西からの風


西からの風 吹く日には
わたしは草原へと 出かけていきます
あなたの声が再び
聞こえるような気がして

ひるがえる風 踊る日には
草のすき間に埋もれた過去が少し
顔を覗かせて わたしを
追憶の海へと誘(いざな)う

誰が忘れようとも
わたしは覚えています
あの草原に一人静かに佇み
ここちよげに風に吹かれていたあなたを
あなたは確かに存在していたのです

風流れ 花の香りで
春が訪れようともここにはもう
祝う人々はいない
みな大地にとけていった

寂寥たる 草海原
人々の夢 その腕(かいな)でかき抱く
時経た今はただただ
渡る風に昔日の影

古詩 失われたいまも
わたしは覚えています
ともに明日を歩み風に託した日々
ここちよげに語り夢見ていたあなたを
あなたは確かに存在していたのです

19920125


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