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大澤 武司
(Dr. OSAWA Takeshi)



 


研 究 日 記
(2004年2月)



□2004年2月28日

 東アジア共同体構想の核である日中関係に対する重要性が叫ばれるようになって久しい.中米関係や日米関係と比較し,これまで副次的な位置で捉えられることの多かった日中関係ではあるが,殊に東アジアという括りで何らかの枠組みを創出しようとする場合,その重要性は飛躍的に大きくなるといえる.「歴史認識」をはじめとする日中間における「相互理解」の促進はいまだ多くの困難を伴っているが,多くの研究者が「短憂長楽」と見ているように,日中両国の「相互補完」関係に関する認識が高まるならば,それほど悲観することはないだろう.

 ただ,やはり懸念されるのは台湾問題である.本日,台湾全土で「手護台湾」キャンペーンが展開された.100万を大きく超える参加者が手をつなぎ, 中国大陸に対する「No」を表明した.勿論,これは総統選挙を睨んだ与党側のパフォーマンスであるが,このキャンペーンが持つ政治的意味は,単なる国内的な政治問題としてのみ捉えられるべきものでないことは言うまでもない.台湾の国際的地位が如何なるものであれ,それが東アジアに存在する以上,その進む道が東アジアにおける各国の「相互理解」の形成に大きな影響を与えることは避けられない.特に「台湾」と言う存在が日中間における「歴史認識」問題の根幹にかかわるものの一つである以上,来月20日の総統選挙と公民投票が現代東アジア国際関係史の大きな分岐点となることは間違いない.

 「台湾人」アイデンティティーの発展過程の現段階はいかなるものなのか.「新台湾人」アイデンティティーの中に「二二八」は解消されつつあるのか.私の大雑把な問題関心はここにある.


□2004年2月19日

 ゼミの留学生に協力してもらい,中国語の個人レッスンを始めた.台湾から帰国して以来,15年近くにわたって使っていなかった中国語.どうなることやらと思っていたが,とりあえず,なんとか...あまりにも良く言われることだが,やはり「恐れずに」話し続けることこそが最大の上達の秘訣のようだ.防衛研のM先生までとは言わないが,「中国語で“きちんと”報告,議論ができる日本人研究者」になりたい.

 ある研究会で精読している中国語文献の書評を書くための準備作業に着手.これはかつての指導教官とのコレボレートによる執筆の書評論文となるので,責任重大である.最近の若手研究者があまり触れることのない,「49年=プロ革命説」や「過渡期論争」,さらには「二つの歴史決議」,「文革」論などをめぐる諸問題を踏まえて書く必要のある本論は,現代中国を研究しながらも,いまひとつこれらの部分の理解が不足している私にとっては良い勉強になっている.まず,「関連文件」を確実に再訳出することから始めた.


□2004年2月14日

 昨月末に刊行された日本僑報社の日中関係新書(隣人新書)は,今後の東アジア国際政治における日中関係の重要性と困難性を再認識させるものとなっている.

 いわゆる『対日新思考』を主張する中国人研究者(米中関係研究者ら)と,これに対する中国人研究者(日中関係研究者ら)の批判がセットになった形で翻訳された本新書シリーズは,一般の日本人に余り馴染みのない,中国国内における対日政策論争の一端を垣間見せてくれるものとして,ある意味で貴重なものといえるだろう.一連の議論は日本国内のマスコミにおいてもセンセーショナルに取り上げられてきたが,かと言って,一般の日本国民の意識の中にこれがどれほどまで重要な問題として認識されたかについては,甚だ心許ない.

 この『対日新思考』の中に「相手」の譲歩の兆しを見い出した日本人は,そこに反映された自らの深層心理こそを想起すべきではなかろうか.


□2004年2月3日

 1月末締め切りの論文もとりあえず提出を終えてひと段落.1ヶ月半ぶりに日常の研究活動に戻った.

 仕事の切り替えの合間に昨年末に出版されたコリン・エルマン,ミリアム・フェンディアス・エルマン編『国際関係研究へのアプローチ――歴史学と政治学の対話』(東京大学出版会,2003年)を読んでいる.本書は,私自身が常日頃から考えている方法論的問題について詳細な議論を展開しており,大きな刺激を受けている.「国家」に焦点をあてた「歴史学」から「民衆」に焦点をあてた「歴史学」へ.「定性」分析に焦点をあてた「国際政治学」から「定量」分析・「公式」確立に焦点をあてた「国際政治学」へ.歴史学と政治学における方法論的な変化が進行する過程において「自らの研究をどのように位置づけるべきなのか」という,研究者にとっての切実な問題がそこでは議論されている.何を以って自らの研究が「社会科学」であることを担保するのか.長きにわたって議論が繰り返されてきたこの論点は,現実社会に対する目に見える貢献が学問に求められる今日,改めてシビアに問われつつあるようだ.

 事務的な作業としては,学振特別研究員用科研費(研究奨励費)の交付を受けるための計画調書を作成した.どれぐらいの割合で交付が受けられるのかは不明だが,中国での資料調査を控えている以上,予算は多い方が良い.審査に通れば,もう少し専門書も我慢せずに買えるようになるだろう.

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