インタビュー2

 

夏休みが始まりました。今年は例年にも増して暑い夏休みです。蝉時雨がはげしい校庭では運動部の生徒たちが汗を飛ばしながら練習しています。校舎最上階の音楽室からは吹奏楽部の音色が流れてきます。こんな風景は例年変わりませんが、今年から大変革した場所が一箇所……それは職員室。あれ?もう、新学期が始まったの?と見間違うような光景なのです。朝から殆どの先生方が机に向かっています。今年度から学習指導要領に従って長期休業の際の自宅研修制度が廃止されたので、土日以外の日は出勤することを義務付けられました。
 今回は、そんな中で困惑の色を隠せない二人の先生方に思いの一端を語って頂きました。七月二十六日の午後、校舎の片隅でのインタビューです。

研修レポート提出するなら


           休暇を選ぶ
 ―――夏休みに入りましたが、どんな様子ですか?―――


P先生〔音楽科〕『学期中は、朝打ち(朝の打ち合わせ)があって、その後授業に入っていくのが普通だし、また必要なことでしたが、休み中も同じ時間に朝打ちをやってます。実は春休みから始まっていたんですけどね。知人に訊いて見ても、他の中学でやっている所は少ないらしい。』


―――自宅研修制度があった時はどうだったんですか?世間では、「子どもと一緒に休めていいな」という目もありますが…―――


P先生『部活持っている先生は殆ど学校に来てましたよ。それ以外でも教材研究や教材作成など、やらなきゃならない事はいっぱいありますから、みんな結構学校に来ているんです。』
X先生(社会科)『でも今は8時25分に来ていなければならない。別に打ち合わせる事があるわけでもないのに。』
P先生『チェックされている、という事が精神的に大きいですね。』


―――ずいぶんと厳しいですね。―――


P先生『いつの間にやら、という感じ。私たちの方の問題かも…』


X先生『私たちが実態をよく知らなかったから、(管理職が)やりやすかったのかもしれないね。管理職の言うことに正当な根拠をもとにした反論ができない。』


P先生『闘わなければ、という気迫が無かった。


―――組合には?―――


P,X先生『都教祖です。』
P先生『職場でちゃんと機能してなくて、反論する迫力が無かった。後で聞いてみてアララ、という感じ。組合から連絡はあったはずだけど、支部や分会長会議に出ていなかったから。』


X先生『なかなか出れないよね、勤務時間内だから。とても忙しくてパッと出て行ける状態じゃない。』


―――なるほど。ところで、研修という事で旅行中に教材研究になりそうな場所を入れてレポートを書くというのは?―――


P先生『研修の提出用紙に証拠となる物を添えて出さないとダメだと思う。』


X先生『家族旅行は認められない。一人で行って、研修届を一日一枚(裏表)書かされる。そんなんだったら休暇とって楽しみながら展覧会等に行くほうがずっといい。』


P先生『たとえ家族旅行であっても、仕事柄レポート書かなくたってそれなりに勉強してくるものはあるわけで、充分研修の意味を持つ場合もある。ひどく《縛り》をかけられたという感じで、不自由になりました。』

    教師って、こんなに大変!
―――学期中の忙しさはどんな感じ?―――


P先生『以前よりずっと忙しい。振り替えが出来ないくらい時間割がぎっしりなんです。だから、一人休むと補教する先生がいない。』


X先生『足りないわけではないんだけど、総合学習があったり選択科目があったりして、とにかくギッシリ。どの学校もそうじゃないかな。職員室に誰も居ないという時間が毎日ある。もし、何かあったらどうするの?という状態です。』


―――昔は専科の先生は余裕があったような記憶がありますが?―――


P先生『今、音楽は私ひとりです。講師も頼んでいるけど、それは教師がめいっぱい授業を持っても穴があく場合だけ。常に限界状態。仕方なく学年を二分して受け持っていますが、とてもやりにくいです。』


X先生『私は一年の社会だけで、持ち時間は週二〇時間。月〜金で平均一日四時間ですが、一時間でも空いていれば教材研究したいし、無駄に遊んでいる時間なんて有りません。』


―――有給休暇は?―――


X先生『年間二十日。子どもの保護者会などで時間休を取ったりしてると、あっという間になくなります。だから考えながら取っていかないと…』


P先生『私は割り切って、考えずに取ることにしてます。一応事務の人に「二十日過ぎて休むとどうなる?」って訊いたら、給与にヒビクと言ってたけど、半分になるわけじゃないし。身体のほうが大事。考え過ぎると精神衛生上良くないから。だいたいオーバーして働いてる分は無給ですからね。会社なら残業手当や休日手当があるのに…』


―――部活指導もボランティア?―――


P先生『そう。休日の活動だと四時間未満で六百円出るらしいけど、手続きが煩雑でやる気がしない。顧問は半強制的なボランティアです。音楽は教師ひとりだから頼まれればやらないわけにはいかない。手当をきちんと出すとか正当に評価してほしいです。そこのところをちゃんと見ないで「教師は遊んでる、暇だ、ずるい」などと言われるのは心外ですね。』


X先生『それに、学校に居る時間だけではとても仕事はこなせません。当然、毎日持って帰って家でやってるし、土日もやってます。そういう時間はどうしてくれるの?って言ってやりたい。』


―――そんな状況下で持ち帰る途中に盗難事件があったりすると、教師の怠慢と批判されますしね。―――


P先生『そう。だから、何故持って帰らなければならないか、というところを見てほしい。働く時間が保障されていないんです。』


―――でもそういった実態を知ってもらう場所がないですね。―――


P先生『それを感じます。時々新聞の投書欄に載っていますけど、すごく歯がゆいです。』


―――保護者が一番知らなきゃならない事なのに、先生からのパイプがない。―――


P先生『授業中に言っちゃう。子どもにも愚痴っちゃう。最近「都民からの要請により…」という言葉が私たちを押し込めています。とどめの一言なんです。校長が「都民の方は観てますヨ。校門の前で教師ウォッチャーしてて、○○先生は四時に帰った、なんて忠告してくるんです。」と真しやかに言ってきますからね。教師が名札をつけるようになったのも、都民の要請があったからだとか…』


X先生『保護者会や授業公開の際、学校の中で外部の人か先生か判りづらいから、ということで。だけど、来訪者は 「来訪者バッチ」を着けているんだから着けていないのはみんな先生ですよ。わかりやすいと思うんだけどな。』


―――ところで、組合の加入率は?―――


P先生『半分くらい。力無いですね。』


X先生『私、分会長なの(笑)。いろいろやられても、こちらの力不足、余裕の無さで切り返せない。』


P先生『日々授業をこなすだけの自転車操業なので、組合の事なにもできないできた。』


X先生『外の出来事に目を向けて情報を集める時間もゆとりもなにもない。だから、強く言えない。』


P先生『組合の新聞やお知らせがくるけど、配る時間がない、山積みになってるのに。』


X先生『(この管理職に)言っても、何も変わらないって思っちゃう。』


―――自己申告書については?提出しない人もいるそうですが―――


 P先生『出しますけど去年のを少し変えるだけ。適当です。』


X先生『自分の教育に関する方針は、毎年大きく変わるものではないから。継続していくことでしょう?管理職もそんなに見比べたりしないし。』


P先生『とにかく、都民とか地域の目が一番怖いらしいです。クレームも来るし…』


―――どんな?―――


P先生『授業参観についてとか。授業中、騒がしい教室があると「あんなうるさい教室で、勉強が出来るか!」なんてね。ごめんなさい、でかたずく問題じゃないんだけど。また、逆に「たいへんだけど頑張ってください!」と言ってくれることもある。人それぞれ意見は違うわけだから、一口に「都民が」と言われても… 』


X先生『最近なんでも突然くるからね。』


P先生『心の東京革命なんてのも急にきたし。一応ネタとしてとってあるけど、見る度に腹立つ。どうも閉塞感がありますね。』

今後の予想は?


―――これからどうなっていくのでしょう。―――


P先生『専科は無くなっていくと思います。手間のかかることは外部機関に移行するでしょう。英才教育がもっと露骨になって、コンピューターはどんどんやる。ガラス一枚買えないくらい予算が削られているのに、新機種のコンピューターがぼんぼん来て。少し古くなったコンピューター機材が準備室にいっぱい置いてありますよ。高価だったんだろうなって思います。あんな無駄はないですよ。職員室にあるのなんか私たちは請求したものではなく、なぜか市からどんどん来るんです。やっと使いこなせる様になった途端に新しいのがくるんです。税金の無駄使いだなと思う。』
X先生『そんなとこにお金かけないで、扇風機の一台でも買ってほしい。』


―――えっ!ないんですか?―――


X先生『自然の風だけ。4Fは特に暑い!
専科じゃなくてもやりにくくなりそう。でも、辞めたら生活できないし、子どもたちとの関わりは楽しいから。ただ、その時間さえもあまりないから寂しい。』


―――社会の授業の中で、日の丸・君が代や従軍慰安婦の事など、どこまで話していいかということがあると思いますが。―――


X先生『私が子ども達に提示するのは事実ですから。そこに少しだけ意見を入れるけど、なるべく偏らないように資料をだしていく。』

道徳の時間は要らない!


―――道徳の時間が始まりました。―――


X先生『「教材を使って週一時間、必ずやらなければならない」と縛られているのが、まずイヤだね。日々の生活の中でいろいろ問題が出てくる、それに関してクラス内で話し合ったりする。それがまさに道徳なんだから。なにも特別一時間もかけて教材を読んで感想書かせて、いったい何になるのだろう、という意識が強いから、あまり時間をかけてやりたくない。』


―――教材はどんなもの?―――


X先生『ひとり一冊、道徳の本があるわけです。話の内容としては新しいのかもしれないけど、何を教えたいのかについては、古くて押し付けがましいもの。こうあるべきだ、というような…。』


―――週一時間ですか…―――


X先生『月曜の一時間目は静かで、落ち着いて授業ができる良い時間帯なのに、その時間をとられてもったいない。私なんか、社会の授業をやったりする事もある。』


P先生『みなさん(教師の)同意見だと思いますよ。バカバカしい、やりたくない、やった事にして他の事しよう、とか。まともな授業のほうがよっぽど道徳的です。私が今年度担任を降りたのも、道徳をやりたくなかった事がひとつの理由です。』


X先生『私は、道徳の授業の中で自分の意見は言わないようにしてます。本の中に書かせる部分があるワーク方式ですから、書かせて提出させて「見ましたマーク」を付けるだけです。』


P先生『市によって教育行政の差をひしひしと感じますね。H市は保守的で、福祉・教育に目が向いていないなぁと思う。たとえば夏の部活で、最上階の扇風機すらない音楽室では倒れる生徒もでてくるので、市民センターを借りることがあるんですけど、その使用料は顧問のポケットマネーです。まるで根性物語、暑くても暑い中で頑張れ!それが青春だ、みたいな…。学校の用務の人員も一人しかいない。一人じゃ広い学校のメンテナンスが追いつかない。』


X先生『保健の先生も一人。修学旅行や、移動教室の時、以前は必ずついてた看護師がつくとは限らないから、恐いですよ。なんでも保健の先生にやらせる。将来ある子どもたちの安全を何だと思っているのか、って感じです。』


P先生『命にかかわる事ですからね。八王子市の行政センスが疑われますよ。東京都からかわいがられてるんじゃないかな。』

お二人とも四十代、ベテランの先生で、『子どもたちからエネルギーをもらってる。子どもたちはほんとに可愛い、あの子たちがいるからやっていけるし、続けたいと思う』とおっしゃっていました。教師がますますたいへんな立場に追い込まれてきているとともに、子どもたちの苦難の時代はまだまだ続きます。