「適齢期LOVE STORY?」第五話・好敵手たち



 で、結局あんな事は、一日中続いたのでった…。
 いいんちょは、来る先生来る先生にあんな感じ。
 志保は、自分の教室に帰りゃしねー。
 雅史は、ずっとオレの制服の袖をにぎり、引っ張りながら、半べその顔で、どうとらえて良いか分かりかねるし、分かったところで問題ありそうな言葉をわめいていた。
 午後からなど、生徒の多くが、ウチの教室にその世紀末とも言える状況を見学に来ていた。
 それだけじゃなく、先生まで。
 見せモンじゃねーっての。
 放課後、オレは速攻で教室を飛び出して、踊り場まできた。
 やっと…落ち着けた…。
 最悪だった…よな。
 でも。
 そんななか、琴音ちゃんとか葵ちゃん、レミィと先輩がいなかったのは、不幸中の幸いと言うべきか…。
 いたら、地獄を通り過ぎて、修羅だよー。
 ……。
 金比羅参りでしゅらしゅしゅしゅ〜。
 ……。
 すまん。
 ……。
 …はっきり言って、いじめに等しい…。
 学校ってのは、勉学の場だろっ!
 オレは、勉強しに学校に来てるんだっ!
 それを、それを…なぜに妨害するっ!
「嘘よね」
 は?
 隣には、あかりがいつの間にか立っていて、心の中にツッコミをいれてくれた。
 なぜにお前、ここにいるっ!?
 そ、それと、なぜにオレの考えていること、分かったっ!?
「だって、浩之ちゃんの考えてること、一番分かってるのは私よ!私なのよー!」
 あかりの雄叫び。
 ……私なのよー!って、言われても…。
 心覗かれてるみたいで、いやだし、だれが一番分かってるって決めたんだ?
「『In Heart』に書いてあったの。私を不幸にし続ける作者の、私に対するせめてもの償い、ってことなのかもね」
 ニコニコしながら言ってくれちゃった。
 ……。
 はぁ。
 で、なんで嘘やねん。
「…私と登校できることだけが、学校の唯一の楽しみ、って言ってたじゃない…きゃー、はずかしーっ、はずかし乙女っー!」
 赤く染まった頬に手を当て、顔をいやんいやんと左右に振りながら、半ば絶叫とも取れる声であかりが言った。
 …。
 言ってねぇ。



 オレには、作者の都合によって性格を大幅変更させられてしまったあかりを相手にしている暇は無かった。
 疲れるし。
 なにより、マルチに後ろめたいんだよー。
 もー、マルチ以外の女のコと話すことは、オレに許されていないんだっ!
 しかし、マルチのためなら、その試練もあまんじて受けようではないかっ!
 マルチ!
 まいはにーっ!
 まいらぶいずおーるふぉーゆーっっ!
 だから。
 じゃね、あかり。
 そのあかりは、隣で妄想にふけっているようであった。
 いやんいやん浩之ちゃんたらっ!
 ……?
 …大丈夫?
 ま、いいか、最近いつもこんな調子だし。
 と、あかりを置き去りにして、階段を下りる。
 で、廊下に出ると、
 どばぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんんっ!
 な、なにっ!
 なにがあったんだっ!?
 ま、また廊下で吹っ飛ばされたっ!
 って、事は、レミィ?
「Hi!ヒロユキ!」
 はい、れみぃ。
 相変わらずね、お互い。
 ふっとばされてるのね、私。
 でも、いいんだ、私、負けないっ!
 だって、だって…、これもオリンピックのためですモノっ!
 …ちがった。
 パンティのためだった。
 さーてと、これももう三度目だね、この作品で、と、顔を上げる。
 「三度目の正直」か、「二度あることは、三度ある」か?
 !
 いやったぁ!
 レミィは、惜しげもなく、自身の下着をオレに向かって露出していたっ!
 ありがとーっ、作者っ!
 ちょっとマルチに後ろめたいが、男ってなぁ、こーゆーモンなんだよっ、すまんっ!
 おおっ、ムラサキだぁ…。
 明らかに、作者の趣味…だな。
 さすが、高校の時、ガーターベルト同好会会長やってただけのことはあるぜっ!
 …はぁ…しあわせやぁ…。
 と、そんなんで見とれてると…
「Are you OK? ヒロユキ、どーしたの?」
 と声がかかった。
 レミィは、不思議そうな顔をしている。
 う、この幸せなときもこれまでか…。
 Take hand、と手を差し出すレミィに手を伸ばす。
 読みにくいな、上の文。
 で、起きあがると、レミィは
「ヒロユキ、私、日本でもハンティングが出来るって、分かったデス!」
 なんて言ってきた。
 そりゃー、出来るけど。
 一体なんだ?
「レミィ、そりゃ一体どういうことだ?」
 と訊ねると、
「『知らぬが花』デ〜ス」
 なんていってくれちゃった。
 …狩り…。
 …その標的は…。
 ゾクッ。
 考えないようにしよう…。
 で、レミィは、続けて、
「ねぇ、ヒロユキ、RADIO好き?」
 といきなり聞いてきた。
 ラジオ、ですか?
 FAXといい、こいつ、家電ヲタク?
 電波の仕組みとか聞いて来るんじゃねーだろなぁ?
 電波のことは、月島先輩に聞いてくれ。
 先輩、専門家だし。
 はっ!
 月島先輩って…誰っ?
 あぶないあぶない…、変な自分がいたな…。
 で、オレは、あせりながら、
「別に好きでもないし、嫌いでも無いよ」
 とあたりさわりなしに。
「…そう…」
 と寂しそうにレミィ。
 ぐっ。
 オレ、こいつのこの立ちポーズに弱いんだよなっ…。
 仕方ないので
「あー、でも、時々聴いたりするぜ」
 とフォローをいれた。
 千鶴さんなみの偽善者かもな、オレ。
 そんなこと思いながら、レミィを見ると、彼女は、胸の前で手を合わせ、目を輝かせモードに入っていた…。
「Really!?」
 うるうるきらりーんっ!
 目、目がぁぁぁ!
 オレは、多少たじろぎながら
「…あぁ…」
 とだけ言った。
 なにかまずい、そんな気がした。
 そんなオレを濃縮還元100%無視して
「聴いてるの?ね?何のProgram?ね?Let me hear!」
 と。
 適当に流しているだけで、番組名なんてしらねーよっ。
 オレにとって、ラジオなんてそんなモンだぁぁあ!
 と、柔らかくレミィに、お・ち・つ・い・て、説明しようとするが
「Oh!きっと『ミュージックJOY』ねっ!ヒロユキも聴いてるでしょっ!?」
 相変わらずして、みんなトリップだ…。
 しかし…な、なんだ、その『ミュージックJOY』って?
「幼い初恋を今の恋にする番組って、言えば、コレねっ!」
 コレ、知らないんだってばー。
「あぁ、Meたちも、きっと星のかけらのBoyとGirlみたいになれるわよねっ!」
 …星のかけら?
 なにそれ?
 って、それ以上に、レミィがなにいってんだか、わからーんっ!
「毎週待っているのに、全然Letter採用されないねっ、ヒロユキ?これじゃ、私たち、いつまでたっても結ばれないネ」
 …はがき、だしてねーもん。
「私たちには、『星のかけら』と同じよーな、『願い事の瓶』があるねっ!だから、きっとダイジョーブ!」
 なにがダイジョーブか?
 まじで、さっぱりわからん。
 作者も、あまり分かってないはずだ…。
 ただ、ウケる人にはウケる、とも思っているはず。
 チャイムネタが分かる人が多かったからな、コレだって分かるはず…だそうだ。
 でも、オレはわからんのだ!
 まじでぷーなのだっ!
「さぁ、ヒロユキ!ドラマチックな再開と、Steddyな関係を、今こそっ!」
 と叫びながら、オレに突っ込んでくるレミィ!
 ひ、ひー!
 オレ、危機ってるっ?
 オレは、とっさに体を反転させ、逃亡体勢を取った。
 ここは、もう、逃げるしかねーっっっっっっっっ!
 ばっ!
「あっ、ヒロユキ、what are you doing?」
 ほわっあーゆーどいん、に発音が近いな、と思う。
 そ、そんなことどーでもいいやなぁ!
 オレは、その声を背に受けながら、脚を前に出す。
 二歩めを踏み出したところだった。
 どばぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんんっ!
 げ、なにかにぶつかったっ!
 芹香先輩っ?
 いや、ちがうっ!
 …感触的には、レミィにぶつかったときに似てるっ!?
 しかし、レミィは後ろにいるはずだ!
 しかも、ばにょーん、と言う胸の弾力が、レミィ以上だったぞ!
 そ、そんなヤツが、ウチの学校にいたかっ?
 ど、どういうことだ…!
 れ、連邦もモビルスーツを完成させていたというのかっ!?
 オレが、驚きと共に顔を上げると、どっかで見たことのある人が立っていた。
 きっと、さりげない脇役だった人に違いない。
 うーんと、だれだったっけ…?
「シンディ!」
 とレミィの声がした。
 しんでぃ?
 ってことは…
「レミィ、元気だった?」
 レミィ姉!?
 なぜにそんな人が、ここにっ、と立ち上がる!
 そんなオレを、ニヤニヤと見つめるシンディ。
「ふーん、このboyがね…」
 なんておっしゃる。
 続けて、シンディは、レミィの方をむき
「レミィ、今日はあなたが色々苦戦しているって聞いてやってきたわ」
 とおっしゃった。
 …苦戦?
「獲物は…上物ね…、こりゃ、ハンティングしがいがあるってモノね…!」
 …え、どういうことですか?
「シンディ…、helpしてくれるのねっ!?コレこそ、『渡りに船』ネ!」
 …そ、それって…?
「ふふ…、じゃ、早速始めましょうかね…」
 と、シンディの目が、狩猟者のソレに変わる!
 ででんっ!
 ひゅーーーーーーーっ!
「耕一さん…あなたを…殺します…!」
 その瞬間、シンディの髪が舞い上がった。
 キーンと耳鳴りがし、凍るような…ん?
 ……。
 がーーーーーーーーんんっ!
 それ、別のゲームじゃぁぁぁぁーーーーーーっっ!
 いきなり出てきて、なにやっとんじゃぁぁ、シンディッ!
 ま、まずい!
 このままじゃ、どうなるかわけわからんっ!
 本能が、ここにいてはいけないと叫んでいる。
 ……。
 ど、どうにかして、このふたりをかわして逃げなくては…。
 と、オレはなぜかポケットに入っていた、レミィのいうところの『願い事の瓶』を取り出し、レミィに向かって投げつけた!
「レミィ、受け取れっ!俺の想いだっ!」
 …どんな想いやねーん!
 と、自分では思うが…レミィはそうではなかった。
「ヒロユキ…いつも持っていてくれたのネ…!それに…想いって…」
 !よし、やった!
 勘違いしてくれたっ!
 これで、隙が出来るっ!
 だっ!
 オレは、もてる力を振り絞り、レミィの横を走り去った。
 レミィは、トリップ中!
 シンディは、あっ!とか言ってるけど、完璧にオレに裏をかかれた。
 校舎を出る!
 オレの勝利!
 いやったぁ!
 …。
 ……。
 でも…疲れた…、はぁ。
 …クラブ、行こ…。



 なんだってこんな時に、クラブに行かなくてはいけないのかは、オレの意志ではなくて、作者の意志なのは、間違いねーな。
 だって、オレは一足でも早くお家に帰りたいんですもの。
 お家に帰ったら、そこはもーマルチの世界っ!
 でも、脚は神社へ向かっておるのだ。
 きっと、あからさまに葵ちゃんの出番を作ろうとしているな。
 作者、葵ちゃん、ひいきしているからなぁ。
 実際、イイコなんだけど。
 とか思いつつ、神社にやってきた。
 ばし、ばしっ、びしっ、びしっ!
 と言う、サンドバッグを叩く、鈍い音がしているはずのだが、今日は…あれ?
 休みだったっけ、今日?
 ちがうよなー、どーしたんだろ、風邪かな?
 なんて、神社の境内のところに言ってみると…いた。
 …ん、葵ちゃんの他に、誰かいる?
 おおっ、ついに他に部員が入ったか!
 いやー、よかったなぁ、葵ちゃんとふたりきりもよかったんだけど、それじゃ将来的に心配だしさー。
 うんうん、よかったよかった。
 ってなわけで
「おっ、新入部員かい?歓迎するぜー!葵ちゃん、よかったな!」
 なーんて声をあげながら、葵ちゃんに近づいていった。
 俺の声に、葵ちゃん+2人の視線がオレの方へ。
 !
「…なーにいってんの藤田。頭、おかしくなった?」
 いきなり失礼な事を言ってくれたのは、空手部のアイドル、坂下好恵ちゃんだ。
 ぐ…なんだ、こ、こいつだったのか…。
「あーいかわらず、おちゃらけてるのねー。姉さんが可哀想だわ」
 と言ってくださったのは、天下の来栖川第二令嬢、来栖川綾香ちゃんだ。
 ……。
 つまり、新入部員でも何でもなくて、格闘少女全員集合、って訳ね…。
 な、なーんだ、ははは…。
「…な、なんだって、みんなそろってんだ…?また…決闘すんのか?」
 オレは、動揺ともあきれともつかない感情の中、それだけ言った。
 すると、葵ちゃんが
「い、いえ、別に、そ、そう言う訳じゃっ…!」
 とあせって答えた。
 ん?
 なにをあせっておるのじゃ?
 すると、葵ちゃんを制止するかのように坂下が声を出した。
「…藤田…。葵から聞いたよ…あんた、葵とマルチとか言うメイドロボット、二股かけてるんだってね!」
 がびーん!
 そ、ソレはちがうぞ!
 オイラは、葵ちゃんとはつきあってないんじゃーっ!
 葵ちゃんも
「よ、好恵さんっ!べ、別に、私と先輩は、つき合ってるわけじゃなくて…!」
 と言ってる。
 そんなことを、お前たちはよってたかって話してたんかーいっ?
 おばさん予備軍の証拠だぞ、なんて思いながら、
「そ、ソレは違うって!葵ちゃんも言ってるだろ?オレは、二股なんかかけてないっ!」
 オレは結構ムキになって答えた。
 だが、坂下は
「マルチは否定しろっ!」
 …お前はアムロかぁぁぁ!
「よ、好恵さぁんっ…」
 葵ちゃんが、どーなっているんですかと言う風に、坂下に話し掛けた。
 だが、坂下はもーこれ以上ないってくらいエキサイトしてて、とりつくアイランドもねー。
「ふっ…藤田…言ってもわからんのなら…仕方あるまい…落ちろ、蚊トンボっ!」
 とか言ってくれちゃって、一歩前へと踏み出したっ!
 や、やばっ!
「もし、マルチとつき合いたいのなら、この私を乗り越えていくのだなぁっ!」
 エキサイト坂下は、そんなことを絶叫しながら、オレに右の手刀をいれてきたっ!
 くっ!
 だが、オレも葵ちゃんの一番弟子だっ!
 これくらいでっ!
 オレは、左手でソレをブロックする。
 だが、さすがに反撃する余地がないっ!
 フォローの第二撃が迫るっ!
「ふはははっっ!そんなモビルスーツで、この私にかなうとおもっているのか、シャア!」
 だれじゃぁぁ、シャアって?
 だぁっぁぁ、ツッコミなんかいれてる場合じゃねぇーっ。
 がしっ!
 ……。
 ?
 打撃が来ない…。
「…何の真似だ…葵…」
「…好恵さん…先輩を…いじめないでください…!」
 葵ちゃんが、坂下の左を止めていた…。
 また、助けてくれたのか…、ありがとう…。
 だが、当のふたりは、
「…お前のことを思ってやっているのに…葵…お前は…」
「…先輩は…私が守ります…!」
 がーっ、こいつら…。
「…そうか…ならばっ…、行くぞ、葵!地球がリングだっ、Ready GO!」
「本気で行きますっ!好恵さんっ!」
 だぁぁぁっっっ!
 戦闘開始してどーするっ、しかもお前たちがっ!
「いやぁぁぁっっ!」
 かけ声と共に、葵ちゃんが右ミドルキックを放つ!
 坂下は、右(!)の拳でそれを受け止めると、すかさず、左ハイキック!
 頭を下げて、葵ちゃんがよけるっ!
 さらに、坂下は、後ろ回し蹴りのモーションに入り、脚をだすっ!
 くっ、葵ちゃんが今度は後ろに体を仰け反らす。
 だが、それは体のバランスを崩す事になった!
 葵ちゃんは、苦し紛れに左ストレートを出すが、そんなモノは通用しないっ!
 それどころかっ、カウンターがっ!
 ど、どうする、オレっ?
 と、とりあえず、綾香に頼んで…!
「お、おい、綾香、コレ、止めてくれっ!」
 すると、いままで、ニヤニヤしていただけのお嬢様は、はぁ、とため息をつき、やりたいんだからやらせとけばいいんじゃん、って顔をこっちに向けた。
 そりゃねーだろ、綾香さんよ。
 と、言おうとしたとき、綾香は、左手を腰に当て、右手で頭をぽりぽりかきながら、こんな事を言った。
「…あたしも辛いのよね…姉さんと、葵の板挟みでさ…」
 いきなりなにを?
 と、綾香は続けて
「だからさ…あんた、私のカレにならない?」
 ……はぁ!?
 その言葉に、葵ちゃんと坂下も動きを止める!
 そりゃそーだわな。
 オレだってそーだもの。
「だから、あいだをとって、私、ってのは?」
 私ってのは、じゃねーだろっ!
「お、おまえ、なにいってんのか、わかってんのか?」
 オレはあわてて言う。
 だが、綾香は、あったりまえでしょ、ばかね、といった顔をオレに向け、ふふ、と、リアクションを返した。
 ……。
 綾香は、オレに近づいてくると、
「ねぇ、どうするの?」
 と、迫ってきた。
 どうするの、と言われても…。
 ぐっ、こいつ、外見だけならけっこうイケてるんだよな…。
 ……。
「ねぇ」
 迫り来る綾香。
 うっっっっっっっっ。
 葵ちゃんと、坂下は、へっ?って状態のまま、固まっている。
 オレよ、マルチへの想いを…!
 ここで、誘惑に負けるなぁぁ!
 と、そのとき、
「…藤田さん…」
 先輩の声が聞こえたような気がした。
 ふと気が付くと、向こうの方に、ふたりの人が立っていた。
 困惑と救いを求める視線が、この場所からそこへと流れていく。
 かわって、驚きの視線が、こちらへと流れてくる…。
 …いつのまに、来たんだろう?
 風が、その人の髪を舞い上がらせた。
「…先輩…」
 オレは、彼女の名前をよんだ。
「…私は…無視?」
 セバスチャンが突っ込んだが、無視しよう。
 おそらく、このふたりは綾香を迎えに来たのだろう。
「…ね、姉さん…」
 先輩の姿を見て、一番驚きを見せたのは、綾香だった。
 綾香は、大きく目を開き、凍り付いた様な顔をして、先輩を見つめていた。
「…どうして…ここへ…」
 声が震えている。
 いままで何が起ころうと、にやにやしているだけだった綾香が、不思議なほど動揺を見せていた。
「…ち、違うのよ、姉さん。コレは…」
 綾香の心が激しく揺れている。それが手に取るように分かった。
「…ね、姉さん…。わ、私…」
 だが、静かにたたずむ先輩の目に、妹の姿は映っていなかった。
 先輩はじっとオレの顔を見つめていた。
 世の中を悟りきったよな目。
 やがて、彼女はゆっくりと手をオレに伸ばした。
「……」
 …行きましょう…藤田さん、彼女は、いつも通りの声で、そう言った。
 ……。
 どこへ?
 おまけに。
 コレ、どっかで見た…な?
 し、しず……?
 お、思い出せないっ…!
 だが、作者がある女のコと、先輩をダブらせようとしているのだけは確かだっ!
 ある女のコって…電波少女っっ?
 そ、そうなのか、作者っ?
 いいのか、碇、Leafが黙っていないぞ!?
 ……冬月、どうにかしろ。
 …。
 もう、何がなんだかわかんなかった。
 葵ちゃん、坂下は、とっくに放心状態だし、セバスチャンも同じ。
 綾香は、電波の専門家みたいになっちゃったし、先輩はオレに手を差し出している…。
 がーん。
 今回は、笑えるギャグじゃなくて、カルトなシュールギャグだぜ…。
 オレは、そんなことを思うと、先輩に、手を伸ばし、
「…校門まで、一緒に行こうか…」
 と言った。
 ここで、一緒に行かなかったら、のろい殺されそうだし、早くここを抜け出したかったから…。
 こくこく。
 先輩がうなずく。
 女のコ3名、元ストリートファイター1名を残し、オレと先輩は、神社を後にした。
 …はぁ。



 やっと、家路につけるな…。
 ほーむうっばーんど(HOMEWARD BOUND=早く家に帰りたい)〜!
 マルチ、待ってろよ〜。
 最愛のボクが行くよ〜。
 帰ったら、精一杯キミを抱き締めてっ!
 あかりに毎朝いびられるキミだけどっ!
 学校に多くのライバルがいるキミだけどっ!
 こんなうそっぱちな世界、ふたりでひっかきまわして逃げちゃおうぜ!
 「あばよ!」ってか?
 ひーっ!
 マルチ!
 今日が…ふたりの記念日さっ!
 と、どっかの狂ったアイドル気取りみたいなこと言ってみたりして、うぷぷ。
 ってなかんじで浮かれていたら、もうそこは玄関さっ!
 ここを開けると、マルチがいるんだっ!
 ぴんぽーんっ、ってチャイムを鳴らせば、マルチが、オレのマルチが、オレが昨日買ってあげた、ふりふりのエプロンを身にまとった姿で、そのエプロンの裾で夕飯の支度で濡れたかわいーっおててをふきふきしたりなんかしながら、
「あっ、浩之さんっ、おかえりなさいっ!」
 とか言って、玄関まで迎えにきてくれたりするんだろーなっ!
 ひー、ご・く・ら・く、やわぁ〜!
 ごくり。
 意を決して、ぴんぽーん!
 ぱたぱたぱた。
 ああぁ、マルチが走ってくる音が聞こえるぜぇ!
 がちゃ。
 ドアが開く。
 ……。
 白衣が、そこに立っていた。

 白衣、なんてのは、そう滅多にいるもんじゃない。
 To Heartの中で白衣って言ったら、もう、こいつで決まり、長瀬、その人だ!
 ……。
「な、長瀬さんっ!なんで、ここにっ!」
 マルチが出てこなかったのもショックだが、長瀬がいたのはもっとショックだった。
 オレはあわてて騒いだ。
 すると、長瀬はさすがに、なんでだろ、と言う顔をして、
「…とりあえず、あがったら?」
 と言った。
 …うん。
 オレは、靴を脱いで家に上がった。
 長瀬とオレは、何となくだまってリビングキッチンに入った。
 すると…そこには。
「あーっ、浩之さんっ!お帰りなさいませっ!」
 マルチがいた。
 うひょー、かわぃー。
 と、隣を見ると
「おかえりなさいませ、浩之さん」
 そう答えた、なにかがあった。
 …セリオ、だった。
 …なぜに、セリオがいるんじゃーぁぁ!
 オレが、
「…セ、セリオ…?ど、どうして…?」
 と言うと、マルチが
「お料理の先生ですっ!あかりさんに合格もらうためにも、教えていただこうとおもいましてっ!」
 と言った。
 うっ、けなげやのー。
 かわいーコや!
 と、セリオを見て
「そうなの?」
 と聞くと、セリオは、いつも変わらないはずの表情を珍しくちょっとゆがませ、
「…はい、そうです」
 と言った。
 ?ん?どうした?なにかあったか?
 そんな会話が続いた後、長瀬がオレの肩をたたき、
「ちょっと、いいかね?」
 と言った。
 ええ、まぁ、とオレは答え、廊下に出た。
 マルチのことだろうか?
 だったら、きちんと聞いて置かなくては…!
 マルチとセリオは、仲良くお料理しているみたいだし。
 と
「なんですか、長瀬さん」
 オレと聞くと
「…悪いね、今度は両親がいるとき来ようかと思ったんだが…」
 と言った。
 やけにしおらしい。
「ど、どうしたんですか?なにか、用があったんですか!?」
 オレがあわてて訊ねると、長瀬は、うーっむっ、と言った顔をして
「…オレじゃなくて、セリオがな…」
 と言った。
 へ、セリオが?
 どーいうこと?
「そ、それって、どういう…?」
「…いやね…マルチがキミのところに行って以来…セリオがね…やたらと寂しがって…開発者でもないオレのところにやってきては『マルチさんがいなくて、寂しいです。会いたいです』ってね…。セリオにも…心、あったのかもしれんなぁ…」
 なんて、答えが返ってきた。
 ……。
 それって?
「そんなわけで、あまりにかわいそうなんで、連れてきてしまったわけだ。すまん」
 と、長瀬が言った。
「べ、別に良いですけど…。マルチも、お料理おそわれるって、喜んでるし…」
 オレはそんなことを言った。
 あまり難しく考えてなかったのだ。
 だが、長瀬は、本当に困った顔をしていた。
 ?
 そのとき
「…浩之さーんっ、主任っ、ご飯が出来ましたよっー」
 マルチの声がした。
 うひょー、マルチの作ったご飯っ!
 るらるらる〜。
 オレは、キッチンへと急いだっ!
「いっただきまーすっ!」
 今日は、メイドロボふたりと、男ふたりのへんな食事だけど。
 そんなの、マルチがいれば関係ないさっ!
 ぱくっ。
 …じーん、マルチのご飯、うめーよっ、味に関係なくっ!
 ってか、味は、塩の味しかしないんだっ、涙のせいでっ!
 そんなオレに、マルチは
「おいしいですか?」
 と。
「うんっ、うんっ!うまいよ、うまいよ、マルチ!」
 とオレ!
 嬉しそうな顔をするマルチ。
 嬉しいのは、オレの方だよぅ!
 と、そのときっ!
 すさまじいほどの、殺気を感じた。
 あかり?とはおもったが、あかりがいるはずがない。
 と、なると…?
 !
 …殺気の主は、セリオだった…。
 むぅぅっっっっっっっーーーーーーーーー!
 と言う顔をしている…。
 なに、どうしたんだ、セリオ!?
 壊れたのかっ!?
 オレは、長瀬の方を見る。
 すると、長瀬は
「…こういうこと…」
 とだけ、言った。
 ……?
 …へ?
 つまり…セリオもオレのこと…?
 いや、違う、それはない、長瀬の言葉から考えると…。
 …って、事は…。
 !
 なにぃぃぃ!
 オレは、内心パニックだっ!
 長瀬は、はぁ、やっと分かったか、と言う顔をしている。
 マルチは、なんですかー、と言った感じで、セリオは、そんなマルチの横顔をうっとりと眺めていた…。
 ……。
 ……。
 セリオ、さすがに…最新鋭メイドロボ…だぜ。
 同性愛(?)に走ったメイドロボは、お前が…始めただろうからな…。
 ……。
 オレは、またも現れた試練に…あきれるばかりだった…。
 ……。
 オレは。
 オレとマルチは…。
 どうなっちまうんだろ…?
 ふたりの愛はぁぁ!

 ニヤリ。
 目の前で、本来笑うはずのない、セリオが笑ったような気がした。
 ……。
 …はぁ。

第六話へ続く



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