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昔の面影残す向島へ――芸者もよく来る3階建て

梅雨の晴れ間を見て向島にある3階建てに向かうことにした。向島は今でも芸者が行き交う所で、テレビ等でもよく伝えられており、さぞ昔の面影が色濃く残っているのではないかと、胸をはずませて出かけてみた。

 まずは検番へ向かったが、がっかりである。

 目指す3階建ては、言問橋のそばにあり、店舗を構える住宅であり、入り口は木製の格子戸で、右手の窓は千本格子になっている。昭和のはじめ頃に建てられ、多くの人々が見学に来ると言っておられ、今まで建て替えなくて良かったとのこと。

 住み心地は昔のままで、多少の不便さはあるものの、さほどではないと言っており、芸者もちょくちょく来るので、当分は建て替える意思のなさを強調していました。

 近くにある幸田露伴の別宅の跡地に行ってみたが、今は公園になっており、行く途中すばらしかったと思われるお茶屋があるのを目にしたので、じっくりと見てまわることにした。

 今は朽ちて今にも崩れ落ちんとしそうなこの建物には昔の職人の技が随所に込められているのがわかる。

 七五三の板庇が早く治してくれと泣き声を上げているようであり、一文字瓦から吹き降ろされる風がすすり泣くようでもある。

 ささらこの形を取っているが、板の継ぎ目はすべり羽になっている塀など、今ではすることもなくなった仕事ぶりが目を引く。

 3階建てよりもこのお茶屋が完全な形であればと思ったことである。

 3階建ても良いが、職人の腕を育てたこのような建築物の存在を望むものである。

1999年)

 

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