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メモリーズオフSS

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「運命」なんて陳腐な言葉が嫌いになった瞬間があった。

 「明日」なんて信じられない時間があった。

 すべての事が馬鹿馬鹿しく思えた時代があった……

 

 あたりまえの様に傍にあったもの。

 例えば水や空気や太陽の様な…

 

 無くなって初めて気が付く。

 テレビのドラマじゃ使い古されたような愚か者に俺が今なっている。

 愚かすぎて自嘲する気もしやしない…

 

 もう、どうでもよかった。

 信じたくない…

 信じるつもりもない…

 信じることはできない…

 

 そう、心のどこかで現実から「逃げ」ている俺に気付きながらも、それでも目の前に置かれた現実を直視するほど強くなれない俺は、目を背けることでちっぽけなプライドと、自分で思うよりも弱かった心を守ることを選んだんだ………。

 


ゲームパロディSS(メモリーズオフより)

   always I can meet you.

大瑠璃 ライ


 

 雨音にまじり、遠くで鳴る救急車のサイレン。

 いつもなら、なにげなく耳から抜けていくはずのその音がやけに耳にこびりつく…

 俺が彩花に学校の公衆電話から呼び出して、もう結構な時間が過ぎでいた。

 彩花の家から学校まで、どこかに寄り道をしたことを考慮してもこんなに遅くなることはないだろう。

 雨脚が強くなる。

 俺の中の不安も強くなる。

「まさか…な」

 声に出しても不安は拭い去ることはできなかった。それどころか、秋の夕日の様に不安と言う夜闇は急速に膨張へとベクトルを向けた。

 雨で薄霞む校門の方を忙しなく何度も見やる。

 白い傘…

「彩花っ!」

 白い傘が振り向いた。

 …違った。人違いだ、彩花じゃない。

 白い傘の持ち主の少女は恐らくこの学校の生徒だった。彩花と同じ制服でも、よく見れば身長も体格も彩花と似ても似つかない。

 少女は怪訝な視線を俺にむけたまま、足早に去って行った。

「……っ!」

 気がついたら走り出していた。気がついたらと言う表現は間違っているかもしれない、なぜなら俺が「気がついた」のは…

 アスファルトに転がる 「彩花」の白い傘を視界に入れたときなのだから……。

 

 

 不安が確信に変わる。それもマイナスの方向に……

 

「交通事故だってよ。女の子がはねられたらしい」

「まあ、大丈夫なの?その女の子?」

「さあ、結構きびしいんんじゃないかな…救急車が来た時、意識はなかったみたいだし…あの様子じゃあもう…」

 野次馬の声。

 気がどうにかなりそうだった。

 その女の子は彩花なのか?

 俺が野次馬達に目を向けると野次馬達はばつが悪そうに目をそらした。

 この時俺はどんな顔をしていたのだろう……。

 交差点の真中に俺は立ち尽くす。信号が変わったのも気がつかない。 

 

 濃い灰色のアスファルト…波紋。

 まぶしいくらいに白い彩花の傘…雫。

 けたたましいクラックション…怒声。

 

 雨露で服が肌にべっとりと纏わりつく……うざってぇ

 彩花に何度も切れと言われた前髪も顔に纏わりつく……うざってぇ

 靴の中までびしょ濡れで、ごぽごぽと音を立てる……うざってぇ

 

 

 明らかに俺は腹を立てていた。

 それも今までに経験したことのない程のやるせない怒り。

 ぶつける先のない、空しくやるせないこの怒り。向けられた先はもちろん誰でもなく俺自信。

 俺はこんなにも……

 無力だ…。

 

 

 ずぶ濡れの俺は病院内では異色だった。

 気にもしない。気にもならない。

 途中、中年の看護婦を見つけた俺は、彩花はどこだと聞いた。どう聞いたかなんて覚えていない。ただ、そんなニュアンスだった気がする。

 最初は怪訝な目を向けた看護婦も俺の形相を見るなり、黙って俺を連れて行ってくれた……

 

 

そう…

 

 

冷たく、暗い、地下の霊安室に………

 

 

 

「………」

 音のない部屋。色のない部屋。こんな何もない部屋に彩花がいるのか?

 やけに靴音が響く。

 どこか現実とは遠いところの空間を見ているような…TVの中で俺というもう一人の俺が織り成すできそこないのドラマを見ているような…

 部屋の真中。その顔に掛かっている白い布に手をかける。

 「俺」の手がそこで止まった。この布を取ってしまったら、ドラマの中の「俺」とそれを見ている俺がごっちゃになってしまいそうな気がしたから だ。

 信じない。信じたくない。信じる事なんてできない。

 俺は…

 

 

白い…本当に純白と言えるその真っ白な布を取った。

 

 

「………彩花」

 それは紛れもなく彩花。

 つい今朝まであったはずの俺の日常。

 冷たく、暗い霊安室で眠る彩花は、綺麗で、本当に眠っている様で、幼馴染で恋人の彩花そのもので…でも、冷たくて、儚くて………

 夢。

 現実。

「……うそだよな、彩花…いつもみたいな冗談だよな」

 無意識に心のどこかで現実を受け入れつつある俺の心に…

 哀しみが、今になって俺と彩花の思い出の分だけ、ずっしりと圧し掛かってくる。

「唯笑とグルになって俺をだまそうとしてるんだろ?」

 重いよ…俺には重すぎるよ彩花……

「…ぁ…やか…」

 彩花からの返事はない。

 それでも不思議と涙は出なかった。多分彩花の前だったからだと思う…

 ガキの頃から彩花の前で泣く事はなかった。ちっぽけな俺のプライドがそうさせてるんだ。

 なにもこんな時までそんなモン守らなくってもいいのにな。

 

 

 廊下で若い看護婦とすれ違った。看護婦は俺を見るなり息を呑むのが解った。

 看護婦が逃げる様に去って行く。

 壁鏡。

「…? だれだ、これ……ああ、俺か…」

 そこに映ったのは俺だった。自分で言うのもなんだがかなり酷い顔だ。恐らく中学生だって言ってもだれも信じちゃくれないだろう。

 しかし、そんなことさえ今の俺にはこれっぽっちも興味の対象になりはしない。

 なにもかもがどうでもよかった。

 よく「心にぽっかり穴が開いたよう」なんて表現があるが、そんな生易しいものじゃない。

 俺という存在そのものが根元から音を立てて崩れて行くのが解る。

 それだけ俺の中の彩花の存在は大きかったんだろう。

 

 

 その日、俺は家に帰ることはなかった。

 いつの間にかあれだけ鬱陶しかった雨が上がっている。

 公園の街頭の真下。古びれたベンチに俺は力なく腰をすえた。

 秋の夜風はさすがに凍えるようだが、それもどうでもいい。

 いや、いっそのこと凍死でもすればいい。

 そうすれば、彩花に会える…

 でも、あいつのことだから怒るだろうな。

「智也、もっと自分を大切にしなきゃだめじゃない」

 ってな。

「なあ、彩花・・・」

「なに、智也」

「どうして、俺を置いていったんだ」

「………」

 その問いに彩花は答えてくれない。ただすまなそうな顔をするだけだ。

「…ごめんね、智也…あのね、あたしね」

 なんで彩花が泣くんだよ。誰だ彩花を泣かすやつは。俺がしばき倒してやる。

 彩花は笑った。瞳に溢れんばかりの涙をためて…

「彩花…俺、だめかもしんない」

「智也」

 弱音を吐く俺を叱咤してくれよ彩花。いつもみたいにさ・・・

「俺、彩花がいないと駄目なんだ…笑っちまうよな?15年も彩花の傍で粋がって生きてきたのに…今更になってそんなことに気がつくなんて、俺やっぱり馬鹿だよな・・・」

 最後の方は涙声。

 自嘲。情けな過ぎて自分を思いっきりぶん殴ってやりたかった。

「智也…人って思い出だけで生きて行けると思う?」

「?思い出…だけでか?」

 俺は少し考えて見た。

 解んねぇ…もし俺なら、どうする?

 彩花の思い出に縋って生きていられるのか?

 解んねぇ…

「あたしはね…生きていけると思うんだ。だってね。長い人生でたくさん思い出ができて、その思い出は頭の中いっぱいになるくらいになって。 でも、寂しいけど全部覚えていることはできないから…忘れちゃうこともあるけど…それでも、楽しいこといっぱいあって…あ、あれ?」

「彩花…」

「あ、あはは…なんかあたしの言ってること支離滅裂だね」

 彩花の言いたいこと、なんとなくだけど解る気がする。

「とにかく、現実から目をそらしちゃだめだよ智也。あたしはもう智也と一緒に思い出作ることできないけど、智也にはまだいっぱい楽しいこと がまってるはずだから。ね、智也。思い出すことを思い出して…」

 彩花の気遣いが嬉しかった。暖かかった。それと同時に心に痛かった…

「あたしのせいで殻に閉じこもった智也なんて見たくないよ」

 こいつにはいつも気遣ってもらってばかりだったななんて事思い出す。

「彩花、あのさ」

「ん?」

「俺、彩花がいないと弱音とか吐いちまうかもしれないけど…それでも、見捨てないでくれるか?」

「…うん。智也があたしのこと忘れない限り、あたしは智也のそばにいるよ」

 笑顔…多分…俺も笑っているかもしれない。

「智也があたしを思い出してくれる限り、いつだって会えるよ」

 心穏やかにして、強く…

 彩花に笑われないように…強く生きよう…

「じゃあね。あたし、そろそろいかなきゃ…」
      . . .
「そうか…またな」

「うん…またね…」

 笑顔。

 まるでまた明日会えるかのようなさっぱりとした別れ。これが一番俺達らしいのかもな。

 東の空がほのかに群青色にそまる。

 彩花はもういない…今はっきり真実を自分自信が確認し、受け入れた。

 でも、不思議と寂しくはなかった。彩花は今も俺の中にいる…

「はら…へったなぁ」

 何気なしにそんなこと口に出して見た。

 さっきまで食欲どころかそんなことこれっぽっちも頭になかったのに、不思議と空腹感がわいてくる。

「そういえば昨日の昼から何にも食ってなかったもんなぁ」

 白い太陽がうっすらと顔を覗かせ朝の公園とういある種、独特な雰囲気を作り出す。

 朝露輝くベンチから腰をあげる。太陽が痛いくらいに目にしみる…けど、それが心地よかったりもする。

 俺の新しい日常が今…

 ゆっくりと動き出した………

 

 

 

数年後

 

 

「智ちゃん!智ちゃんってば!!」

「んあ?なんだ唯笑か…」

 高校への通学路。上り坂の中腹あたりで隣にいた唯笑が俺の制服のそでをくいくいと引っ張った。

「どしたの?智ちゃん、ぼーーーっとしちゃってさ」

「俺がぼーっとしてるのはいつもだろ?」

「あ、そっか」

 こらこら、そこで納得するなよ。

「まあ、別にただ何も考えずに呆けていたわけじゃねぇよ」

 俺は目を細め、坂の上を見つめる。

 ウチの学校の生徒が他愛もない話題に花咲かせ、校門へと呑み込まれて行く・・・いつもの一風景。

「思い出してたんだ・・・」

「なにを?」

「思い出すことをさ」

「???」

 なあ、彩花。俺は大丈夫だぞ。

 彩花のいない非日常が日常に変わったんだ。ただそれだけ…

 これでいいんだよな。

「まってよ、智ちゃん!歩くの速いよぉ」

「ほら、さっさとしないと置いてくぞ」

 彩花は今も傍に居る。俺の傍に、唯笑のそばに…

 いつだって傍に居る。いつだって会える。いつだって思い出せる。

 俺は彩花を忘れる事はないだろう…

 

 今も…

 

 

 そして、きっと

 

 

 

 

 これからも……

 

 

END


あとがき〜〜

  はよぇ〜〜(意味不明)

  なんて言うか、スランプ中なのでリハビリも兼ねてシリアスSSを久しぶりに書いてみました(^^;

  結果は…さあ、どうだったんだろ?(ぉぃ

  メモオフは1回しかプレイしてない(1キャラ1回ずつ)ので、ちょっと細かいところに自信がないんですけど、

  書いているうちはサクサク書けたのは何故でしょう?(^^;

  これ書いている間、一体何回メモオフのサントラ聞いたんだろう…MP3でオートにして繰り返し繰り返し…(笑)

  本文中にどっかで聞いたようなフレーズが…(笑)

  このSS読んでて「あ、もしや」と思った方。きっとそれです(笑)

  普段ほのぼの系SSやギャグSSしか書いてないのでシリアスSSの感想って聞くの少し怖いけど、

  感想くれたら嬉しいです。

  掲示板。又はメールでお願いします。

  「か・の・ん♪〜七姉妹物語〜」もよろしくお願いしますね♪


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