難民

915日号)

インドシナ難民。ボートピープル。難民キャンプ。亡命者。かつては「難民」という単語からこんなことばや映像を思い浮かべた。

最近、身近なところで「難民」の文字をやたらみかけるようになってきている。ネットカフェ難民。医療難民。地デジ難民等々。とくに「ネットカフェ難民」は、テレビのニュース番組などで、インターネットカフェをねぐらとしつつ、日雇いの不安定な仕事に就く若者のようすが何度も放送されているので、ご存じの方も多いはずだ。

辞書によると難民とは、「戦禍や天災、政治的・宗教的迫害を受けて生活の困窮に陥った人々。とくにそれらを避けて国外に逃れた人々」を指し、現在も世界中には1000万人近い難民がいる。

本物の「難民」の皆さんからすれば「ふざけるな!」だと思うけど、何かから「切り捨てられた人たち」を指すことばを日本社会が必要としていて、一時的に「難民」を借用しているのだろう。「○○難民」とは「○○から切り捨てられた人たち」って具合に。医療も地デジもね。なぜか「ネットカフェ」だけ彼らがいる場所でのネーミングだが。

でもこのお手軽な「難民」の使われ方ってどうも違和感を感じません? なんかもっとピッタリしたことばはないものかしら。

 

 

笑い

95日号)

ドラマ「古畑任三郎」などで知られている脚本家・三谷幸喜の原作を映画化した「笑(わらい)の大学」は、日本が太平洋戦争に突入する直前、政府の意向に沿わない思想や表現を取り締まる検閲官と、自分の脚本をどうにか上演許可してもらおうとする舞台脚本家とのやり取りを描いています。

検閲官は時勢に合わない(笑い)を排除しようとし、脚本家は必死に抜け道を考えて、なおかつ(笑い)を入れようとします。普段からめったに笑わない検閲官が(笑い)から遠ざかろうとすればするほど脚本はドタバタになり、芝居は面白くなっていき…

アメリカの喜劇映画監督、フランク・キャプラを讃えるスピーチで「玉ねぎは人を泣かせることができる。しかしながら人を笑わせる野菜はまだ発明されていません」と(笑い)に関して、非常に興味深い意見が話されています。

また、生まれたばかりの赤ちゃんが笑うのは条件反射のようなものですが、すぐに私たちが喜びやおかしさから笑うような「社会的笑い」を身につけるといわれています。

いずれの話からも理解できるのは、人の(笑い)という物は…複雑で多種多様で、時には理解不能なゆえに、私たちが後天的に身につけた、それだけ貴重な物なのでしょう。

 

 

曲がり角

81525日号)

体力面の上位ベスト(?)2は、「疲れやすくなる」72%、「疲れがたまるようになる」64%。同じく外見では、「おなかが出てくる」60%、「髪の毛が薄くなる」51%。

これ、ライオン(株)がおこなった「男の曲がり角を感じるとき」についてのインターネット調査で、男性の答えを集計したものだ。また男性自身は「347歳」を、女性は「367歳」を「男の曲がり角年齢と思う」との調査結果も出ている。「曲がり角」って、「下降線」とか「落ち目」への折り返し点って意味なのだろうが、平均寿命が80歳になろうとしているのに35歳でもう下降線とは。あと45年ずーっと下り坂が続くってことすか。なんて悲観的な。

この調査では、「精神面での曲がり角」についても聞いているので、ちょっと見てもらいたい。上位ベスト3は以下のとおりだ。

「『攻め』から『守り』の姿勢になってくる」49%、「考え方が固定されてくる」48%、「向上心がなくなってくる」43%。

組合の組織拡大もここ10年ほど減少が続いているためか組織拡大に対する気持ちもどこか共通点があるような感じしません?

ちなみに同調査での、「曲がり角に負けないために実行したいこと」の1位は「向上心を忘れず自分磨きに励むこと」だそうだ。

 

 

変化をおそれず

85日号)

「ゆでガエル」を作るにはどうしたら一番いいのでしょうか。しかも生きたままのカエルを逃がさず、暴れさせることなく。

アメリカ中西部の町・ヤングスタウンは地域の大きな産業だった製鉄業の不振で、40年前と比べて人口が60%も減少してしまいました。そんな中、打ち出された町の再生計画のキャッチフレーズは「小さく、美しく・洗練された衰退」。町の規模縮小を逆手に取って、再生のきっかけにしようという計画です。

計画は住民参加の検討委員会で、町の現状を正しく理解し、住民自ら発想の転換をすることから始まりました。そして、多くの空き家、閉まったままの商店、利用者のいなくなった公共施設を取り壊し、緑地に変えて生活の質向上を目指しました。また、各地区の現状を「安定」「過渡期」「衰退」と分け、緑地を増やしたり、商業施設を建設するなど地区に合った計画を実行しました。

冒頭の「ゆでガエルの作り方」ですが、答えは「水からゆっくりと煮ていく」です。カエルが気がつかない程度に少しずつお湯の温度を上げていき、気がついた時にはもう手遅れ、これが一番簡単です。変化を恐れず、逆にそれをチャンスとみる。人間ならばそれができるのを証明したのが「洗練された衰退」です。

 

 

千の風になって

725日号)

いまやミリオンセラーに迫る勢いで売れ続けている『千の風になって』。そう、昨年の紅白歌合戦でクラシックの男性歌手が朗々と歌い、一挙に知られるようになったあの歌だ。どうやら中高年世代に絶大な支持を受けているらしく、新宿にある歌声喫茶「ともしび」では、ここ半年ほどリクエストのトップ1を続けているのだとか。

「私は、風や光や雪や鳥や星に姿を変えてあなたの近くにいますよ」と、生きている人を死者が励ますこの歌。「聴くと元気づけれられる」という声もよく聞く。夫や妻に先立たれた人たちには、とくにジーンと心にしみる部分があるのかもしれない。

死者から生きている人へのメッセージといえば、トルコの詩人ヒクメットが書いた『死んだ女の子』という詩をご存じだろうか。広島への原爆投下で死んだ女の子が「扉をたたくのはあたし/あなたの胸に響くでしょう/小さな声が聞こえるでしょう」とあなたに語りかけ、「あたしの髪に火がついて/目と手が焼けてしまったの/あたしは冷たい灰になり/風で遠くへ飛び散った」と殺されたときのようすを伝える。

「死者の声」って、実際には「死んだ人」に対する思いが鏡のように映し出されたものだろう。

あなたは死者のどんな声が聞こえる?

 

 

言葉のちから

715日号)

アニメ映画『となりのトトロ』などで有名な、宮崎駿の作品『風の谷のナウシカ』に「巨神兵」という、ひとつの文明を滅ぼしてしまうほどの力を持ったロボット兵器が出てきます。原作の漫画版では、暴走を続ける巨神兵に主人公が名前をつけたとたんに知性が発達して暴走が止まるシーンがあります。

幼い時に目と耳に障害を持って、長い間自分と外の世界のつながりが持てずにいたヘレン・ケラーは、手の上を流れ落ちる液体が「水」という名前を持っていることを知った瞬間に「頭の中が徐々にはっきりしていき、ことばの神秘の扉が開かれた」と自伝でのべています。

暴走する怪物を止め、ヘレン・ケラーに新しい世界をもたらした「ことばの力」。日本人は口から発することばに霊的な力が宿ると信じ、それを「言霊(ことだま)」と呼んで大事にしてきました。

安倍政権が唱える「美しい国・日本」「戦後レジーム(体制)からの脱却」などの「ことば」は国民には不評をかっているようです。言霊信仰から不評の原因を考えてみると…意見をはっきりと声にしていう「言挙げ」をする際に、自分の中に慢心がある場合、悪い結果がもたらされるそうです。安倍総理自身も辞任した防衛大臣も、自分の中に慢心があったから?

 

 

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