活字の海を渡ろう1997年1月 1月30日 ナンシー・A・コリンズ「ミッドナイト・ブルー」(ハヤカワ文庫FT)

 ハヤカワ文庫FTから出た本では久しぶりに満足した作品です。暴力描写に関しては中野善夫さんのホームページを見て、それなりに覚悟していたのですが、わたしが予想していたほど過激ではありませんでした。主人公が吸血鬼(ただし現代的)なので、基本的にはホラーです。しかし、その世界観にファンタジーの要素を取り入れているので、奥行きと迫力が出ています。
 処女長編とは思えないほど完成度が高く、展開もスピーディ。主人公、ソーニャの回想場面はかなり引き込まれます。しかし、この本は暴力と過激なセックス描写ゆえに読者を選びます。ファンタジー系の読者にはあまり受け入れらないかもしれません。
 わたしは彼女の個性が気に入ったので、部屋にあるアンソロジーに収録された作品を読もうかなと思っています。
 ところでSF畑の翻訳者が訳すと「スウィンギング・ロンドン」が「スウィングするロンドン」になってしまうのかなあ。ロック系の翻訳書だとそのままだし、固有名詞扱いでそのままでいいと思っているんだけど。

1月28日

 Amazon Booksからの荷物を郵便局に取りに行く。今回はクリスマス・シーズンにぶつかったのでこんなものかなあ。実は次に読む原書は今回受け取った荷に含まれていたMichael Bishopの"Brittle Innings"を予定していたのだけど、思ったよりも厚くてどうするか中味を読んで決めるつもり。野球の話を英語で読むのは知識がなくて大変だろうなあ。
 "Gloriana, or the Unfulfill'd Queen"を読み終える。余韻を味わいたい作品である。ラストでもう一度ひっくり返されて、またしても作者にやられたという感じ。細かい感想はあとで挙げる予定。読めば読むほど、英語の本を読むのが楽になっていくような気がします。
 今日発売のWingsで最終回を迎えた道原かつみ「X(カイ)の歌声」は今一つと言った感じ。最後のジョーカーの科白に至る過程がきちんと説明されていないので、唐突な感じを受けた。単行本で読むと印象が変わるのかなあ。

1月26日

 昨日、届いたホールドストック&エヴァンス編「アザー・エデン」のうち、気に入っていたいくつかの短編に再度目を通す。先日挙げた以外ではオールディスとリサ・タトルの後味の悪さが好きだったりします。あとは高密度の文章を書くM・ジョン・ハリスンが大変気に入っています。昨年出た「死の姉妹」(扶桑社ミステリー)でも作品が読めたのは大変嬉しかった。
 イギリスのSFというと渋いとか文学寄りというイメージがあり、わたしもそれを否定しないけど読んでみると読後に得るものも大きいという感じがします。(ファンタジーに出会う前、日本文学を読んでいたというのと無関係ではないが)この本を読んで以来、イギリスSFにとりつかれ、読めるものをいくつか読んでみたのですが、地味だけど面白いという印象が残りました。すでにイギリスの主流小説にも足を突っ込んでいたというのもあるかな。J・G・バラードの「女たちのやさしさ」(岩波書店)もいずれ読むつもりです。でも、バラードは今だ読んだことがありません。

1月22日

 Amazon Booksから、突然マウスパッドが送られてきてびっくした。国内ならともかく、海外まで送ってくるとは。最近はあと残り80ページまでたどり着いた"Gloriana"にはまっています。ああ、結末が読みたい。今月中には終わるかなあ。
 ついに1ポンド200円を越えてしまった。こんなに円安になると本を買うのも考えてしまう。

1月18日

 ふるほん文庫やさんから探求書依頼の回答を受け取る。連絡のあった本は昨年春に図書館から借りて読んで非常に気に入ったホールドストック&エヴァンス編「アザー・エデン」(ハヤカワ文庫SF)。冒頭を飾るタニス・リーの「雨にうたれて」が絶品のアンソロジーである。(これはファンタジーではなくSFですが)早速、Eメールで回答を送る。

1月17日 ミルチャ・エリアーデ「19本の薔薇」(作品社)

 読後の感想は煙に巻かれたという感じかなあ。悪い印象ではない。ただ、明確な答えが自分の中で出てこないのが悔しいのかも知れない。昨日読んだ本と同じく、主人公は傍観者でしかない。一歩先へ行こうとするキャラクターを理解しようと思っても、主人公にそれを理解できる器はなく(これは読者と同じか)、その一部に触れて時間や時を超越した体験をした後、こちら側に置いてきぼりをくらう。
 と書いたものの、やはり物語に引き込む力はある。この話は失った記憶がひとつのテーマだけあって、どの視点で描いているのかわからず、よく迷子になってしまう。これは著者が狙ったもののようにも思える。
 物語はブカレストが舞台で、老年の作家が若い頃書いた戯曲にまつわる記憶を取り戻そうとしていく。演劇が大きなウェイトを占めている。

1月16日 ミルチャ・エリアーデ「ホーニヒベルガー博士の秘密」(福武文庫)

 エリアーデはルーマニアの宗教学者として有名で、邦訳もあるとのことだが、残念ながらわたしはそちらの方は知らない。昨年の始めに読んだ「令嬢クリスティナ」が印象深く、もっと読みたいと思った作家である。
 この本も偶然、古本屋で見つけた物で、あまり知られていない作家の本が文庫で出ていると思わなかった。この本はタイトル作と「セランポールの夜」の2作を含む。どちらもインドを舞台に時間と空間を越えた者の物語である。著者自身がインド留学の経験を持つせいか、非常に説得力があり、作品に引き込まれた。
 現在、「19本の薔薇」という本も手元にあるので、近いうちに読んでみるつもり。昨年末にひとつ出ているが、幻想小説の系譜に入る作品なのかは不明。

1月15日 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「たったひとつの冴えたやりかた」(ハヤカワ文庫SF)

 いまから7、8年くらい前、友人に勧められながらなぜか当時読まなかった本。誰もが素晴らしいというタイトル作はラストで涙がこぼれてしまった。物語の最後の部分は、残された者が録音報告で知るという構成も見事。連作短編という形で同じ宇宙を舞台にした残りの二つの作品も味があっていい。初期の作品のような先鋭的な部分はここになく、その頃の作品でも感じられた普遍的な部分がその多くを占めている。普段、SFを読まない人に勧めたい本である。

1月14日

 12日の夜、The Other Change of Hobbitから送料込みの価格と現在品切れであるという(近日再入荷するという)返事を受け取り、郵政省メールを作成。(わたしはFAXを持っていないのだ)13日に投函する。Eメールで郵政省メールを出した伝えると、注文の本を2週間キープしておくという返事が来た。アメリカの通販はこの辺がしっかりしていて、また注文しようかなという気になる。

1月11日 エドマンド・スペンサー著「妖精の女王」(筑摩書房)

 子供の頃から今まで読んできた本で一番大変だと感じた本じゃないかと思う。1巻1日のペースくらいで読まないと、入り組んだ物語と忘れた頃に再登場するキャラクターに苦労する。一番楽しく読めたのは5巻「アーティガル正義の物語」。その理由はここで扱っている主題も「正義」とわかりやすく、物語もあまり脇道にそらなかったということである。やはり近代小説を通過している現代人にとって、中世の物語は読むのが大変である。注にも記してあるが、お約束となっているものがかなりあるので、今の小説を知っていると違和感を感じると思う。
 人名、神話の神々等の名前は英語読みを採用しているため、慣例と違うものは若干違和感を感じる。(エジプト神話の女神、イシスを英語ではアイシスと読むとは知らなかった)シェイクスピアと同時代の人の割には物語が中世の騎士道小説を下敷きにしているせいか、もっと古いという印象は拭えない。解説を読むと、原文は元の綴りで印刷され、英語でも簡単に読めない作品だという。幸い日本語訳は現代語訳であり、そして欧米のファンタジーの根っこにある作品だと思うので、読んで損しない作品だと思う。
 今年は今後、ミルトン「失楽園」、エッシェンバッハ「パルチヴァール」(これは昨年やっと本を見つけた)、「ニーベルンゲンの歌」など、読みたかったけど手を出せなかった古典を読みたいと思う。
 The Other Change of Hobbitにどうにかして買おうと思った本が載っていたので、メールにて注文を出す。イギリスの本なので割高だが、そうも言っていられない。本気でイギリスの使える本屋を見つけなきゃいけないと感じた。

1月8日 宮沢賢治著「銀河鉄道の夜」(岩波文庫)

 急に宮沢賢治が読みたくなって(生誕100年だった昨年、読もうと思ったことがある)、古本屋で買ってきた。小学生の時、国語の授業で取り上げた「注文の多い料理店」がすごく好きで、そのあと自分でいくつか読んだ記憶がある。今読むとずいぶんシュールな作品だと感じる。当時の個人的なお気に入りは「グスコーブドリの伝記」で、10数年ぶりに読んだけど、文章を丸覚えしていてあまり読み返した意味がなかった。たぶん、当時、何度も読んだのだろう。
 「銀河鉄道の夜」は読んだことがなくて、今回初めて読んだ。数年前にやったスーパーファミコンのアドベンチャー・ゲーム「イーハトーヴォ物語」のラストは「銀河鉄道の夜」の世界で、非常に印象深く、それ以来いつか読みたいと思っていた。読んだ印象は死を描くという部分(これはファンタジーにしかできない)でアストリッド・リンドグレーンの「はるかな国の兄弟」(岩波書店)に近いものを感じた。
 今回一番痛感したのは、SFやファンタジーの日本人作家にとって宮沢賢治の影響は非常に大きいということ。大正から昭和の初期にこのような独自の世界観を持ち、現在でも十分通じる作品を書いていることに驚きを感じた。

1月6日
 11月末に申し込んだ、LoneStarCon 2の事務局から登録を知らせるカードが送られてきた。大会参加費までカードで払えるのだから、アメリカは便利な国である。たぶん次にMembershipsがアップデートされたときには、わたしの名前が載っていると思う。少しづつサン・アントニオの情報収集を始めよう。

1月5日 ジョン・ダニング「死の蔵書」(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 わたし自身、ミステリーはたまにしか読まないけど、この本は本当に面白かった。古本屋業界を舞台に、稀覯書がネタになっているので、本が好きな人には特にお勧め。終盤の伏線がすべて明らかになる場面はなかなか読みごたえがある。1年ほど前、出たときから目を付けていたんだけど、この日、古本屋で見つけてやっと購入。(当初は図書館で借りて読むつもりだった)
 ケチをつけるわけじゃないけど、ブッククラブについては、日本の読者向けにちょっと説明があった方がよかったような気がします。かくいうわたしも、1年ほど前までは「ブッククラブ?なにそれ」という状態でしたから。個人的には少しだけ初版コレクターをやっているので、なかなか考えさせれました。わたしの持っている本の最高額は75ドルなのでたいしたことはないのですが。

1月4日 エドマンド・スペンサー著「妖精の女王」(筑摩書房)

 さすがにまだ全部は読んでいません。明日から仕事なので絶対にペースが落ちるのが目に見えているので、前半3巻を読んでの感想を簡単に書きます。
 今の目で見ると中世の騎士道小説の形を借りて、道徳を語っている作品だと思います。物語自体は面白いけど、登場人物がとにかく多いのと枝葉のエピソードがどんどんついてきて、大筋を見失いかねない。そういう作りの物語を読んだことのない人が、これを読むのは難しいかなと思います。なによりこういった妖精の国を舞台にした作品が文学作品として認識されているということに、文化の違いを感じます。
 昨年の正月は何を読んでいたかというとコニー・ウィリス「ドゥームズデイ・ブック」(早川書房)です。面白くて一気に読んだ記憶があります。この本の中に出てくる古英語は呪文のように感じます。


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