「適齢期LOVE STORY?」第三話・戦いの火蓋-後編-



 …やっと、昼休みだ…。
 午前中は…地獄だったな…。
 何しろ…教室では妙な視線と噂、そしていいんちょからのプレッシャーの三重苦を味わっていたからなぁ…。
 …神様…午後は良いことありますように…。
 そんなことを思う。
 …ふぅ、相当まいってるな、俺…。
 ま、とにかくメシだ。
 腹が減っては戦はできんからな。
 雅史誘って、パン、買いに行くか…。
 そうして、俺は席を立つと、雅史の机に足を運んだ。
 机では…雅史は…ぽへーー、っと放心状態だった。
 ……。
 今日、俺、あかり、雅史、いいんちょ、矢島の五人は、教室内でやたら目立っていた。
 俺はこんな調子だし、あかりはえへへってな感じで妙に明るく、雅史はずーっと放心してるし、いいんちょは怒っていて先生を困らすし、矢島はずっと絶叫とも取れる声を出して泣いていた…。
 授業になんて、成り立ちはしなかった…。
 そんなだけど。
 俺は、雅史の肩をつかみ、揺さぶりながら
「おい、雅史。パン、買いに行こうぜ」
 と声を掛けた。
「……」
 反応がない。
 …そんなに、俺とあかりがつきあってるって聞いて、ショックだったのか?
 …こいつ、そんなにもあかりのこと…。
「おいっ!雅史!」
 きつい声を出す。
 びくっ、雅史の体が揺れる。
「あ…浩之…」
 弱々しい声を上げ、弱々しい笑顔を作る。
「おーい、元気出せよ…。だから、アレはデマだって言ってるだろ?な?それよか、パン買いにいこうぜ、パン」
 と俺は言った。
 雅史は俺をじっと見つめると、
「…ボク…今日はいいよ…浩之は…あかりちゃんと一緒に食べなよ…愛し合うふたり〜」
 と言って、また、ぽへーーモードに入ってしまった…。
 まだ言うか、こいつーーーーー!
 もういいわ!
 俺は、何となくむかついて一人教室を出た。
 ちくしょー、誰も分かってねー。
 
 教室をでて、廊下を歩いていると、琴音ちゃんがいた。
 エスパー琴音。
 …やっぱり、言いにくい。
 エスパーの後は、二音じゃないとな。
 なんてコトを考えながら、琴音ちゃんに声を掛けた。
「いよぅっ、琴音ちゃん!これからメシ?だったら、一緒にいこうぜー」
 琴音ちゃんは、あっ、と言う声をだして、こっちを振り向いた。
「…浩之さん…」
 別のしおりで、もう超能力問題は解決し、明るい琴音ちゃんに戻ったはずなのに、なぜか昔の琴音ちゃんみたいな顔してる…。
「ん、どうした琴音ちゃん…、元気ないぞ?」
 俺が訊ねる。
 すると、琴音ちゃんは、「滅殺」ポーズを取りながら、こういった。
「…藤田さん…私と一緒にいると…神岸さんに誤解されますよ…」
 !
 だぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっっ!
 もう、一年生までにひろまってるんかーい、噂っ!
 …恐るべし…志保…!
 …ってか、志保のことは今に始まったコトじゃないからいいっ。
 今は、琴音ちゃんの誤解を解かなくては!
「琴音ちゃんっ!だからっ、それは…」
 と俺が口にすると、それを遮るかのように琴音ちゃんは
「…足下、危ないですよ…」
 と、昔なつかしなセリフを口にした。
「…え?」
 と言った途端…どうであろう、俺は豪快にすっころんだ!
 どたーーーーん!
 ちょっとまてー!
 琴音ちゃん、あんた予知能力じゃなかったんだろー、念力だったんだろ!
 ってことは…いまの、琴音ちゃんがやったってこと?
 ひ、ひでぇ…。
 あぁっ、でも、そんなこと言ってられん、誤解とかねばっ!
「こ、琴音ちゃん…だから…」
 と言いながら起きあがると、ぴたっ、今度は体が動かなくなった。
 ん!?
 …また、念力っ!?
「…私に…近寄らないでくださいっ!私…不倫の対象にしか見られてなかったなんて…信じられないっ!」
 と、訳わからんコトを琴音ちゃんが口走っていた。
 …ここ、廊下だぞ…。
 しかも。
 なにが不倫の対象じゃーっ!
 だいたい、なにがどう不倫じゃぁ!
 別にそんな目で君を見てねぇっ!
 通りがかる生徒が、俺のことをみて、ひそひそ話をしている。
「奥様、不倫ですってよ」
「まぁ、いやですわ…」
 ……。
 …奥様?
 …。
「ああっ、私…藤田さんのコト、信じていたのに…一生ついていけると思ってたのに…」
 今にも、屋上から投げ出されそうな気がする…。
 …おーい。
 君になにがあったぁ?
 畜生…からだが言うことをきかねぇ…。
 だがっ、俺は以前センパイのホレ薬を飲んだから、体が言うこときかない状態には免疫があるのさっ!
 俺は、かろうじて動く口を開くと
「だから…それは…誤解…だ」
 と言った。
 ま、言っても今は意味無いだろう、琴音ちゃんヒステリックOL状態だし。
 と思ったら、
「え、誤解なんですか!?」
 と言う声が戻ってきた。
 ……。
 同時に体の自由が戻る。
 ……。
「そうだ、誤解だ…ほら吹き志保のせいでな…」
「なーんだ、そうだったんですね。無駄に超能力使っちゃったな」
 ぺろっと舌をだして、琴音ちゃんは笑った。
 千鶴さんみたいだ…ん?
 千鶴さん…って…だれ?
 …ま、いっか。
「…私、朝、噂きいたとき…目の前が真っ暗になって…なにも考えられなくなって…」
 と琴音ちゃんがのたまう。
 だからって、こんなことするか?
 …この子の、別の一面を見た気がする…。
 …この子、結構妄想癖があるのかも…それに、突っ走る癖もありそうだ…。
「藤田さんと私の仲って、そんな関係だったのかと…」
 …そんな関係って…どんな?
「…藤田さん…ごめんなさい…」
 うっ、そんな顔しないでくれっ!
 俺が悪いみたいじゃないかっ!
「許すもなにも…誤解だったんだろ…仕方ないじゃないか」
 あーーーーー、またかっこつけちまったっ!
 すると、琴音ちゃんは
「…優しいんですね…だから好き!」
 と、ネタバレに近いセリフをはいてくれた…。
 うはぁ!
 きっと、作者は「これ、リーフに使用許可とったほうがいいかな」なんて考えてんだろうな、と思う。
 そ、そんなことはいい。
 俺は、改めて琴音ちゃんに、
「メシだろ、一緒にいこ」
 と、声を掛けた。
「はいっ!」
 と大きな声で返事。
 そして、彼女は
「…また、あーん、してあげましょうか…?」
 と、小さな声で言った。
 ……。
 琴音ちゃんって…大胆。



 食堂に行くと、葵ちゃんがいた。
 俺を見つけて、にこっと微笑んだが。
 琴音ちゃんと並んで歩いている俺を見て、あっ!と言う顔をする。
 …。
 あちゃ。
 まずったかな。
 別に、葵ちゃんとつきあっているとか言うわけでもないのだが、どうも後ろめたい。
 葵ちゃんは、作者のお気に入りだからであろうか。
「よー、葵ちゃん、朝はサンキューな」
 声を掛ける。
 葵ちゃんは、にこっ、と笑うと、ころっと表情を変え、なんかか寂しそうな顔をした。
 ん?
「どうした、葵ちゃん、なんかあったか?」
 俺が言うと、
「セ、センパイ…あの…」
 と言いにくそうに声を出した。
「ん?なに?」
 俺が訊くと
「…やっぱり、なんでもないです…」
 と言って、黙ってしまった。
 あー、この子はいつでもこうだよねー。
「あー、葵ちゃん、だめだぞ、言いたいことははっきり言わないと。葵ちゃんのいけないところだな」
 と俺が言った。
「…そうですか…?」
 寂しげに言う。
 う、きつく言い過ぎたかな。
 隣では、琴音ちゃんが、むぅー、と言った顔をして、葵ちゃんをにらんでる。
 バチバチッ!
 …火花が散ったような気がした。
 ……。
 ま、琴音ちゃんはちょっと待っていてくれ。
「だからね、言いたいことははっきり言わないと、誤解されちゃったりするし、損だよ」
 と、これまた悟った聖人君子みたいなコト言ってしまった。
 そんな俺の言葉に、葵ちゃんは、感銘を受けたのか、はっとした顔をして
「そ、そうですね!」
 といい、俺はその言葉を受けて
「…で、なに、用件?」
 と言った。
 葵ちゃんは、意を決した用にきっとした表情になると
「あの…神岸センパイとつきあってるって…本当ですか?」
 ときいてきた!
 葵ちゃーーーーーーーーーーん!
 君もかぁぁぁーーーーーーーー!
 俺は、あかりとはそんな関係ではなーーーーーーーーーい!
「だーかーら、琴音ちゃんにも言ったけど、ちがうって、誤解、誤解」
「そうなんですか?…よかったですー」
 …なんで、よかったんだ…?
 ひょっとして…葵ちゃん…俺のこと…?
 あ、そんなことはいい。
 葵ちゃんはイイコだから、俺の言葉を疑ったりはしない。
「あかりとは(とは、だけどね)つきあってません。ただの、幼なじみです」
 はっきり言った。
 琴音ちゃんが、あー、そりゃもちろんですわー、と言った風にうなずいている。
 顔には、藤田さんは私のもんです、と書いてあった。
 ……。
 葵ちゃんは、嬉しそうだ。
 そんなふたりに対し、俺は
「あ、俺、パン買ってくるから、まっててね」
 と言い、それを受けて、葵ちゃんが
「じゃ、私ここで食べています」
 といい、弁当をテーブルの上に置き、琴音ちゃんは
「私は、食券、買ってきます」
 と言って、券売機の方へ歩いていった。
 パンは、もう、売り切れていた。
 …しくじったなぁ。
 しゃーねー、食券でも買うか。
 くるっ、と振り向くと、そこには、橋本先輩がいた。
 図書館で吹っ飛ばしてから、何となく気まずい、ってか、向こうが変。
 俺は
「先輩、ちわっ。あ、パンなんですね、先輩。おっ、しかもカツサンド。俺、買い損ねちまったんすよー、うらやましいっす」
 と声を掛けた。
 イランことまで話したような気がするが、ぎごちないとそれなりに声が出てくるもんである。
 すると、先輩はいきなり俺に向かってカツサンドを差し出し、
「…食べますか…?」
 と、弱々しくきいてきた。
 ってか、弱々しいというか、女々しい、と言った方が正しいかもしれん。
 オカマみたいだ。
 …口止め料のつもりだろうか…?
「先輩、そんなわるいっすよ。別に、気ぃ、使わないでくださいな」
 と俺が言うと、先輩はほっとした表情になるかと思いきや、寂しそうな顔をして
「…そうですか…」
 と言った。
 ?
 なぜ、そんな顔をする?
 …不思議な人だ…。
 俺は、そんな疑問を抱えながら、券売機に向かう。
 そのとき。
 食堂の入り口から。
「ひろゆきさーーーーーーーーーーーーーーーんっ、やっと見つけましたぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
 という、涙混じりの歓喜の声が聞こえた。
 食堂が、シーンとなる。
 こ、この声は…マルチ!
 なぜにマルチ!?
 ばっと振り向くと、入り口には、上半身ぐらいはありそうな重箱を抱えた、マルチが立っていた。
 !
 なぜにマルチが学校にぃ!?
 俺は、マルチに駆け寄ると
「ど、どうしたマルチ!」
 と声を掛けた。
「ひーーーん、捜しましたよーーーーーーーーー」
 とマルチが俺に駆け寄り、胸に身を埋める。
 うわー、かーわぃー。
 しあわせぇ。
 俺は、頭をなでて、マルチを落ち着かせ、訊ねた。
「ど、どうした、マルチ、そ、その、重箱は…?」
 すると。
 マルチは、この上ないくらいうれしそーな顔をし、
「お弁当、作ってきましたっ!浩之さん、確かパンだと思いまして!」
 !
 マルチィ。
 お前ってヤツはぁ!  どこまで可愛いんだぁっ!
 俺は、この上なく可愛いマルチを、ぎゅっと抱き締め
「ありがとう、マルチ、嬉しいよっ」
 と言った。
 マルチは、俺に胸の中で、ぽーっとした表情になり
「…ひ、浩之さん…で、でも、おいしくないかも知れないですー」
 と言った。
 それに対し、
「ばか、マルチの作った弁当が、まずいわけがねーっっ!ああっ、マルチ、可愛い!」
 俺は精一杯マルチを抱き締めた。
 その場でマルチを抱きかかえたまま、くるくる回る!
 うをー、うれしいぜっ!
 うをー、かわいいぜっ!
 マルチ、最高だあぁぁぁぁあっ!
「ひ、ひろゆきさぁんっ」
 マルチの声が、とろーんとしてきた。
 あうぅー、かわいー。
 たべちゃいてー。
 一人盛り上がる俺。
 そのとき!
 俺はすさまじいほどの殺気を感じ、周囲を見渡した。
 すると…。
 凍り付いている生徒のなか、葵ちゃん、琴音ちゃん、橋本先輩が、「!」と言う顔をしていた。
 !
 まずいっ!
 葵ちゃんと琴音ちゃんがいたんだった!
 ふたり(+1)は、俺の視線に気がつくと、はっ、とした顔をして、いきなり頬を膨らました、ぷー。
 そして、ふたり(+1)の目から、再び殺気が走った。
 ばちばちっ!
 うおぉっ。
 なんてプレッシャーだっ!
 核ミサイルかっ!
 やるなー、ブライトっ!
 なんて言ってる場合じゃねーっ!
 今度は…誤解じゃないっ…それだけに…怖い、ふたり(+1)がぁぁ!
 俺は、マルチを抱え、あわてて食堂を後にする。
 せ、戦略的撤退ぃっ!
 あんな状況下にいられるかー!
 しかも、マルチ、タイミング悪すぎー!
 食堂を後にする俺の背中に
「せんぱーーーーーーーーーーーーいっ!」
「藤田さぁぁぁーーーーーーーーーんっ!」
 と言う声が響く。
 なんてこったーーーーーーーーーーーい!



 マルチを抱えて、中庭まで来た。
 マルチは「?」と、不思議そうな顔をしている。
 そんなマルチに
「いやーぁ、今日は天気がいいから、外でお弁当食べたいなぁ」
   と、ごまかすように言った。
 ごまかしてゴメン、マルチ。
 しかし、マルチは俺の言葉を疑うはずもなく、
「そうですよねー、お外で食べると、気持ちいいかも知れませんねー」
 とにっこりわらって言った。
 はうっ、かわいすぎ。
 マルチと俺がベンチに腰掛けると、マルチは恥ずかしそうに、俺に向かって弁当を差しだした。
 うひー、マルチの弁当っ!
 たとえ、ミートせんべいみたいでも、マルチの作ったモノだったら何でも食べるぜぇ!
 俺は勇んで、
「マルチ、ありがとーっ!」
 と叫びながら、弁当を開けた。
 箸を動かす。
 そのとき!
「かぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 と言う声が響いたっ!
 なんだ、またっ!
 今度はムーミンママかっ!
「だから、藤田様、私はセバスチャンだともうしておりましょうが」
 と、また今朝と同じ様なセリフが聞こえた。
 …なぜに、またもセバスチャン?
 俺は、むかつくやらあきれるやらで、はぁ、とため息をつく。
「…で、なんですか、今度は」
 投げやりにきく。
 マルチは、俺の腕をぎゅっ握りながら、?、と言う顔をしてる。
「いや、私は、ただお嬢様のお弁当を届けに参っただけでございます」
 !
 そうだ!
 先輩は、いつも遅くに中庭に弁当を届けてもらってるんだった!
 ってことは?
 俺が顔を上げると…目の前に、先輩がいた…。
「……」
 がーん。
 先輩は、いつもと変わらぬ顔だったが、何となく殺気に満ちている気がした。
「…先輩、どうしたの?」
 と俺がすっとぼけた質問をすると、先輩は、
 藤田さんには関係ないです、
 と言った。
 なぬーっ!
 先輩が、先輩がぁぁぁ!
 俺は続けて、
「…先輩、怒ってる?」
 ときく。
 ふるふる。
 先輩が顔を振る。
 が、それは明らかに嘘であった。
 先輩は、セバスチャンから弁当をひったくると、ぷいっと後ろを向いて、歩いていってしまった。
 せんぱーいっ…。
 マルチは、なにが起こっているのか分からず、ただただ俺の腕を、ぎゅっ、とつかむばかりだ。
 セバスチャンさえ、放心している…。
 先輩が校舎の影に消える。
 それと入れ替わるように、オカルト部員補欠であるところのばか黒猫が現れ、俺に飛びつくと、
「ひぎゃぁぁぁぁーーーーーーーっっっ!」
 と叫びながら、爪を立てて、俺の顔をひっかいたっ!
 なんじゃこのばか猫っ!
 俺がとっつかまえようとすると、そいつはさっさと逃げていってしまった。
 ……。
 まさか、先輩が…?
 …。
 ……。
 …まさかね…。
 ………。
 …はぁ…。

 以外においしかった弁当を食い終わると、マルチは満足げに微笑んで、家に帰っていった。
 気を付けて帰るんだぞ。



 放課後、学校にいるとろくなコトがないと判断した俺は、とっとと帰ることにした。
 なんと言っても、家にはマルチがいるし。
 うぉー、まいすいーとほーむ。
 マルチ待ってろよー、と、教室を出ると、
 どかっ、
 なにかにぶつかった。
 …レミィか…。
 しかし、なんで、こいつ俺を吹っ飛ばせるんだ?
 体格差、無視してる…。
 ひょっとして、こいつ…質量が…あるのか…?
 エ、エルクゥ…?
 ま、そんなことより、いつも通り、パンティ拝ませてもらいましょうか、と顔を上げると、
 !
 袴だった…。
 なぜに…。
 俺は、ばっと立ち上がり、
「レミィ!なんでお前、袴はいてるんじゃー!」
 と怒鳴った!
 お前は、短いスカートで俺の生活に潤いを与えてくれるんじゃなかったのか?
 おー、まいがっ!
 すると、レミィは
「今日、Clubだからね。着替えてきたのヨ」
 と言った。
 あほー。
 きがえるなー。
 そんなツッコミを無視して、レミィは、
「ね、ヒロ、アカリとつきあってるって、ホント?シホが言ってたけど」
 と聞いてきた。
 そのネタ、ふるい。
 それは、昼前までのネタ。
「あー、嘘嘘。うそでーす。るーもあでーす」
 と、俺。
「Really? I' so glad to hear that!」
 となかなかネイティブに反応が来た。
 るーもあ、が利いたのかな?
 作者、相当無理していると見える。
「じゃ、ヒロ、今、alone?」
 とレミィ。
 あろーん。
 ひとりぼっち、ってことか?
 ……違う。
 俺は、
「のー」
 ときっぱり言った。
 今更隠してもしょうがない。
 するとレミィは、がっくりとした表情で、
「……」
 と黙ってどっかに行ってしまった。
 よくわかんないヤツだなー。
 そう言えば、レミィって、俺の初恋の相手だったんだよな。
 …、ま、どうでもいいけど。



 帰り道、本屋に立ち寄った。
 早く帰りたかったが、マルチのために、お料理の本でも買ってやろうかと思ったのだ。
 うーん、俺っていいヤツ。
 ま、マルチのためならね…。
 と、本屋に入ると、そこにはいいんちょがいた!
 いいんちょは、
「なんじゃー、注文した本、まだはいってないんかぁーーーーーい!」
 とレジで発狂していた。
 ……。
 どがしっ!
 レジをけっ飛ばすいいんちょ。
 …こえぇー…。
 初音ちゃん…キノコバージョンみたい…。
「す、すいません!調べましたところ、あさってには到着しますので…」
 店員は平謝り、気圧されていた。
 …そりゃそうか…。
「ふざけんなーーーーーー、あんたが一週間で入荷しますいうたから、注文したんやないの!うそつくんかいっ!かぁぁーー、やってられへんわっ!」
「す、すいません!」
 ま、まずいっ!
 いいんちょのぶちきれモードっ!
 俺は、レジに駆け寄ると、後ろからいいんちょを羽交い締めにし
「すいませーん、なんか、気がたってるみたいで…、どうも失礼しましたぁ!」
 といって、本屋から引きずり出した。
 いいんちょは、そんな俺をみて、商店街のど真ん中だというのに
「がぁぁ、なにすんねん!浮気者!私の純潔奪っておいて、結局は幼なじみのところへ戻っていって…!ひどいっ!ひどいわ!わーーーーーーーーーーーーんっ!」
 といきなり泣き出した。
 ちょ、ちょっとまて。
 純血なんて、奪ってないぞっ!
 だいたい、幼なじみに戻るって、どういうこっちゃぁ!
 惚(ほう)ける俺を後目に、いいんちょは、通りがかる人に
「なぁ、ひどいおもわへん?あの人、ウチを一生守ってくれるいうたのに、いきなり浮気したんよ」
 とか話し掛けてるっ!
 おい、なにしてんねん、いいんちょ!
「ひどい人ねぇ」
「確かに…節操なしに見えるわね…」
「あなたも苦労してるのね…」
 そんな声が聞こえてくる…。
 おーい。
 俺は、いいんちょの肩を、がしっ、とつかむと、目を合わせ、
「おちつけっ!」
 と怒鳴った。  しーん…。
 いいんちょが黙る。
 まじめな視線をいいんちょにむけ、俺は、
「おい、俺はあかりとはなんでもない!いいんちょが気にするような仲じゃないよ」
 といった。
 いいんちょは、しばらく下を向いて黙っていたが、顔を上げると
「…ホンマ?」
 と聞いてきた。
「おう、ホンマホンマ!」
 俺がそう言うと、いいんちょは、納得したのか、優しい顔をした。
 ん、これは…。
 おれは、ちょっと意地悪してみることにした。
「ん?いいんちょ、なんでそんなこと気にするの?」
 ニヤニヤ。
「…えーやん、別に」
 照れるいいんちょ。
 しめた、こっちペース!
 もっといじめたれー!
「…ふーん、いいんちょって、やきもちやきなんだなー」
「…そ、そんな…藤田君の…意地悪…」
 うひよー、この作品始まって以来の俺ペース。
 これだよ、これっ。
 そう思った。
 そのとき!
「ひろゆきさーーーーーーーーーーーーーんっ!」
 ん!?
 この声は…マルチィ!?
 なぜに!?
 駆け寄ってくるマルチ。
 ひょー、かわいらしー。
 あまりのかわいらしさに、疑問もふっとんじまう!
 俺のすぐそばまで来ると、マルチは
「また逢えましたー」
 と嬉しそうにいい、さらに
「晩御飯のお買い物に来たんですー。晩御飯、なにが食べたいですか?」
 と続けた。
 晩御飯かー、言い響きだ。
 おまけに、作ってくれる人がいるなんて!
 おれって、幸せ者だぁ!
 うーん。
「そうだな…」
 と声を出したとき、  つねりっ!
 痛烈な痛みを背中に感じた!
 だれだ、この空間をじゃまするのは!
 振り向くと。
 いいんちょが…、今にも爆発しそうだった…。
 …いいんちょ、いたんだった…忘れてた…。
 あせる俺。
 そんな俺に、痛いほどの視線を浴びせると、いいんちょは
「ふんっ!」
 とだけ言って、走っていってしまった…。
 ……。
 マルチは、俺の隣でやっぱり、?って顔をしている。
 ……。
 ……。
 なんてこった。


 決心の叫びが夜空に響く!

あかり:「浩之ちゃんは…私のものよ…!マルチちゃんには…負けないっ!」
志保:「おちゃらけてる場合じゃないわね…私も…」
智子:「…私に…ふりむかせたる…!…メイドロボがなんや!」
葵:「センパァイ…私…あきらめませんからっ!」
琴音:「…私の超能力は…このためにあるんだわ…藤田さん、あなたをもらいます!」
レミィ:「…ヒロユキとステディな関係になるのは…ミーよ…」
芹香:「……」
雅史:「…浩之…ボクは…あかりちゃんじゃなくて…君を…」
橋本:「……ふっ……勝負はこれからだ…!」

 それは…そこにあるのは…略奪愛!
 戦いの火蓋は…今!切っておとされたっ!



 ぞくっ!
 寒気がする…。
 今日は…最悪の…日だったな…。
 早く寝ちまお。
「マルチー、早く寝よーぜー」
「はーいです」
 うひー、幸せっ!



 ニヤリ。
 甘い!
 甘いぞ、浩之!
 物語は、まだ、始まったばかりだっ!

第四話につづく



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