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夏を涼しく――葭戸

 秋も深まったと思いきや、はや立冬と季節はめまぐるしく変わっていく。

人間、年を重ねるごとに物忘れがひどくなり、過ぎしことを思い出すのも大変である。なんとか、思い出せないものかと、乾いたタオルをしぼって1滴の水がしたたるように思い出したのが、葭戸のことである。

最近の日本人は心の中に枯れ葉を詰め込んでいるのだろうか。それも、目一杯詰め込んでいるのなら良いが、隙間だらけの詰め込みようである。もともと日本人は、情緒的な人種だと言われていたが、今ではそのような人が少なくなってきたようだ。

季節ごとに、いかに快適に過ごすかと考え出し、暑い夏でも涼しく過ごす工夫をこらしたものの一つに葭戸がある。

梅雨になれば障子戸をはずして葭戸に取り替え、葦の隙間からかすかな風を団扇でゆるやかにあおいで、涼を求めたものである。

花柳界が盛んな頃は、硝子戸に障子紙を張って光を和らげる工夫もしたものだ。今では、このようなことは昔のことになり、情緒もなく、人々の心もガサガサしているようだ。

2001年)

 

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