「適齢期LOVE STORY?」第二話・戦いの火蓋-前編-



 俺が、玄関に降りていくと、あかりは凍り付いていた。
 え、なんで、なんで、浩之ちゃんのところにマルチちゃんが?って顔をしてる。
 ってか、そのまま真っ白くなっていて、みていて怖い。
「こんにちはー」
 マルチは、きわめて明るく元気に挨拶などしている。
 おいおい。
 そんなコトしてる場合じゃねーだろ。
「マルチ…」
 俺が後ろから話し掛けると、マルチは振り向いて
「あっ、浩之さんっ」
 といった。
 浩之さんじゃねー。
 あかりは、最後の精神力を振り絞って、俺に向かい
「…浩之ちゃん…おはよ…でも…なんで…マルチちゃんが…?」
 と、訊ねた。
 …なんと答えればいいのだ?
 まさか、Hしたので責任もって面倒みることになりました、なんていえるわけねーだろ。
 かといって、昨日、長瀬が言った設定に沿ったコトなんか話した日には、トチ狂ったと思われるのがオチであろう…。
 どーしよっ、どーしよっ、ぱっけらぱお、ぱっけらぱお、ぱおぱおぱ〜、なんてメロディーが頭の中でかかりだした。
 おおっ、クラリネットでおフランス。
 って、そんなことどーでもえー。
 ぐおー、どうしよう。
 ちらりとあかりをみる。
 どうやら、返答を聞く余裕もないほど真っ白になっている。
 おーい、あかり。
 だいじょーぶかー?
 こりゃ、答えてるばあいじゃねーな…。
 ってなわけで、俺は、サンダルを履いて玄関に降りると、あかりの頬を、ぺちぺち、と叩いてみた。   ……。
 反応がない。
 ほっぺたを引っ張ってみる。
 ぷにーっーっ。
 ……。
 駄目だ。
 マヤちゃんもびっくり、完全に沈黙!って感じだ…。
 …暴走しなかっただけ、マシか…。
 …いや、まだ、沈黙、と決まったわけではない。
 ほっぺたをぷにーっとしたら、次は胸、さわって確かめるのはセオリーとも言える!
 たしか俺は、マルチにもしたはずだっ!
 では…あかり…これもお前のため…と、手を伸ばそうとしたとき、マルチの視線に気がついた。
 じー。
 なにやってるんですか、浩之さん?
 目がそう言っていた。
 ……。
 …気まずい…。
 それをごまかすかのように、俺は、マルチに
「…マルチ、俺、学校の支度してくるから、ここであかりの様子、見ててくれない?」
 と言った。
 マルチに任せるのは、いまいち不安ではあるが…。
 ま、いいか。
 そして、マルチが、
「はいっ!」
 と返事をするのを確かめてからうなずくと、俺は洗面所へ、顔を洗い、歯を磨きに行った。
 …しかし、あかりか…。
 …ホントにどうしようねぇ…。
 いつかはばれると言っても…これじゃあなぁ…。
 そんなことを考え、部屋に戻り、服を着替えて、玄関に戻る。
 階段をおりていると、マルチの声が聞こえてきた。
「…神岸…あかりさんですよねー…。まえ、浩之さんと一緒に登校してましたよねっ!幼なじみさんなんですか?私、昨日から、浩之さんと一緒に暮らすことになったんですー!愛している人と暮らせるって、うれしいですよねっ!」
 !
 マルチ!
 おまえ、なに話してんじゃー!
 あわてて、俺は階段を駆け下りようとする…しまったっ、忘れてたっ!
 これは、ギャグ小説だったっ!
 ってことはー…。
 ああっ、やっぱりっ!
 どんがらがっしゃーん!!
 俺は、作者の意図通り、階段から転げ落ちた…ちくしょう…。
 そんな俺の失態に感づき、マルチが駆け寄ってきた。
「だ、だいしょうぶですかー、浩之さんっ!」
 そんな声と共にやってきたマルチが、俺のそばで停止する。
 ん?
 ってことは…俺は床に寝そべってるわけで…マルチは、そのすぐそばに立っていて…顔を上げると…ひょっとして…見えるかも…!?
 !
 うひょー、そりゃーラッキー!
 作者、なかなか良いことしてくれるじゃん!
 ありがとよー、ってな感じで、俺は期待に胸を踊らせ、顔を上げる…!
 !
 …マルチ…。
 なんでお前…。
 長いスカートはいてるんじゃーっ!
 しかもピンクハウスかいっ!
 ちくしょー、作者の趣味、バリバリじゃねーか。
 てっきりメイドの制服あたりかと思っていたのに…!
 スカート、短いのがよかったよー。
「どうしたんですか?手、捕まってくださいっ!」
 マルチが手を差し出す。
 なーんか納得行かないモノを感じながら、俺はマルチの手につかまり、起きあがった。
 ふたり並んで、玄関へ。
 玄関では、まだ、あかりが放心していた。
 …だめだな、こりゃ。
 なにがどうショックだったか、分かるようでいまいちわからんが、ほっとくわけには行かない。
 俺は、あかりの手を握ると
「ほら、学校行くぞ」
 と一声かけて、引っ張った。
 ずるずるずる…。
 あかりの脚は、ちっとも前に進まず、俺の思うがままに引きずられている…。
 おい、ちゃんと歩け。
 …無理か…。
 …このまま、学校に行くのか…しかたねー…。
 俺は覚悟を決めた。
 あかりを学校までひきずっていくことにしたのだ。
「マルチ、じゃ、行って来るよ」
 あかり片手に、声を掛ける。
 するとどうであろう、マルチはどこからか火打ち石を出してきて、
「いってらっしゃいませ」
 といいながら、カチカチ、と、俺に向かって打ち出したじゃないか!
 おまえー、どこでそんなことおそわったんじゃー!
 はぁ…。
 そんなこんなで。
 …俺は、たとえようもない脱力感と共に、自宅を後にした。
 ずるずるずる…。
 右手に固く握られた、あかりが重い。
 ずるずるずる…。
 …最愛のマルチが、いると言うのに…。
 ずるずるずる…。
 …最悪の朝だ…そう思った。



挿し絵の提供は、Hirokazuさんです!
ありがとうございますっ!
 ずるずるずる…。
 あかりを引きずりながら、坂を上る。
 お、重い…。
 あかりって、こんなに重かったのか…。
 そんなことを考えながら、ひたすら歩く…。
 くそー、なんで学校が坂の上にあるんじゃー。
 「チャイム」じゃねーだろーに。
 あー、そう言えば、あの漫画、傑作だったなー。
 朝子めっちゃ萌え〜。
 って、俺は少女漫画オタクかいっ!
 ったく、作者じゃねーんだから…。
 と、苦し紛れの一人ボケとツッコミをしていると、後ろからなにかが走ってやってきたっ。
 頭の中のセイラさんが、俺に指令を出す。
「左舷後方、機影1!」  振り向く!
「タリホー!(注:インディアンの雄叫びではなく、航空用語で「目視」の意)」
 長岡志保!
 登校時の悪魔だっ!
 こいつ、毎日毎日朝っぱらから不快にさせてくれるからなー。
 無視しよ。
 ってなわけで、俺はあかりを引きずりつつ、志保を無視することにした。
 が。
 こいつが、そんなことに動じるわけがない。
「ヒーロ、おはよっさん!」
 声、かけてきやがった。
 無視しよ。
「なに無視してんのよー」
 …。
 無視するんだってば。
 子供の相手なんてしてられるか、なんてアムロみたいなセリフはいてみたりして。
 ここでこいつが、大佐のところにはいかせないよっ!、って言ったら相手してやろう。
「あっ!」
 いきなり大きな声を出す志保。
 ぶー、セリフ違い。
 無視決定。
 それに、その手にはのらんぞ。
「あんた、ついにあかりとむすばれたのねっ!」
 ……。
 へ?
 …なんだって?
 俺と…あかりが…結ばれた…?
 なんで?
「あー、もー、朝から手なんかつないで登校しちゃってっ!見せつけてくれるんだからっ!ひゅー、ひゅーっ!」
 !
 なにかんちがいしてんじゃ、ボケー!
 無視するわけにもいかんわ、これじゃ!
「お、おい、志保っ!」
 と志保を向く。
 しかし、志保は俺の話なんぞ聞くはずがなかった、いつもそうだけど。
「…あー、いつかは結ばれると思っていたけど…、よかったわね、あかり…」
 何となく寂しそうな声を出す…。
 それはともかく。
 聞いちゃいねぇ。
「ヒロも、こんな可愛い子、うれしーでしょ。やっとあかりの魅力に気付いたのね。あー、幼なじみの恋は、長く辛いものよのう」
 やべぇ、こいつ、トリップってる…。
 それよりかまずいのは、こいつに知られた=学校全体に噂広まる、って方程式があることだ。
 碇、まずいぞ。
 心の中の冬月先生が囁く。
 問題は無い…じゃねーだろ俺!
 おまけに俺は碇じゃねー!
「おい、志保!」
 と志保の腕をつかむ。
 すると、志保は、結構マジな目で、
「あっ、いやっ、ヒロ、浮気は駄目っ、私、あかりをうらぎれないっ!」
 なんてセリフをはきながら、俺の腕を振りきって学校へと走っていってしまった…。
 ……。
 マジかよ…。



 やっと校門についた…。
 …疲れた、一週間分ぐらい疲れた…。
 あかりはまだ正気に戻らないし…。
 とぼとぼ…。
 足取りが重い…。
 どんっ!
 はうっ。
 なんかぶつかったぞ。
 校門前でぶつかると言うことは…お嬢様か!?
「……」
 やっぱり…。
 作者、もっとひねり入れろよ、なんてつっこんどこう。
 それは置いて置いて、ついでにあかりも置いて置いて、先輩に声を掛ける。
「先輩、ごめんな。痛くなかった?」
 痛いです、と先輩は言った。
 えっ?
 いたいだって?
「せんぱいっ!ご、ごめん、どこが痛いのっ!?ゴメンっ!」
 もう、わたしだめです、と先輩は続けた。
「そ、そんな…せんぱい、弱音はくなよ…」
 思わず、そんな言葉が出てくる。
 そして。
 慰謝料の請求は、後日、ご両親の方へ、と先輩は締めくくり、目を閉じた。
 …慰謝料?
 なんだってー?
 た、たしかに、先輩は来栖川コンツェルンのお嬢様で、それでお嬢様で、これでお嬢様で、あれでお嬢様で、やっぱりお嬢様なんだけど、その慰謝料って…!
 ひーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
 そ、そんなーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
 えーーー、せんぱーいっ、ごめんよーーーーっ。
 泣きそうだぁぁぁっっ。
 すると、いきなり先輩は目をぱちり、とあけ、
「いけないいけない、おどろかせちゃったよ」
 と、電波少女るりるりみたいなセリフを口にした。
 ……。
 おちゃめ。
 ……。
「それが、せりかちゃんギャグなんだね」
 俺が言うと、
 こくこく。
 先輩がうなずいた。
 …。
 …やるな、先輩…。
 本編より…数段パワーアップしてるぜ…。
「…ま、とにかく、つかまりなよ」
 手を差し出すと、先輩は俺の手を握ってきた。
 引っ張る。
 先輩が立ち上がった。
 …スカートに埃、ついちゃったな…。
「先輩、スカート、よごれちゃったな…」
 こくこく。
「俺がはらってあげようか」
 冗談で言う。
 こくこく。
「え、いいの?」
 こくこく。
 うわー、らっきーっ。
 ってわけで、先輩公認で先輩のおしりをさわれるわけだっ!
 うひーっ!
 で、では、いただきます…と手をさしのべたとき!
「かぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!」
いう声と共に、何者かが茂みからっ!
 その声はっ!
 ムーミンパパ?
「ちがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーうっ!」
 なんだ、違うのか。
「だから、藤田様、私はセバスチャンともうしておりましょうが」
「あー、分かった分かった。なんか用?」
 チャンスをじゃまされていらついている俺。
「…お嬢様の体にふれようなんて、いくら藤田様でも許せませぬ!この私が、成敗してくれるわーっっっっっっっっっっっ!」
 !
 オッサン、マジで怒ってる!
 つねりっ!
 いてっ!
 ぬおっ、そんな地味な攻撃しかけてくるなんて!
 しかも、いつのまに後ろに回り込んだんだっ!
 くるり、振り向くと、あかりが正気に戻り、俺をつねっていた…。
 ……。
 ……。
 …ま、正気になってよかった…かな?
 なーんて思って、また振り向くと、セバスチャンが今にも俺に殴りかからんとしているではないかっ!
「藤田様っ、覚悟ぉぉっっっっっっっ!」
 なにを覚悟すりゃーえーんじゃっ!
 もう、カウンターも間に合わないっ!
 ガードだっ!
 第一撃は、左ストレート!
 ここは、右手を犠牲にしても右手でブロック、ワンテンポ置いてから左ミドルキックだっ!
 ばっしっ!
 …あれ、打撃が来ない…。
 とおもったら、青い髪の女のコが、セバスチャンの左ストレートを受け止めているっ!
 葵ちゃんだ!
 髪の毛の青い、葵ちゃんだっ!
 ……。
 オヤジギャグだ…。
 と、とにかく…。
 強者は、ピンチに現れるっ、ってセオリーどおりっ!
「葵ちゃん…」
 おれが声を出すと
「センパイは、私が守りますっ!」
 と言い切ったっ!
「私、センパイのために、戦いますっ!かかってきなさい、おじさんっ!」
 やぱい、嬉しいが、葵ちゃん、エキサイトしてるっ!
「ま、ままま、おちついて」
 俺が葵ちゃんに声をかける。
 センパイは、セバスチャンをたしなめていた…。
 ふぅ。
 どうにかふたりとも収まったようだ…。
 俺は、葵ちゃんに
「どうもありがと」
 と言った。
 葵ちゃんは、にっこり微笑み、
「いえ、朝練中に、センパイが殴られそうなのをみて、いけないっ、って…」
 それで助けに来てくれたのか…。
「センパイのためなら…なんだって出来ますからっ!」
 イイコだなー、葵ちゃん。
「ほんとにありがとな、葵ちゃん」
 俺が言う。
 葵ちゃんが、にっこり微笑む。
 うーん、良い笑顔。
 そして、葵ちゃんは
「まだ、朝練が残ってますので、私、これで失礼します!」
 と言って去っていった。
 ……。
 これで、一件落着だな。
 横を見ると、あかりが頬を膨らましている、ぷー。
 …あかりは、そうでもなさそうだが。
 …いーじゃんか…センパイのおしりさわるぐらい…。
「浩之ちゃん、遅刻するよっ!」
 心なしか、怒っているようだ…。
 …やきもち…?



 教室に向かう廊下では、あかりにマルチのコトを追求された。
 答えようが無いから、黙っている…。
 珍しく…あかりがふてくされてる…。
 どーしたんだよー。
 あかりー。
 ってなかんじで、教室につき、教室のドアを開ける。
 ……。
 視線が集まる。
 そして。
「おーーーっ、熱い恋人同士のご入場だっ!」
 と、どこからか、声が響いた。
 なぬーーーーーーー。
 なんだ、それーーーーーー。
 !
 そうか、志保か!
 もう、ここまで噂になってるとはっ!
 恐るべし…。
 そ、それよりだ…。
 あかりー、どうしよう…。
 と、あかりをみると…喜んでるじゃないか!
 だほーーーーーーーーーーーっ。
 なに喜んでんじゃー!
 雅史が駆け寄ってくる。
「…そうなんだ…つきあい始めたんだね…おめでと…」
 と元気なさげに言った。
「ありがとー、雅史ちゃんっ!」
 おいおい、なにいってんだ、あかり!
 俺はそれを遮るように、
「ち、ちげーよ。そんなのデマ、デマ」
 と怒鳴った。
 が、
「嘘つかなくてもいいよ…分かってたことだもん」
 おいおいー、雅史ぃー、おまえまでもか。
 …ん?
 なんでこいつ、元気ないんだ?
「ま、まさか、おまえ、あかりのこと…?」
「ち、ちがうよ!違うって!!」
 強く否定する雅史。
 …そうなのか?
 そうにはみえんが…。
「うん、それはないよね」
 あかりが言う。
 ちょっとだまってろ、あかり。
 へんだぞ、お前。
「ふたり、仲良しにね…」
 と、だけ言うと、雅史は自分の席に戻っていった。
 あかりは、大きな声で
「うん!」
 と言っていた。
 オイオイ。
 ……。
 釈然とせず、自分の席に向かうと、2コ前の席では、矢島が大声あげて泣いていた。
 ……。
 もう、なにがなんだかわかんねーよ。
 がたっ。
 席に座る。
 隣には、いいんちょがいた。
「よっ」
 と声を掛ける。
 いつもなら
「おはよ、藤田くん」
 と言う声が帰ってくるはずだ。
 関西風の「おはよ」がいいんだよなー、なんて思いながらその言葉を待っていると
「…なんや、結局だれでもええんやないか」
 という小さな声が聞こえてきた。
 !?
 いいんちょ?
 俺の空耳だよな、といいんちょの方を向く。
 目があう。
 いいんちょは、その瞬間、
「浮気者」
 ときっぱり言った。
 …。
 ……。
 ………。
 …やっぱり、最悪の朝だった…。


第三話・戦いの火蓋-後編-へ続く


このお話を読んでくださった、Hirokazuさんが、 なんと、挿し絵を描いてくださいましたっ!すっげー、うれしいですー!ありがとうございましたっ!



バック ホーム 第三話