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堅牢な木造3階建て――旧犬養邸

 不況の風はまだ吹き止まぬようで、今年の秋からは景気も良くなると思っていた人たちをがっかりさせたのではないでしょうか。

 町を歩いていると見慣れない北欧の住宅が建てられたり、最近輸入住宅が増えているのが実感として分かってきました。このようにツーバイフォーの住宅が増えてきますと、古来からの日本の住宅がだんだんに姿を消していき、まして在来工法の建物を造る人がだんだん減ってゆく現代では、いつかは日本古来の住宅も姿を消すのではないかとの危機感さえおぼえ、懐古趣味ではありませんが、戦前に建てられ人目を引く建物を捜しに出かけました。

 ここ信濃町はもともと閑静な住宅街だったのが、今では或る宗教団体の町と化してしまい、静かな街並みも一変して賑やかな町になってしまいました。

 この一角に今回の建物が道路よりちょっと引っ込んだ所に悠然と建っています。この建物、建てられたのは昭和4、5年頃との事でした。木造3階建てで建てた当初は3階部分は物置として使われていたそうです。

 実はこの建物、犬養毅氏の住居だったのですが、今から30年前に現在の方に譲られたそうです。

 今では難民救済のための事務所として使われています。建物は質実剛健と言いましょうか、堅牢であり、犬養氏が政治家であるがゆえ、質素な造りを心掛けたと言う事でした。

 建物を維持して行くのが大変だという事でした。我々は口軽く貴重な建物だから永く保存と言いますが、持ち主の方々には並大抵な事ではないとつくづく感じました。

1994年)

 

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