第7回

ビルに囲まれひっそりと――人形町の木造3階建て

 

 人形町と言えば、昔は寄席や浜町の花柳界、そして明治座。戦後の一時期は明治座の横に仮設の国技館が建てられ、人波が絶えることなく賑わいを見せていたところです。

 今は時代の波に押され、寄席の末広亭、浜町の花柳界はなくなり、昔ほどではありません。しかし、まだ甘酒横丁は昔の面影を多少残しており、今ではなつかしい葛龍屋(つづらや)、そしてテレビで有名になって行列を作るほどになったタイ焼き屋等が店を連ねています。

 この甘酒横丁から道ひとつ隔たった横丁に昔ながらの木造3階建てがあります。

 周りをビルに囲まれ、ひっそりと佇んでいます。建てられてから60年以上経っていますが、建物自体は内部外部とも当時のままになっています。内部の部屋はお客さんの宴会の場として提供されており、今なお現役として活躍しています。現在の持ち主は肉屋さんです。

 古いものは捨て、新しいものへと移り変わる現代に、昔の物を現在に伝えていき、その技術を今の人たちに見てもらいたいと、建物自身が我々に訴えているかのように見えます。

 植木棚の腕木の彫刻や出窓の千本格子、今では造ることも無くなった仕事、いつまでも残しておいてもらいたいものです。

1992年)

 

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