinogen (PBG)が著増する. δ-aminolevulinic acid(δ-ALA)も蓄積する.

 

63

mitochondria脳筋症

…診断は血清,髄液乳酸値の上昇,筋生検による形態学的異常(赤色ぼろ線維raggedred fibers),ミトコンドリアDNA変異の確認による. 70%は次の3大病型に属する. (1)慢性進行性外眼筋麻痺〔症候群〕 chronic progressive external ophthalmoplegia, CPEO : (→眼筋ミオパシー) : 遺伝性がなくミトコンドリアDNAの突然変異(欠失が70%)がある. 小児期から成人にかけて,眼瞼下垂,全方向性の眼球運動障害で発症する. 外眼筋麻痺(→眼筋麻痺),網膜色素変性症,心伝導障害の三徴を備えるものは,Kearns‐〔Shy

Sayre syndrome(カーンズ・セイヤー症候群)と呼ぶ.

(2)MELAS(mitochondrial myopathyencephalopathylactic acidosisand strokelike episodes) : 母系遺伝をとる. 80%の患者は5-15歳に最初の脳卒中様症状(発作性の嘔吐を伴う頭痛,片麻痺,半盲,痙攣)をみる. (3)MERRF(myoclonus epilepsy with raggedred fibers) : 母系遺伝をとる. 進行性の小脳失調,ミオクローヌス,てんかんを三主徴とする.

 

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Alzheimer dementia of Alzheimer type(DAT)

…初老期では,40歳代後半から50歳代にかけ,高齢期では70歳代後半以降に発症し,記憶障害,意欲障害,判断障害,失語,失行,失認,人格障害,感情障害,鏡現象,クリューヴァー・ビューシー症候群KluverBucy syndromeなどの症状が現れ,高度の痴呆におちいり,さらに,てんかん発作や筋固縮などの神経症状が加わり,最後は失外套症候群を示し,寝たきりとなって死に至る脳の変性疾患である. 脳の病理変化としては,老人斑(アミロイドタンパク,βタンパクの沈着),アルツハイマー神経原線維変化,神経細胞消失がみられ,症状の進行とともに病変は高度となり,著明な脳萎縮(→脳萎縮症)をきたす. 側頭葉内側部と側頭・頭頂・後頭葉接合部に病変が強い.

 

65

Huntington舞踏病

…舞踏病症状が必発というわけでない. 単純優性遺伝の形式をとる遺伝性変性疾患. 臨床像は, (1)不随意運動 : chorea, 時にバリズム, まれにジストニア, ミオクローヌス. (2)精神障害 : 人格障害(抑うつ,不活発,無欲,投げやり,怠惰,易怒,衝動的), (3)知能障害 : 注意力低下著明, 痴呆(皮質下痴呆). 病理は, 線条体小細胞のうちGABA作動性抑制性ニューロンが変性, 脱落→黒質ドパミン作動性ニューロンへの抑制減少→線条体でのドパミン系の相対的亢進. 治療は, 抗ドパミン作用薬(ハロペリドール, クロルプロマジン, ペルフェナジン).

 

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多発性硬化症multiple sclerosis(MS)

(1)臨床像の特徴 : CNSの髄鞘が選択的に破壊される炎症性脱髄疾患で自己免疫性疾患. 若年成人, 女性に好発し, 再発と緩解を繰り返す. 中枢神経灰白質のうち髄鞘とoligodendrogliaが選択的に破壊される.

(2)良く見られる神経徴候 : 視力障害(一側18%, 両側47%, 数日で全盲になることもある), 視神経萎縮, 核間性眼筋麻痺, 運動麻痺・錐体路徴候(腱反射亢進, Babinski徴候), 小脳失調(四肢の協調運動障害, 動揺性歩行, 眼振), 有痛性強直性痙攣, Lhermitte徴候(頚部前屈によって脊柱に沿って電撃痛が下行, 脊髄後索の病変を示唆).

(3)病態生理 : 大小不同の境界鮮明な脱髄巣が大脳から脊髄まで多発. 視神経, 脊髄, 側脳室周囲の大脳白質は好発部位. 急性期に炎症反応, 小静脈周囲にリンパ球(CD4), マクロファージが浸潤.

(4)有用な補助診断法 : ふつうnegativeHorner徴候, 失語失行などの皮質巣症状, パーキンソン徴候などの基底核症状, 痙攣発作, 同名半盲. 最も大切なことは, 空間的時間的多発性を見い出すこと. 大脳病変では血管障害, 炎症性疾患, 脊髄病変では脊髄髄内腫瘍, 炎症性疾患を除外すること. CT, MRI→脳萎縮, 脳室拡大. 視覚誘発電位pattern VEP 52-85%, 体性感覚誘発電位SEP 75-87%, 聴性脳幹反応ABR 43-87%. 髄液IgG index上昇など. Oligoclonal band, MBPは非特異的.

(5)治療法 : 急性増悪期→メチルプレドニン. 発作間欠期→IFNβ, プレドニン, メソトレキセートなど. 対症療法として, 突発性異常(有痛性強直性痙攣, 三叉神経痛)carbamazepin, 痙性に抗痙剤を使用する. 一般的治療として, リハビリ, 膀胱訓練, 褥瘡処置, ストレス / 過労 / 感染症 / 妊娠をさける.

 

…ホルネル症候群 : 縮瞳,眼瞼裂の狭小,および眼球陥凹の三主徴候(Horner's triad)に,同側顔面の無汗症などを伴う症候群. 交感神経の障害により瞳孔散大筋が麻痺し,瞳孔が縮小する. また上瞼板筋(Muller)の麻痺により眼瞼裂が狭小となる. 眼球陥凹は現在では眼瞼裂狭小による見かけ上のものと考えるものが多い. 交感神経遠心路の第1ニューロンは視床下部から脳幹部,頚髄を下降して第1胸髄付近の中間外側核に終わる. 2ニューロンはここから頚部交感神経節に至る. 3のニューロンはこれから末梢である. ホルネル症候群はこのいずれの障害によっても生じうる. 1ニューロンの障害によるホルネル症候群はバビンスキー・ナジョット症候群BabinskiNageotte syndrome,セスタン・シュネ症候群CestanChenais s.,ワレンベルク症候群Wallenberg's s.などでみられる.第2ニューロンではKlumpke麻痺(デジェリン・クルムプケ症候群)Pancoast腫瘍(パンコースト症候群),第3ニューロンでは内頚動脈系動脈瘤,閉塞,外傷などによることが多い.

 

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遺伝性脊髄小脳変性症hereditary spinocerebellar atrophy

疾患概念(分類)         臨床像          病理変化      遺伝型

遺伝性                             

(1)SCA6              純粋な小脳性運動失調のみ              小脳全層の細胞変性と小脳の萎縮. ときにオリーブ核の細胞変性.               / 優性. CaCh-CAGrep.

(2)Machad-Joseph病 MJD     小脳性運動失調 + 痙縮を伴う錐体路徴候, ジストニア, 筋固縮, 外眼筋麻痺, 四肢筋萎縮など. 前庭機能障害, びっくり眼は特徴的.               小脳の細胞変性は軽度. クラーク柱細胞脱落. 歯状核, ルイ体, 黒質変性. 前角細胞や脳神経運動神経核の細胞脱落.               / 優性. MJD-CAGrep.

(3)遺伝性オリーブ橋小脳萎縮症 hereditary OPCA  小脳性運動失調. 深部腱反射↓or, 筋萎縮, 緩徐眼球運動, 外眼筋麻痺, 舞踏運動など多彩.    小脳全層, 歯状核, 淡蒼球内節, 前角細胞, クラーク柱などの変性.               / 優性. Ataxin-CAGrep.

(4)歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症dentatorubro-pallidoluysian atrophy, DRPLA              20才までの発病→ミオクローヌスてんかん, 小脳性運動失調, 知能障害. 20~40→小脳性運動失調, 知能障害, てんかん, 舞踏運動. 40over→小脳性運動失調, 知能障害, 舞踏運動.               小脳萎縮は比較的軽度. 歯状核, 淡蒼球(外節), ルイ体, 赤核などの変性.               / 優性. Atrophin- CAGrep.

(5)フリードライヒッ失調症 Friedreich's ataxia  (I)脊髄後索障害による運動失調 : 深部感覚障害, ロンベルグ徴候, 腱反射低下. (II)脊髄側索障害による症候 : Babinski徴候. (III)変質徴候など : 足変形, 脊椎側彎, 心筋障害.        脊髄後索, 側索に主病変.               / 劣性. frataxin- CAGrep.

非遺伝性                                         

(1)オリーブ橋小脳萎縮症olivopontocerebellar atrophy OPCA  小脳性運動失調錐体外路症候 : 固縮, 無動自律神経障害 : 起立性低血圧, 排尿困難, 尿失禁, インポテンス錐体路症候 : 深部腱反射亢進, Babinski徴候          小脳全層の細胞変性. 橋核ニューロンの消失. 橋および中小脳脚の萎縮. 黒質メラニン含有細胞脱落. 脊髄中間灰白質の細胞変性. 病変の強いところの白質にglial cytoplasmic inclusion GCIあり.

(2)皮質性小脳萎縮症cortical cerebellar atrophy CCA     純粋な小脳性運動失調のみ              小脳全層の細胞変性と小脳の萎縮. ときにオリーブ核の細胞変性.

 

 

68

多系統萎縮症multiple(multi)system atrophy, MSA

疾患概念(分類)         臨床像          病理変化      遺伝型

(1)オリーブ橋小脳萎縮症olivopontocerebellar atrophy OPCA  小脳性運動失調錐体外路症候 : 固縮, 無動自律神経障害 : 起立性低血圧, 排尿困難, 尿失禁, インポテンス錐体路症候 : 深部腱反射亢進, Babinski徴候OPCA型は小脳性運動失調で初発し,SND型は筋固縮(→筋トーヌス異常),動作緩慢などのパーキンソン症候で,Shy-Drager症候群は起立性低血圧,排尿障害,発汗減少,陰萎などの自律神経症候でそれぞれ初発する.               小脳全層の細胞変性. 橋核ニューロンの消失. 橋および中小脳脚の萎縮. 黒質メラニン含有細胞脱落. 脊髄中間灰白質の細胞変性. 病変の強いところの白質にglial cytoplasmic inclusion GCIあり. OPCA病変とSDS病変とともに被殻に明らかな変性性病変と褐色の色素沈着を示す(SND病変).   なし

(2)Shy-Drager synd. SDS                                         

(3)線条体黒質変性症striatonigral degeneration, SND                            

 

 

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重症筋無力症myasthenia gravis

(1)臨床像の特徴 / 経過, 現れやすい神経徴候, 鑑別すべき疾患

…発症は15-60. 20才頃がピーク. 40才以前は女性の頻度が高い. 他の自己免疫疾患を合併することあり. 特に甲状腺機能亢進症の合併が多い.

一側または両側の眼瞼下垂, 外眼筋麻痺による複視で発症する. 症状は緩徐に進行し, 次第に四肢筋力低下や嚥下困難, 言語障害などが進行する. 易疲労性や症状の日内変動が特徴で, 夕方に増悪し, 休息によって症状は改善する. 急激に呼吸筋麻痺をおこすことがある. 鑑別すべき疾患としてLambert-Eaton症候群が重要で, 症状が下肢から進行していくことがMGとの鑑別点となる. その他, ギラン・バレー症候群, 先天性筋無力症など.

(2)有用な補助診断法とその評価法

テンシロンテスト : EDR静注で症状が劇的に改善.

誘発筋電図 : 3-7c / sの刺激で振幅の漸減(10%)waning.

血清抗ACh抗体高値. 胸部CTで胸腺腫および胸腺肥大のスクリーニング.

(3)治療方針, 急性増悪を示す場合とその名称と注意点

根本的治療 : 胸腺摘出術, ステロイド, 免疫抑制剤.

対症的治療 : ChE, plasmapheresis

…診断がつき次第, 抗コリンエステラーゼ薬を開始. 症状が眼筋に限局しない場合は胸腺摘出が一般的. 効果不十分であればステロイドや免疫抑制薬を使用. 必要あれば手術前に状態の改善を目的に血漿分離交換.

…突然おきる呼吸困難を筋無力性クリーゼ(ACh不足)といい, コリン性クリーゼ(ACh過剰)と区別. 前者はテンシロンテスト陽性.

(4)発症メカニズムと臨床像の病態生理・治療法の根拠

…抗AChR抗体は多クローンで胸腺や末梢リンパ組織で産生される. 阻止抗体と結合抗体に分けて理解される. 筋様細胞が抗原提示を行っている可能性がある. AChR抗体によって動揺性の筋力低下をきたす. よって治療はNMJでの神経伝達を薬理学的に補助すること, MGの免疫学的異常を正常の方向に導くことを目的とする.

 

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ギラン・バレー症候群GuillainBarre synd. GBS

(1)臨床像の特徴, 経過, 神経徴候

(I)1肢以上の進行性運動麻痺 : 感覚症候は軽度, 初めは足のもつれなどで気付き, その程度は軽度の下肢脱力から四肢の完全麻痺にいたるものまである. 球麻痺, 顔面麻痺, 外眼筋麻痺を伴うものもある.

(II)深部反射消失. (III)一般に対称性あり. (IV)呼吸器, 腸管などに先行感染があり, その1-3週間後に発症. (V)筋力低下は急速に進行, 90%以上では発症から4週後までに進行は停止. (VI)多くは, 進行停止後2-4週で回復が始まり予後良好だが, 呼吸不全, 循環不全による急性期死亡もありうるので注意する.

(2)侵されやすい脳神経(頻度を考慮して)

顔面VII, 舌下XII, 舌咽IX, 迷走X, 外眼筋支配神経III, IV, VI.

ものを食べる時口からこぼす, 嚥下障害, 外眼筋麻痺

(3)抗原 : 末梢神経の糖脂質(GM1, GD1bなどのガングリオシド)

(4)他の免疫性神経疾患と抗原

Fisher synd. (GBSの亜型) : ガングリオシドGQ1b

Multifocal motor neuropathy : ガングリオシドGM1

 

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Brown-Sequard症候群

…脊髄の半側が,ある高さで傷害された時に生ずる症候群. その症状は,傷害をうけた髄節に相当するsegmental signと,傷害部以下に生ずるlong tract signに分けられる. segmental signとしては,傷害側に傷害をうけた髄節に相当する皮節dermatomeの全感覚脱失およびその上の皮節に感覚過敏を認めることがあり,さらに傷害された髄節に支配されている節の筋力低下,萎縮を認める. long tract signとしては,傷害側の

傷害部以下に,運動麻痺,深部反射亢進,病的反射の出現および振動覚,位置覚,識別覚などの感覚障害や一過性の感覚過敏,皮膚温の上昇などを認める.また,反対側の傷害部以下には,痛覚,温度覚の障害が認められる. 原因疾患として,脊髄外傷とくに刺傷や銃創,脊髄出血などの血管障害,脊髄腫瘍(髄内腫瘍に多い),多発性硬化症,外部からの脊髄圧迫,脊髄炎などがある.

 

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Wallenberg症候群

…延髄背外側の病変により,同側顔面の解離性知覚障害(温痛覚脱失),第IX, X, XI脳神経麻痺,ホルネル症候群Horner syndrome,小脳失調,眼振, 回転性めまい, および反対側半身(顔面を除く)の解離性感覚障害(温痛覚脱失)を呈す. 多くは椎骨動脈の血管障害による.

 

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MLF症候群

…橋被蓋の障害による. 同側の内転障害と対側の外転時の眼振がみられる. 輻輳は保持されている. 例えば,左側で障害が起こると左側への側方注意麻痺が出現する. 右方視にて左眼の内転が障害されて動かず,右眼のみが外転する. 脳幹梗塞,橋出血によることが圧倒的に多く,多発性硬化症,橋グリオーマでも出現する.

 

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Weber症候群

…中脳腹側の片側病変により生じる症候群. 原因として後大脳動脈,後脈絡叢動脈脚間枝の血栓症が多く,まれに腫瘍(グリオーマ)による. 脳脚の皮質脊髄路,皮質核路,皮質橋路の障害および動眼神経の障害により,対側の痙性片麻痺(顔面を含む),対側核上性脳神経麻痺(VII,XII),ならびに同側の動眼神経完全麻痺(散瞳,対光反射消失)をきたす.

 

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脳幹症候群(まとめ)

…代表的症候群(《 》は病巣側を意味する)

 

中脳レベルの障害

パリノー症候群Parinaud synd.(垂直性注視麻痺・輻輳麻痺・対光反射消失)

中脳水道症候群sylvian aqueduct s(後退眼振・輻輳眼振)

ウェーバー症候群Weber s(《動眼神経麻痺》 + 対側の片麻痺)(腹側)

ベネディクト症候群Benedikt s(Weber症候群 + 《不随意運動》)(赤核周囲)

 

橋下部内側障害によるフォヴィル症候群Foville s

(《顔面神経麻痺》 + 病巣側への注視麻痺 + 対側の片麻痺)

 

橋下部障害ではミヤール・ギュブレール症候群MillardGubler s

(《外転神経麻痺 + 末梢性顔面神経麻痺》 + 対側の片麻痺)

 

橋底部での閉じ込め症候群lockedin s

(意識清明,自発言語の欠如,垂直性眼球運動と開閉眼以外の随意運動はなく,意思の疎通は眼球運動や瞬目による)

 

延髄の外側障害ではワレンベルク症候群Wallenberg s

(主に《顔面温痛覚障害 + Horner症候群 + 小脳失調》 + 対側体幹の温痛覚障害) 

4 以下の病態の時に現れる感覚障害のパターンの典型例を図示せよ.

1) 多発性neuropathy

2) Brown-Sequard syndrome

3) 馬尾障害

4) 左視床出血

5) Wallenberg syndrome

6) C7頚椎椎間板hernia