やぁ、こんにちは。お待たせしました、廊下は暑かったでしょう?といっても、教室だってたいして変わりませんがね(笑)。
ま、どうぞ、かけてください。この教室4階だから、夏は凄く暑くなるんです。クーラーを付けたいんですが予算がない、東京都に要求してもはねつけられるだけでね。音楽室もクーラーなしですから、夏休み中の吹奏楽部の練習なんて地獄のようですよ。生徒が熱射病でたおれないか心配で心配で・・・・。そのくせ、IT、ITって、コンピュータだけはドンドン"配給"されるんですから。どうなってるのか・・・。
【スクール・プラン】
えーと、松元君は来年受験する大学決まってましたね。国立1校と私立が5校ですか。まあ、今の成績なら国立大受かると思います。私のクラスからは5人以上このレベルの国立大に入ってもらわないと、スクールプランが達成できないんですよ。
スクールプラン、ご存知ありませんか?'01年の11月に都の教育委員会(以下、都教委)が導入した「高校改革」の目玉なんですけどね。各学校の教育目標のようなものを都教委に提出するんです。今までだって、それぞれの都立高校にはりっぱな教育目標がありましたよ。『心身ともに健康で、知性と感性に富み〜〜、自主自律の精神を養い、積極的な勉学態度を〜〜、これらの実現に全力で取り組む。』なんてのがね。
だけど、今度のスクールプランてのはもっとシビアなんですよ。今までのような抽象的な文言だけじゃなく、"数値目標"を要求されてるんです。例えば?
@ 国公立大学合格者数を100名以上(現役、浪人合わせて)
A 一般入試で、応募倍率を1.5倍以上
B 中学校への訪問を70校以上
C 学校説明会への参加者数を650名以上
なんていう数値を今年度の数値目標として出すんです。そして、目標達成のために、こんな事やります、あんな事やります、という具体的方策も記すんですよ。
これを都教委が受諾し、結果を評価し、管理していくんです、すごいでしょ?
これに関連してトップクラスの高校を目指す「進学重点校」や、その後を追う「重点支援校」の指定を受けるための応募も積極的にされてます。何故って、指定を受けると、優先的に"人・モノ・金"が援助されるから。
【自己PRカード・学区撤廃】
そういえば、松元君の妹さん、来年高校受験でしたね。もう、決めました?
決まってないなら、うちの高校どうですか? 学区撤廃されちゃったから、選ぶのも大変ですね。進学の事考えたら、少し遠くても"いい学校"に入りたいものね。
そうそう、自己PRカードって知ってます? 言葉通りなら自分の優れた所とか、将来の目標とかを書き込むものだと思うけど、これが違うんですよね。“入りたい高校の意に添うような生徒になります”的な、本当の自己とは違う事を書かされるんですってね?
あっ、もう書く練習してますか、そうですか・・・。あれって、自分を商品化する作業じゃないかと思うんですけどね。お子さん、戸惑ってません?
逆に言いますとね、我々教師も戸惑ってるんですよ。中学生側から見て、好きな高校を受験できるという事は、集まる生徒数が偏る可能性が高くなるということですよ。
大幅に定員割れになったらどうします?統廃合の対象になりかねません。都教委は、もしつぶれる学校が出てきても自業自得だって言ってますけどね。だから学校側は必死に中学校訪問をやり、『学校説明会に来て欲しい』宣伝をやり、生徒を集めるんです。『うちは国公立大学進学率が○○%で、センター試験対応型のベテラン教師がいますし、設備も整っています。どうぞ、受験してください。』って。これはもう、高校の人気投票みたいなもんで、ようするに学校間で生徒の争奪戦争が始まったんですよ。教育システム自体もまた商品化されてしまったんですね。
【主幹制度・人事考課制度】
そんなこと、先生方が黙ってないでしょって?もちろん、批判的な意見を率直に述べる教師もいますよ。だけど、そんな教師はすぐに異動対象になってしまいます。今までは、そんなことで簡単に異動なんかさせられなかったんですけどね、新しい制度が2つもできてしまったんで、動きが取りにくい状態なんです。
ひとつは主幹制度。
学校の上下関係って、あまり知られていないからご存知ないかも知れませんけど、校長と教頭が管理職で、あとは平社員です。鍋蓋構造っていうんですけどね。そこに主幹という名の管理職が配置されたんです。今までは校長、教頭も含めた職員会議の場で様々な議題が討議され、決定されて"学校運営"をしてきたわけですよ。
それが、今年から校長・教頭・主幹の3管理職による「企画調整会議」で全て決まってしまって、職員会議はほとんど意味をなさなくなってきた、形骸化されてしまいました。校長・教頭が経営層、主幹が監督・指導層、あとの教員は実践部隊。上の会議で決まったことを文句を言わずに実践するだけ。民間企業のやり方を取り入れた"学校経営"になってきたんです。どう業績を上げられるかに血道をあげる。反発すれば、即、人事考課制度で痛い目に合う、という構図です。
えっ?人事考課制度?これはですね、教師が「優秀な教員」かどうか管理職が評価する制度です。その手段のひとつに「自己申告書」というのがありまして、わたしたち教師ひとりひとりが教育目標、目標達成の具体的方法、その成果などを記入して提出するんです。授業監察もあるんですよ。これで待遇が決まる。そう、ボーナスなんかの査定にも影響してると思いますよ。
おかあさん、どういう先生が「優秀な教員」だと思います?わたしはね、生徒の目線で物事を見て、話を聞き、一緒に考え行動するような教師、すなわち生徒から信頼される人物のことじゃないかと思っているんです。進学率だけに重点をおいて、管理職の顔色ばっかり見てる先生は、子どもたちの信頼を得られませんよ、そう思いません?まったく嘆かわしい。
【定期異動実施要綱】
愚痴ってないでもう一つは、って? ハイハイッ!もうひとつは、定期異動実施要綱の改定。会社で言えば、人事規定ですね。
サラリーマンも転勤なんかあるでしょ?公立の学校では、特別の理由がなければ、最長12年間おなじ学校に勤務できたんです。教師の意向を尊重する人事でした。それだけ組合も強かったってことでしょう。
1年生の担任になると、その学年の担任団が2年、3年と生徒の進級と共に持ち上がるケースが多いから、"1クール3年"と考えて3の倍数年の異動が望ましいんです。入学から3年間関わってきた子どもたちを、無事卒業させるまで見届けたいのはどの教師も同じですから。わたしもそのつもりでした。
ところがこの9月から施行される異動の原則を読んでみて、ビックリしました。
まず、「3年以上の勤務者、過員(その教科内の教師の数が多い)解消の為ターゲットとされた教員は異動の対象、
6年以上の勤務者は異動させる。」と書いてある。これだけでも驚いたのに、
「3年未満でも校長の具申があって都教委が認めた時は異動の対象。」とも書いてある。どういうことかわかります?
校長や都教委が『こいつは気に入らないから、異動させちゃえ!』と思ったら、何年勤務者でも異動可能だ、ということですよ。
これでは教師間の連携した協働体制はできません。教師たちが子どもたちの教育に関して話し合い、補佐しあい、助け合い一体感を持って学校運営をしていかなければならないのに、ころころ教師が替ってしまっては方針すら立ちません。部活だって、長続きしませんよ。クラブ活動の顧問が居なくなる可能性が大ですもん。卒業生が元担任に会いに来てくれたって居ない確率高いから、来なくなる。
【教員の公募制】
実は、もうひとつあるんです。あのね、教師の公募です。たとえば、日頃こんなことを考えている教師がいたとします。『こんな、レベルの低い高校の教師なんかで終わりたくない。自分は教える能力はあるんだから、もっとレベルの高い高校へ異動して、国立一期校や慶応・早稲田を目指す生徒を教えたい。』 かたや、『うちは進学重点校だから、もっとわたしの意を組むレベルの高い教師が欲しいなぁ。』という校長がいる。ねっ!わかるでしょ? レベルの高い高校には成績を押し上げる事に長けている先生が集まり、レベルの低い高校はますます・・・・。
【先生って聖人君主?】
先日、友人に言われたんですよ。『マスコミで取り上げられる教師って、暴力教師とか変態教師とか、どうしようもないのばかり。質が落ちてるんじゃないの?それに、同じ学校に10年もいると大奥の局みたいになるから、やっぱり風通しよくするには早めに異動させたほうがいいような気もするけど。』って。えェ!?あなたもそう思う?
待ってくださいよ。警察官だって自衛官だって、それに政治家にだって、とんでもないのはたくさんいますよ。国民はもう慣れっこになってるでしょ?もちろん、だから教師だって、なんて言いませんけど、そういう問題じゃないんですよ。
ちょっと考えてみてください。ご自分の子どもの通っている学校の先生が、校長や都教委のさじ加減でころころ異動させられてしまうという状況。少なくとも異動希望を出すまでは、じっくり担任団の教員同士がカリキュラムを練ったり、伝統行事を充実させたりするために不可欠な、教師間の信頼関係とチームワークを培うことができました。職員室では、○組の△子が最近ね〜、×クラブで□男が〜どうのこうの、どうしたらいいかねぇ、などと意見交換したり情報共有して、子どもたちの総合的な教育水準をあげる努力を積み重ねてきたつもりです。
だけど、今後は管理強化に伴なって、上の目ばかり気にするようになり、生徒や同僚と信頼関係を築く余裕がなくなるでしょう。都の教育行政は、我々と信頼関係を築いて学校運営をしていこうという意識がないように感じますね。
おまけに最近はやたらと提出書類が多くて、本来の仕事、教材の準備や研究をする時間がなくなってきたんで、時間外にやったり、自宅へ持ち帰ってやったり・・・。
知ってました?サラリーマンみたいに残業手当は付きませんからね。部活の顧問になって、土・日に出勤してもほとんどボランティアですから。
新任の頃はみんな大きな夢を持っているものなんですよ。昔、不良してたり悩んだ時、親身になってくれた○○先生のようになって、同じような生徒たちを救いたいとか、逆に先生に不満を抱いていたから自分が理想とした教師になるんだとか・・・。
でも、現実はお話したような状況ですから、マジメな先生ほど神経が参ってしまって、半分は教師を辞めたいと思ってますよ。
なんとかしたいと切実に思っています。学校は世の中で最も民主主義的な場所でなければならないと思いますし。しかし、もう教師の力だけでは守りきれないところまできてしまった。もっと以前に保護者の方々と連携して、学校の問題を解決する手段を会得しておくべきでした。でも、今からでも遅くないと思いたい。だからこんなに長くお話してしまいました。
本題のお子さんの進学については御心配いりません。このまま頑張るように言ってやってください。それから今日お話した事、他の保護者の方にどうぞ教えてあげてください。わたしから聞いたとは言わないで・・・。何故って? 異動対象にされますから。ご苦労さまでした。
【この教師の話を、愚痴ととるか、心の叫びととるか。保護者であるあなた、どうします?】