第1回

下見板張りの3階建て――本郷館アパート

 明治37年、一棟の木造3階建てが産声をあげました。学生のための下宿屋「本郷館」です。

 当時の建築としては、他の建物と何ら変わることのない建築様式ですが、今の東京の真ん中では珍しい建物として世間の注目の的となっています。

 マンションやモルタル造りの家屋の建ち並ぶ中に、下見板張りで木製家具、共同便所に共同の流し場、あげくの果てには石油ストーブの使用禁止という非近代的な生活様式を今も守っている建物。現在では貴重な建造物として、マスコミからの取材をはじめ、修学旅行の見学コースとして、多くの人々が訪れるそうです。

 池田弥三郎も、今後の建築学上貴重な資料として大事にしなければと本に書いています。

 戦後、木造3階建てが許可されなくなり、現在残っているのは、いずれも戦前に建てられたものばかりです。材料も、現在の建物とは比較にならぬほど、ぜいたくに豊富に使われています。しかし、3年ほど前に、屋根瓦は昔の土葺のため、瓦棒に葺き替えたそうです。

 近代的な世話ができなくても、ここに住んでいる人々は皆さん住み心地が良いのか、戦後40年以上の方から、東大を卒業してOBになっても、また外国人の方もすでに10年以上も住んでいて、皆顔馴染みの方ばかりです。

しかし、消防署で月一回は消防の点検に見えるそうです。なにせ家の造りは、下見板で燃えやすく、しかしそれだからこそ、今日まで生き残っていられたのではないでしょうか。

1992年)

 

 

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