[1] 胃癌, 食道癌
(1) 早期癌
胃癌:固有筋層貫いていない(表在癌) = 粘膜表面から粘膜下層まで
食道癌:固有筋層貫いていない(表在癌)かつリンパ節転移なし.
(2) 胃癌は早期癌を肉眼的に分類 = 日本固有
type I:隆起型
type II:表面型 è さらにIIa(表面隆起型), IIb(表面平坦型), IIc(表面陥凹型)
type III:陥凹型
(3) 進行胃癌はBorrmann分類をされる. こちらはアラビア数字で書く.
(4) 胃癌は腸上皮化成のところを母地として発生するものは分化型で, 胃底線に囲まれた領域に発生するもの(スキルス)は未分化型である.
(5) 胃癌の治療は外科手術が基本. しかし分化癌でsm2までのものは内視鏡的治療, すなわちEMRで可能. リンパ転移がある例, sm2以降, または表在型でも未分化癌の場合は外科手術の適応. 遠隔転移がある場合は化学療法. 食道癌も原則手術. 3領域郭清(頸部, 胸部, 腹部)
(6) 萎縮性胃炎, 術後胃炎等によって酸を産生する細胞が減ると胃のpHが上がり, 食べ物の硝酸塩を発癌物質に変える細菌が増えるため, 胃癌になりやすい. また, 直径2cm以上の胃腺腫も癌の疑いあり.
(7) 平坦な癌は染色を行う. 癌部はルゴール(ヨード)染色では染まらず, トルイジンブルー染色で青く染まる.
[2] 慢性胃炎
(1) 原発性慢性胃炎と続発性慢性胃炎がある.
¨ 原発性:表層型, 萎縮性, 肥厚性
¨ 続発性:胃癌, 胃十二指腸潰瘍, 術後などに続発
(2) 胃炎は正常から表在性→軽度萎縮性→中等度萎縮性→高度萎縮性となり, 最後には胃底腺の消失を起こす. また, 萎縮部位から胃腺腫が高率に発生.
(3) 内視鏡的な萎縮の境界部位:ペプシノゲンI/IIの胃粘膜内局在
¨ 酸分泌部位:コンゴーレッド法で染め出される
¨ 腸上皮化生:メチレンブルー染色による
(4) 胃炎の分類としてA型胃炎(自己免疫による)とB型胃炎(主にH. pyloriによる)という分類をすることもある.
(5) 消化性潰瘍:粘膜に対する防御因子と攻撃因子のバランスの破綻による.
発生には大井の二重規制説がある.
¨ 「相異なる2つの粘膜の境界で, しかも酸分泌領域の遠位側(近傍ではない!)に発生する. 」(粘膜法則)
¨ 「胃運動の歪みの著しい部位で発生する」(筋法則)
[急性胃炎]
むかつき, 痛み, ひどいびらん, 吐血. ショックのある場合は緊急手術
[潰瘍性病変]
(1) ストレス, NSAIDs等による障害も知られている.
(2) 胃での好発部位:粘膜の変わり目. 胃幽門前庭部, 胃角部(老人), 十二指腸球部
(3) 組織分類:Ul-I, II, III, IV. Ul-II以上を潰瘍という. Ul-Iをびらんという. Ul-Iは粘膜固有層にとどまっており, Ul-IIは粘膜筋板を突き破って粘膜下層に来ている.
(4) 酸分泌部遠位に出来やすい
(5) 診断はX線と内視鏡.
(6) 治療は攻撃因子の抑制または防御因子の増強.
¨ H2ブロッカー, 抗ガストリン剤, PPIなどは攻撃因子の抑制.
¨ PPI:オメプラノール:pHが下がるのでガストリンが分泌されて, 血中ガストリン濃度が上がる.
¨ アルミニウム製剤は中和作用があるが, 便秘を来たす
¨ H2ブロッカーは酸分泌を抑制 = NSAIDsの作用と拮抗
¨ 抗コリン剤は眼圧を上昇させる→緑内障では禁忌
¨ プロスタグランジンはガストリン分泌を抑制→粘膜保護作用
(7) 内視鏡的ステージ
大きく分けてactive stage(A期)とhealing stage(H期)とscarring stage(S期)とに分かれる. それぞれ2つの時期に分かれる.
¨ A1:粘膜周囲が浮腫, 再生上皮なし
¨ A2:浮腫減退, わずかな再生上皮, 潰瘍縁に白い白苔
¨ H1:白苔が薄くなる. 再生上皮がせり出す. 再生血管で潰瘍縁が赤く見える.
¨ H2:再生上皮にほとんど覆われる. わずかな白苔
¨ S1:潰瘍の表面に発赤斑.
¨ S2:完全に消失.
(8) 空腹時痛は十二指腸潰瘍で起こり易い. 十二指腸への攻撃因子としては胃酸過多.
(9) 発病頻発年代は十二指腸潰瘍で10代(若い), 胃潰瘍で50代以上(高齢者)
(10) しばしば再発
(11) 十二指腸潰瘍ではタール便!
[潰瘍性大腸炎(UC)]
(1) 若い成人(30歳以下)にみられる. 小児や50歳以上でも時に見られる. 原因不明, 慢性腸疾患
(2) 持続性, 反復性の粘血便を特徴.
(3) 内視鏡:びまん性の粘膜病変, 接触出血, 粘血膿性分泌物, 潰瘍, 偽ポリポーシスあり. 直腸から連続するびまん性炎症
(4) 注腸:ハウストラ消失(鉛管像), 粘膜表面のびまん性変化.
(5) 組織:びまん性の炎症細胞浸潤, 陰窩膿瘍など
(6) 直腸炎型は軽症で, 全結腸型は重症なことが多い.
(7) 感染性腸炎, 放射性腸炎, クローン病などを除外
(8) 治療:アミノサリチル酸剤(サラゾピリン), ステロイド(副作用の問題あり). 重症に限って食事制限(普通はしない).
(9) 合併症:発育障害, 関節炎, 大腸癌(未分化型が多い. 罹患期間や重症度による. 多発性), PSC(原発性硬化性胆管炎)
(10) 予後:劇症例では手術(10%), 寛解しても再燃するケースが多い→サリチル酸で予防. ステロイドの副作用による骨粗しょう症や大腿骨頭壊死等が見られる.
[クローン病]
(1) 若い成人に見られる. 原因不明の慢性腸炎
(2) 回腸に多いが, 口から肛門まで消化管のどこにも発生しうる.
(3) 縦走潰瘍, 敷石像, 非乾酪性類上皮細胞肉芽腫, 非連続性または区域性 = skip lesion (UCとの大きな違い), 炎症疾患なのでCRP上昇等.
(4) 合併症として炎症が進んだ結果, 消化管狭窄, ろう孔を作ったりする. 発育障害, 大腸, 小腸癌
(5) 主症状は腹痛, 下痢, 体重減少, 発熱, 肛門病変
(6) 治療:ED療法(elementary diet, 食事制限)が第1選択. ダメな場合はアミノサリチル酸剤(サラゾピリン), ステロイド(プレドニダゾン)大量投与. それでもダメなら外科手術.
(7) 大半は手術になりうる. 10年以内に60-70%が手術.
[過敏性腸症候群]
習慣性の腹痛, 便通異常等を訴える. 消化器心身症の代表. 器質に異常なし. 当然, 血便はない.
[大腸憩室]
憩室炎, 出血を起こさない限り無症状. 治療は必要ない. 従って通常血便なし.
[痔核]
痔静脈による. 出血はあるが, 粘血便は起こさない.
[感染性腸炎]
(1) 細菌性
a) 上皮障害性:Shigella, VTEC(Vero Toxin-producing E. coli), カンピロバクターなど
b) 毒素産生性:V. cholerae, V. parahaemolyticus, Salmonella, S. aureus, Clostoridium difficileなど
c) 抗生物質関連で, 偽膜性大腸炎(C. difficileのCD toxin), 急性出血性腸炎(クラブシエラ)など.
(2) ウイルス性:ロタウイルス, 小型球形ウイルスなど
[虚血性腸炎]
(1) 下血を来たす
(2) 高齢者では動脈硬化, 腸管内圧上昇. 若年者では血管炎
(3) 症状:突然の腹痛, 下痢, 無痛性の大量下血
(4) 注腸:拇指圧痕像, 縦走潰瘍
[イレウス]
(1) 腸管の通過障害, 著しい腸管拡張
(2) 器質的な狭窄によるイレウス(機械的イレウス)と, 機能的な腸管運動麻痺によるイレウス(麻痺性イレウス, 機能的イレウス)がある.
a) 機械的イレウス
¨ 絞扼性(ヘルニア嵌頓, 小児の腸重積, 腹部手術後など)
¨ 単純性(癒着, 大腸癌, クローン病)
b) 機能的イレウス:腹部手術直後, 腹膜炎, 腸管運動制約をする薬剤, 神経疾患など
(3) 症状:排便や排ガスの停止. 腹痛, 悪心, 吐糞(糞臭の嘔吐)
(4) 腹部単純Xp:拡張腸管, 内容物. 小腸ガス像. 立位でniveauがみられる.
(5) 治療は緊急手術. なるべく保存的に.
[大腸癌]
(1) 疫学
¨ 日本では増加傾向
¨ 6万人が罹患, 約3.3万人が死亡
¨ 男女差なし
¨ 5%前後の症例では遺伝性
¨ ポリープの多くは癌にならないが, 遺伝性の疾患を持つ場合はなりやすい.
¨ 好発部位:大腸38%, S字結腸34%, 下行結腸5%, 横行結腸7%, 上行結腸10%, 盲腸6%位.
(2) 症状
¨ 血便, 残便感, 腹痛, 下痢と便秘. イレウスを起こすこともあり.
¨ 盲腸や上行結腸では膨満感や腹部腫瘤触知くらい.
(3) 早期癌は粘膜下層まで. それ以後を進行癌. 分類の仕方は胃癌の場合と類似.
¨ 早期癌:Ip(有茎性), Is(広基性), IIa, IIb, IIc, III
¨ 進行癌:0型(早期癌), 1-4型はBorrmann type1-4に準拠, 5型(特殊型)
(4) 癌はポリープの一部が癌化していくのと, 扁平な病変が癌化していくのと2種類ある.
(5) 診断
¨ 便潜血が最も一般的かつ有効.
¨ 注腸Xpと大腸内視鏡で確診.
¨ 腫瘍マーカーは早期発見には役に立たない.
(6) 進行度の分類として, Dukes分類とステージ分類がある.
¨ Dukes A:病変が大腸限局 = stage 0(粘膜壁限局), stage I(大腸壁限局)
¨ Dukes B:病変が大腸壁を貫くがリンパ節転移(−) = stage II
¨ Dukes C:リンパ節転移はあるが遠隔転移なし. = stage III
¨ Dukes D:遠隔転移 = stageIV
(7) 内科的治療:m癌まで. 粘膜筋板を越えたsm以後はリンパ転移の可能性が3-10%→外科的手術
(8) 外科的療法
¨ 開腹手術
¨ 浸潤が少ない早期癌では腹腔鏡下手術
¨ 直腸癌では再建法が問題. 人工肛門にするのかなど. なるべくQOLを維持.
(9) 化学療法
¨ 進行癌の術後の再発防止
¨ 手術不能や再発例
¨ 腸間膜動脈から肝への転移が多い→肝動注化学療法
(10) 予後
早期ならほぼ100%完治. Dukes Bで80%
(11) 遺伝性
¨ 家族性大腸腺腫症(FAP)
a) APC遺伝子異常
b) 大腸内に多くの(100個以上)のポリープ
c) 高率に癌化.
¨ 遺伝性非腺腫性大腸癌(HNPCC)
a) マイクロサテライトのエラー(ミスマッチ)を修復するMMR遺伝子に変異が起こる.
b) 常染色体優性遺伝
c) 子宮, 大腸, 胃に癌を多発
(12) メラノーマや悪性リンパ腫などによる悪性腫瘍にも注意.
[ポリープ]
(1) 大腸粘膜上の隆起性病変の総称
(2) 多くは無症状. 検査で見つかる. 注腸, ポリペクトミー
(3) 5mm以内. 5mmを越えると腺腫の可能性.
(4) 確診と生検をかねて内視鏡的ポリペクトミー.